検索結果 全1047作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 佃 實夫 わがモラエス伝 第四章 第五章 第六章

    第四章 おヨネとコハル 1 日本へ移ったモラエスは、最初旅館ぐらしだった。 すでに馴染になっていた神戸の宿に旅装をといた彼は、《美しい田畑で飾りたてふんだんに緑また緑の風景》のなかを歩き回った。《陶然となる風光に事欠くことなく》、《花と微笑とに埋まった》国の、《うき世を忘れるうっとりとした眺めのうちに》住むプランに酔い痴れて。 一八八九年(明治二十二年)八月、初めて日本を訪れたとき、長崎からリスボンに在る妹フランシスカに、《世界じゅうに較べもののない美しい樹木の蔭で余生を送ることがで

  • 小説 辻井 喬 亡妻の昼前

    作田は昼近くなって目を醒した。カーテンから洩れてくる眩しい光で、太陽が高く昇っているのが分った。何処に寝ているのだろうと戸惑って、ようやく恵子が使っていた寝台に潜り込んでいるのだと気付いた。彼女が死んで四月近く経っていた。まだ四十代だった彼女の癌は、拡がるのも早くて、発見した時はもう手遅れになっていた。全身に転移がはじまっていて手の付けようがなく、寝込んでから半年かからなかった。あっけなく先立たれた感じが強く、近頃になって、葬式の時に「おいおいとお淋しいことでしょう」と慰められた言葉に実感が生れてきていた。昨夜、深酒をして帰って、恵子の寝台に寝たのは、年とってから妻を失った男の感傷が酔

  • 評論・研究 坪内 逍遙 小説三派

    総評 「新作十二番」とは春陽堂より発兌(はつだ)せる美本の読切物にていづれも名家苦心の小説也。第一番は竹のや主人の「勝鬨」第二番は紅葉山人の「此ぬし」第三番は美妙齋主人の「教師三昧」第四番即ち最近の発行は三昧道人の「桂姫」なり。いづれあやめ草ひきもわづらはれておのおのおろかなるは無けれど、氏(うぢ)も育(そだち<

  • 川柳 鶴 彬 鶴 彬 川柳選

    昭和三年 飢えにける舌――火を吐かんとして抜かれ 人見ずや奴隷のミイラ舌なきを ロボットを殖やし全部を馘首する 昭和四年 つけ込んで小作の娘買ひに来る 銃口に立つ大衆の中の父 自動車で錦紗で貧民街視察 神殿の地代

  • 小説 鶴 文乃 明日(あした)が来なかった子どもたち

    健太(けんた)は、庭の大きな楠の幹にある窪みに腰を掛けて、いつものように金(キム)さんの行列を待ちました。毎朝八人の外国人が一列になって、監視役らしい日本人の後を、のろのろと歩いていきます。 健太の家の下には大通りに通じる細い道があります。その外国人たちは、近くの刑務所から、重い足を引きずるように出てきては大通りを隔てた鉄工所に向かいます。健太には、初め、この人たちが外国人だ

  • 小説 鶴田 知也 コシヤマイン記

    巫女カビナトリの神謡序 これは祖母が神威(カムヰ)様から授つて私に伝へた神謡(かみうた)だ。祖母は大変良い声だつた。私は駄目だ。それに沢山忘れた所がある。そんな所は私が思ふ通りに唱つてしまふ。祖母も矢張り忘れた所は自分でうまく拵

  • 天童 大人 玄象の世界(抄)

    目次 Ⅴ Ⅸ ⅩⅢ ⅩⅣ ⅩⅦ ⅩⅩⅢ 聲神医 </a

  • 評論・研究 田口 鼎軒 日本之情交論

    情交の事は人生の一大事にして社会改良の途に当りて最も密に講究せざるべからざる問題なり然(しか)れども其事たる稍々(やや)公言しがたきの事情あるにや近日我邦(わがくに)婦人の事に関しては電信の線のながながしき論文を掲げられたる新聞雑誌多けれども敢て此論点にまで勇進したる程の記者は一人も見当らざるは惜

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペックの寓話(抄)

    前置き: カレル・チャペックは1930年代に入って、隣国ドイツのナチス化と、当時の政治のファシズム化に抵抗して「寓話」という皮肉をこめた短い文章を、自ら編集員であり活躍の本拠地だった「人民新聞」つまり「リドヴェー・ノヴィニ」に掲載した。背景にはスペイン市民戦争もあった。訳者 寓話</

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペックの闘争(抄)

    (1)認識の精神と支配の精神 人間の創造活動には二つの種類があります。その第一の活動は認識の探求。あるいは広い意味での、私たちの住む世界の生活体験を探求すること。そして第二の活動は、この地球上の自然的かつ物質的力を支配しようとする努力です。 この第一の活動は通常精神文化と呼ばれています。その構成要素であり本質的現象は今回の会議のテーマである人文科学であります。第二の活動は要するに技術です。 人文科学とは通常ギリシャ;ローマの教養の

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペック著『もうひとつのポケットから出てきた話』

    第一話 盗まれたサボテン 「それでは、今年の夏、わたしが体験した愉快な出来事についてお話しいたしましょう」 クバート氏は語りはじめた。 「わたしは夏の別荘に行ったのです。どんなって、そりゃ、もう、夏の別荘というのはこんなものだという、ごくありふれた別荘でしてね、泳ぐにも池がない、森もない、魚もいない、まったくなんにもなし。でも、そのかわり、そこには大衆党があり、活動的なリーダーが推進する美化協会とか、真珠企業、それに、かなり年をくった鼻のでかい女局長がいる郵便局があったりで、そこに欠けたものを何ら遜色のないまでに補っていたという

  • 小説 田才 益夫 チャペック初期短編選

    システム 日曜日の午後のさんさんと降り注ぐ太陽の光に誘われて、ぼくたちはセント・アウグスティンの波止場につながれた蒸気船「ホドル提督」号に乗船した。ところが、こんな具合にしてぼくたちが紛れ込んだのが、独立教会派の集会のなかだったとは思いもしなかった。 三十分ほどたったころ、ぼくたちの人見知りしないなれなれしい振る舞いにたまりかねた宗教団体の人たちは、不適切な行為を理由に、ぼくたちを海のなかに放り込んでしまった。それからしばらくするうちに、もう一人の白い服の男が落下してきた。そして甲板上の善意の人が、ぼくたちに

  • 俳句 田崎 纓 モダニズム俳句

    春陰は戦帽いろのカナリヤよ近よれば風が遠のく茂りの灯滅ぶわたしと昆虫のガーゼぐるみセルを着し体内に雲もみあうかもつれどおしの炎を煽ぐ蹌踉館雛納(しま)う陽のてのひらの此の世の剣遠きほど沖うつくしき烏貝<p c

  • ノンフィクション 田尻 宗昭 公害企業摘発の決意  ~「羅針盤のない歩み」から(抄)~

    目次漁民のうったえ張り込み海をみる目のちがい硫酸の海ととまどい「鮮烈に生きたい」部下の決意難航する捜査 漁民の

  • 小説 田中 英光 野狐

    ひとのいう、(たいへんな女)と同棲して、一年あまり、その間に、何度、逃げようと思ったかしれない。また事実、伊豆のM海岸に疎開のままになっている妻子のもとに、度々戻ったこともある。 しかし、それはいつも完全に逃げられなかった。(たいへんな女)が恋しく、女房の鈍感さに堪えられなかったのである。たいへんな女、桂子の過去を私はよく知らない。私は桂子と街で逢った。けれども普通の夜の天使と違った純情さと一徹さがあると信ぜられた。 私との商取引ができた後、私は四、五人の逞(たくま)

  • 随筆・エッセイ 田中 正造 足尾鉱毒明治天皇直訴文 大要

    草莽(さうまう)の微臣田中正造、誠恐誠惶頓首頓首、謹んで奏す。伏(ふし)て惟(おもんみ)るに、臣田間(でんかん)の匹夫、敢て規(のり<

  • 田中 荘介 少年の日々

    ありがとう 春浅い山陰の四月 江(ごう)川のほとり 友なく家亡(な)く ひとり土手にすわって きらきら光る 川面を眺めていた 制服

  • 評論・研究 田中 美知太郎 古典教育雑感

    一 先日よその大学へ用事で行つた時、研究室関係の人たちから歓迎会や懇談会のやうなものをしてもらつた。わたしはどつちかといへば出不精の方で、あまり旅行好きではない。だから、多少はめづらしがられることもあるらしい。もつともその時は、はじめての土地でもなかつたから、むしろ友人たちと雑談をたのしむ普通の会合であつたと言ふ方が当つてゐるかも知れない。まあしかし、それはどうでもいいことなのである。わたしが今その会合のことを思ひ出してゐるのは、その時

  • 田中 眞由美 指を背にあてて

    狩られるもの ねじれ かがく と いのちが 両極にねじれる 点滅する螺旋階段を 昇りはじめたヒト族の向かうところは 鎖のすきま カケタモノハ ウマレテハイケナイ 水に浮かぶいのちが 与えられてはいないはずの視力に 裏がえしては 裏がえしては <p

  • 田中 眞由美 シーソーがゆれて

    ポホン ポホン(木) は、ボホン(嘘) をつかない テレポン(電話) してと、モホン(要求) もしない 或る日の風景 猫が クチン(猫) とくしゃみして 豚が バビ(豚) と鳴き 小鳥は ブ