検索結果 全1013作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 中島 敦 巡査の居る風景 初出年: 1929年

    ――一九二三年の一つのスケッチ――   一 甃石(しきいし)には凍つた猫の死骸が牡蠣((かき))の樣にへばりついた。其の上を赤い甘栗屋の廣告が風に千切(ちぎ)れて狂ひながら

  • 小説 渡辺 温 アンドロギュノスの(ちすじ) 初出年: 1929年

    ——曾て、哲人アビュレの故郷なるマドーラの町に、一人の魔法をよく使う女が住んでいた。彼女は自分が男に想いを懸けた時には、その男の髪の毛を或る草と一緒に、何か呪文を唱えながら、三脚台の上で焼くことに依って、どんな男をでも、自分の寝床に誘い込むことが出来た。ところが、或る日のこと、彼女は一人の若者を見初めたので、その魔法を用いたのだが、下婢に欺かれて、若者の髪の毛のつもりで、実は居酒屋の店先にあった羊皮の革袋から毮り取った毛を燃してしまった。すると、夜半に及んで、酒の溢れている革袋が街を横切って、魔女の家の扉口迄飛んで来たと云うことである。 頃日読みさしのアナトール・フラ

  • 小説 梶井 基次郎 桜の樹の下には 初出年: 1928年

    桜の樹の下には屍体が埋まつている! これは信じていいことなんだよ。何故つて、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことぢやないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だつた。しかしいま、やつとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まつている。これは信じていいことだ。 どうして俺が毎晩家へ帰つて来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、選(よ)りに選つてちつぽけな薄つぺらいもの、安全剃刀<

  • 小説 黒島 傳治 二銭銅貨 初出年: 1926年

    一 &nbsp; 独楽(こま)が流行(はや)っている時分だった。弟の藤二がどこからか健吉が使い古した古独楽を探し出して来て、左右の掌(てのひら)の間に三寸釘の頭をひしゃいで通した心棒を挾んでまわした。まだ、手に力がな

  • 小説 芥川 龍之介 桃太郎 初出年: 1924年

    一 むかし、むかし、大むかし、或深い山の奥に大きい桃の木が一本あつた。大きいとだけではいひ足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地の底の黄泉の国にさへ及んでゐた。何でも天地開闢(てんちかいびやく)の頃ほひ、伊弉諾(いざなぎ)の尊(みこと)</ru

  • 小説 宮沢 賢治 烏の北斗七星 初出年: 1924年

    つめたいいぢの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないやうになりました。 烏の義勇艦隊は、その雲に圧(お)しつけられて、しかたなくちよつとの間、亜鉛(とたん)の板をひろげたやうな雪の田圃(たんぼ)のぅへに横にならんで<

  • 小説 小川 未明 野ばら 初出年: 1922年

    大きな國と、それよりすこし小さな國とがとなりあつていました。當座(とうざ)、その二つの國のあいだには、なにごともおこらず平和でありました。 ここは都(みやこ)から遠い、國境(こつきよう)であります。そこには兩方の國から、ただひとりずつの兵隊(

  • 小説 吉田 絃二郎 淸作の妻 初出年: 1918年

    猫の子一疋死んでも噂の種になるN村では、新田(しんでん)の淸作とお兼とが夫婦になつたといふことは、野良(のら)でも、爐(ゐろり)の傍でも、舟着き場でも人々の口の端(は)に上つた。若い娘たちは村一番の若

  • 福田 正夫 農民の言葉 初出年: 1916年

    目次 序 Ⅰ 四十男の縊死 しちめん様のまつり 加瀬の山から 低能児 御会式のだいもく 四十男の縊死 Ⅱ 農村より 村祭の酒宴から 偉大なる農民 農村より 仮装行列 霧の朝 畦路から 姉さんの死 恐しいそして無智な女 Ⅲ 農民の言葉

  • 随筆・エッセイ 辻村 伊助 スウィス日記(抄) 初出年: 1915年

    序 忘却は人間の有する最大の幸福である。私達の目まぐるしい生活が、あらゆる感情の綯い交じったその日その日が、有りの儘に私達の在る限り、胸の中にたたまれてあるとしたら、それを負うて歩まねばならぬ人の運命はいかに悲惨なものだろうか。 雑然たる生活の断片を紙に残すのは、この意味に於て明らかに矛盾である。しかもそれを敢えてするのは私の過去に於てアルプスの雪の間に送った月日が、そのいずれの瞬間を思い出しても何の悔ゆることのない、白日に露すとも何等不安を感じない生活であったのを確かめているからである。 山に対する時私は云い知

  • 小説 森 鷗外 鼠坂 初出年: 1912年

    小日向(こびなた)から音羽(おとは)へ降(お)りる鼠坂(ねずみざか)と云(い)ふ坂

  • 小説 谷崎 潤一郎 刺青(しせい) 初出年: 1910年

    其れはまだ人々が「愚(おろか)」と云ふ貴い德を持つて居て、世の中が今のやうに激しく軋(きし)み合はない時分であつた。殿樣や若旦那の長閑(のどか)な顏が曇らぬやうに、御殿女中や華魁(おいらん)の笑ひの種が

  • 小説 高濱 虚子 風流懴法 初出年: 1907年

    横河(よかは) 今朝阪東(ばんどう)君が出立するのを送られて和尚(をしやう)サンもあまり行(い)けぬ口に一杯過ごされた。阪東君が出立したあとで和尚サンは

  • 小説 泉 鏡花 凱旋祭 初出年: 1897年

    一 紫紅(くれなゐ)の旗、空の色の靑く晴れたる、草木の色の緑なる、唯うつくしきものの彌(いや)が上に重なり合ひ、打混(うちこん)じて、譬へば大幻燈(うつしゑ)花

  • 評論・研究 あきとし じゅん 高橋和巳における狼疾

    1 かなり以前から高橋和巳の文学の特質において、心のなかに蟠(わだかま)っていることがある。いったいかれは、だれの影響をもっとも受けていたのであろうか。いうまでもなく、これまでの高橋和巳論は、その多くが性急に埴谷雄高を結論的に導きだしているが、かれの憂鬱なる作品を前にしたとき、はたしてそう結論づけていいものかどうか、はなはだ疑問である。 高橋和巳自身、比較的早く「近代文学」の読者として、第一次戦後派作家に親近感を覚えたといっているこ

  • あきとし じゅん 断章

    淡紫色の同情を 芝居気よく紙背 に書き記し繰戸 を抜け廃品を回 収した情夫の色 めき尊属殺人は 死刑または無期 懲役という怯懦 の葉ふたつ母の 日に薬籠さげて 挽歌流れる色擂 りの盆供養に煙 管を硯池に敲き 落し墨はねて人 質となった疫神 をせせ笑い聖母 の散歩はたちま ち般若吸血

  • 小説 つかだ みちこ 休暇に

    夕方、いつものように、僕の所に、学校の友人がやって来た。僕たち二人は、数ベルスタ(ロシアの里程。1ベルスタは約1067メートル)離れた同じ村に住んでいて、ほとんど毎日のように顔を合わせていた。ブロンドの好男子で、その優しいまなざしで、娘っ子たちを少なからず、うっとりと夢心地に誘うことだってできた。僕はといえば、彼の落ち着いた態度とか、その冷静な判断といったものにひきつけられていた。 その日、友人は何か心にかかることがある、というように見受けられた。地面をじっと見つめたまま、興奮した面持ちで、自分の足を鞭(むち</

  • 小説 つかだ みちこ 濃霧のカチン

    夜の六時からのコンサートまで少し時間があるので、すぐそこの市庁舎前の広場まで出てみよう。あそこには本屋もあるし、アプテカで薬を買うことだってできるだろう。それには先ず換金をしておかなくてはならない。ワルシャワ空港で換えた二万円はポズナニまでのタクシー代で吹っ飛んでしまった。それでも白タク運転手の要求していた六百ズオテイに百ズオテイ足りなかった。空港での換金は率が悪いということを知らなかった。栞は外出の準備を始めた。日本を発つ前に引いてしまった風邪がまだ喉のあたりにしつっこく居座っている。その違和感が気持ちを重苦しくさせていた。もしこの部屋にバスがついていて、昨夜温まって寝ればそれで治っ

  • 小説 つつみ 眞乃 うしろ髪ざくりと剪りて

    死死は土へ溶けゆくいのち冴返る 立春の大地は風を声と聴き 白蝶の舞ひの終りは白の舞ひ 春浅し通りすがりの写真館 白椿己が白さに怯えをり 黄水仙きりと高めの女帯 西鶴の胸算用や亀の鳴く 風見鶏逆さに春を廻しをり それなりの色を重ねて山笑ふ 井戸車落つる音絶つ実朝忌 </

  • 俳句 つつみ 眞乃 水の私語

    眠れねば青ついばみて蕗の薹 蕗の薹淡き予感と扉(と)を開く おぼつかな蝶の生誕目守りぬ 息かけて鏡の春と擦れ違ふ 如月や芯から荒らぐ息のなか 女芯いま春の怒濤へ声洩らす はかなさをそつと小袋二月尽 野焼きの尾ちぎれて恋の炎を拾ふ