検索結果 全1029作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 随筆・エッセイ 柳田 泉 女性作家七人語

    湘烟女史 中島俊子 湘烟女史は、必ずしも作家といふ分類にピッタリと納まる人ではないが、明治及びそれ以後の女性に就いて語るときには、政治であらうと、婦人運動であらうと、社会運動であらうと、文芸であらうと第一に出される大きな名だ。それだけ偉い女性だ、偉いといふ点では明治以後、下田歌子を除けたら、これ程偉い女性はゐなかつたらう。人真似もかういふ真似はいゝと思ふから、私も湘烟女史のお話から始める。 女史の伝記はいつか詳しく紹介してもいゝと考へてゐるが、此の号ではいづれ誰かゞ書かれるかとも思ふ

  • 評論・研究 有島 武郎 惜しみなく愛は奪ふ

    概念的に物を考へる事に慣らされた我等は、「愛」と云ふ重大な問題を考察する時にも、極(ごく)習俗的な概念に捕へられて、正当な本能からは全く対角線的にかけへだたつた結論を構出してゐる事があるのではないか。「惜しみなく与へ」とポーロの云つた言葉は愛する者の為す所を的確に云ひ穿(うが)つた言葉だ。実際愛する者の行為の第一の特徴は与へる事だ。放射する事だ。我等はこの現象から出発して愛の本質を帰納しやうと

  • 小説 有島 武郎 An Incident

    彼はとうとう始末に困(こう)じて、傍(かたはら)に寝てゐる妻をゆり起した。妻は夢心地に先程から子供のやんちやとそれをなだめあぐんだ良人(おつと)の声とを意識してゐたが、夜着に彼の手を感ずると、警鐘を聞いた消防夫の敏捷(びんせ

  • 有働 薫 岸壁の国

    薄い黄色の 菩提樹の花が終わる頃 ブレストのバスターミナルから ポルスポデール行きのバスに乗る 体格のいいブリュネットのおばさんの運転する大型バスが 街の西側の郊外へ出て きれいに整備されたオートルートをゆったりと行く はじめのうちは万国的な郊外風景 サンルナンをすぎて 「プルーダルメゾーへ17k」の標識を読むころ あたりに建物の影がうすれはじめると ラベンダーとトウモロコシ

  • 小説 由起 しげ子 本の話

    一 私の義兄(あに)、白石淳之介はその年の二月一日、静かな晩、神戸市外のK病院の一室で五十八歳の生涯を閉じた。喉頭結核であった。病名は喉頭結核であったが、事実は栄養失調死であった。自ら自身の肉を削り血を涸(か)らしてずかずか死の方へ向って歩いて行くという死に方であった。戦災でそれ一着しかない、教壇に立つにも炊事をするにも買い

  • 与謝野 晶子 あゝをとうとよ戰ひに

    君死にたまふこと勿れ (旅順口包囲軍の中に在る弟を歎きて) あゝをとうとよ君を泣く 君死にたまふことなかれ 末に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも 親は刃(やいば)をにぎらせて 人を殺せとをしへしや 人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや

  • 与謝野 晶子 そぞろごと

    ○ 山の動く日来(きた)る。 かく云へども人われを信ぜじ。 山は姑(しばら)く眠りしのみ。 その昔に於て 山は皆火に燃えて動きしものを。 されど、そは信ぜずともよし。 人よ、ああ、唯これを信ぜよ。 すべて眠りし女<r

  • 短歌 与謝野 晶子 明治の与謝野晶子短歌(抄)

    『乱れ髪』 その子二十(はたち)櫛(くし)に流るる黒髪のおごりの春の美しきかな 清水(きよみづ)へ

  • 与謝野 鐵幹 誠之助の死

    大石誠之助は死にました、 いい気味な、 機械に挟まれて死にました。 人の名前に誠之助は沢山ある、 然し、然し、 わたしの友達の誠之助は唯一人。 わたしはもうその誠之助に逢はれない、 なんの、構ふもんか、 機械に挟まれて死ぬやうな、 馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の誠之助。 それでも誠之助は死にました、 おお、死にました。 日本人で無かつた誠之助、 立派な気ち

  • 小説 葉山 嘉樹 淫売婦

    此作は、名古屋刑務所長、佐藤乙二氏の、好意によつて産れ得たことを附記す。 ── 一九二三、七、六 ── 一 若(も)し私が、次に書きつけて行くやうなことを、誰かから、「それは事実かい、それとも幻想かい、一体どっちなんだい?」と訊

  • 評論・研究 陽羅 義光 テロと文学

    1 テロや文学を語るにおいて、資格もしくは資格めいたものが必要かどうか、私には皆目解らないが、もしそんなものが必要だとしたなら、若干手前みそであっても、私にはそれがあると、やや声を落として断言できる。 文学の素人でも大いに文学を語るべきだとの見解を、妥当とみる論者は、その語ったことによって、いや語る前後の己れの勉学と精進によって、大文学者になるかもしれないではないかとの、甘い可能性をおそらく、その理屈の裏に秘めている。 あるいは、頭のかたいことを言わず、表現の自由なのだから、誰が

  • 小説 陽羅 義光 暗愁

    1 なまぬるい不吉な風が彼の心に吹きはじめている。気づいたときにはもう抵抗する力は失せていた。 ただ得体のしれぬ風に翻弄される。嘲笑される。 なす術もなく彷徨(さまよ)う。あるいは立ちつくしているのだった。 ごったがえす駅の改札で。うるさいだけの街の雑踏のなかで。 にぎわうショッピング・センターのフロアで。たむろする映画館のロビーで。 <

  • 陽羅 義光 ひらよしみつ詩集

    四角い宇宙 月 心がキレイになる時がある 一年に一度 いや十年に一度 そんなとき死にそこなって 四十歳になった THE MOON There will be the time for my heart to be pure and tender; Once a

  • 随筆・エッセイ 淀野 隆 私の万博体験~モノとヒトの出会いのドラマ~

    目 次 序 章 博覧会の起源 西洋と日本の原点第1章 戦後日本民族の大移動 共通体験の場・博覧会第2章 沖縄返還記念 海洋型博覧会の開催第3章 学園、研究都市構想 科学する心の醸成第4章 再び大阪へ 我が国初の「環境博」第5章 2度の開催中止

  • 小説 里村 欣三 苦力頭(クーリーがしら)の表情

    ふと、目と目がカチ合つた。──はッと思う隙(ひま)もなく、女は白い歯をみせて、につこり笑つた。俺はまつたく面喰つて臆病に眼を伏せたが、咄嗟(とつさ)に思い返して眼をあけた。すると女は、美しい歯並からころげ落ちる微笑を、白い指さきに軽くうけてさッと俺に投げつけた。指の金が往來を越えて、五月の陽にピカリと躍つた。<div

  • 評論・研究 陸 羯南 「日本」創刊

    「日本」創刊の趣旨 新聞紙たるものは政権を争ふの機関にあらざれば則ち私利を射るの商品たり。機関を以て自ら任ずるものは党義に偏するの謗(そしり)を免れ難く商品を以て自(みづか)ら居(を</

  • 小説 立原 正秋 冬のかたみに

    第一章 幼年時代 父が無量寺から十日ぶりに下山してきた早春のある日の夕食のときだった。父と母は、春から私を黙渓書院に通わせるか、それとも無量寺の老師のもとに通わせるかで話しあっていた。私は父と同じ膳にむかい、母はつぎの間で弟と膳にむかっていた。父が下山してきたので食膳には牛の骨つき肋肉(カルビ)が出ており、下女(げじょ)が炭火で焼きあげた肋肉を順次に

  • 立原 道造 萱草(わすれぐさ)に寄す

    SONATINE No.1 はじめてのものに ささやかな地異は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに 音立てて 樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた その夜 月は明(あか)かつたが 私はひとと 窓に凭れて語りあつた (この窓からは山の姿が見えた)

  • 小説 立松 和平 道場

    根拠はないのだが、何となく悪い予感がないわけではなかった。いや、根拠がないということはない。彦さんが東京の築地にある癌センターに入院して闘病生活をし、退院して家に帰っていることは知っていた。私にとっては敬愛してやまない先輩なのだが、奥さんと二人の娘さんと最後の団欒をしているのだからと、私は会いにいくのを遠慮していたのだ。そんな日がつづき、留守番電話を聞くスイッチをいれるのが恐かった。何件かの取るに足らない用件の声のあと、いつもの陽気さとは違う高橋公の暗鬱な声が響いてきた。 「おい、彦が死んだぞ」 それだけだった。土曜日だったので、さっそく高橋公の自宅に

  • 小説 立松 和平 山へ帰る

    したたるほどの緑に溺れそうだった。濃密な緑が波しぶきになって窓の外を猛然と流れていく。緑の波をくぐって突き進む潜水艦みたいだ。静一は緑の波に直接頬や掌を触れさせてみたかった。だがガラスを下げると、ハンドルを握っている父親に、クーラーがきかないじゃないかと、大声をだされた。すでに二度も同じことをくりかえしたのだった。つづら折りの登りの山道になり、父が腕を忙しく交差させてハンドルを回転させ、前方の景色が右に左にとすべった。もっともっとスピードを上げてと思ったが、静一は黙っていた。エンジンの苦しそうなあえぎが背中のほうから響いてきた。 「お父さん、本当に大丈夫なの」