検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 宮本 百合子 刻々 (一)

    朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけして居る。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がはりにして、縞の着物を尻はし折りにした與太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆつくり鐵格子のこま一つ一つを拭いたりして動いて居る。 夜前、神明町辺の博士の家とかに強盗が入つたのがつかまつた。看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場ぢゆうが聞いてゐる。二つの監房に二十何人かの男が詰つて居るがそれらはスリ、かつぱらひ、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主なのだ。 看守は、雑役の働く手先につれて彼方此方しなが

  • 評論・研究 魚住 折蘆 眞を求めたる結果

    或倫理学者が言つた。後世の史家は現代を以て最も熱心に事物の真相を了解せむとした時代であると言ふであらうと。此言は彼が現実暴露主義の輓近(ばんきん)思潮に不快を感じ乍(なが)ら、此思潮に同情を以て、否自ら慰めつゝ下した批評である。此語だけに就て云へば自分も全く同感である。事物の真相を知りたがる精神、換言すれば好奇心は近世科学の根本的精神であつて又大体近世的生活と歩調を合して居るものである。第一に

  • 橋爪 文 夏の響き

    冬の前に ―ひろしま― ながい酷暑の夏が終ると いきなり冷寒の秋がやってきた 虫の音も聞かず 紅葉も見ず 瓦礫の地にあるのは 辛うじて生き残り いまを生きようとする 人間の懸命な営みのみ 冬が来る前にしなければ しかし どのように冬仕度がで

  • 小説 饗庭 篁村 當世商人氣質(抄)

    當世商人氣質自叙 錦織(にしきおり)なす花の都に軒を並べての繁昌。いつも変らぬ其家かと見れば主人大半非なりといひし白楽天の憾(うらみ)にも似て四代五代と一つ暖簾(のれん)</r

  • 評論・研究 桐生 悠々 「他山の石」発行二周年

    本誌発行の遠因 本誌が発刊満二週年を迎えたこの機会において、私は、ここに何もかもぶちまけてしまいたい。恥も外聞も忘れて、私自身も赤裸々に読者諸君の前に暴露したい。かくすれば、或は読者諸君の同情をかち得る可能性もあると同時に、私自身が、これによって、隠蔽と、それに伴う陰欝なる感情とから救われ得るからである。 事は先ず私が最近信濃毎日の主筆時代に、当時(昭和八年〈1933〉八月)東京において行われた「関東防空大演習を嗤」ったのに始まる。私は今二・二六事件以来、一般国民が的確に

  • 小説 芹澤 光治良 ブルジョア

    これも崩滅する階級の一態である。 1 租税の大半を、軍備に奪われない国民は、仕合せである。 「スイスは夢の国です」 「この世の天国です」 この言葉は、肺結核の夫の転地に従って、パリを去る時には、フランス人に独特なお世辞だった。山、湖、空、光、色、総て、スイスに来てからは天国のものだった。しかしフランス人達の聞かせてくれた言葉が単なる慰安でもなく、景色について言ったこ

  • 小説 芹澤 光治良 死者との對話

    死者は生きのこった人の記憶のなかにしか生存できないという。人の記憶は時とともにうすれて、やがて死者も生きのこった人の記憶に存在することが難しくなるであろうし、生きのこった人自身、この世を去ってしまう時が来るが、その時死者がこの世にかけた願望や精神はどうなるのであろうか。 和田稔君。 君の戦死したのは(昭和)廿年七月廿五日で、君の死を知ったのはその年の暮のこと、ちょうど二年前である。出陣の前月まで月に二回僕の家に集った二十數名の諸君のうち、戦歿したのは君一人、比島へ征(い)</r

  • 小説 近松 秋江 黒髪

    一 ……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入つた女であつた。どういふ所が、そんなら、気に入つたかと訊ねられても一々口に出して説明することは、むづかしい。が、何よりも私の気に入つたのは、口のきゝやう、起居振舞(たちゐふるま)ひなどの、わざとらしくなく物静かなことであつた。そして、生まれながら、何処から見ても京の女であつた。尤も京の女と云へば、どこか顔に締りのない感じのするのが多いものだが、その女は眉目の辺が引締つてゐて、口元など

  • ノンフィクション 近藤 富枝 水上心中 太宰治と小山初代

    一 女学校一年のときなので昭和十年のことにちがいない。ある雨上りの午後、わたしは田端駅を出て、高台につづくだらだら坂にさしかかり、劇的な場面に出会った。目の前で若い男が、並んで歩いていた妻らしい若い女を、力まかせに水たまりにつきとばしたのである。 女は抵抗せずにされるままとなり、下半身のきものを泥だらけにして倒れた。苦渋の表情をうかべた男の、秀麗とでもいいたい容貌が、わたしの目をとらえる。それにしても、水たまりに膝をついたまま、いつまでも立ち上らない女の耐え方も、わたしに不思議な興奮を誘った。 どちらも良

  • 小説 金 史良 光の中に

    一 私の語ろうとする山田春雄は実に不思議な子供であつた。彼は他の子供たちの仲間にはいろうとはしないで、いつもその傍を臆病そうにうろつき廻つていた。始終いじめられているが、自分でも陰では女の子や小さな子供たちを邪魔してみる。又誰かが転んだりすれば待ち構えたようにやんやと騒ぎ立てた。彼は愛しようともしないし又愛されることもなかつた。見るから薄髪の方で耳が大きく、目が心持ち白味がかつて少々気味が悪い。そして彼はこの界隈のどの子供よりも、身装(みなり)がよ

  • 評論・研究 金丸 弘美 子供たちに健康な未来を手渡すことが、地域を元気にする

    フランスというとファッションや映画、あるいはシャンソンなどの音楽、そして有名シェフのグルメがよく知られていて、都市のイメージが強いかもしれません。ところがEUのなかでもトップクラスの農業国で、自給率はオーストラリア、カナダ、アメリカに次いで世界4位。穀物自給率(小麦や米などの穀類)はオーストラリアに次いで第2位という世界でも有数の農業国であり農産物の輸出国なのです。 ちなみに日本は自給率40%、穀物自給率は27%で、世界の先進国では最下位。世界でも大きな食糧輸入国であり、フランスとは対極にあります。 フランスでは戦後から農家の大規模化が進められてきま

  • 評論・研究 金子 筑水 所謂社会小説

    近来社会小説を口にする者漸く多し。其の意義の如何(いかん)は兎(と)もあれ、斯(か)くの如き要求の現れ来たりし源を考ふるに、例の文学界の狭隘なると、新奇を好むの傾向とは、此の呼声を高からしめし主因なるべし。稍(やや)</rp

  • 評論・研究 隅谷 三喜男 大逆事件・明治の終焉

    大逆事件 西園寺内閣の毒殺 日比谷騒擾(そうじょう)事件(=日露戦争の講和条件に不満な大衆が暴動に出た騒ぎ。)ののち、講和条約の後始末が一段落すると、桂(太郎=長州閥の実力者、前総理</spa

  • 評論・研究 栗本 鋤雲 岩瀬肥後守の事歴

    幕廷にては軍国の仕来(しきた)りにて殊の外に目付(めつけ)の役を重んじたり、抑(そもそ)も此官は禄甚だ多からず、位甚だ高からずと雖(いへど)も、諸司諸職に関係せざる無きを以て、極めて威

  • 戯曲 郡 虎彦 タマルの死

    人物 美はしき髪を持てるダビデの子アブサロム 智者アヒトベル 兄アムノンに辱められたるアブサロムの全き妹タマル 第一の僕 第二の僕 第三の僕 第四の僕 第五の僕 第六の僕 時代</

  • アーカイブ 結城 哀草果 哀草果秀歌二百首 (高橋光義選)

    米搗くがあまりのろしと吾が父は俵編みゐて怒るなりけり (山麓) ひた赤し落ちて行く日はひた赤し代掻馬(しろかきうま)は首ふりすすむ ぐんぐんと田打をしたれこめかみは非常に早く動きけるかも 入りつ日に尻をならべて百姓

  • 小説 結城 昌治 軍旗はためく下に(抄)

    司令官逃避 ――陣地は死すとも敵に委すること勿(なか)れ。(「戦陣訓」より) 〈陸軍刑法〉 第四十二条 司令官敵前ニ於テ其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ隊兵ヲ率(ヒキ)ヰ逃避シタルトキハ死刑ニ処ス。 註</s

  • 短歌 結城 文 Y字路 (The Diverging Road)

    まだ知らぬ自分に会ひたし路二つ会ふY字路に余光さしゐて I wish to meet my unknown self at Y-shaped point where two roads meet in the evening glow. ある朝目覚めしわれは橙黄の光の花粉にまみれてをらむ <span class="english-t

  • 評論・研究 権田 萬治 記者クラブ制度改革論 ──『脱・記者クラブ宣言』の問題点──

    インターネットの普及や情報公開法の施行など高度情報社会化が進む中で、記者クラブによる記者室の独占的な利用など便宜供与の問題や、記者会見の主催権、クラブあるいは記者会見の閉鎖性などをめぐって、記者クラブ問題が一部の地方自治体で再燃、日本新聞協会は二〇〇二年の初頭に向けて、問題解決のため新しい方針の策定を急いでいる。 田中康夫長野県知事は二〇〇一年五月十五日、『脱・記者クラブ宣言』を発表、県政記者クラブなど県庁内にある三つの記者クラブに同年六月末までに

  • 小説 犬養 健 亜刺比亜人エルアフイ

    一 マラソン競走の優勝者、仏蘭西(フランス)領アルジェリイ生れの亜刺比亜(アラビア)人エルアフイは少しばかり跛足(びつこ)を引きなが