検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 柴田 錬三郎 河内山宗俊

    一 晩秋の午さがり、ここ伝馬町の牢屋敷は、ねむったような静けさだった。たち並んだいくつかの土蔵のような棟が、ひっそりと、あかるい影を白砂の上へ這わせているきり、樹木一本もないだだ広い庭は人影もない。 と――。 ある棟と棟との露路に、跫音(あしおと)がした。 一人の同心に縄をとられて、ゆったりとした足どりであらわれたのは、長躯肥大のお坊主――御数寄屋(</

  • 短歌 若山 牧水 別離 上巻(抄)

    自 序 廿歳頃より詠んだ歌の中から一千首を抜き、一巻に輯(あつ)めて『別離』と名づけ、今度出版することにした、昨日までの自己に潔(いさぎよ)く別れ去らうとするこころに外ならぬ。 先に著した『獨り歌へる』の序文に私は、私の歌の一首一首は私の命のあゆみの一歩一歩であると書いておいた、また、一歩あゆんでは小さな墓を一つ築いて来てゐる様なものであ

  • 小説 若松 賤子 忘れ形見 アデレード・アン・プロクター『The Sailor Boy』原作

    ミス・プロクトルの“The Sailor Boy”と云ふ詩を読みまして、一形(ひとかた)ならず感じました、どうか其心持をと思ふて物語り振りに書綴つて見ましたが、固より小説など云ふべきものではありません。 あなた僕の履歴を話せつて仰るの? 話しますとも直(ぢ)つき話せつちまいますよ、だつて十四にしかならないんですから、別段大した<ru

  • 小説 若松 賤子 いなッく、あーでん物語

    英国の海岸に絶壁の何処(いづこ)からともなく立列(たちつらな)つて来て途切れた隙間に、ひとつの漁村をなした処があります。黄色い砂の浜辺から向ふを眺めると、狭い波止場(はとば)の辺に、赤瓦の家根(やね)

  • 小説 若松 賤子 おもひで

    (上) 正月用の衣類取出(とりいだ)さんと、たまたま開きたる納戸(なんど)の長持(ながもち)、底に見慣れぬ風呂敷包のありとて、珍らしきもの見たさは十七の娘盛り、 アレ、かあさん

  • 狩野 敏也 四百年の鍋(抄)

    目次 面食いの国にて 苦い豆腐 四百年の鍋 道 対牛弾琴 故事新釈(2)a> 人非人と犬非犬 間もなく満員 <div cla

  • 俳句 種田 山頭火 草木塔 ~山行水行~

    山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆふべもよろし炎天かくすところなく水のながれくる日ざかりのお地蔵さまの顔がにこにこ待つでも待たぬでもない雑草の月あかり風の枯木をひろうてはあるく向日葵や日ざかりの機械休ませてある蚊帳へまともな月か

  • 随筆・エッセイ 宗内 敦 わが家わが兄

    肩こり期 年は取りたくないものだ。気力が萎え、活力が失せ、とりわけ、ことさらのことに関しては急速に衰えてくる。ときに手をつないで歩きこそすれ、妻の躰に触れることさえ珍しくなる。共に齢を数え、さすがに加齢を偲ばせるようになった妻と二人、あのリビドーなるものは一体どこに行ってしまったのかと、苦笑することしきりの昨今ではある。 リビドーとは、人の心的エネルギーの源に当てた精神分析概念で、C・G・ユンクによれば、それは純粋に精神的エネルギーで

  • 随筆・エッセイ 宗内 敦 父と子、母と子

    夫婦関係の教育力 1. 現代の親子関係(二人の母親) 筆者は今、長年の念願かなって、庭つき一戸建て住宅を建築中である。大工さんは、もうすぐ四十に手のとどくころの、まさに働き盛りであるが、こまめによく説明しながら、大変熱っぽく建ててくれている。そこでつい、感謝の気持ちもあって、「いちど、夜飲みにいきましょうか」といってしまった。お酒好きのようでもあったから、まさか断られるとは思ってもいなかったのに、「俺、家に帰って、子どもを風呂に入れるのが日課になっているから」という返事が、即座に返って来た。あっ、そり

  • 短歌 秋元 千恵子 地母神の鬱

    放浪の父と穏しき母の血と分ちて天秤座の吾が揺れやまず 『吾が揺れやまず』1983 拒むごとき砂の嵐にふぶかれて修羅なす髪が地に影おとす 吹かれつつ象</r

  • 小説 十一谷 義三郎 仕立屋マリ子の半生

    一 馭者(ぎよしや)権六(ごんろく)氏の女房のマリ子が、まだ権六氏の存在を知らないで、ちんと愛くるしく引き緊つた腮(あご)を、あ・ら・もおど

  • 小説 十一谷 義三郎 静物

    一 家を持つて間のない道助夫妻が何かしら退屈を感じ出して、小犬でも飼つて見たらなどと考へてる頃だつた、遠野がお祝ひにと云つて、嘴(くちばし)の紅い小鳥を使ひの者に持たせて寄来(よこ)してくれた。道助はその籠を縁先に吊しながら、此の友人のことをまだ一度も妻に話してなかつたのを思ひ出した。 「古くからの親友なんだ、好い人だよ。」と彼は妻に云

  • 評論・研究 十返 肇 文壇と批評

    「文壇」崩壊論 一 文壇というものは無くなつた――それが今年(昭和三十一年=1956)の「文壇」回顧として私に最も痛切に感じられた印象である。伊藤整のいわゆる逃亡奴隷と仮面紳士によつて構成された文壇なる特殊部落は、完全にジャーナリズムの中に崩壊したといえよう。伊藤氏の「小説の方法」は、いまから僅か八年以前に書かれた名著であるが、つぎのような一節は、もはや現代の「文壇」

  • 小説 十和田 操 判任官の子

    一 父は八の字ひげを生(は)やしてゐるくせに腰弁だから、子供のくせして洋服が着たくても仲々買つてもらへない。 「中学へ行くやうになつたら買つて下さる」 母は言つてなだめてくれるが、中学生が洋服着るのは当り前のことだし、それまでには未だ随分年間がある。第一中学生の着る洋服はあれは羅紗(らしや)でない、あんなだぶだぶの

  • 小説 出久根 達郎 佃島ふたり書房(抄)

    第二章 藤の花薫る (より抄出) 正午をすぎて、猛烈に暑くなってきた。 駿河台(するがだい)下で都電を降りると、金属質を思わせる日ざしである。停留所の安全地帯に、柏餅の葉が五、六枚ちらかっている。干からびきって、踏みつけると、セルロイドの音を鳴らした。 三省堂書店の向うの屋根に、鯉のぼりが古着のように垂れて

  • 俳句 出口 孤城 稽古

    あらそひの縺(もつ)れすぐ解け初雀 「新年」 古墳の森越えて初鶏応へあふ 沈没船ここと揚ぐる灯(ひ)去年今年(こぞことし) 岬山を富士に似せゐる初霞 潮

  • 俳句 出口 孤城 矍鑠(かくしやく)

    苗床の残りの松に初日ざし 新年 若潮を汲むに一火を焚く礁(いはほ) 初東風(はつこち)や尻逆立てて鴨餌ばむ 年祝(ほ</

  • 小説 小笠原 幹夫 鬼灯(ほおずき)の女

    江戸川公園に近い、牛込と小石川の境にある電車道、もとの15番の関口町の電停前を小石川側に渡り、すぐ眼の前のトロフィーやカップを商う徽章屋とパン屋の間の横丁をはいり、一町ばかり行くと、江戸川の流れに架かる大滝橋の袂に突きあたる。その橋へ出る手前、横丁にはいってすぐを左へまがると露地があり、そこに輝夫のアパートがある。 木造モルタルの総二階、別にアパートの看板が出ているわけではないので、外から見たところ、しもた屋とまったく変わりがない。というより、しもた屋の内部をアパートに改造したというのが真相らしい。むろん玄関も塀もなく、露地の側にむきだしに格子がある。 <p

  • 評論・研究 小久保 晴行 地方行政の達人(抄)

    序章 やれば出来ると思っていても…… 江戸川区ただひとりの名誉区民、そして「建区の父」 この日も、朝からみぞれ混じりの泣き出しそうな空であった。 平成十三(二○○一)年一月二十六日午後、東京都江戸川区春江町三丁目、東京都立瑞江(みずえ)葬儀所の収納室には、八○名余りの人々が、それぞれの想いをこめて集まっていた。 前夜の通夜は、折からの雪に見舞われて

  • 短歌 小久保 晴行 パリ日乗

    ユーロスターよりパリ北駅の降り立ちに想いの巡り胸迫り来る ひさびさの駅前広場パリ嬉し笑顔のひとはサ・ヴァと出迎う セーヌ河渡りて鳥の一羽舞い二羽の立ち舞い群れ移り行く 地下鉄の熟れたる匂い親しかる暗きホームに酔いどれひとり 道端のカフェで飲むカルヴァドス渋き香りも久しぶりなり 学窓の思い出深し下町のカルチェラタンの匂いもあらた ランボーに悩みひねもす格闘せしパリ大学の階段教室