検索結果 全1029作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 龍膽寺 雄 放浪時代

    一 ギルフイラン、ラヂオ商会の飾窓(シヨウウインドウ)の飾りを終へて、――金を受取つて、いつもの様に曾我(そが)たちと、彼等の仕事場で落合ふために、上野行の電車へ僕が飛乗つたのは、かれこれ九時を廻つた時分だつた。暮れがた暫く振りで快よい夕立が東京の半天を襲うて、それがわづかの

  • 小説 林 芙美子 清貧の書

    一 私はもう長い間、一人で住みたいと云ふ事を願つて暮した。古里も、古里の家族達の事も忘れ果てて今なほ私の戸籍の上は、真白いまゝで遠い肉親の記憶の中から薄れかけようとしてゐる。 只ひとり母だけは、跌(つま)づき勝ちな私に度々手紙をくれて叱つて云ふ事は、── おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろうしてゐると、ふてくされてみえるが、よう、むねにて

  • 小説 林 芙美子 晩菊

    夕方、五時頃うかゞひますと云ふ電話であつたので、きんは、一年ぶりにねえ、まア、そんなものですかと云つた心持ちで、電話を離れて時計を見ると、まだ五時には二時間ばかり間がある。まづその間に、何よりも風呂へ行つておかなければならないと、女中に早目な、夕食の用意をさせておいて、きんは急いで風呂へ行つた。別れたあの時よりも若やいでゐなければならない。けつして自分の老いを感じさせては敗北だと、きんはゆつくりと湯にはいり、帰つて来るなり、冷蔵庫の氷を出して、こまかくくだいたのを、二重になつたガーゼに包んで、鏡の前で十分ばかりもまんべんなく氷で顔をマツサアジした。皮膚の感覚がなくなるほど、顔が<rub

  • 小説 林 芙美子 夜の蝙蝠傘

    この孤独と云ふものは、四方八方から責めたてられて起つたものだと解り、一瞬の考へのなかにも、外部から、何かしら音をたてゝはいりこまれてゐる不安を、始終、頭に入れてゐなければならぬと、追ひまくられてゐる気になり、その息苦しい不安を、英助は、ぢいつと虚空(こくう)に只みつめてゐる。「おい、おくさん、何時(いつ)ごろ、冥土へ御出発としますかね」まるで愉しい旅行へ旅立つやうな尋ねかたである。町子が、鍋の

  • 評論・研究 林 房雄 作家として

    一 ぼくは心をきめた。ぼくは文学のために一生をかける。 文学の仕事は高くそして大きい。それは男の一生をかけるにあたひする。いな、一生をかけないかぎり、文学は――およそ文学の名にあたひしうるものは、けつして生まれない。 (ここでぼくは、はでな宣言文章をかかうとしてゐるのではない。作家としての再出発を行ふにあたつて、小さなおぼえ書をつくらうとしてゐるにすぎない。だから、いふことはおのづから単純である。それ

  • 小説 林 房雄 林檎

    十二月一日――小樽。 此の前の手紙にも林檎の話を書いたね。海峡を渡つて、函館から小樽に来る汽車の窓から、新鮮な雪を着た林檎の林を見た――その雪と林檎の配合が、どんなに美しかつたか、てなことを長々とね。 今日もその林檎の話だ。 昨日の午後のことだつた。その北海道のすばらしい林檎の一つを、港の石に腰をおろして、がりがりやつていたと思い給え。 降り続いた雪が珍しく晴れた日曜日、空には白い光が満ちて、街が透明な硝子のように美しい。油煙(ゆえん)</r

  • 評論・研究 林 茂 太平洋戦争 総力戦と国民生活

    総力戦の特徴 真珠湾奇襲で告げられた開戦のニュースと緒戦の勝利は、庶民の抱く不安や気持のしこりを一気に吹きとばし、欝積していたエネルギーを「米英何するものぞ」の気魄にかえていった。「われにもあらぬ激情」(渡辺銕蔵)を抱いた人もいた。詩人高村光太郎は、 詔勅をきいて身ぶるいした。…… 天皇あやうし。 ただこの一語が 私の一切を決定した。…… 身をすてるほか今はない。 陛下をまもろ

  • 評論・研究 林 雄介 半熟官僚大辞典

    ・合議: 法律等を作るとき、他の省庁にお伺いを立てることをいう。建前上は、他省庁の反対があっても法案の作成は可能だが、実質的には閣議とその前の事務次官会議は全省庁の合意が原則なので、他省庁の反対は致命的になる。そこで、各省庁の話し合いの場である合議で折り合いがつかないと先に進めないのである。そのため、各省庁とも全力で戦いを挑み、この戦いの勝ち星が多いキャリアほど、霞ヶ関では優秀であるとされる。そのため、自分の主張よりも省益を重視した、屁理屈の言い合いの場になる。もちろん、正論は通用せず、化かし合い、腹芸、浪花節等様々な技が要求される。

  • 小説 鈴木 三重吉 千鳥

    千鳥の話は馬喰(ばくらう)の娘のお長で始まる。小春の日の夕方、蒼ざめたお長は軒下へ蓆(むしろ)を敷いてしよんぼりと坐つてゐる。干し列べた平茎(ひらぐき)には、最早絲筋ほどの日影もさゝぬ。洋服で丘を上(あが)</ru

  • 俳句 鈴木 六林男 荒天(Rough Weather)

    Ⅰ 大陸荒涼 Bleak Continent出発Departure 送る歌産院の高き窓よりも A song to see me off from the

  • 小説 鈴木 榮 軽気球

    ラーゲルレーブ (Selma Lagerlˆf 1858~1940)はスェーデンの女流作家である。北方神話をうたった『イェスタ・ベルリング物語』によって彼女の名声は一躍世界的になり、1909年にはノーベル文学賞を受け、更に1914年にはスエーデンアカデミーの会員に推挙された。「イエスタ・ベルリング物語』と並んで広く親しまれているのは『ニルスの素晴らしいスェーデンの旅』であるが、そのほかにも彼女の作品はかなり多く、そのドイツ語訳全集は12巻からなっている。故郷の自然に対する優しい感情や、人間的愛、宗教的神秘性、道徳的

  • 小説 魯迅 藤野先生

    東京も格別のことはなかつた。上野の櫻が満開のころは、眺めはいかにも紅(くれない)の薄雲のようではあつたが、花の下にはきまつて、隊を組んだ「清国留学生」の速成組がいた。頭のてつぺんに辮髪をぐるぐる巻きにし、そのため学生帽が高くそびえて、富士山の恰好をしている。なかには辮髪を解いて平たく巻いたのもあり、帽子を脱ぐと、油でテカテカして、少女の髪にそつくりである。これで首でもひねつてみせれば、色気は満点だ。 中国留学生会館の入口の部屋では、本を若干売つていたので、たまには立寄つて

  • 評論・研究 露国社会党に与ふる書 露国社会党に与ふる書  (『平民新聞』社説・1904.3)

    「嗚呼(あゝ)露国に於ける我等の同志よ、兄弟姉妹よ、我等諸君と天涯地角、未だ手を一堂の上に取て快談するの機を得ざりしと雖(いへど)も、而(しか)も我等の諸君を知り諸君を想うことや久し。 一千八百八十四年、諸君が虚無党以外、テロリスト以外、別に社会民主党の旗幟</

  • 評論・研究 蝋山 政道 よみがえる日本 占領下の民主化過程

    民主主義をはばむ六つの制度 ポツダム宣言第十項には、「日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スルー切ノ障礙ヲ除去スベシ 言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルベシ」とある。 ここにいう民主主義的傾向の復活強化にたいして障礙となっているものとは何か。それは、いうまでもなく極端な国家主義や軍国主義の基盤となっていたもので、旧い封建時代に根をもち、明治時代に強化されたものとして考えられる六つの制度である。すなわち華族制度・地主制度・地方制度・官僚制度・教育制度・雇用制度これである。 <p

  • 短歌 和泉 鮎子 果物のやうに

    鬼もゐむ忠信狐もひそみゐむ吉野は峯も尾上も櫻 花に埋る谷の底ひに蹲へば身すがら冷えてわれは鬼(もの)の裔 銀箔のふるへるやうにひかるはな黒髪を籠めし塚に降り来て 亡きひとの歩みて来るや地(つち)の上の櫻落花がほろほろ転(まろ

  • 随筆・エッセイ 和泉 鮎子 二人の時頼

    のちに人口に膾炙されることになった、「人生は不可解なり」の一節を含む「巌頭之感」を遺して、日光の華厳の滝に投身自殺をした旧一高生藤村操のもうひとつの絶筆のことを知ったとき、わたしはつよい衝撃を受けた。それは、死の直前に、ある女性に贈った高山樗牛著『瀧口入道』に書きこまれたものであった。そして、『瀧口入道』は、十六歳でやはり死を選んだ弟が、最後まで手にしていた本であった。 本の虫などと叱られ、濫読癖のあったわたしと違い、二つ年下の弟は小さい時から、本を読むことよりも機械いじりが好きで、殊に時計には目がなく、次々とこわしては母を困らせていた。中学生のころは音楽に興味をもち

  • 評論・研究 和辻 哲郎 偶像崇拝の心理

    私がここに観察しようとするのは、「偶像破壊」の運動が破壊の目的物とした、「固定観念」の尊崇についてではない。文字通りに「偶像」を跪拝する心理についてである。しかしそれも、庶物崇拝(フェティシズム)の高い階段としての偶像崇拝全般にわたつてではない。ただ、優れた藝術的作品を宗教的礼拝の対象とする狭い範囲にのみ限られている。特に私は今、千数百年以前の我々の祖先の心境を心中に描きつつ、この問題を考察するのである。 まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学

  • 小説 和田 傳 村の次男

    一 信平の生涯の希望を賭けたやうな甲種合格が、籤(くじ)のがれでふいになつてしまつたのだから、彼はその日からふてて三日も寝込んでしまつた。 耕地では陽炎(かげろふ)が燃えだし、百姓は泡をくつて野良を始める時だつたが、信平がさうしてふて寝をきめても、兄の清一は何も言はず<rub

  • 小説 假名垣 魯文 安愚楽鍋

    初編自序 世界各国の諺に。仏蘭西の着倒れ。英吉利の食(くひ)だふれと。食台(ていぶる)に並べて譜(いへ)ど。衣は肌を覆ふの器(うつわ)</rp

  • 随筆・エッセイ 會津 八一 南京新唱(抄)

    明治四十一年八月より大正十三年に至る 南京・なんきやう。ここにては奈良を指していへり。「南都」といふに等し。これに対して京都を「北京」といふこと行はれたり。鹿持雅澄(カモチマサズミ)の『南京遺響』佐佐木信綱氏の『南京遺文』などいふ書あり。みな奈良を意味せり。ともに「ナンキン」とは読むべきにあらず。 春日野にて かすがの に おしてる