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玄象の世界(抄)

目次

 

 

 ⅩⅢ

 ⅩⅣ

 ⅩⅦ

 ⅩⅩⅢ

 聲神医

 

 

 

 

言葉、発せず。

姿も見せず。

蕗の葉の下に住む伝説の民族。

 

コロポックル。

 

荒れた海峡を渡れず。

本土の海近き山沿いに生息し。

我らと言葉交わさず。

群れ集い。

流浪する数百の民。

ただ気配あるのみ。

 

 

 

 

御前(みさき)にて。

太陽が語る頭上に。

舞う鴉が。

太陽に戻るとき。

啓示は一瞬に現われたり。

 

この国のなか。

一年に一度。

見える日輪に。

身を賭けるとき。

煩悩は幻に。

紺碧の中、竚む、我ひとり。

 

山頂にて。

出会いし。

太陽の啓示。

 

我、一気に山を下り。

流謫すれども。

生涯、忘れることなき。

 

一瞬の歓喜。

永遠の至福。

 

 

 ⅩⅢ

 

天空の翼に身を委ね。

永劫回帰の一里塚。

切り開こうと男たち。

太陽に棲む鴉に。

導かれ。

姿なき神、求め。

出発(たびだち)たり。

 

象徴は三角(トライアングル)

聖なる地に華開く。

柘榴の木。

始源(オリジン)は「何処」と。

いづこにも。

問う者、無し。

答える者、さらに無し。

 

 

 ⅩⅣ

 

頂から眺めた霧の彼方。

潮の匂いが聞えて来る。

 

古代、この地は海なのか。

 

廃城の跡。

太陽を背に。

聖サンフランチェスコが現れ。

我に告げる。

啓示の瞬間。

 

氷の(つるぎ)は。

死者の(やいば)か!

 

石畳の冷たさが。

幻影を打ちやぶる。

 

色彩られた静寂。

輝く聖なる地。

 

頂より眺めた霧の彼方から。

潮の匂いが聞えてくる、この地。

 

古代、海なのか!

 

 

 ⅩⅦ

 

太陽を司る(ホルス)

スフィンクスに向かって。

羽撃く(イビス)の群れ。

 

古代エジプトに榮えし。

医術の極みに。

月は黙す。

 

北十字(キグヌス)から贈られた。

言葉なき(しるし)に。

地球の回路は開かれ。

 

未知の部族を。

くぐり抜け。

人類の謎を解く鍵。

 

今、言葉の封印を解かれ。

歴史の瞬間を刻む。

初めて書き記されたシンボル。

 

アブビル。

アブビル。

アブビル。

 

異星文明の象徴を。

直識(じきしき)する蔭の流れ。

 

 

 ⅩⅩⅢ 

  作家・三島由紀夫に、自裁の二週間前、出会った時のこと。

 

一期、一瞬の一会。

刻まれた〈永遠〉の覚醒。

残された己の内部に息づく他者。

 

砕け散る。

〈汝〉・数千の分身。

光の中に。

崩壊する〈汝の自我〉。

 

恐怖と感喜と交感の坩堝に。

開かれる肉体。

 

目覚めの深さを測る熱い錘。

支えきれぬ見えない熱量に。

満たされる〈全體〉。

 

満月の真夜。

突如、無数の帆立貝が浮上し。

ふれあい。

海上を帆走する。

夜半の交響曲(シンフォニー)

 

 

 聲神医

 

〈発スル聲〉に秘めた力忍ばせ。

花吹雪舞う深夜。

見えぬモノに〈聲ヲ発ス〉。

 

タタラ オトド トモド トモド タタラ オトド オトド タタラ。

トモド トモド タタラ タタラ オトド トモド タタラ オトド。

トモド タタラ オトド オトド タタラ トモド トモド タタラ。

 

空に響き合う母音の音色 に耳澄ませ。

閉ざされた心に甦る言葉なき〈聲ノ記憶〉。

 

オトド トモド タタラ タタラ オトド トモド オトド タタラ

タタラ オトド トモド オトド タタラ オトド トモド タタラ

オトド オトド トモド オトド トモド タタラ タタラ タタラ

 

(イロドリ)ノ聲〉の調べから想い出す人。

風鳴る闇の中 香りの気配訪れ 解き放つ。

 

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2008/03/11

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天童 大人

テンドウ タイジン
てんどう たいじん 詩人 1943年 小樽市に生まれる。

掲載作は、既刊日西対訳詩集『玄象の世界』抄(1997〈平成9〉年6月 北十字舎刊)より抜粋、一部改定した。

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