検索結果 全1013作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 伊神 権太 再生 初出年: 2004年

    あのウサマ・ビンラディンが地方記者である私の身近にいた。ましてや能登半島で死んでいた、だなんて。 序 十月も半ばに入ったその日、自宅マンションに帰ると、わが家の雌の神猫(しんねこ)シロちゃんが居間で背筋を延ばし、両手を揃え、口をムッと結び、何かを訴えるようなまなざしを私に投げかけ、「ニャン」とひと声、大きく鳴いた。その瞬間、両の目がギラリと赤く輝く。あたしはこの世で起きる何でも知っているぞ。そうい

  • 高島 清子 詩集『ノスタルジア』抄 初出年: 2004年

    &nbsp; 祭りの夜 &nbsp; どんな村にも祭りがあった 雨も風も実りも火も花も人も 神を宿していないものはない &nbsp; 村のお調子者の醜男が 緋色の襦袢にほおかむり 紅おしろいで娘に化ける &nbsp; ああ その切ないような祭りの匂いよ <p

  • 水崎 野里子 詩集『アジアの風』抄 初出年: 2003年

    アジアの風 アジアは褐色だった 貧しかった そして猥雑だった 娼婦たち マンホール・チルドレン 父母に棄てられた 逃げ出した 父母のいない子供達が冬 マンホールに住む &nbsp; 地下は暖かい 食べ物は盗むか 拾って来る ストリート・チルドレン 色の黒い子供達が 手を出して <

  • 小説 浅田 次郎 お腹召しませ 初出年: 2003年

    病み上がりの祖父と二人きりで、あばら家に暮らした記憶がある。 私はすでに中学生であったから、記憶があるという言い方は不適切かもしれぬが、つまりそれくらい、抹消してしまいたい嫌な記憶なのであろう。その数ヶ月は夢のように朧(おぼ)ろである。 家産が破れて一家は離散し、行き場を失っていた私を、結核病院から出てきた祖父が引き取った。よほど無理な退院であったのか、台所で煮炊きをするときのほかの祖父は、床に就いているか、痩(<

  • 小説 橘 かがり 月のない晩に 初出年: 2003年

    私はちっぽけなおんぼろ船の中で膝(ひざ)をかかえてうずくまっている。とても狭い所に人がぎゅうぎゅうつめこまれていて、重くて沈んでしまわないかと心配になるほどだ。暗がりの中でだんだんにまわりが見えるようになってくる。鼻の下から顎(あご)まで髭をはやしている目つきばかり鋭い男。小さな男の子を連れた若い母親。隅のほうに釣り竿が何本も低い天井に届きそうに並んでいて、そこには年嵩</

  • 随筆・エッセイ 塚田 三千代 『ゴスフォード・パーク』の30人の登場人物たち ──女性たちのセリフが冴えて響く 初出年: 2002年

    『ゴスフォード・パーク』(2001年製作)はロバート・バーナード・アルトマン監督の映画である。集団劇あるいはアンサンブル劇とか、「グランド・ホテル」形式とかいわれるだけあって、30人以上の人物が登場するので人物の顔と名前を一致させるだけでも骨がおれる。この映画の世界は1932年のイギリス貴族と召使の階上と階下に二分された大邸宅――そこで真夜中の殺人事件が起き、犯人はだれか、となる。ところが、アルトマン監督はこれを重視しない。サスペンスの真相解明には無関心である。監督の関心はむしろ階下の人々の噂話で物語をどのように進めていくかにある。関心事は登場人物の多数のアドリブを収録編集し、その会話

  • ノンフィクション 橋爪 文 太陽が落ちた日 初出年: 2001年

    一九四五年(昭和二十年)八月六日、朝、家を出た私は空を見上げた。 いつもと変わらない穏やかに澄んだ広島の青空だった。 先ほどこの空に空襲警報のサイレンが鳴りわたり、すぐに解除になった。誤報だったのだろうか。 庭の杉木立で目覚めたばかりの蝉がチッチッと鳴いている。 今日も暑くなりそうだ。 &nbsp; 私は十四歳、女学校三年生。学徒動員で逓信省(戦後は郵政省と電気通信省、現在は総務省・日本郵政グループなど)の貯金支局に勤務していた。 <p

  • ノンフィクション 橋爪 文 The Day the Sun Fell 初出年: 2001年

    &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; On the morning of August 6, 1945, I stepped out the door and looked up to another serene, blue Hiroshima sky. &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; The air-raid alert earlier that morning had ...

  • 小説 穂高 健一 初出年: 2001年

    首にタオルをかけた大柄な赤松好夫が、病棟の裏手から、廃棄物専用の台車をひいてきた。 作業服の背中は地図を描いたように、汗でぬれて張りついていた。 好夫は三二歳で、眉の濃い角張った特徴のある顔であった。 山麓の広大な敷地には、総合病院の白い棟が三つならぶ。病棟の一角から離れた、もはや背後には雑木林のみという片隅に、好夫がうけもつ焼却炉があった。巨象の体型よりもおおきな炉だった。銀色の煙突は、正門ゲート横の銀杏の大樹と高さを競うほどである。 煙突から青い煙が淡い新緑につつまれた疎林の方角へとなびく。さらなる彼方には三千

  • 随筆・エッセイ 松村 誠 早死せんほうがええで 初出年: 2001年

    現在、日本は世界一の長寿国を誇りつづけており、人生80年時代といわれて久しいにもかかわらず、その80年を全うすることなくこの世を去っている人が多いのが現実です。80歳未満であの世へ往くのはあまりにも早すぎます。まさに早死(はやじに)です。 1999年には、80歳未満死である早死は、55万1,840人で全体の56%にものぼっています。そしてその早死の原因としては、三大生活習慣病である、がん・心臓病・脳卒中、そして肺炎、さらに自殺と不慮の事故が続いています。1999年には、こ

  • 小説 伊神 権太 てまり 初出年: 1999年

    「アキちゃん。アキちゃん、たらあ」 女は口ごもりながら「あの。ほんとにうっかりしてて。スミマセン。アキちゃん、てば。ひと言もいってくれないんだから」とボクに向かって続けた。「女の子が生まれていただなんて。賀状で初めて知りました」。こちらが照れる前に、受話器の向こうの方が、恥ずかしさに声がうわずっている。 &nbsp; 一 能登のその町に在任中、クリスマスイブやバレンタインデー、おひなさまになると決まってボクあてに郵便物で何かを送りつけてくる不思議な女がいた。名を

  • アリジス,オメロ 十三歳の自画像・五十四歳の自画像 初出年: 1998年

    Autorretrato a los 13 años Sobreviviente de mí mismo, el pelo largo, me siento en la silla del peluquero. En un caballete está el espejo, atrás de mí las casas,

  • ノンフィクション 保岡 孝顯 マハトマ・ガンディーとマザー・テレサの道 初出年: 1997年

    ――私が捨てなければならないもの &nbsp; 「私たちに残るものは、人に与えたものだけ」とマザー・テレサはいう。マハトマ・ガンディーとマザー・テレサが若き日に身につけたものは、ことごとく貧しい人々のために捧げられた。 &nbsp; 九月八日、東京のカテドラルを埋め尽くした千五百人もの人々はマザー・テレサを追悼するミサに集い、各々静かな祈りを捧げ、最後の別れを告げた。 不思議と輝いた清らかなマザー・

  • 山口 賀代子 詩集『おいしい水』抄 初出年: 1996年

    赤い花 &nbsp; 人たちの寝静まった後 月の光を浴びながら ゆっくりと球根を太らせていく植物群があり 赤い花 黄色い花 紫紺の花 花の盛りを 見ないまま逝く人がいる &nbsp; 赤い花が綺麗なのは 花の下に葬ったものがあるからだと姪が耳もとで囁き わたしはどきっとして幼い少女の顔を見る &nbsp;

  • 小説 穂高 健一 千年杉 初出年: 1995年

    嵐が過ぎたあとの残り雨もやっとあがった。 赤褐色の濁流の甲武川が、木橋である落合橋の底すれすれまで、水かさを増していた。橋の袂では、付近の農家の者たちが総出で、土手沿いに土嚢を積み上げている。靖弘はかれらに労をねぎらう挨拶をしてから、落合橋を渡り、そのさき観音堂、廃墟の鉱泉小屋、地蔵倉を過ぎた。そのあたりから、靖弘はケイタの名を呼びはじめた。繰り返し、その声が山間にこだまする。 天然杉の樹冠をかぶる伊野山を見上げた。白い雲海が山の西斜面にひっかかり、もがきながら登っていく。 伊野山への登山道をかねた林道は、急勾配でぬかるみ、落葉が春

  • 菊田 守 『かなかな』より 初出年: 1994年

    かなかな 空が明るんでくるころ かなかなと鳴いてみる かなかなと何度か練習する あとは黙っている 昼間は暑いのに ジージージーと鳴いている油蟬 オーシツクツクオーシツクツクと鳴く 法師蟬の声を聞いても黙っている みんな黙っている あたりがうす暗くなるころ 朝の調子を思い出して かなかなと

  • 小説 夏目 漱石 趣味の遺伝 初出年: 1994年

    一 陽気の所為(せい)で神も気違になる。「人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救へ」と雲の裡(うち)より叫ぶ声が、逆(さか)しまに日本海を撼<

  • ノンフィクション 保岡 孝顯 祖国に平和はいつ来るのか 初出年: 1994年

    ―アフリカ難民キャンプを訪問して― &nbsp; 一九九四年二月二十一日から三月十四日の約三週間、第七回上智大学アフリカ難民現地調査団が、ケニア、エチオピア、タンザニア、マラウイ、モザンビークを訪れた。一九八三年以来、二年ごとに行われている現地調査である。 本文ではこのうち、ケニア、エチオピアの二カ国の報告をする。 帰還する難民たち 二月二十六日早朝、ナイロビからエチオピアの首都アディスアベバに五年ぶりに入った。一九八三

  • 随筆・エッセイ 川合 継美 風の鳴る北京(抄) 初出年: 1993年

    目次 第1章 父と母、そして中国 両親と横浜 華北へ 通洲事件 父と中国の研究者たち 第2章 懐かしい北京の日々 北京の友人たち 第3章 父の遭難と帰国 憲兵隊事件 日本の敗戦と父の釈放 最後の面会と引き揚げ &nbsp; &nbsp; 第1章 父と母、そして

  • 随筆・エッセイ 櫻井 千恵 『千暮の里から』抄 初出年: 1992年

    木は大きなる、よし うちの庭のまん中には、一本の枇杷の巨木がある。褐いろの老いた葉を押しのけるように、新芽が今天をさして一斉に伸び始めた。 うすく透けるその萌葱いろの葉はなんともつややかで、あたりの光景をひときわ明るくしているかに見える。その、驢馬の耳みたいな柔らかな葉を、少し烟ったような四月の空に溶かして、樹は雄々しく立っている。 この樹を植えたとき 「あんたらぁ、庭にこんなもん植えて!」 旧弊な年寄が毎日やってきてこう言った。 庭に枇杷を植えると病人が出た