検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 原 民喜 夏の花

    わが愛する者よ請ふ急ぎはしれ香(かぐ)はしき山々の上にありて獐(ノロ)のごとく小鹿のごとくあれ 私は街に出て花を買ふと、妻の墓を訪れようと思つた。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あつた。八月十五日は妻にとつて初盆にあたるのだが、それまでこのふるさとの街が無事かどうかは疑はしかつた。恰度(ちやうど

  • 小説 原 民喜 廃墟から

    八幡村へ移つた当初、私はまだ元気で、負傷者を車に乗せて病院へ連れて行つたり、配給ものを受取りに出歩いたり、廿日市町の長兄と連絡をとつたりしてゐた。そこは農家の離れを次兄が借りたのだつたが、私と妹とは避難先からつい皆と一緒に転がり込んだ形であつた。牛小屋の蝿は遠慮なく部屋中に群れて来た。小さな姪の首の火傷に蝿は吸着いたまま動かない。姪は箸を投出して火のついたやうに泣喚く。蝿を防ぐために昼間でも蚊帳が吊られた。顔と背を火傷してゐる次兄は陰欝な顔をして蚊帳の中に寝転んでゐた。庭を隔てて母屋の方の縁側に、ひどく顔の腫れ上つた男の姿――そんな風な顔はもう見倦る程見せられた――が伺はれたし、奥の方

  • 短歌 古泉 千樫 千樫短歌抄

    みんなみの嶺岡山の焼くる火のこよひも赤く見えにけるかも 山焼五首 夕食(ゆふげ)終へて外(と)に出て見ればあかあかと山焼(やまやけ)の火のひろがりにけり

  • 評論・研究 戸坂 潤 認識論としての文藝学

    文藝学の対象は云うまでもなく文藝である。尤(もっと)も従来の日本語の習慣によると、文藝は又文学とも呼ばれている。文学という言葉は通俗語として、又文壇的方言として、特別なニュアンスを有(も)つて来ている。単に文藝全般を意味する場合ばかりではなくて、却つて小説とか詩とかいう特定の文藝のジャンルを意味したり、又はそうでなくて、一つの作家的乃至人間的態度を意味したりもしているのである

  • 評論・研究 戸川 秋骨 自然私観

    哲学は幾度かその系統を改め、宗教と云ふものゝ改めらるゝ事屡(しばしば)なりと雖(いへど)も、未(いま)だ一と度(たび)も人生と云ふ問題の明らかにせられたるを聞かず、限りある人間と云ふものは限りなく人間と

  • 小説 五味川 純平 不帰の暦

    一 私は自分の娘のように若いあなたに、何故(なぜ)この話をしておきたいのか、わかりません。気を許して話せる人に、昔の苦労話をしたいという甘えた気持からではないようです。 戦争の話には、必ず屍臭が漂います。けれども、それは同時に、滅んだ沢山の愛の物語でもあるでしょう。あなたは、前に、愛はいつかは終るものだとおっしゃっていたことがありました。たぶん、そうでしょう。戦争によってすべ

  • 後山 光行 水の硬度

    冬の海 現代風な建物が続く街に 古くて黒いどっしりとした家がある いつも通い続けた道なのに 何年か過ぎたある日 ふと見つけた いつからか 私のなかに落ち込んでしまった家 家のとなりに タバコ屋があって 飲みものの自動販売機が 家の前まで何台も置かれている 昔式の

  • 随筆・エッセイ 後藤 栖子 父のこと友のこと

    芥川賞作家の父のこと 父(後藤紀一)の芥川賞受賞は三十六年も前のことになる。そのころ私は秋田にある劇団わらび座にいた。山形を離れて三年ほど経っていた。父から、 「今度、僕は小説を書いた。でもやっぱり栖子には見せられない」 そんな便りが来てまもなくのころだった。 山形を離れて三年、父とは没交渉のままだったが、当時の劇団の主宰者のH氏に説かれて父との便りの行き来が、始まったばかりだった。ところが受賞作を読んで私は、今でいうプッツンしてしまったのである。冷笑とさえ言え

  • 評論・研究 後藤 宙外 政治小説を論ず

    小説界の新生面 近頃、政治小説を誘奨して、斯壇に一新生面を招かんとする論者所々に見ゆ。勿論、之れを促すの趣意に到りては、其の軌を一にせず。政局の激変して、従来単に志士論客の脳裏に蜃気楼として描かれたる政党内閣も、今や実現せられたれば、民心翕然(きふぜん)として政治界に趨向(すうかう)するに到れり、此の機運は

  • 小説 幸田 露伴 観畫談

    ずつと前の事であるが、或人から気味合の妙な談(はなし)を聞いたことがある。そして其話を今だに忘れてゐないが、人名や地名は今は既に林間の焚火の煙のやうに、何処か知らぬところに逸し去つてゐる。 話を仕て呉れた人の友達に某甲(なにがし)といふ男があつた。其男は極めて普通人型の出来の好い方で、晩学では有つたが大学も二年生まで漕ぎ付けた。といふものは其男が最初甚だしい貧家に生れたので、

  • 小説 幸田 露伴 幻談

    斯(か)う暑くなつては皆さん方が或(あるひ)は高い山に行かれたり、或は涼しい海辺に行かれたりしまして、さうしてこの悩ましい日を充実した生活の一部分として送らうとなさるのも御尤(ごもつと)もです。が、もう老い朽ちてしまへば山へも行かれず、海へも出られないでゐますが、その代り小庭<

  • 随筆・エッセイ 幸田 露伴 処女作天魔談

    文壇では私の処女作を知つて居つたものは殆んどない。紅葉が知つて居つただけであるが、それすら故人となつたから、今では闇から闇に葬れるものとなつた。 処女作は『天魔』といふので、二十一年頃であつたと記臆する。穿(うが)ち専門の、極めて洒落た畑で。其頃京伝あたりの鋭い軽い筆つきを、面白いと思つて連(しき)りと愛読して居つたものであるから、自然其調子が乗つて居つた。五十枚ばかりの短篇も

  • 評論・研究 幸徳 秋水 自由党を祭る文

    歳は庚子(=かのえね 明治三十三年 1900)に在り八月某夜、金風淅瀝(せきれき)として露白く天高きの時、一星忽焉(こつえん)として墜ちて声あり、嗚呼(あゝ)自由党死す矣(い)、而

  • 随筆・エッセイ 幸徳 秋水 東京の木賃宿

    活地獄――木賃宿の異名――九千人のお客様一泊六銭――柏餅の雑居――雨の日の繁昌――三畳の家庭――千四百五十の世帯――擂鉢は車輪と廻る――二銭皿の鮪—――井に落せし簪――連込みの客――鬼一口――安宿ごろつき――良人ある身――夫婦喧嘩の統計――十年前の大家の嬢様――お湯は如何――屋根代の餌――丸裸の夫婦是れにつきねど 野山長閑(のどか)に春霞、立ちつづく道者笠(<

  • 小説 広津 柳浪 黒蜥蜴

    一 年齢(としごろ)廿五六の男、風體(ふうてい)は職人。既(は)や暮れんとせる夏の日の、暑熱(あつさ)尚ほ堪へ難くてや、記章

  • 小説 江見 水蔭 女房殺し

    一 逗子(づし)の浜辺に潮頭楼(てふとうろう)といふ海水浴舎がある。三崎(みさき)へ通ふ街道を前にして居るが、眺望(ながめ)は、鎌倉の海を<r

  • 小説 江戸川 乱歩 押絵と旅する男

    この話が私の夢か私の一時的狂気の幻でなかったなら、あの押絵と旅をしていた男こそ狂人であったに違いない。だが、夢が時として、どこかこの世界と喰いちがった別の世界をチラリとのぞかせてくれるように、また、狂人が、われわれのまったく感じえぬものごとを見たり聞いたりすると同じに、これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、一刹那、この世の視野のそとにある別の世界の一隅を、ふと隙見したのであったかもしれない。 いつともしれぬ、ある暖かい薄曇った日のことである。それは、わざわざ魚津へ蜃気楼を見に出掛けた帰り途であった。私がこの話をすると、お前は魚津なんかへ行ったことはないじゃ

  • 随筆・エッセイ 江口 滉 陶藝家の述懐

    一期の境ここなり 室町時代の初期、能楽を大成した世阿弥の著書のひとつに『風姿花伝』と呼ばれるものがあります。これは、能楽の藝を習得するための練習方法などを説いた一子相伝の秘伝書で、わが国最初の演劇論としても高く評価されているものです。 この書物は、全体が「年来稽古条々」「物学(ものまね)条々」「問答条々」など七編から成っています。

  • 評論・研究 綱島 梁川 病間録

    知 己 何人(なんぴと)も他に知られたしの念あり、千万人の徒(あだ)なる喝采に動かざるものも、尚ほ其の一人(いちにん)の友に知られんことを求め、

  • 小説 荒畑 寒村 艦底

    一 春頃、進水式を挙げた二等巡洋艦××号の艤装(ぎさう)工事が、夏に入ると急に忙がしくなつた。職工等は寄ると障ると、近い中(うち)にいよいよ戦争が始まると、物の怪(け)</rp