検索結果 全1013作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • ノンフィクション 近藤 富枝 水上心中 太宰治と小山初代

    一 女学校一年のときなので昭和十年のことにちがいない。ある雨上りの午後、わたしは田端駅を出て、高台につづくだらだら坂にさしかかり、劇的な場面に出会った。目の前で若い男が、並んで歩いていた妻らしい若い女を、力まかせに水たまりにつきとばしたのである。 女は抵抗せずにされるままとなり、下半身のきものを泥だらけにして倒れた。苦渋の表情をうかべた男の、秀麗とでもいいたい容貌が、わたしの目をとらえる。それにしても、水たまりに膝をついたまま、いつまでも立ち上らない女の耐え方も、わたしに不思議な興奮を誘った。 どちらも良

  • 小説 金 史良 光の中に

    一 私の語ろうとする山田春雄は実に不思議な子供であつた。彼は他の子供たちの仲間にはいろうとはしないで、いつもその傍を臆病そうにうろつき廻つていた。始終いじめられているが、自分でも陰では女の子や小さな子供たちを邪魔してみる。又誰かが転んだりすれば待ち構えたようにやんやと騒ぎ立てた。彼は愛しようともしないし又愛されることもなかつた。見るから薄髪の方で耳が大きく、目が心持ち白味がかつて少々気味が悪い。そして彼はこの界隈のどの子供よりも、身装(みなり)がよ

  • 評論・研究 金丸 弘美 子供たちに健康な未来を手渡すことが、地域を元気にする

    フランスというとファッションや映画、あるいはシャンソンなどの音楽、そして有名シェフのグルメがよく知られていて、都市のイメージが強いかもしれません。ところがEUのなかでもトップクラスの農業国で、自給率はオーストラリア、カナダ、アメリカに次いで世界4位。穀物自給率(小麦や米などの穀類)はオーストラリアに次いで第2位という世界でも有数の農業国であり農産物の輸出国なのです。 ちなみに日本は自給率40%、穀物自給率は27%で、世界の先進国では最下位。世界でも大きな食糧輸入国であり、フランスとは対極にあります。 フランスでは戦後から農家の大規模化が進められてきま

  • 評論・研究 金子 筑水 所謂社会小説

    近来社会小説を口にする者漸く多し。其の意義の如何(いかん)は兎(と)もあれ、斯(か)くの如き要求の現れ来たりし源を考ふるに、例の文学界の狭隘なると、新奇を好むの傾向とは、此の呼声を高からしめし主因なるべし。稍(やや)</rp

  • 評論・研究 隅谷 三喜男 大逆事件・明治の終焉

    大逆事件 西園寺内閣の毒殺 日比谷騒擾(そうじょう)事件(=日露戦争の講和条件に不満な大衆が暴動に出た騒ぎ。)ののち、講和条約の後始末が一段落すると、桂(太郎=長州閥の実力者、前総理</spa

  • 評論・研究 栗本 鋤雲 岩瀬肥後守の事歴

    幕廷にては軍国の仕来(しきた)りにて殊の外に目付(めつけ)の役を重んじたり、抑(そもそ)も此官は禄甚だ多からず、位甚だ高からずと雖(いへど)も、諸司諸職に関係せざる無きを以て、極めて威

  • 戯曲 郡 虎彦 タマルの死

    人物 美はしき髪を持てるダビデの子アブサロム 智者アヒトベル 兄アムノンに辱められたるアブサロムの全き妹タマル 第一の僕 第二の僕 第三の僕 第四の僕 第五の僕 第六の僕 時代</

  • アーカイブ 結城 哀草果 哀草果秀歌二百首 (高橋光義選)

    米搗くがあまりのろしと吾が父は俵編みゐて怒るなりけり (山麓) ひた赤し落ちて行く日はひた赤し代掻馬(しろかきうま)は首ふりすすむ ぐんぐんと田打をしたれこめかみは非常に早く動きけるかも 入りつ日に尻をならべて百姓

  • 小説 結城 昌治 軍旗はためく下に(抄)

    司令官逃避 ――陣地は死すとも敵に委すること勿(なか)れ。(「戦陣訓」より) 〈陸軍刑法〉 第四十二条 司令官敵前ニ於テ其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ隊兵ヲ率(ヒキ)ヰ逃避シタルトキハ死刑ニ処ス。 註</s

  • 短歌 結城 文 Y字路 (The Diverging Road)

    まだ知らぬ自分に会ひたし路二つ会ふY字路に余光さしゐて I wish to meet my unknown self at Y-shaped point where two roads meet in the evening glow. ある朝目覚めしわれは橙黄の光の花粉にまみれてをらむ <span class="english-t

  • 評論・研究 権田 萬治 記者クラブ制度改革論 ──『脱・記者クラブ宣言』の問題点──

    インターネットの普及や情報公開法の施行など高度情報社会化が進む中で、記者クラブによる記者室の独占的な利用など便宜供与の問題や、記者会見の主催権、クラブあるいは記者会見の閉鎖性などをめぐって、記者クラブ問題が一部の地方自治体で再燃、日本新聞協会は二〇〇二年の初頭に向けて、問題解決のため新しい方針の策定を急いでいる。 田中康夫長野県知事は二〇〇一年五月十五日、『脱・記者クラブ宣言』を発表、県政記者クラブなど県庁内にある三つの記者クラブに同年六月末までに

  • 小説 犬養 健 亜刺比亜人エルアフイ

    一 マラソン競走の優勝者、仏蘭西(フランス)領アルジェリイ生れの亜刺比亜(アラビア)人エルアフイは少しばかり跛足(びつこ)を引きなが

  • 小説 原 民喜 夏の花

    わが愛する者よ請ふ急ぎはしれ香(かぐ)はしき山々の上にありて獐(ノロ)のごとく小鹿のごとくあれ 私は街に出て花を買ふと、妻の墓を訪れようと思つた。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あつた。八月十五日は妻にとつて初盆にあたるのだが、それまでこのふるさとの街が無事かどうかは疑はしかつた。恰度(ちやうど

  • 小説 原 民喜 廃墟から

    八幡村へ移つた当初、私はまだ元気で、負傷者を車に乗せて病院へ連れて行つたり、配給ものを受取りに出歩いたり、廿日市町の長兄と連絡をとつたりしてゐた。そこは農家の離れを次兄が借りたのだつたが、私と妹とは避難先からつい皆と一緒に転がり込んだ形であつた。牛小屋の蝿は遠慮なく部屋中に群れて来た。小さな姪の首の火傷に蝿は吸着いたまま動かない。姪は箸を投出して火のついたやうに泣喚く。蝿を防ぐために昼間でも蚊帳が吊られた。顔と背を火傷してゐる次兄は陰欝な顔をして蚊帳の中に寝転んでゐた。庭を隔てて母屋の方の縁側に、ひどく顔の腫れ上つた男の姿――そんな風な顔はもう見倦る程見せられた――が伺はれたし、奥の方

  • 短歌 古泉 千樫 千樫短歌抄

    みんなみの嶺岡山の焼くる火のこよひも赤く見えにけるかも 山焼五首 夕食(ゆふげ)終へて外(と)に出て見ればあかあかと山焼(やまやけ)の火のひろがりにけり

  • 評論・研究 戸坂 潤 認識論としての文藝学

    文藝学の対象は云うまでもなく文藝である。尤(もっと)も従来の日本語の習慣によると、文藝は又文学とも呼ばれている。文学という言葉は通俗語として、又文壇的方言として、特別なニュアンスを有(も)つて来ている。単に文藝全般を意味する場合ばかりではなくて、却つて小説とか詩とかいう特定の文藝のジャンルを意味したり、又はそうでなくて、一つの作家的乃至人間的態度を意味したりもしているのである

  • 評論・研究 戸川 秋骨 自然私観

    哲学は幾度かその系統を改め、宗教と云ふものゝ改めらるゝ事屡(しばしば)なりと雖(いへど)も、未(いま)だ一と度(たび)も人生と云ふ問題の明らかにせられたるを聞かず、限りある人間と云ふものは限りなく人間と

  • 小説 五味川 純平 不帰の暦

    一 私は自分の娘のように若いあなたに、何故(なぜ)この話をしておきたいのか、わかりません。気を許して話せる人に、昔の苦労話をしたいという甘えた気持からではないようです。 戦争の話には、必ず屍臭が漂います。けれども、それは同時に、滅んだ沢山の愛の物語でもあるでしょう。あなたは、前に、愛はいつかは終るものだとおっしゃっていたことがありました。たぶん、そうでしょう。戦争によってすべ

  • 後山 光行 水の硬度

    冬の海 現代風な建物が続く街に 古くて黒いどっしりとした家がある いつも通い続けた道なのに 何年か過ぎたある日 ふと見つけた いつからか 私のなかに落ち込んでしまった家 家のとなりに タバコ屋があって 飲みものの自動販売機が 家の前まで何台も置かれている 昔式の

  • 随筆・エッセイ 後藤 栖子 父のこと友のこと

    芥川賞作家の父のこと 父(後藤紀一)の芥川賞受賞は三十六年も前のことになる。そのころ私は秋田にある劇団わらび座にいた。山形を離れて三年ほど経っていた。父から、 「今度、僕は小説を書いた。でもやっぱり栖子には見せられない」 そんな便りが来てまもなくのころだった。 山形を離れて三年、父とは没交渉のままだったが、当時の劇団の主宰者のH氏に説かれて父との便りの行き来が、始まったばかりだった。ところが受賞作を読んで私は、今でいうプッツンしてしまったのである。冷笑とさえ言え