検索結果 全1015作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 竹内 勝太郎 黒豹

    あいつは随分年老(としと)つてゐるらしい、 全身そそけ立つた毛がザラザラしてゐる、 濃灰色のなかには斑点がくつきり黒い、 平野の奥に身を潜(ひそ)めて鋭い息を燃(もや)してゐる。 あいつの眼、あいつの牙、あいつの爪、

  • 中井 ひさ子 動物記

    ビルのかげで 西新宿の角を二つ曲がると ビルのかげで ペンギンたちが おしくらまんじゅうをしていた 薄い日差しの中 押されてみたかったから そっと かがみこんで 仲間に入った ペンギンの背中が 叙情的だなんて 知らなかった 時々 嘴があたると 私の背中の

  • 評論・研究 中井 正一 現代美学の危機と映画理論

    1 個人主義文化が、封建主義文化を引きはなすために、たたかった歴史の跡は決して容易なものではなかった。幾千の人が火であぶられ、幾万の人が鎖でつながれたかわからない。一六〇〇年代は、大きなそのたたかいの記念すべき世紀であった。一九〇〇年代もまた、今後の歴史家がその研究の対象とするであろうと思われる記念すべき世紀となるであろう。今や、個人主義文化そのものがその危機に臨んでいる。私たちは、その大いなる世紀のまさにただなかに立っている。 封建主義的文化においては、一つの特徴がある。すなわち地上的なるものは天上的なるものから造られたるもの(<span c

  • 中原 中也 中原中也詩選

    春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい 馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい ただただ月の光のヌメランとする

  • 中原 中也 盲目の秋

    I 風が立ち、浪が騒ぎ、 無限の前に腕を振る。 その間(かん)、小さな紅(くれなゐ)の花が見えはするが、 それもやがては潰れてしまふ。 風が立ち、浪が騒ぎ、 無限のまへに腕を振る。 もう永

  • 小説 中戸川 吉二 イボタの蟲

    無理に呼び起された不快から、反抗的に、一寸の間(ま)目を見開いて睨むやうに兄の顔を見あげたが、直ぐ又ぐたりとして、ヅキンヅキンと痛むコメカミ(=難漢字使用)を枕へあてた。私は、腹が立つてならなかつたのだ。目は閉ぢはしてゐても。枕許(まくらもと)に立つてゐて自分を監視してゐるであらう兄の口から、安逸を貪ることを許さないと云ふ風な、烈しい言葉が、今にも迸(</

  • 評論・研究 中江 兆民 君民共治之説

    政体の名称数種あり、曰(いは)く立憲、曰く専制、曰く立君、曰く共和なり。其事実に就て之を校するときは立憲にして専制なるあり、共和にして立君なるあり、共和未だ必ずしも民政ならずして立君も亦た未だ必ずしも民政ならずんばあらず。今や海内(かいだい)の士皆政治の学に熱心し政体の是非得失を講ぜざる者なし、然(しか)</r

  • 小説 中山 義秀

    一 斑石高範(まだらいしたかのり)と茂次郎(しげじろう)の兄弟は、小さい時分から反(そ)りがあわなかった。高範はねちねちした気質であるのに、弟は無類のせっかち者である。 「兄さん、どっかへ遊びに行こう」 茂次郎が子供心に

  • 小説 中山 孝太郎 藪を這う

    食べるものもことを欠き、急激に私の状態が悪化した。 いつの間にか私は何年もあちこちをほっつき回っていた様だ。 私は、歓楽街が懐かしくて、再々そこに行っては、色々な所をよくさまよっていた。知り合いのママが見ても私と気づくものはもう既にいないだろう。髪や髭がぼうぼうで貧しい生活をしていた。寝る所は、不動産屋時代に見つけていた山の麓の谷間にある三坪ばかりの小屋であった。人が出入りする所とは違い、田畑が荒れて藪になっていた。意外とこの附近は季節の変化に関係なく温暖なので、長い間住んでいると居心地がよくなっていた。歓楽街と山を行き来し、残飯をあさっては小屋に持

  • 評論・研究 中西 進 海の彼方 漂泊─日本的心性の始原(抄)

    不可知の彼方 スサノオ神話の根底には、根源なるものの国土への視野があった。万物に生命を与えて考えれば、それは万物の生命の〈根〉の世界への神話的想像でもあった。この世界は、それなりに具体的にどこに存在するという点についてあいまいである。例のイザナミの赴いた死の国が、地下をもって印象づける点からいうと、スサノオの「根の国」も地下に想定ができるけれども、しかし鳴鏑の矢を放った荒野などを、統一的にイメージすることはむつかしい。やはり、位置すらを捨象した抽

  • 中川 肇 花のゆめ いのちの像

    雨あがる 雨があがって やがて お日さまが顔を出す これこそ 至高のマンネリズム 望まないヒトはいない 蛇 行 生まれてから 海に着くまで 一直線 という川はない 川は みんな 精いっぱい道草をして ゆっくりと海に向かう まだ空を飛ぶ</

  • 評論・研究 中村 敬宇 人民ノ性質ヲ改造スル説

    戊辰(明治元年1868)以来御一新ト言フコト新トハ何ノ謂(イヒ)ゾヤ。幕政ノ旧ヲ去リ王政ノ新ヲ布(シク)トイフコトナルベシ。然ラバ政体ノ一新トイフマデニテ人民ノ一新シタルニ非ズ。政体ハ水ヲ盛レル器物ノ如シ人民ハ水ノ如シ、円器ニ入レバ円トナリ方器ニ入レバ方トナル。器物変ジ形状ハ換レドモ水ノ質性ハ異ナルコトナシ。戊辰以後ニ人民ヲ入レタル器物ハ昔時(<

  • 評論・研究 中村 光夫 知識階級

    一 日本の知識階級について考えて見たいと思ったのは、かなり以前からのことですが、実際にはどこから手をつけてよいかわからない難問題です。 歴史的に考えても、飛鳥奈良時代の留学生、『懐風藻』、『万葉集』に名をのこした詩人たちは、知識階級の先祖と言えましょう。以来ながい時代の転変を通じて、知識階級は絶えず存在し、文化の流れは消長はあっても完全に断絶することなく続いてきたので、ここにわが国の文化のひとつの特質があると思われます。わが国が歴史時代に踏入った時期は、必ずしも古くありませんが、二千年ちかくのあいだ、外国から全面的な侵略や永続

  • 小説 中村 星湖 女のなか

    「ねえ、ねえ。」 二階で調べ物をしてゐた矢崎一郎はさう呼ばれて振向いた。梯子段の上り口には妻が物を嘲笑ふやうな円い顔を見せてゐた。 「何だい?」と彼は邪魔をされたのですこし腹を立てて問ひ返した。 「妾(わたし)が来ると直(ぢ)きそんな顔をするんですね。富美子さんの手紙を見せて貰ひに来たのぢやありませんよ……階下へ降りてお仙ちやんをすこし慰さめてや

  • 小説 中村 正常 アミコ・テミコ・チミコ

    アミコ、テミコ、チミコ、この十八歳になる三人の「春めざ娘」と、僕は仲よしになつたので、――ついでに、この「春めざ娘」といふのは、勿論のこと、春にめざめかゝつた思春期に達した少女といふ意味である。――早速、三人を身長順に整列さしておいて、高い方から低い方に順々に、アミコ、テミコ、チミコと、僕の好みの名前をつけて上げたのである。彼女等の両親、又は祖父母が、熟慮断行ののち命名した本当の名前といふものは、僕の意見ではもはや旧式である。いづれ、彼女等が恋をして目出度く結婚の結果を結んだとき、その相手の青年が所属する区役所の戸籍係りの窓口に結婚届をさし出すときに於てのみ、彼女及び彼は自分たちの本当

  • 中村 泰三 北緯三十八度線

    地獄の天窓 君は見なかったか 扉を蹴破り押入った軍靴の下で 無惨に潰れ息絶えた乳呑児を 君は聞かなかったか 手をあげた老人の胸をめがけて 撃ち貫いた銃声を 君はその手をどこに置く 揺れる無蓋貨車から闇の中へ転落した 幼な児の死の叫びに 君は浴びなかったか 輪姦される妻の眼前で 射殺さ

  • シナリオ 中村 敦夫 俺のベイビー -春風荘異聞―

    1 街(朝) 走る山田太郎、すでに遅刻だ。出張った腹が重い、息が切れる。 2 丸金綿業の外景・看板 問屋街にある下着メーカーの小型ビル。山田太郎が駆け込んで行く。スピーカーを通して、社歌がガンガン流れている。 《社 歌》(一) すべらかで さわやか 動きやすくて 一、二、三 はきかえるたびに 訪れる満足 オーオーオー ソレミヨ 世界を股にかける

  • 評論・研究 中村 武羅夫 誰だ? 花園を荒らす者は!

    文藝は、言ふまでもなく広い意味に於ける人間の生活を対象とし、題材とするところに成り立つてゐる。人間生活がないところに文藝はあり得ない。あらゆるイズムに属する文藝が――自然主義の文藝も、象徴主義の文藝も、神秘主義の文藝も、その表現とか様式とか、観点とかその他にはいろいろの差別なり、特徴なりがあるとしても、結局、人生――即ち広い意味の人間生活に、何等かの意味に於いて関心を持つところから生れて来てゐることには、変りはない。或る人に依つては、自己のための藝術が主張される。が、「自己のため」といふことも、窮極するところは、あらゆる人間のためといふことになる。人間は、無人島の中に、たつた一人で生活

  • 中村 稔 鵜原抄(抄)

    目次鵜原抄愛のかたち鳥の死骸挽歌城冬の終り午後沙丘にて誕生</

  • 中谷 順子 破れ旗

    序にかえて 九十九里浜で 海は目の高さにある 押し寄せる厚い胸板よ だからむきになって 論理 (ロジック)を吹っかける