検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 牧南 恭子 向日葵

    夏よ、あなたを抱きしめるため、 わたしはできるだけ大きくなろうとする きょうも大勢のひとびとが、この美術館にやってくる。 ひまわりの絵を見るためだ。いちど見たら、どんな人でもけっして忘れられない鮮烈な印象をもった絵である。 ひとびととはちがった理由で、わたしも一日にいちどはこの絵を見にくるのだ。わたしがこの美術館の館長をしているからではなく、ほんとは、この絵がわたしの娘によって描かれたものだからだ。もっと正確にいうと、からだの不自由な娘が、ある男の手をかりて描いたものと

  • 小説 牧野 信一 西瓜喰ふ人

    滝が仕事を口にしはじめて、余等の交際に少なからぬ変化が現れて以来、思へば最早大分の月日が経つてゐる。それは、未だ余等が毎日海へ通つてゐた頃からではないか! それが、既に蜜柑の盛り季(どき)になつてゐるではないか! 村人の最も忙しい収穫時(とりいれどき)である。静かな日には早朝から夕暮れまで、彼方の丘、此方の畑で立働いてゐる人々の唄声に交つて鋏の音が此処に居てもはつきり聞える。

  • 小説 牧野 信一 父を売る子

    彼は、自分の父親を取りいれた短篇小説を続けて二つ書いた。或る事情で、或日彼は父と口論した。その口論の余勢と余憤とで、彼はそれまで思ひ惑うてゐたところの父を取り入れた第一の短篇を書いたのだ。その小説が偶然、父の眼に触れた。父親は憤怒のあまり、 「もう一生彼奴(あいつ)とは口を利かない。──俺が死ぬ時は、病院で他人の看護で死ぬ。」と顔を赤くして怒鳴(どな)つたさうだ。だから彼は、そ

  • 小説 堀 辰雄 ふるさとびと  ―或素描―

    一 おえふがまだ二十(はたち)かそこいらで、もう夫と別居し、幼児をひとりかかへて、生みの親たちと一しよに住むことになつた分去(わかさ)れの村は、その頃、みるかげもない寒村になつてゐた。 浅間根腰の宿場の一つと

  • 小説 堀 辰雄 ルウベンスの偽画

    それは漆黒(しっこく)の自動車であつた。 その自動車が軽井沢ステエションの表口まで来て停まると、中から一人のドイツ人らしい娘を降した。 彼はそれがあんまり美しい車だつたのでタクシイではあるまいと思つたが、娘がおりるとき何か運転手にちらと渡すのを見たので、彼は黄いろい帽子をかぶつた娘とすれちがひながら、自動車の方へ歩いて行つた。 「町へ行つてくれたまへ」 彼はその自動車の中へはひつた。はひつて見ると内部は真白だつた。そして

  • ノンフィクション 堀 武昭 世界マグロ摩擦!(抄)

    南太平洋の島々にて ――海とマグロとアイランダーズ フィジーにて 南太平洋島嶼(とうしょ)国が一国で大学を運営するのは財政的にも負担が大きい。そこで南太平洋フォーラムのメンバー国が集まってそれぞれ基金を設定し、この全地域を統括する総合大学が誕生した。一九九三年七月、私はフィジー共和国で一週間にわたって開催される南太平洋民族科学会議に出席することになった。フ

  • 評論・研究 堀上 謙 能狂言私観

    狂言の話芸性 「話芸」というのは、大ざっぱな言いかたをすると、口舌の芸すなわち〈話の芸〉のことである。つまり、落語、講談、浪花節などのように、〈話す〉、〈読む〉、〈語る〉といった技法で表現する芸が、一応、話芸というジャンルでくくれるわけだ。それを、さらに漫談、漫才、活弁、古くは節談説教から、隣接する〈語り物〉の平曲、浄瑠璃のたぐいにまでひろげることもできるわけである。 最近、「話芸」ということ

  • 堀内 みちこ さみしがりやの思い出小箱

    朝陽の映画館 月の光をもっと欲しいよ 海面に三角小波が背のびしている 満月の海ぞいの道をバイクで飛ばしている私から 悲しいことかなしいことカナシイコトが はがれ吹き飛ばされ私は天使 これで おさらばだ 悲しいことの全部と 満月色の海上を疾走したいとハンドルを切った バイクはガードレール飛び越し海に突っ込み海底で 眠ってしまった 翼をもがれて陸へ上がった私に <

  • 堀内 みちこ 小鳥さえ止まりに来ない

    目次 水蜜桃 死んだふりして 時代は変わる オレンジの花の香り 少年の日 腕時計 少女時代 月光のオートバイ 小鳥さ

  • 評論・研究 本間 久雄 人生派の批評と藝術派の批評

    一 文藝批評の標準又は態度といふことが、事新しく最近文壇の一つの問題となつたが、この問題の解決は、要するに人生派の批評と藝術派の批評との是非論に外ならない。今更いふまでもなく文藝批評の標準を、鑑賞家乃至批評家の主観以外の外的な境地に求めるやうなフォーマリズムの批評は、今日ではすでに跡を絶つた。「人は皆自己を標準として万事を判断する。人は自己の外に何等の標準をも持たない。」と云つ

  • 小説 夢野 久作 悪魔祈祷書

    いらっしゃいまし。お珍しい雨で御座いますナアどうも……こうダシヌケに降り出されちゃ敵(かな)いません。 いつも御贔屓(ひいき)になりまして……ま……おかけ下さいまし。一服お付けなすって……ハハア。傘をお持ちにならなかった。ヘヘ、どうぞ御ゆっくり……そのうち明るくなりましょう。 どうもコンナにお涼しくなりましてから、雷鳴入

  • 小説 木下 径子 雪の夜

    雪の夜 救急車のサイレンが聞こえてくる。硝子戸の外には雪が降っていた。 深夜に出動した救急車は次第に住宅地に近づいてきた。まるで、静かに降り積もった雪を大きな身振りで蹴散らさんばかりの勢いである。 この冷え込んだ夜に近所に急病人が出たのだろうか。まさか祭りのときのようなはしゃぐ気持ちを各家に告げながら、サイレンをばらまいているのではないだろう。住民の深い眠りを妨げる。 サイレンが少

  • 小説 木下 尚江 火の柱(抄)

    (十四 承前) と篠田はお花を奨(はげ)ましつ「誠(まこと)に世の中は不幸なる人の集合(あつまり)と云うても差支(さしつかへ<

  • 木下 杢太郎 食後の唄(抄)

    金粉酒 Eau-de-vie de Dantzick (オオ ド ヰイ ド ダンチック) 黄金(こがね)浮く酒、 おお五月(ごぐわつ)</

  • 木全 功子 座り直す

    目次 座り直す 闇のむこう めぐる 息を詰める 耳鳴り 来世など信じない 花びら 古い新聞 魂よ

  • 評論・研究 木村 亨 横浜事件の真相 再審裁判へのたたかい(抄)

    目次 降伏放送直後の細川レポート 敗戦直後の裁判所側のうろたえざま 事件のでっち上げは誰の謀略か 出獄直後の体調を整える ぼた餅のたべ方を知らない日本人 笹下会の結成と共同告発 <a href="#C7

  • 小説 木村 曙 操(みさを)くらべ

    春 心ありて風のにほはす梅のそのまづ鶯の問はずやあるべき 香り来る、花のたよりに皆人の、はるばると問ふ梅の園、いづれおとらぬにぎはひに、人の心も興ずめり、茲(こゝ)ハ都に程近き、亀井戸村に其名さへ、老松(おいまつ)と聴(

  • 随筆・エッセイ 木村 徳三 文芸編集者 その跫音(抄)

    改造社解散前後 昭和十年代が、日本の近代文学史上、際立って多彩な収穫期だとするのが定説になっているが、それは太平洋戦争の勃発によって終止符を打たれたといってよい。端的なあらわれは、その年の夏、東京新聞に連載中の徳田秋声氏の「縮図」が当局の圧力によって掲載中止させられたことであった。 時勢はそこまできているのかという感が私たちの胸に痛烈にきた。『文藝』にあっても、昭和十四年に高見順氏の「如何なる星の下に」、十五年の中野重治氏の「空想家とシナリオ」の連載以後は、これという佳品は得られなかった。表現の自由を奪われた文学者の大半は沈黙せざるを得ず、しか

  • 小説 木村 良夫 嵐に抗して<昭和5年(1930)発表>

    工場から帰つて見ると置き手紙があつた。筆跡は同居人の吉村である。 「僕の帰る迄待つて居てくれたまえ」と、吉村は私が今夜九時迄に工場分会に集会が在るので、出席しなければならない事は知つて居る筈だつた。それなのに、私が工場から帰るのを待たずに、置手紙をして行つたのには、分会に対する特別の問題があるのか、又は分会の集会よりもつと重大な仕事が出来たのか、何(いず)れかだつた。七時が過ぎ八時が過ぎても吉村は帰らなかつた。分会では私の行くのを待つて居るだろうと思うが、吉村はそれを承知の

  • 木島 始 日本共和国初代大統領への手紙

    大統領よ ぼくらの大統領よ おくらせてもらおう すぐ消(き)えるようでいて消(け)せない手紙を きみに 夢の絵文字になって現われるようにとの 真夜中の手紙を 心が植えた真昼の手紙を 光をあてれば雲と散る夢もあれば 謎ときの光