検索結果 全1004作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 池谷 信三郎

    一 人と別れた瞳のやうに、水を含んだ灰色の空を、大きく環(わ)を描き乍(なが)ら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩してゐた。煙が低く空を這つて、生活の流れの上に溶けてゐた。 <rb

  • 池田 克己 原始(抄)

    《目次》 地 理手 首豚の邊(ほとり)東京(第六番)

  • 池田 實 寓話

    時間の淵に 今世紀の地平線の夕映えの向こうに 不安に痙攣する鈍色の空が見える いつか人生の傲慢と交換される死があって 未来はいつも日常に危うい時間を刻んでいる この春肉親が死んで 身近に揺れている死者の影 僕の余命の期待値も不気味に点滅している 重ねられた時代の荒野の背景に 大砲は錆びて冷えた仰角を整列させ 絶望を引きずった兵士らの重い足音が 時代を超え

  • 池田 實 続・寓話

    鳩は翔んだか 「事物と言葉は同じ傷口から血を流す」と 語った詩人は詩の祭壇に祀られて苦笑しているだろう 大鳥居の中だけが白昼の闇に輝くその日 神道の細道に人形祓いの神官は小走り 神殿に柏手を打つモーニングの紳士ら 菊の紋章の神殿に 舞台は戦中に暗転する 境内にヒョットコとオカメが群れて集まり 日の丸の小旗を振り “ウミユカバミズク

  • 随筆・エッセイ 池島 信平 狩り立てられた編集者

    横浜事件の影 昭和二十年三月十日の空襲は壊滅的で、わたくしの当時住んでいた本郷の家も、そのために焼けた。わたくしは家がないため、すぐ雑司ガ谷の菊池寛氏の家に転げ込み、そこで応召するまでの二ヵ月間、居候(いそうろう)した。 或る日、用事があって本郷へ行き、たまたま焼跡のあたりを通りかかると、本郷三丁目のほうから渡辺潔君が来るのに出遇った。渡辺君は当時、『日本評論』の編集部員であった。 <

  • 小説 竹西 寛子 兵隊宿

    ひさし少年は、馬の絵をかいている。 三頭の軍馬が、並んで駆けて行く姿を真横からかいている。 日曜日なのに、父親は工場から迎えの人が来て、つい先程、朝食が終ると早々に出かけて行った。出かける前に、これが今日の分だよ、と言って、四つ切の画用紙を一枚ひさしに渡した。 勉強部屋は、日々草が咲く裏庭に面しているので、母親と住み込みの小母さんが洗濯物を干しながら話しているのがみんな聞えてくる。この家の物干場は、ひさしの部屋からは見えないところにあるのだが、今日は、そこが客蒲団や敷布類でふさがってしまったため、母親と小母さんは、裏庭の樫の木を利用

  • 竹村 浩 高原を行く(抄)

    目次狂児と女性(一、血で描いた出発の図)道徳家鈍な娘岡谷景物 狂児と女性(一、血で描いた出発の図) 私は腐蝕した鉄の歯車 がりがり人生を噛み 青赤の錆水の中に苦悩して 乱

  • 随筆・エッセイ 竹田 真砂子 言葉の華  ――耳に残るセリフ――

    つらね 「太初(はじめ)に言(ことば)あり」 新約聖書ヨハネ伝はこの一節から始まる。 さらには「これに命あり、この命はひとの光なりき」とも。 その言葉が、日本では最近はとみに乱れてきたといわれる。もちろん人間が置かれた環境によって言葉が変化するのはいたし方のないことで、

  • 竹内 浩三 骨のうたう(抄)

    目次骨のうたうぼくもいくさに征くのだけれど演習一演習二望郷 骨のうたう 戦死やあわれ 兵隊の死ぬるや あわれ 遠い他国で ひょん

  • 竹内 勝太郎 黒豹

    あいつは随分年老(としと)つてゐるらしい、 全身そそけ立つた毛がザラザラしてゐる、 濃灰色のなかには斑点がくつきり黒い、 平野の奥に身を潜(ひそ)めて鋭い息を燃(もや)してゐる。 あいつの眼、あいつの牙、あいつの爪、

  • 中井 ひさ子 動物記

    ビルのかげで 西新宿の角を二つ曲がると ビルのかげで ペンギンたちが おしくらまんじゅうをしていた 薄い日差しの中 押されてみたかったから そっと かがみこんで 仲間に入った ペンギンの背中が 叙情的だなんて 知らなかった 時々 嘴があたると 私の背中の

  • 評論・研究 中井 正一 現代美学の危機と映画理論

    1 個人主義文化が、封建主義文化を引きはなすために、たたかった歴史の跡は決して容易なものではなかった。幾千の人が火であぶられ、幾万の人が鎖でつながれたかわからない。一六〇〇年代は、大きなそのたたかいの記念すべき世紀であった。一九〇〇年代もまた、今後の歴史家がその研究の対象とするであろうと思われる記念すべき世紀となるであろう。今や、個人主義文化そのものがその危機に臨んでいる。私たちは、その大いなる世紀のまさにただなかに立っている。 封建主義的文化においては、一つの特徴がある。すなわち地上的なるものは天上的なるものから造られたるもの(<span c

  • 中原 中也 中原中也詩選

    春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい 馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい ただただ月の光のヌメランとする

  • 中原 中也 盲目の秋

    I 風が立ち、浪が騒ぎ、 無限の前に腕を振る。 その間(かん)、小さな紅(くれなゐ)の花が見えはするが、 それもやがては潰れてしまふ。 風が立ち、浪が騒ぎ、 無限のまへに腕を振る。 もう永

  • 小説 中戸川 吉二 イボタの蟲

    無理に呼び起された不快から、反抗的に、一寸の間(ま)目を見開いて睨むやうに兄の顔を見あげたが、直ぐ又ぐたりとして、ヅキンヅキンと痛むコメカミ(=難漢字使用)を枕へあてた。私は、腹が立つてならなかつたのだ。目は閉ぢはしてゐても。枕許(まくらもと)に立つてゐて自分を監視してゐるであらう兄の口から、安逸を貪ることを許さないと云ふ風な、烈しい言葉が、今にも迸(</

  • 評論・研究 中江 兆民 君民共治之説

    政体の名称数種あり、曰(いは)く立憲、曰く専制、曰く立君、曰く共和なり。其事実に就て之を校するときは立憲にして専制なるあり、共和にして立君なるあり、共和未だ必ずしも民政ならずして立君も亦た未だ必ずしも民政ならずんばあらず。今や海内(かいだい)の士皆政治の学に熱心し政体の是非得失を講ぜざる者なし、然(しか)</r

  • 小説 中山 義秀

    一 斑石高範(まだらいしたかのり)と茂次郎(しげじろう)の兄弟は、小さい時分から反(そ)りがあわなかった。高範はねちねちした気質であるのに、弟は無類のせっかち者である。 「兄さん、どっかへ遊びに行こう」 茂次郎が子供心に

  • 小説 中山 孝太郎 藪を這う

    食べるものもことを欠き、急激に私の状態が悪化した。 いつの間にか私は何年もあちこちをほっつき回っていた様だ。 私は、歓楽街が懐かしくて、再々そこに行っては、色々な所をよくさまよっていた。知り合いのママが見ても私と気づくものはもう既にいないだろう。髪や髭がぼうぼうで貧しい生活をしていた。寝る所は、不動産屋時代に見つけていた山の麓の谷間にある三坪ばかりの小屋であった。人が出入りする所とは違い、田畑が荒れて藪になっていた。意外とこの附近は季節の変化に関係なく温暖なので、長い間住んでいると居心地がよくなっていた。歓楽街と山を行き来し、残飯をあさっては小屋に持

  • 評論・研究 中西 進 海の彼方 漂泊─日本的心性の始原(抄)

    不可知の彼方 スサノオ神話の根底には、根源なるものの国土への視野があった。万物に生命を与えて考えれば、それは万物の生命の〈根〉の世界への神話的想像でもあった。この世界は、それなりに具体的にどこに存在するという点についてあいまいである。例のイザナミの赴いた死の国が、地下をもって印象づける点からいうと、スサノオの「根の国」も地下に想定ができるけれども、しかし鳴鏑の矢を放った荒野などを、統一的にイメージすることはむつかしい。やはり、位置すらを捨象した抽

  • 中川 肇 花のゆめ いのちの像

    雨あがる 雨があがって やがて お日さまが顔を出す これこそ 至高のマンネリズム 望まないヒトはいない 蛇 行 生まれてから 海に着くまで 一直線 という川はない 川は みんな 精いっぱい道草をして ゆっくりと海に向かう まだ空を飛ぶ</