検索結果 全1055作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 水樹 涼子 紫の記憶

    「あなたのオーラは紫、いや、もっと青みがかった、そう、青紫ですね」 突然、隣の席の男にこう言われた。 「えっ?」 「一般的に、よく着る服の色と、その人の持つオーラの色は一致しやすいと言われています。あなたのオーラは、青紫でしょうね」 確かに私はその日、濃いロイヤルブルーのサマーセーターを身に付けていた。しかしだからといって突然、名も知らない男からオーラの色云々などと指摘されようとは、思いもよらぬことだった。 「あの……?」 困惑したまま口ごもると、 「あっ、これは失礼。つ

  • 随筆・エッセイ 水樹 涼子 とちぎ綾織り(抄) 〜下野の歴史と伝説を訪ねて〜

    目次 大谷にて(神に出会う異界の入り口)思川――上流編(残る伝説に思い馳せ)聖地・日光〈一〉(開山挑戦三度目の謎) 大谷にて(神に出会う異界の入り口) この秋、久しぶりに宇都宮市の大谷を訪れた。 幼

  • 小説 水上 瀧太郎 山の手の子

    お屋敷の子と生れた悲哀(かなしみ)を、泌み々々と知り初(そ)めたのは何時(いつ)からであつたらう。 一日(ひとひ)一日と限り無き喜悦(

  • 水野 るり子 星の間で

    カモメ カモメは河口にいる 蛇行する川のしるしが 海岸線に断ち切られ ふいに消える場所 カモメはその河口の上を飛びかいながら 海の裏側でたえず生まれてくる 小魚の群れを見張っている カモメを知りたいときには 河口に行かなくてはならない だがカモメの方法や川の方向 <

  • 小説 杉本 苑子 今昔物語ふぁんたじあ(抄)

    怪 力 1 「あぶないッ、逃げろッ」 「突かれるぞッ」 とつぜん、わきおこった大声に、『腹くじり』の春王は、おどろいてうしろをふりかえった。 暴れ牛だ。 荷はこび用の、真っ黒な大牛が、なにを怒ったか、背に青竹の束を山なりに積んだまま、ひきちぎった手綱をひきずりひきずり、街道をまっしぐらに狂奔してくる。 「とめてくれえ、……だれか、おさえてくれえ」 牛飼いであろう、わめきながら追ってくる

  • 小説 杉本 利男 錆びた十字架

    (1) 北品川の工場地帯に住宅街が割り込んでいる地域がある。山の手側は外国大公使館の厳めしい建物が、濁った青空を背に広がっている。線路一つの隔たりが、石垣の色や庭木の育ちまでも違わせている。 木造二階建ての古いアパートに土井一家が越して来たのは、花曇りの日であった。主人の芳雄は四十過ぎで、いかにも意志強固と見えて、いつも歯を食いしばっている。そのせいか <

  • 小説 杉本 利男 暮れ烏(がらす)

    (1) 辺りが白み始める頃、鈴木千代乃は裏の畑へ出て行った。千代乃の畑には茄子、隠元豆、ピーマンやトウモロコシなどが栽培されている。彼女の畑の隣には、ビニールの温室が工場のように広がっている。夏になった今は廃屋の惨めさを曝すように、ビニールがだらしなく垂れ下がり、骨組のビニールパイプをむき出しにしている。実を取られた茄子の枯れ茎などが林立している。 千代乃の畑では昔ながらのやり方で、野菜などが作られている。六十七、八歳になる彼女は、息子夫婦が手入れもせずに放置しておく五畝ほどの畑を、一人で切り回している。

  • 小説 杉本 利男 うぶげの小鳥

    きりさめかかるからまつの もえぎのめだちついばむか うぶげのことりねもほそく みしらぬはるをみてなけり —北原白秋— (1) 台東区の一角に寺の多い区域がある。近隣の人々は昔から、その辺りを寺町と呼んでいる。上野隆の育った浄福湯も寺町の中にあった。 浄福湯の斜め前に小料理屋「清川」がある。清川には上野隆とおない年の斎藤清子がいた。隆と清子は幼稚園の頃から、お互いの家に行ったり来たりし

  • 小説 菅 忠雄 銅鑼

    庭の芝生には陽が隈なく照つて、鳩がおりてゐる。秋の日射は日中(ひなか)は未だ暑い。 食堂では三時の喫茶が始まつた。子供の声と茶器の音――それは庭の端からでも聴える。廿歳(はたち)の長男を頭(かしら)に八人の子供は少し多過ぎる。此家の主人――吉田は時折さう思ふ。然し有難い事には、皆

  • 評論・研究 正岡 子規 萬葉集巻十六

    萬葉集は歌集の王なり。其歌の真摯に且つ高古なるは其特色にして、到底古今集以下の無趣味無趣向なる歌と比すべくもあらず。萬葉中の平凡なる歌といへども之を他の歌集に挿(さしはさ)めば自(おのづか)ら品格高くして光彩を発するを見る。しかも此集今に至りて千年、未だ曾(かつ)て一人の之</

  • 評論・研究 清原 康正 歴史小説の人生ノート(抄)

    目次 大佛次郎「赤穂浪士」……堀田隼人 黒岩重吾「天風の彩王」……藤原不比等 杉本苑子「弧愁の岸」……平田靱負正輔 吉村昭「大国屋光太夫」……大国屋光太夫 社会の壁に抗する虚無 大佛次郎『赤穂浪士』…堀

  • 小説 清水 紫琴 したゆく水

    第一回 本郷西片町(にしかたまち)の何番地とやらむ。同じやうなる生垣(いけがき)建続(たてつづ)きたる中に、別(わけ)ても眼立つ一構(</

  • 随筆・エッセイ 清水 達夫 二人で一人の物語(抄)

    『平凡』創刊号 久しぶりに、ほんとうに久しぶりに、私は作家の龍胆寺雄氏と再会した。つい先日の、九月一〇日(昭和五十八年)のことである。中央林間に住むこの老作家は八二歳という齢にもかかわらず矍鑠(かくしゃく)と元気であった。むしろ老作家という言葉が似つかわしくなく、壮年作家のように意気軒昂としていた。頭髪はすっかり白髪だが、若いころからの童顔をそのままに、血色

  • 評論・研究 西 周 百一新論 巻之上(抄)

    或(アルヒト)曰ク、先生ニハ平素ヨリ百教一致ト云フ説ヲ御主張ナサルト承リマシタガ実(マコト)ニ左様デゴザルカ 先生対(コタヘ)テ曰(イハク)、

  • 小説 西垣 通 N氏宅にて・・ルイス・キャロルと思考機械

    (登場する二人のチャールズのうち、チャールズ・ドジソンは『不思議の国のアリス』の作者として知られるルイス・キャロル、チャールズ・バベッジはコンピュータの前身「解析エンジン」の開発者である。) わたしがイーストハムにあるN氏の古い家を尋ね当てたのは、一八八五年秋、ある日の夕暮れのことだった。ドアをノックすると中から妙に印象の薄い中年女が出てきて、ちょうど主人は戻ったところだと言い、中へ招き入れた。まるでこちらの訪問を待っていたようなごく当り前の様子に、わたしは少し拍子抜けがして、とはいうものの警

  • 評論・研究 西垣 通 機械との恋に死す

    1 暗号としての死 「一九五四年、六月八日、アランがベッドの中で死んでいるのを家政婦が発見しました。死因は青酸カリであり、事故はおそらく六月七日の夜におきたと思われます。検視の係官は、毒薬は彼自身が服用したと判断しましたが、不審な点がありました。彼の寝室からは、毒物が何も発見されなかったのです。ベッドのかたわらには、半分食べ残しのリンゴがありましたが、彼は夜、リンゴを食べる習慣だったのです。 銀行にかなりの預金が残っていたので、アランが財政的に悩んでいたとは思えません。名声もつとに高まり、気力も絶頂でしたし、形態発生学に夢中になって

  • 西垣 脩 霧ぬれの歌

    霧ぬれの歌 山女魚(やまめ) 岩魚(いはな)を 籠(こ)に満たし 温泉(ゆ)の宿に売りに

  • 評論・研究 西谷 能雄 編集者とは何か

    はじめに 労働力不足や偏在が叫ばれてから既に久しい。出版界といえども例外ではなく、とくに取次、小売店の流通面における労働力不足は出版界にいろいろの問題を投げかけている。とくに過剰返品のロスにまつわり流通形態の選択の問題が大きく提起されてきていることはその最大なるものである。労働力にこと欠かなかった版元においてすらも、編集希望者こそ今もあとをたたないが、営業部門の志願者はやはり少ない。編集優位の思想がここにも現われていると見ることができる。編集者とはそれほど魅力あるものなのかとの疑問は率直にいって私には残る。知的産

  • 小説 西木 正明 寝袋の子守歌

    一 秋葉原で下車し、電気屋が軒(のき)をならべる駅頭へ歩み出ると、額(ひたい)に冷たい物が当った。日暮までにはまだ間があるのに、各ビルの屋上や側壁に取付けられたネオンサインは、早くも原色の光を周囲に放射しはじめている。それがやけにちらついて見えると思ったら、雪が舞っているのだった。 わたしはレインコートの襟</

  • 評論・研究 青井 史 与謝野鉄幹の三つの壁

    1 壁とは 与謝野鉄幹を主宰とする「明星」が創刊されたのは一九〇〇年(明33)四月だった。その「明星」は一九○八年(明41)十一月、一〇〇号をもって終刊されるまでのおよそ八年間、ロマンチシズムを掲げ、御歌所派と言われた旧派和歌に対峙しつつ短歌革新に力を尽くした。この斬新な文学運動により、江戸時代以降の近世和歌に新風を吹き込んだのだった。わずか八年ばかりで、三〇〇年近い歳月の中で停滞していった和歌を刷新するために「明星」が果した役割は大きい。 もっとも「明星」はこの一〇〇号で一旦終