検索結果 全1055作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 随筆・エッセイ 伊藤 飛鳥 ガリラヤのカナ(抄) 初出年: 2011年

    第一章 カナで何が起こったか ヨハネ福音書の特異性 ヨハネ福音書は、他のマタイ・マルコ・ルカ各福音書にはない独特のリズムに揺動している。 ヨハネ福音書以外のマタイ・マルコ・ルカ各福音書は共観福音書と呼ばれるが、ヨハネ福音書はそれらとは一線を画したものとされる。 ヨハネ福音書はその思想性・霊性において、共観福音書をしのいでいる。 それはまず、あまりに有名な冒頭から開示される。 「初めに

  • 短歌 岩田 亨 歌集『オリオンの剣』(抄) 初出年: 2011年

    オリオンは剣(つるぎ)を持つや寒々と冬の夜空の漆黒ふかく   地層断面 おだやかに星を見上げることもなくただ一心にキーボード叩く みずからを咎むべきことある夜は顔を洗えり幾度となく 埋み火のごとき心よ日曜に日すがら読めり北欧神話 ひたむきに海を見ていた少年期青の深きは忘れ難しも

  • 綾部 健二 プラネット・アースの旗の下に 初出年: 2010年

    たとえば 古代ギリシャの彫塑であるなら 顔を欠き 腕を欠いても その背後に隠れている何かを ある時は眼 ある時は耳 ある時は心で 視ることもできるだろう   だが 21世紀のいま おそらく この水の惑星は 引き返すことのできない変貌の途上にある それで ぼくたちは眼を閉じるのだ 両手をひろげて立ちすくむのだ &nbsp

  • 橋爪 文 少 年 初出年: 2010年

    ここから広島の郊外 夏草の残る練兵場 午前八時十五分 少年はこんなに朝早くから 昆虫でも探しにやってきたのだろうか 突然 一条の閃光が少年を貫いた 彼は一本の火柱となった 一瞬 炭素と化した少年は 焦土に大の字に横たわり 空洞の眼を大きく見開いて 天を睨んだ 空洞の口を大きく開いて天に叫んだ 母を呼んだか 兄弟を 友を呼んだか 痛みの叫びか 一本の歯も

  • 小説 水樹 涼子 ほたるの恋 初出年: 2010年

    第一章 蛍 火 ひとすじの川がある。 誰が名付けたかは知らぬが「思いの川」と呼ばれ、その名の通り多くの人々の思いを抱きながら流れている。 その川の畔に、かつて一軒の家があった。小夜子(さやこ)と日向子(ひなこ)の姉妹が生まれ育った家である。川が大きく曲がって淵になっ

  • 船木 倶子 哀しみなどというものは 初出年: 2010年

    哀しみはないのだ 哀しみなどというものは いま 終の間際にあろうとも すっかりの骸に もう野晒しが似あうとしても そのときそれまでの生が はたして生などあったのか もはや憶い出せなどしなくとも &nbsp; そうでなければあのように 吹いてはゆけない 風はすぎる 立ちどまる哀しみなどなくあのように 風はすぎる &nbsp;</p

  • 評論・研究 大原 雄 全身芸術家・高村光太郎の実像 初出年: 2010年

    今回の講演では、「全身芸術家・高村光太郎の実像」という演題で、お話をしたいと思っていますが、私は、ジャーナリストとして活動しているので、詩人でも、研究者でもない。ひとりの市井の読者として対応しているから、高村光太郎について、例えば、詩人として詩作体験を踏まえて何かを語る訳でも、評論家や研究者として、人物論を語る訳でもないということを予めご承知置き願いたい。私の話のポイントは、全身芸術家という聞き慣れないことばにあると思っていますので、このキーワードが、でてきたところは、注意して聞いて下さるとありがたいです。 &nbsp; <

  • 堀内 みちこ 世界でたった一羽の青い大きな鳥 初出年: 2010年

    空が青い大きな鳥でなくて良かった 碧い大きな鳥だとしたら 飛び去っている こんなに汚れた地球を捨てて &nbsp; キッチンで食器を洗う 良い香りの洗剤で 輝く白い皿 グラス 銀色のスプーン 汚れよさようなら 美しい食器たちでワタシは満足 &nbsp; 皿からグラスからスプーンから離れた汚れたちは 水と旅をしている <

  • 高崎 乃理子 時の声が聞こえてくる(抄) 初出年: 2010年

    たんぽぽよ たんぽぽの花が 野原を うめつくす 線路は春にうもれて この風景を 越え あの日に つながっていく たんぽぽよ もう帰れない あの春の日にも 咲いていたね はじめてのわかれ 指切りをした ふたりの足もとで 咲いていたね

  • 福地 順一 津軽・抄 初出年: 2010年

    鬼灯(ホズギ) 倉の白壁(スロカベ)サ 秋陽(シ)コ照(アダ)てだ 軒下

  • 随筆・エッセイ 碓井美樹 BASIC & FUN 初出年: 2010年

    キッチングッズ、器から、文房具、バック、コスメまで MIKI USUIの雑貨ライフ はじめに 職業柄、モノはたくさん持っているほうだと思います。買い集めているというよりは、モノとの出会いが多いので、結局、手に入れる機会が多くなるのでしょう。この本を執筆するにあたって、何をとりあげようかとかなり迷いました。2008年6月末から、ここサンフランシスコで暮らしているのですが、東京の家に残してき

  • 秋田 高敏 紺青色の便箋紙 初出年: 2010年

    珊瑚礁の海から便りが届いた 自由奔放な雲に託されて &nbsp; あれからあの島も 人間が住めなくなりました 椰子茂る孤島になりました もう 爆弾も落ちて来ませんが 敵味方の屍が寄り添いながら 静かに眠っています 波が一日中子守歌を歌っています &nbsp; 戦争は もう起きないでしょうね 近

  • 網谷 厚子 アンモナイトの夢 初出年: 2010年

    人工衛星の破片が 降りしきる 生まれたままのすがたで あたしたちは 濡れて歩いた ここちよい冷気が やわらかに吹きつける ときに からみあい せめぎあって すくい上げる仕草で 果てると きらきらした舗装道路は 腔腸動物となって ぬめぬめと切なく波うつ 散るのは 花ばかりではない 衛星も あたしたちも 同じ

  • 青柳 暁美 誰のもの 初出年: 2010年

    地球はただ1つ 太陽が悲しみ 月が悲しみ 地球が悲しむ 五つの大陸は 誰のもの 人類は地球にいる 大陸の気候風土にあった 海や花や鳥 草や木 山や川 けだものや魚が住み 風の吹くままに地球が動く 人類にたえまなく生命の源を応援しながら なのに地球が病気 だから人類も病気 地球の全部をひとりじめにしないで 分けあえば 太陽が笑い 月が笑い

  • 有馬 敲 広島のクスノキ 初出年: 2010年

    目立たない一本のクスノキになって ぼくは平和記念公園の片隅に立っている ケータイを耳にあてて話す娘 デジカメをビルの残骸にむけて構える若い男 キャリーバックを引きずっていく老夫婦 その他大勢の見物客の雑音のうしろで ぼくは静かに呼吸している &nbsp; みじめに戦争に敗れたとき ぼくははじめて元安川の右岸に立った 放射能は草も木も生やさないのか 満干する潮の流れを見つめ </p

  • 朝倉 勇 木はさよならを 初出年: 2010年

    木は さよならをいわない くりかえしを生と知るこんにちはだけを 不動のままで季節ごとに示してきた 鳥は 切ないほどに木の気持がわかって そこに自分の命を賭けようと思うのだ &nbsp; 木が冬の風のなかで 一本一本のほそい枝先までさらすとき 鳥は自分がつくった巣の造形までも すっかり見られてしまうことに羞恥をおぼえる あれでよかったのだろうか (見られてしまう日のあることなど考え

  • 安宅 夏夫 漁夫とその家族 初出年: 2010年

    シャバンヌ『貧しき漁夫』に &nbsp; 夕暮 私たちは道に迷ってしまった 泣いている幼い兄妹のように 海と湖の間にある砂丘の中で。 砂丘を覆う防砂林は奥深く拡がっているので 海鳴りはあちらからもこちらからも 聞こえてくるように思われた &nbsp; 私たちがここに来るとき 通り過ぎた湖水の岸辺に 四つ手網をあやつって わずかな小魚を獲っている た

  • 原田 道子 愛シテイル 初出年: 2010年

    触れあおうとする指先があつくなろうとしている いるはずだが このところずっと手をつないでいないからね &nbsp; だから だからなかなかうまく笑えない とてもとおおぅい とおおうすぎる「太陽」と「月」は &nbsp; 億年の未来から眼をさらのようにしているはずなのに 喃語は なおのこと奪っていないはずなのに &nbsp; ふかふかのまみど

  • 日原 正彦 木の人 初出年: 2010年

    心のやさしい人は 木から生まれたのである &nbsp; おはよう と言って彼が去ったあと 両耳のまわりで 何だか さえずりみたいなものがくすぐったりする &nbsp; 彼が立っているのを遠くから見ていると 空ってこんなに満ちあふれているのかと思ったりする もっと立っていると 雲のひそひそ話が聞こえたりすることもあるけれど <p class="sepa

  • 平野 秀哉 水について 初出年: 2010年

    器から零れた 水は 初めて自由―を知った そして 自分には形姿のないことも識った 透明なおのれが何故か悲しかった &nbsp; 水が湧く 水は繋ぐ 水は流れる こんこんと さらさらと とうとうと 苗を育て魚たちをはぐくみ大地を潤おした 水は得意になって歌った &nbsp; 某月某日 雨が降った 雨は降り続いた 岩に沁み込んだ 土