検索結果 全1036作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 橘 かがり 月のない晩に 初出年: 2003年

    私はちっぽけなおんぼろ船の中で膝(ひざ)をかかえてうずくまっている。とても狭い所に人がぎゅうぎゅうつめこまれていて、重くて沈んでしまわないかと心配になるほどだ。暗がりの中でだんだんにまわりが見えるようになってくる。鼻の下から顎(あご)まで髭をはやしている目つきばかり鋭い男。小さな男の子を連れた若い母親。隅のほうに釣り竿が何本も低い天井に届きそうに並んでいて、そこには年嵩</

  • 随筆・エッセイ 塚田 三千代 『ゴスフォード・パーク』の30人の登場人物たち ──女性たちのセリフが冴えて響く 初出年: 2002年

    『ゴスフォード・パーク』(2001年製作)はロバート・バーナード・アルトマン監督の映画である。集団劇あるいはアンサンブル劇とか、「グランド・ホテル」形式とかいわれるだけあって、30人以上の人物が登場するので人物の顔と名前を一致させるだけでも骨がおれる。この映画の世界は1932年のイギリス貴族と召使の階上と階下に二分された大邸宅――そこで真夜中の殺人事件が起き、犯人はだれか、となる。ところが、アルトマン監督はこれを重視しない。サスペンスの真相解明には無関心である。監督の関心はむしろ階下の人々の噂話で物語をどのように進めていくかにある。関心事は登場人物の多数のアドリブを収録編集し、その会話

  • ノンフィクション 橋爪 文 太陽が落ちた日 初出年: 2001年

    一九四五年(昭和二十年)八月六日、朝、家を出た私は空を見上げた。 いつもと変わらない穏やかに澄んだ広島の青空だった。 先ほどこの空に空襲警報のサイレンが鳴りわたり、すぐに解除になった。誤報だったのだろうか。 庭の杉木立で目覚めたばかりの蝉がチッチッと鳴いている。 今日も暑くなりそうだ。 &nbsp; 私は十四歳、女学校三年生。学徒動員で逓信省(戦後は郵政省と電気通信省、現在は総務省・日本郵政グループなど)の貯金支局に勤務していた。 <p

  • ノンフィクション 橋爪 文 The Day the Sun Fell 初出年: 2001年

    &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; On the morning of August 6, 1945, I stepped out the door and looked up to another serene, blue Hiroshima sky. &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; The air-raid alert earlier that morning had ...

  • 小説 穂高 健一 初出年: 2001年

    首にタオルをかけた大柄な赤松好夫が、病棟の裏手から、廃棄物専用の台車をひいてきた。 作業服の背中は地図を描いたように、汗でぬれて張りついていた。 好夫は三二歳で、眉の濃い角張った特徴のある顔であった。 山麓の広大な敷地には、総合病院の白い棟が三つならぶ。病棟の一角から離れた、もはや背後には雑木林のみという片隅に、好夫がうけもつ焼却炉があった。巨象の体型よりもおおきな炉だった。銀色の煙突は、正門ゲート横の銀杏の大樹と高さを競うほどである。 煙突から青い煙が淡い新緑につつまれた疎林の方角へとなびく。さらなる彼方には三千

  • 随筆・エッセイ 松村 誠 早死せんほうがええで 初出年: 2001年

    現在、日本は世界一の長寿国を誇りつづけており、人生80年時代といわれて久しいにもかかわらず、その80年を全うすることなくこの世を去っている人が多いのが現実です。80歳未満であの世へ往くのはあまりにも早すぎます。まさに早死(はやじに)です。 1999年には、80歳未満死である早死は、55万1,840人で全体の56%にものぼっています。そしてその早死の原因としては、三大生活習慣病である、がん・心臓病・脳卒中、そして肺炎、さらに自殺と不慮の事故が続いています。1999年には、こ

  • 随筆・エッセイ 飯島 治 お年寄りが骨折したら(抄) 初出年: 2000年

    はじめに この本は、一本の電話がきっかけとなってつくられました。 「ちょっと相談があるんだけど……。じつは親が家で転んで骨を折っちゃって、救急車で近くの病院に入院することになって……」 この相談を受けて、私がハッと気づいたことは、骨を折った本人にもまして、家族や知り合いがひじょうに心配して、不安感が強いということでした。 さらに、相談者から、よく話を聞いていくうちに、もうひとつの事実を発見しました。それは、入院のときに医師から説明を受けているものの、本人も家族も突然のことでパニックになってしまい、ほとんど説明を理解

  • 小説 伊神 権太 てまり 初出年: 1999年

    「アキちゃん。アキちゃん、たらあ」 女は口ごもりながら「あの。ほんとにうっかりしてて。スミマセン。アキちゃん、てば。ひと言もいってくれないんだから」とボクに向かって続けた。「女の子が生まれていただなんて。賀状で初めて知りました」。こちらが照れる前に、受話器の向こうの方が、恥ずかしさに声がうわずっている。 &nbsp; 一 能登のその町に在任中、クリスマスイブやバレンタインデー、おひなさまになると決まってボクあてに郵便物で何かを送りつけてくる不思議な女がいた。名を

  • アリジス,オメロ 十三歳の自画像・五十四歳の自画像 初出年: 1998年

    Autorretrato a los 13 años Sobreviviente de mí mismo, el pelo largo, me siento en la silla del peluquero. En un caballete está el espejo, atrás de mí las casas,

  • 評論・研究 保岡 孝顯 戦争と人間-基地周辺の人々 初出年: 1998年

    はじめに すでに一年半まえになるが,筆者は沖縄国際大学・アルスタ一大学,英国北アイルランド紛争解決民族間題研究所合同の企画で開催された「戦争・民族紛争は何をもたらしたか」をテーマとした国際平和学シンポジウム(1996年10月30日-31日,於 沖縄コンベンションセンター)に参加して感動を覚えた。その後97年9月11-13日に開催された日本カトリック正義と平和全国集会の「戦争と人間」の分科会に参加して,沖縄米軍実弾射撃訓練が直前に迫っていた自衛隊王城寺原演習場(宮城県旧陸軍演習場・元進駐軍練兵・野砲地)を金網フェンス越しに見学し,戦後農業開拓者として同地域に入植,強制

  • ノンフィクション 保岡 孝顯 マハトマ・ガンディーとマザー・テレサの道 初出年: 1997年

    ――私が捨てなければならないもの &nbsp; 「私たちに残るものは、人に与えたものだけ」とマザー・テレサはいう。マハトマ・ガンディーとマザー・テレサが若き日に身につけたものは、ことごとく貧しい人々のために捧げられた。 &nbsp; 九月八日、東京のカテドラルを埋め尽くした千五百人もの人々はマザー・テレサを追悼するミサに集い、各々静かな祈りを捧げ、最後の別れを告げた。 不思議と輝いた清らかなマザー・

  • 山口 賀代子 詩集『おいしい水』(抄) 初出年: 1996年

    赤い花 &nbsp; 人たちの寝静まった後 月の光を浴びながら ゆっくりと球根を太らせていく植物群があり 赤い花 黄色い花 紫紺の花 花の盛りを 見ないまま逝く人がいる &nbsp; 赤い花が綺麗なのは 花の下に葬ったものがあるからだと姪が耳もとで囁き わたしはどきっとして幼い少女の顔を見る &nbsp;

  • 小説 穂高 健一 千年杉 初出年: 1995年

    嵐が過ぎたあとの残り雨もやっとあがった。 赤褐色の濁流の甲武川が、木橋である落合橋の底すれすれまで、水かさを増していた。橋の袂では、付近の農家の者たちが総出で、土手沿いに土嚢を積み上げている。靖弘はかれらに労をねぎらう挨拶をしてから、落合橋を渡り、そのさき観音堂、廃墟の鉱泉小屋、地蔵倉を過ぎた。そのあたりから、靖弘はケイタの名を呼びはじめた。繰り返し、その声が山間にこだまする。 天然杉の樹冠をかぶる伊野山を見上げた。白い雲海が山の西斜面にひっかかり、もがきながら登っていく。 伊野山への登山道をかねた林道は、急勾配でぬかるみ、落葉が春

  • 菊田 守 『かなかな』より 初出年: 1994年

    かなかな 空が明るんでくるころ かなかなと鳴いてみる かなかなと何度か練習する あとは黙っている 昼間は暑いのに ジージージーと鳴いている油蟬 オーシツクツクオーシツクツクと鳴く 法師蟬の声を聞いても黙っている みんな黙っている あたりがうす暗くなるころ 朝の調子を思い出して かなかなと

  • 小説 夏目 漱石 趣味の遺伝 初出年: 1994年

    一 陽気の所為(せい)で神も気違になる。「人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救へ」と雲の裡(うち)より叫ぶ声が、逆(さか)しまに日本海を撼<

  • ノンフィクション 保岡 孝顯 祖国に平和はいつ来るのか 初出年: 1994年

    ―アフリカ難民キャンプを訪問して― &nbsp; 一九九四年二月二十一日から三月十四日の約三週間、第七回上智大学アフリカ難民現地調査団が、ケニア、エチオピア、タンザニア、マラウイ、モザンビークを訪れた。一九八三年以来、二年ごとに行われている現地調査である。 本文ではこのうち、ケニア、エチオピアの二カ国の報告をする。 帰還する難民たち 二月二十六日早朝、ナイロビからエチオピアの首都アディスアベバに五年ぶりに入った。一九八三

  • 随筆・エッセイ 川合 継美 風の鳴る北京(抄) 初出年: 1993年

    目次 第1章 父と母、そして中国 両親と横浜 華北へ 通洲事件 父と中国の研究者たち 第2章 懐かしい北京の日々 北京の友人たち 第3章 父の遭難と帰国 憲兵隊事件 日本の敗戦と父の釈放 最後の面会と引き揚げ &nbsp; &nbsp; 第1章 父と母、そして

  • 随筆・エッセイ 櫻井 千恵 『千暮の里から』(抄) 初出年: 1992年

    木は大きなる、よし うちの庭のまん中には、一本の枇杷の巨木がある。褐いろの老いた葉を押しのけるように、新芽が今天をさして一斉に伸び始めた。 うすく透けるその萌葱いろの葉はなんともつややかで、あたりの光景をひときわ明るくしているかに見える。その、驢馬の耳みたいな柔らかな葉を、少し烟ったような四月の空に溶かして、樹は雄々しく立っている。 この樹を植えたとき 「あんたらぁ、庭にこんなもん植えて!」 旧弊な年寄が毎日やってきてこう言った。 庭に枇杷を植えると病人が出た

  • 富永 たか子 詩集『シルクハットをかぶった河童』抄 初出年: 1991年

    &nbsp; 象のサーカス &nbsp; スパンコールのきらきらの数だけ 哀しみを喰べたおまえたち 身売りして来た 故郷のあの村のあの仲間の代表だ &nbsp; ほこらかに鼻をもちあげ 口をほっと開け 細い目で充分に微笑んで 「せーの」の鞭のひと振りで インドの背中にアフリカが

  • 評論・研究 江藤 淳 閉ざされた言語空間―占領軍の検閲と戦後日本(抄) 初出年: 1989年

    第二部アメリカは日本での検閲をいかに実行したか 第一章 昭和二十年(一九四五)九月、逐次占領を開始した米軍の前で、日本人はほとんど異常なほど静まり返っていた。 連合国記者団の第一陣として、東京に乗り込んで来たAP通信社のラッセル・ブラインズは、「全国民が余りにも冷静なのに驚いた」と告白している(1)。 だが、「驚いた」のはなにもブラインズだけではなかった。実は占領軍自身が、すべては「巨大な罠(わな</r