検索結果 全1055作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 随筆・エッセイ 石田 純一 『マイライフ』(抄) 初出年: 2006年

    6.25 sat コペルニクス的転換 僕は、ほとんどの家事を代行サービスに頼っている。衣類全般はホテルОのランドリーサービスに出す。下着の洗濯と掃除は、週一回の家事代行とハウスクリーニングのスタッフにお願いする。一応、洗濯機の動かし方とかは、リエがこの家を出て行ったときに全部事細かにメモしてくれたから、自分で洗濯機をまわすこともある。 今日は午前中、比較的時間があったし、テレビまわりのごちゃごちゃが気になったので、片付けを始めた。一番多いのが、僕が出た番組を録画したビデオ。いつも、マネージャーのNが届けてくれるのだが、自分の番組をチェックすることは

  • 中原 かおり 『私の、甘く悲しい一日』(抄)・『夢ぽけっと』(抄) 初出年: 2006年

    『私の、甘く悲しい一日』より 一人の夕食 脈絡もない 淋しさを 崩す 冷や奴 静けさは 一輪のコスモスさえ揺らせないのに あなたのいない静けさは 私の心を こんなに揺らしている アンソロジー『夢ぽけっと』より <

  • 随筆・エッセイ 和泉 鮎子 義經のばか ─ 「吉野山」の忠信 初出年: 2005年

    それまでに何度か吉野へ行ったことがあったけれど、なぜか、いつも冬だった。みぞれに凍えながら、蕭条と枯れわたった花なき吉野をあるいたり、 西行庵のあたりで凍った残り雪に足をとられそうになったりした。足もとの枯れ草むらから、鋭い声とともに飛び立った雉におどろかされたこともあった。 はじめて花を目的に行ったとき、吉野の山は、下(しも)は声なく散り初めており、 中(なか)</rub

  • 評論・研究 川野 純江 近代の〈光明〉-夏目漱石の夢- 初出年: 2005年

    目次 序1 漱石の処女作―『吾輩は猫である』(一)と『倫敦塔』―2 〈暗闇の光明〉―「水彩画」の夢と「倫敦塔」見物―3 真実の愛―『吾輩は猫である』(一)―4 宿世の愛―『倫敦塔』―5 『私の

  • 小説 神川 十浄 ラ・メール 初出年: 2005年

    第一章 空と海とワンちゃんと 初めての出会い 山の稜線が仄(ほの)かに色づいてきた朝明けの空にくっきりと浮かび上がると、にわかにけたたましく騒ぎまくるカラスの声、人間たちも寝てはいられないと起き出す気配がして、今日一日があわただしく始まる。 牛乳配達の車の次に、判を捺したように唸りを上げて現れ

  • 随筆・エッセイ 村田 佳壽子 献身のバラ 初出年: 2005年

    あらゆる花の中で最も美しく、花の女王と讃えられるバラ。「あの人はバラのようだ」と言えば、美しさだけでなく華やかさを併せ持つ人という意味で最高の誉め言葉である。 だが、同じバラに生まれても、そのような美も賞賛も死ぬまで無縁なバラがある。それは、ブドウ園のバラだ。日本のブドウは棚状に支柱を作り、横に拡げて栽培するが、ヨーロッパでは垣根状にして縦に栽培する。このブドウの両脇に寄り添うようにバラの樹が植えられる。が、それは花を愛でるためではない。ブドウに付くはずの害虫をバラに集中させ、ブドウを守るのである。そうしてバラが食い尽くされたら、ブドウに害虫が移動する前に殺虫剤をまく

  • 小説 伊多波 碧 紫陽花寺 初出年: 2005年

    はじめ、なつ(﹅﹅)は着物が鳴っているのかと思った。 戸障子を開けはなった庭からは気持ちのいい青(あお)東風(こち)が流れこみ、床の間の掛け軸を揺らしていた。耳元で聞こえるのは衣擦れというより風鈴の音に近かったが、綸子(りん

  • 評論・研究 田代 俊孝 生と死を考える ―ラジオ深夜便― 初出年: 2005年

    ♦こんなはずではなかった 私達のこの日本社会は、たいへんな勢いで高齢化社会になっています。一方では癌などの患者さんがたいへん多くなりました。さらにまた、医療現場では、生命倫理などの問題で、「いのち」ということが非常に強く問われている時代です。この「いのち」、あるいは生とか死という問題について、私達はこれまでそれをタブーにしてきました。しかし、社会がそのような課題を抱えるようになると、もうそれはタブーにできない、真剣に取り組んでいかなければならない情勢になってまいりました。 私は二十五年ぐらい前に名古屋にまいりまして、今の大学に勤め

  • 小説 伊神 権太 再生 初出年: 2004年

    あのウサマ・ビンラディンが地方記者である私の身近にいた。ましてや能登半島で死んでいた、だなんて。 序 十月も半ばに入ったその日、自宅マンションに帰ると、わが家の雌の神猫(しんねこ)シロちゃんが居間で背筋を延ばし、両手を揃え、口をムッと結び、何かを訴えるようなまなざしを私に投げかけ、「ニャン」とひと声、大きく鳴いた。その瞬間、両の目がギラリと赤く輝く。あたしはこの世で起きる何でも知っているぞ。そうい

  • 高島 清子 詩集『ノスタルジア』(抄) 初出年: 2004年

    &nbsp; 祭りの夜 &nbsp; どんな村にも祭りがあった 雨も風も実りも火も花も人も 神を宿していないものはない &nbsp; 村のお調子者の醜男が 緋色の襦袢にほおかむり 紅おしろいで娘に化ける &nbsp; ああ その切ないような祭りの匂いよ <p

  • 水崎 野里子 詩集『アジアの風』(抄) 初出年: 2003年

    アジアの風 アジアは褐色だった 貧しかった そして猥雑だった 娼婦たち マンホール・チルドレン 父母に棄てられた 逃げ出した 父母のいない子供達が冬 マンホールに住む &nbsp; 地下は暖かい 食べ物は盗むか 拾って来る ストリート・チルドレン 色の黒い子供達が 手を出して <

  • 小説 浅田 次郎 お腹召しませ 初出年: 2003年

    病み上がりの祖父と二人きりで、あばら家に暮らした記憶がある。 私はすでに中学生であったから、記憶があるという言い方は不適切かもしれぬが、つまりそれくらい、抹消してしまいたい嫌な記憶なのであろう。その数ヶ月は夢のように朧(おぼ)ろである。 家産が破れて一家は離散し、行き場を失っていた私を、結核病院から出てきた祖父が引き取った。よほど無理な退院であったのか、台所で煮炊きをするときのほかの祖父は、床に就いているか、痩(<

  • 小説 橘 かがり 月のない晩に 初出年: 2003年

    私はちっぽけなおんぼろ船の中で膝(ひざ)をかかえてうずくまっている。とても狭い所に人がぎゅうぎゅうつめこまれていて、重くて沈んでしまわないかと心配になるほどだ。暗がりの中でだんだんにまわりが見えるようになってくる。鼻の下から顎(あご)まで髭をはやしている目つきばかり鋭い男。小さな男の子を連れた若い母親。隅のほうに釣り竿が何本も低い天井に届きそうに並んでいて、そこには年嵩</

  • 随筆・エッセイ 塚田 三千代 『ゴスフォード・パーク』の30人の登場人物たち ──女性たちのセリフが冴えて響く 初出年: 2002年

    『ゴスフォード・パーク』(2001年製作)はロバート・バーナード・アルトマン監督の映画である。集団劇あるいはアンサンブル劇とか、「グランド・ホテル」形式とかいわれるだけあって、30人以上の人物が登場するので人物の顔と名前を一致させるだけでも骨がおれる。この映画の世界は1932年のイギリス貴族と召使の階上と階下に二分された大邸宅――そこで真夜中の殺人事件が起き、犯人はだれか、となる。ところが、アルトマン監督はこれを重視しない。サスペンスの真相解明には無関心である。監督の関心はむしろ階下の人々の噂話で物語をどのように進めていくかにある。関心事は登場人物の多数のアドリブを収録編集し、その会話

  • ノンフィクション 橋爪 文 太陽が落ちた日 初出年: 2001年

    一九四五年(昭和二十年)八月六日、朝、家を出た私は空を見上げた。 いつもと変わらない穏やかに澄んだ広島の青空だった。 先ほどこの空に空襲警報のサイレンが鳴りわたり、すぐに解除になった。誤報だったのだろうか。 庭の杉木立で目覚めたばかりの蝉がチッチッと鳴いている。 今日も暑くなりそうだ。 &nbsp; 私は十四歳、女学校三年生。学徒動員で逓信省(戦後は郵政省と電気通信省、現在は総務省・日本郵政グループなど)の貯金支局に勤務していた。 <p

  • ノンフィクション 橋爪 文 The Day the Sun Fell 初出年: 2001年

    &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; On the morning of August 6, 1945, I stepped out the door and looked up to another serene, blue Hiroshima sky. &nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; The air-raid alert earlier that morning had ...

  • 小説 穂高 健一 初出年: 2001年

    首にタオルをかけた大柄な赤松好夫が、病棟の裏手から、廃棄物専用の台車をひいてきた。 作業服の背中は地図を描いたように、汗でぬれて張りついていた。 好夫は三二歳で、眉の濃い角張った特徴のある顔であった。 山麓の広大な敷地には、総合病院の白い棟が三つならぶ。病棟の一角から離れた、もはや背後には雑木林のみという片隅に、好夫がうけもつ焼却炉があった。巨象の体型よりもおおきな炉だった。銀色の煙突は、正門ゲート横の銀杏の大樹と高さを競うほどである。 煙突から青い煙が淡い新緑につつまれた疎林の方角へとなびく。さらなる彼方には三千

  • 随筆・エッセイ 松村 誠 早死せんほうがええで 初出年: 2001年

    現在、日本は世界一の長寿国を誇りつづけており、人生80年時代といわれて久しいにもかかわらず、その80年を全うすることなくこの世を去っている人が多いのが現実です。80歳未満であの世へ往くのはあまりにも早すぎます。まさに早死(はやじに)です。 1999年には、80歳未満死である早死は、55万1,840人で全体の56%にものぼっています。そしてその早死の原因としては、三大生活習慣病である、がん・心臓病・脳卒中、そして肺炎、さらに自殺と不慮の事故が続いています。1999年には、こ

  • 随筆・エッセイ 飯島 治 お年寄りが骨折したら(抄) 初出年: 2000年

    はじめに この本は、一本の電話がきっかけとなってつくられました。 「ちょっと相談があるんだけど……。じつは親が家で転んで骨を折っちゃって、救急車で近くの病院に入院することになって……」 この相談を受けて、私がハッと気づいたことは、骨を折った本人にもまして、家族や知り合いがひじょうに心配して、不安感が強いということでした。 さらに、相談者から、よく話を聞いていくうちに、もうひとつの事実を発見しました。それは、入院のときに医師から説明を受けているものの、本人も家族も突然のことでパニックになってしまい、ほとんど説明を理解

  • 小説 伊神 権太 てまり 初出年: 1999年

    「アキちゃん。アキちゃん、たらあ」 女は口ごもりながら「あの。ほんとにうっかりしてて。スミマセン。アキちゃん、てば。ひと言もいってくれないんだから」とボクに向かって続けた。「女の子が生まれていただなんて。賀状で初めて知りました」。こちらが照れる前に、受話器の向こうの方が、恥ずかしさに声がうわずっている。 &nbsp; 一 能登のその町に在任中、クリスマスイブやバレンタインデー、おひなさまになると決まってボクあてに郵便物で何かを送りつけてくる不思議な女がいた。名を