検索結果 全1008作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 佃 實夫 わがモラエス伝 第四章 第五章 第六章

    第四章 おヨネとコハル 1 日本へ移ったモラエスは、最初旅館ぐらしだった。 すでに馴染になっていた神戸の宿に旅装をといた彼は、《美しい田畑で飾りたてふんだんに緑また緑の風景》のなかを歩き回った。《陶然となる風光に事欠くことなく》、《花と微笑とに埋まった》国の、《うき世を忘れるうっとりとした眺めのうちに》住むプランに酔い痴れて。 一八八九年(明治二十二年)八月、初めて日本を訪れたとき、長崎からリスボンに在る妹フランシスカに、《世界じゅうに較べもののない美しい樹木の蔭で余生を送ることがで

  • 小説 辻井 喬 亡妻の昼前

    作田は昼近くなって目を醒した。カーテンから洩れてくる眩しい光で、太陽が高く昇っているのが分った。何処に寝ているのだろうと戸惑って、ようやく恵子が使っていた寝台に潜り込んでいるのだと気付いた。彼女が死んで四月近く経っていた。まだ四十代だった彼女の癌は、拡がるのも早くて、発見した時はもう手遅れになっていた。全身に転移がはじまっていて手の付けようがなく、寝込んでから半年かからなかった。あっけなく先立たれた感じが強く、近頃になって、葬式の時に「おいおいとお淋しいことでしょう」と慰められた言葉に実感が生れてきていた。昨夜、深酒をして帰って、恵子の寝台に寝たのは、年とってから妻を失った男の感傷が酔

  • 評論・研究 坪内 逍遙 小説三派

    総評 「新作十二番」とは春陽堂より発兌(はつだ)せる美本の読切物にていづれも名家苦心の小説也。第一番は竹のや主人の「勝鬨」第二番は紅葉山人の「此ぬし」第三番は美妙齋主人の「教師三昧」第四番即ち最近の発行は三昧道人の「桂姫」なり。いづれあやめ草ひきもわづらはれておのおのおろかなるは無けれど、氏(うぢ)も育(そだち<

  • 川柳 鶴 彬 鶴 彬 川柳選

    昭和三年 飢えにける舌――火を吐かんとして抜かれ 人見ずや奴隷のミイラ舌なきを ロボットを殖やし全部を馘首する 昭和四年 つけ込んで小作の娘買ひに来る 銃口に立つ大衆の中の父 自動車で錦紗で貧民街視察 神殿の地代

  • 小説 鶴 文乃 明日(あした)が来なかった子どもたち

    健太(けんた)は、庭の大きな楠の幹にある窪みに腰を掛けて、いつものように金(キム)さんの行列を待ちました。毎朝八人の外国人が一列になって、監視役らしい日本人の後を、のろのろと歩いていきます。 健太の家の下には大通りに通じる細い道があります。その外国人たちは、近くの刑務所から、重い足を引きずるように出てきては大通りを隔てた鉄工所に向かいます。健太には、初め、この人たちが外国人だ

  • 小説 鶴田 知也 コシヤマイン記

    巫女カビナトリの神謡序 これは祖母が神威(カムヰ)様から授つて私に伝へた神謡(かみうた)だ。祖母は大変良い声だつた。私は駄目だ。それに沢山忘れた所がある。そんな所は私が思ふ通りに唱つてしまふ。祖母も矢張り忘れた所は自分でうまく拵

  • 天童 大人 玄象の世界(抄)

    目次 Ⅴ Ⅸ ⅩⅢ ⅩⅣ ⅩⅦ ⅩⅩⅢ 聲神医 </a

  • 添田 啞蟬坊 新流行歌集(抄)

    目次あゝわからないあゝ金の世 ○あゝわからない ○あゝわからない/\。今の浮世はわからない。 文明開化といふけれど。表面(うはべ)ばかりじやわからない。 瓦斯(<

  • 評論・研究 田岡 嶺雲 嶺雲揺曳(抄)

    人才の壅塞 徳川幕府封建の制度は門閥の弊を養成して、上下人為の分厳に、格卑きものは才あるも用ゐられず、格貴きものは才なきも要路を占むるを得、登門杜絶、人才壅塞(ようそく)せらるゝもの三百年。而して其の弊の極まるや発して維新の革命となる。維新の革命は実(げ)に多く<r

  • 評論・研究 田口 鼎軒 日本之情交論

    情交の事は人生の一大事にして社会改良の途に当りて最も密に講究せざるべからざる問題なり然(しか)れども其事たる稍々(やや)公言しがたきの事情あるにや近日我邦(わがくに)婦人の事に関しては電信の線のながながしき論文を掲げられたる新聞雑誌多けれども敢て此論点にまで勇進したる程の記者は一人も見当らざるは惜

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペックの寓話(抄)

    前置き: カレル・チャペックは1930年代に入って、隣国ドイツのナチス化と、当時の政治のファシズム化に抵抗して「寓話」という皮肉をこめた短い文章を、自ら編集員であり活躍の本拠地だった「人民新聞」つまり「リドヴェー・ノヴィニ」に掲載した。背景にはスペイン市民戦争もあった。訳者 寓話</

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペックの闘争(抄)

    (1)認識の精神と支配の精神 人間の創造活動には二つの種類があります。その第一の活動は認識の探求。あるいは広い意味での、私たちの住む世界の生活体験を探求すること。そして第二の活動は、この地球上の自然的かつ物質的力を支配しようとする努力です。 この第一の活動は通常精神文化と呼ばれています。その構成要素であり本質的現象は今回の会議のテーマである人文科学であります。第二の活動は要するに技術です。 人文科学とは通常ギリシャ;ローマの教養の

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペック著『もうひとつのポケットから出てきた話』

    第一話 盗まれたサボテン 「それでは、今年の夏、わたしが体験した愉快な出来事についてお話しいたしましょう」 クバート氏は語りはじめた。 「わたしは夏の別荘に行ったのです。どんなって、そりゃ、もう、夏の別荘というのはこんなものだという、ごくありふれた別荘でしてね、泳ぐにも池がない、森もない、魚もいない、まったくなんにもなし。でも、そのかわり、そこには大衆党があり、活動的なリーダーが推進する美化協会とか、真珠企業、それに、かなり年をくった鼻のでかい女局長がいる郵便局があったりで、そこに欠けたものを何ら遜色のないまでに補っていたという

  • 小説 田才 益夫 チャペック初期短編選

    システム 日曜日の午後のさんさんと降り注ぐ太陽の光に誘われて、ぼくたちはセント・アウグスティンの波止場につながれた蒸気船「ホドル提督」号に乗船した。ところが、こんな具合にしてぼくたちが紛れ込んだのが、独立教会派の集会のなかだったとは思いもしなかった。 三十分ほどたったころ、ぼくたちの人見知りしないなれなれしい振る舞いにたまりかねた宗教団体の人たちは、不適切な行為を理由に、ぼくたちを海のなかに放り込んでしまった。それからしばらくするうちに、もう一人の白い服の男が落下してきた。そして甲板上の善意の人が、ぼくたちに

  • 俳句 田崎 纓 モダニズム俳句

    春陰は戦帽いろのカナリヤよ近よれば風が遠のく茂りの灯滅ぶわたしと昆虫のガーゼぐるみセルを着し体内に雲もみあうかもつれどおしの炎を煽ぐ蹌踉館雛納(しま)う陽のてのひらの此の世の剣遠きほど沖うつくしき烏貝<p c

  • 小説 田山 花袋 蒲団

    一 小石川の切支丹坂(きりしたんざか)から極楽水(ごくらくすゐ)に出る道のだらだら坂を下りようとして渠(かれ)は考へた。「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなつて、子供も三人あつて、あんなことを考へたかと

  • 随筆・エッセイ 田山 花袋 私の歩んで来た道

    ○ 過ぎ去った事を考へて、何よりも満足に思ふのは、自分のやりたいと思ふ事をして来た事である。一体私と云ふ人間は余程変なところがあつて、遅鈍で、性急で、才がないものだから、何事でも好い加減のところで止めるわけに行かない。酒にしても、女にしても、どこ迄も徹底しなければ気がすまないのである。それが好い事か悪い事かは別として、兎に角、自分はさう云う風にしてやつて来たのである。それは、社会の為とか、文藝の為とか云ふものでなくて、飽く迄も自分自身の要求から出て来たものである。 自然主義の運動が起つた頃の自分にしても、西欧の文藝の影響をうけた事も重大な原因ではある

  • 小説 田山 花袋 一兵卒

    渠(かれ)は歩き出した。 銃が重い、背嚢(はいのう)が重い、脚(あし)が重い、アルミニューム製の金椀(かなわん)が腰の剣に当ってカタカタと鳴る。その音が興奮した神経を<r

  • ノンフィクション 田尻 宗昭 公害企業摘発の決意  ~「羅針盤のない歩み」から(抄)~

    目次漁民のうったえ張り込み海をみる目のちがい硫酸の海ととまどい「鮮烈に生きたい」部下の決意難航する捜査 漁民の

  • 小説 田村 俊子 生血

    一 安藝治(あきぢ)はだまつて顔を洗ひに出て行つた。ゆう子はその足音を耳にしながら矢つ張りぼんやりと椽側(えんがは)に立つてゐた。紫紺縮緬をしぼつた單衣(ひとへ)の裾がしつくりと踵(かゝと</rt