検索結果 全1013作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 芥川 龍之介 一塊の土

    お住(すみ)の伜に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。伜(せがれ)の仁太郎は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ伜の死んだことは「後生(ごしやう)よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向けた時には、兎に角朝比奈の切通しか何かをやつ

  • 小説 開高 健 玉、砕ける

    ある朝遅く、どこかの首都で眼がさめると、栄光の頂上にもいず、大きな褐色のカブト虫にもなっていないけれど、帰国の決心がついているのを発見する。一時間ほどシーツのなかでもぞもぞしながら物思いにふけり、あちらこちらから眺めてみるけれどその決心は変らないとわかり、ベッドからぬけだす。焼きたてのパンの香りが漂い、飾窓の燦(きらめ)きにみたされた大通りへでかけ、いきあたりばったりの航空会社の支店へ入っていき、東京行きの南回りの便をさがして予約する。香港で一日か二日すごしたいからどうしても南回りの便でな

  • 評論・研究 角田 勝彦 ニュールネサンス クラブ 創設マニフェスト 2006年6月

    創設パートナー(川口健一、寒河江正、田原茂行、角田勝彦、野崎茂) 1. われわれは、第二次世界大戦後の日本と世界で生じている大変容が、解放と発展の反面、人々に不安と閉塞、不満と抗争をもたらしていると認識する。われわれは、いま、混迷の漂流に抗する確固たる碇を必要としている。 (説明) 二十世紀は、戦争と激動の世紀であった。とくに第二次世界大戦後の世界で生じている政治、経済、科学技術、社会、文化など各面で

  • 評論・研究 笠 信太郎 ものの見方について(抄)

    日 本 似て非なるもの さて、このあたりで私は、問題を少しばかり我々の身近くに引つけて見てみたいと思うが、それにしても、これまで見てきたヨーロッパ諸国の人々の考え方や、ものの見方を、我々のそれと比較して、その異同を考えてみないわけにはゆくまい。 日本人の今日までの頭の動かし方は、以上にのべた三つの国民(注 イギリス・ドイツ・フランス)のどれかに似ているであろうか。まず、こういう問題が出てくるに違いない。やかましく論じ立てれば、これもま

  • 笠原 三津子 マヌカンの青春

    1 体温は感じられないだろう 三角形、楕円形 の寄せ木に鋲を打ちつけ しっかり立っているように見えても 足をごらんなさい 細くくびれた足首の先に 人間によく似た小さな足がついている 詩人Mはつぶやいた <この足が悲しい マヌカンが なまめかしければ なまめかしいほど……> 青い空をバックに 人はみな死に絶えた 乾

  • 小説 梶井 基次郎 のんきな患者

    一 吉田は肺が悪い。寒(かん)になつて少し寒い日が来たと思つたら、すぐその翌日から高い熱を出してひどい咳になつてしまつた。胸の臓器を全部押上げて出してしまはうとしてゐるかのやうな咳をする。四五日経つともうすつかり痩せてしまつた。咳もあまりしない。しかしこれは咳が癒つたのではなくて、咳をするための腹の筋肉がすつかり疲れ切つてしまつたからで、彼等が咳をするのを肯(がへ)</rp

  • 小説 梶井 基次郎 檸檬・蒼穹・闇の絵巻

    檸檬 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)へつけてゐた。焦燥(せうさう)と云はうか、嫌悪と云はうか──酒を飲んだあとに宿酔(ふつかゑひ)があるや

  • 評論・研究 梶原 和義 ユダヤ人問題と人類の将来

    1. 不思議なユダヤ民族 全人類の中にユダヤ民族がいるのです。これは不思議な民族でありまして、現在ユダヤ人と自ら称している人は、約二千万人です。 ユダヤの国が滅びたのは、今から二千五、六百年前です。国が滅びて二千五、六百年経過しても、ユダヤ民族はいるのです。こんなおかしなことはありえないことです。 国が滅びれば、およそ百年ほどでその国の民族は消滅するのです。バビロニアという大きな国がありましたが、現在バビロニア人はどこにもいません。ユダヤより何百倍も大きな国でしたが、完全に消滅してしまったのです。 ユダヤは日本の

  • 小説 梶山 季之 合わぬ貝

    『小鍋夫人覚書』に拠ると、一世を風靡(ふうび)した俳人松尾桃青が、野心の強い、しかも倒錯した性欲の持主であったことが、かなり露骨に書かれてある。 もっとも桃青自身、最初の上梓本であり、故郷の天満宮に奉納した三十番俳諧合の判詞に「今こそあれ、われも昔は衆道(しゅどう)ずきの云々」と、述懐している位だから、さして駭(おどろ</

  • 小説 葛西 善蔵 青い顔

    またK分署から来いと云つて来たので、行つて見ると、昨日とは別な、若い学校出らしい警部が出てゐた。 『A館から昨日の告訴状を取下げに来てるんだがね、一体これはどうしたと云ふのかね?』と、警部は穏かな調子で訊いた。 『え、それは、実は私はA館に宿料が五六十円滞(とどこほ)つてゐるので、ところが今度急に婆さんが病気になつたので、金に困るところから傍(はた)の人間共が寄

  • 小説 葛西 善蔵 馬糞石

    三造さんのうちの馬が宝物をうんださうな、と云ふ大した村中の評判であつた。「虎は死して皮を残すとかいふが、さすがに三造さんとこの馬だけあつて、えらい物をひり出したもんぢやないか」などと、ヘンに唇をひん歪(ゆが)めて言ふものもあつた。……三造は村中切つてのしたゝか者である。三造はそんな話が耳に入るにつけ、業(ごふ)が煮えてならなかつた。 半月ほど前のことであつた。三造は役場で村の

  • 蒲原 有明 智慧の相者は我を見て

    智慧の相者(さうじや)は我を見て今日(けふ)し語らく、 汝(な)が眉目(まみ)ぞこは兆(さが)</

  • 乾 直恵 花卉(抄)

    《目次》 神の白鳥睡れる幸福極 光 神の白鳥 神さまが、膝でスワンを慈しむ。 御手にふれたこの抜け羽毛<rp

  • 評論・研究 関根 千佳 図書館サービスにおけるユニバーサルデザイン

    図書館の役割とは、市民に情報を提供することである。社会を構成する市民の中には、年令や能力、背景などの環境において、多様なニーズを持つ人々が増えてきている。日本は2009年現在、イタリアを抜いて世界で最も高齢化の進んだ国となった。加齢が進み、視覚や運動機能などに制限のある市民の増大と、ITの進展で新たな読書環境が出現する中で、その「読書」を支援する体制やサービスは、どのようなものが求められているのだろうか? 本稿では、特に米国における図書サービスを中心に、読書障害(Print Disabilit

  • 丸本 明子 花影(抄)

    目次黒 蝶残 月花 影夢 候手 袋 黒 蝶 死相と 死相が </p

  • 岩佐 なを 岩佐なを初期詩選

    幽冥から 鎮魂のためでもなく やすらぎのためでもなく 旅嫌いのはずがひどく山奥の温泉に 入り込んでしまった八月雨降りの宵。 二日前、朝の散歩途中 近所を流れる灰色の川っぷちで まびかれてたどりついた スポンヂのような仔犬を見た。 さっきはさっきで <

  • 岩佐 なを 鏡ノ場

    「ぬけ」 球根を水だけで育てる術を知っていた 陽を浴びて若い緑色をトンガラせてゆく 植物の先端を剣にみたてて 次のしごとに悩む女であった くのいち、くノ一、苦の位置。 ことば遊びでは逃れられない 悲壮になろうと思えば 意に反して悲愴だけが尾をひいた 女の御庭番というのはいかにも邪ノ道 ヘンチクリンでござる––と言われてしまい

  • 岩佐 なを 霊岸その他

    煙突絵巻 おばけ煙突のある町に 美をまさぐる翁が住んでいた話は 伯母から聞いてはいたがすっかり忘れていた いさおを残さずに消えていったその翁の 影は筆で薄墨を刷いたようだったらしい けむりのようでも 時も処もかわって ここに立っていた煙突を誰も覚えていない 丁目は大きくなるほど西にうつり

  • 小説 岩崎 芳生 梢の月

    「おにぎり、交換しようよ」チカコがコンビニのおにぎりをさし出した。 「どうぞ」絹絵は竹皮の包みに四つ並んだ持参のそれを、草に敷いたシートに滑らせた。おっ、美味そう、チカコの手が伸びた。 薄着でも汗ばむほどで、丘をわたる風が心地よい。チカコが淹れたダージリンの温みが喉にほわっと滑っていく。それを言うと、あら、先にカップをほめてほしいな、とそれでなくてもよく動くチカコの目が忙しい瞬きをした。 「見て、カップにエンブレムが打たれているでしょ」 なるほど。大きめなぐい飲みほどの銀製のカップの側面に、ていねいに鷲を象った刻印が鮮明

  • 評論・研究 岩谷 征捷 記憶・記録・受苦・恩寵

    書誌ノート この稿の底本に使用したのは『夢のかげを求めて—東欧紀行』、河出書房新社刊行の初版本で1975年3月25日発行。B6版、全552頁。装丁は駒井哲郎。本文中に著者自身の撮影した写真が、4頁分挿入されている。また、巻末には旅程図(浜田洋子作成)が付く。函とオビがあり、オビの前面に、「空気がきしり音をたてて刻々と夜を凍結させる冬のモスクワ。旅先でのそれぞれの朝に、揺れ動くためらいを鎮めてくれる、例えばひときれのパン、例えば熱いお茶—。/日本に置いてきた〈日常〉との濃密なモノローグをたずさえて白い寒気の国々、ポ