検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 嘉村 礒多 七月二十二日の夜

    歳月の経つのは早いもので、小説家S氏が物故してから、あわたゞしく三年が過ぎた。明七月二十三日は銀座裏の日本料理屋「丹頂」で三周忌の小宴が知友の間だけで催されるといふ、つまり祥月(しやうつき)命日の前の日、私は世田谷(せたがや)太子堂に遺族を訪ねることにした。私は世間からはS氏門下とまで言はれるほど死者の晩年は側近に侍(じ

  • 小説 夏目 漱石 吾輩は猫である 第一

    第一 吾輩は猫である。名前はまだ無い。 どこで生れたか頓(とん)と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いて居た事丈(だけ)は記憶して居る。吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然(しか)もあとで聞くとそれは書生といふ

  • 評論・研究 夏目 漱石 私の個人主義

    私は今日初めてこの学習院というものの中に這入(はい)りました。尤(もっと)も以前から学習院は多分この見当だろう位に考えていたには相違ありませんが、判然(はっきり)とは存じませんでした。中へ這入ったのは無論今日が初めてで御座います。 先程岡田(

  • 戯曲 河竹 黙阿弥 島鵆月白浪 全五幕の序幕

    しまちどりつきのしらなみ 口上 若葉の闇に奥山から西と東へ別れたる千太(せんた)は親の世になきを白川宿(じゆく)で伯父に逢ひ聞(きい)て泪(なみだ)</rub

  • 評論・研究 河東 碧梧桐 季感に就いて

    季感、季語、季題等について、以前いろいろに考へ、研め、悩みもしたことがあり、又たそれを書いたこともあります。それ以上、今日新たに会得したこともなければ、是非書いて見たいと思ふこともありません。強ひて書けば、以前のおさらひをするに過ぎないのであります。 以前西洋を旅行してゐる時、或人が独逸(ドイツ)の何処かで、丁度名月の夜、二三の同胞と酒肴を携へて月を観に郊外の丘に出掛けた、すると下宿の女主人が怪しんで、あなた達は何しに行くのか、へーあの月をどうして、と言つて、結局日木人の

  • 随筆・エッセイ 河野 仁昭 天野忠さんの生と詩

    1 上野瞭先生は高名な児童文学者ですが、ある日、同志社女子大学の講師控室にいましたらやってこられて、「ぼくたちは晩年学というのをやっているんですが、一度講演をお願いできませんか」といわれるんです。「晩年学て、なんですか」とたずねましたら、「老人問題をみんなで考える会なんです。老人学じゃパッとしませんので、晩年学ということで……」。 哲学者の片山寿昭先生と上野先生が主催しておられることもそのとき知ったのですが、児童文学と晩年学、どこでどう結びついているのかと思いましたら、「ぼくも、もう年寄りの仲間でしょう。だから」と、大変明快なお

  • 花森 安治 見よぼくら一銭五厘の旗

    美しい夜であった もう 二度と 誰も あんな夜に会う ことは ないのではないか 空は よくみがいたガラスのように 透きとおっていた 空気は なにかが焼けているような 香ばしいにおいがしていた どの家も どの建物も つけられるだけの電灯をつけていた それが 焼け跡をとおして 一面にちりばめられていた 昭和20年8月15日 あの夜 もう空襲はなかった もう戦争は すんだ

  • 随筆・エッセイ 芥川 龍之介 或旧友へ送る手記

    誰まだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない。それは自殺者の自尊心や或は彼自身に対する心理的興味の不足によるものであらう。僕は君に送る最後の手紙の中に、はつきりこの心理を伝へたいと思つてゐる。尤(もつと)も僕の自殺する動機は特に君に伝へずとも善(い)い。レニエは彼の短編の中に或自殺者を描いてゐる。この短篇の主人公は何の為に自殺するかを彼自身も知ってゐない。君は新聞の三面記事などに生活難

  • 小説 芥川 龍之介 一塊の土

    お住(すみ)の伜に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。伜(せがれ)の仁太郎は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ伜の死んだことは「後生(ごしやう)よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向けた時には、兎に角朝比奈の切通しか何かをやつ

  • 小説 開高 健 玉、砕ける

    ある朝遅く、どこかの首都で眼がさめると、栄光の頂上にもいず、大きな褐色のカブト虫にもなっていないけれど、帰国の決心がついているのを発見する。一時間ほどシーツのなかでもぞもぞしながら物思いにふけり、あちらこちらから眺めてみるけれどその決心は変らないとわかり、ベッドからぬけだす。焼きたてのパンの香りが漂い、飾窓の燦(きらめ)きにみたされた大通りへでかけ、いきあたりばったりの航空会社の支店へ入っていき、東京行きの南回りの便をさがして予約する。香港で一日か二日すごしたいからどうしても南回りの便でな

  • 評論・研究 角田 勝彦 ニュールネサンス クラブ 創設マニフェスト 2006年6月

    創設パートナー(川口健一、寒河江正、田原茂行、角田勝彦、野崎茂) 1. われわれは、第二次世界大戦後の日本と世界で生じている大変容が、解放と発展の反面、人々に不安と閉塞、不満と抗争をもたらしていると認識する。われわれは、いま、混迷の漂流に抗する確固たる碇を必要としている。 (説明) 二十世紀は、戦争と激動の世紀であった。とくに第二次世界大戦後の世界で生じている政治、経済、科学技術、社会、文化など各面で

  • 評論・研究 笠 信太郎 ものの見方について(抄)

    日 本 似て非なるもの さて、このあたりで私は、問題を少しばかり我々の身近くに引つけて見てみたいと思うが、それにしても、これまで見てきたヨーロッパ諸国の人々の考え方や、ものの見方を、我々のそれと比較して、その異同を考えてみないわけにはゆくまい。 日本人の今日までの頭の動かし方は、以上にのべた三つの国民(注 イギリス・ドイツ・フランス)のどれかに似ているであろうか。まず、こういう問題が出てくるに違いない。やかましく論じ立てれば、これもま

  • 笠原 三津子 マヌカンの青春

    1 体温は感じられないだろう 三角形、楕円形 の寄せ木に鋲を打ちつけ しっかり立っているように見えても 足をごらんなさい 細くくびれた足首の先に 人間によく似た小さな足がついている 詩人Mはつぶやいた &lt;この足が悲しい マヌカンが なまめかしければ なまめかしいほど……&gt; 青い空をバックに 人はみな死に絶えた 乾

  • 小説 梶井 基次郎 のんきな患者

    一 吉田は肺が悪い。寒(かん)になつて少し寒い日が来たと思つたら、すぐその翌日から高い熱を出してひどい咳になつてしまつた。胸の臓器を全部押上げて出してしまはうとしてゐるかのやうな咳をする。四五日経つともうすつかり痩せてしまつた。咳もあまりしない。しかしこれは咳が癒つたのではなくて、咳をするための腹の筋肉がすつかり疲れ切つてしまつたからで、彼等が咳をするのを肯(がへ)</rp

  • 小説 梶井 基次郎 檸檬・蒼穹・闇の絵巻

    檸檬 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)へつけてゐた。焦燥(せうさう)と云はうか、嫌悪と云はうか──酒を飲んだあとに宿酔(ふつかゑひ)があるや

  • 評論・研究 梶原 和義 ユダヤ人問題と人類の将来

    1. 不思議なユダヤ民族 全人類の中にユダヤ民族がいるのです。これは不思議な民族でありまして、現在ユダヤ人と自ら称している人は、約二千万人です。 ユダヤの国が滅びたのは、今から二千五、六百年前です。国が滅びて二千五、六百年経過しても、ユダヤ民族はいるのです。こんなおかしなことはありえないことです。 国が滅びれば、およそ百年ほどでその国の民族は消滅するのです。バビロニアという大きな国がありましたが、現在バビロニア人はどこにもいません。ユダヤより何百倍も大きな国でしたが、完全に消滅してしまったのです。 ユダヤは日本の

  • 小説 梶山 季之 合わぬ貝

    『小鍋夫人覚書』に拠ると、一世を風靡(ふうび)した俳人松尾桃青が、野心の強い、しかも倒錯した性欲の持主であったことが、かなり露骨に書かれてある。 もっとも桃青自身、最初の上梓本であり、故郷の天満宮に奉納した三十番俳諧合の判詞に「今こそあれ、われも昔は衆道(しゅどう)ずきの云々」と、述懐している位だから、さして駭(おどろ</

  • 小説 葛西 善蔵 青い顔

    またK分署から来いと云つて来たので、行つて見ると、昨日とは別な、若い学校出らしい警部が出てゐた。 『A館から昨日の告訴状を取下げに来てるんだがね、一体これはどうしたと云ふのかね?』と、警部は穏かな調子で訊いた。 『え、それは、実は私はA館に宿料が五六十円滞(とどこほ)つてゐるので、ところが今度急に婆さんが病気になつたので、金に困るところから傍(はた)の人間共が寄

  • 小説 葛西 善蔵 馬糞石

    三造さんのうちの馬が宝物をうんださうな、と云ふ大した村中の評判であつた。「虎は死して皮を残すとかいふが、さすがに三造さんとこの馬だけあつて、えらい物をひり出したもんぢやないか」などと、ヘンに唇をひん歪(ゆが)めて言ふものもあつた。……三造は村中切つてのしたゝか者である。三造はそんな話が耳に入るにつけ、業(ごふ)が煮えてならなかつた。 半月ほど前のことであつた。三造は役場で村の

  • 蒲原 有明 智慧の相者は我を見て

    智慧の相者(さうじや)は我を見て今日(けふ)し語らく、 汝(な)が眉目(まみ)ぞこは兆(さが)</