検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 田畑 修一郎 鳥羽家の子供

    松根は五人目の軍治を生んだ時にはもう四十を越えてゐた。子供の間が遠くて、長女の民子はその時他へ嫁いでゐた位だつたが、男の児と云つては、長男の龍一が漸(やうや)く小学校に上つた許(ばか)りであり、次の昌平は悪戯(いたづら)盛りで、晩年のお産のためか軍治は発育が悪く、無事に育てばよいがと思はれる程だつ

  • 随筆・エッセイ 渡辺 清 少年兵における戦後史の落丁

    一 僕は十六の年志願し水兵として海軍に入った。(志願兵の中には、教師や役場の兵事係などの甘い勧誘の口車にのせられてきたものも少なくなかったが、僕は直接誰からもそのような強制はうけなかった。したがって主観的には全く自発的な文字通りの志願である。)太平洋戦争開始直前の十六年春だった。それから敗戦までの四年余をほとんど前線の艦隊勤務で過ごした。その間幾度か海戦にも参加し、一度は乗艦(武蔵)の撃沈にあい遭難したこともある。敗戦時は二等兵曹だった。これが僕の軍歴のあらましである。 僕は子供の頃から兵隊が好きだった。わけても「スマートな海軍」(当時の僕には

  • ノンフィクション 渡辺 清 戦艦武蔵の最期(抄)

    この一編を、 北緯一二度五〇分、東経一二二度三五分、 水深一三〇〇メートルの 海底に眠る戦艦武蔵の戦友にささげる。 (二) 「総員退去ッ!」 「生存者は急げッ!」 伝令の声はつづいた。 語尾を太く長くひいて、高くうわずったその声は、断末魔の武蔵そのものの絶叫のように、通路に反響し、デッキを震わせ、鉄壁を打ち、暗い甲板に右往左往している士官や水兵た

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 初夢

    下向きの花 地元、五行川(ごぎょうがわ)の堤にホタルブクロが群れています。其処(そこ)は、私の早朝散歩の終点、つまり長瀬橋の少し手前の堤の中腹です。ちなみに雨の日以外は、休まず続けるようにしています。かれこれ、六、七年になるでし

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 道なかばの記

    今朝も、ふるさとの川、五行の縁(ふち)を歩いてきました。ほんの一刻(いっとき)ですが、数年来、この「早朝散歩」に励んでおります。喜寿もとうに見送って、まだ体を働かせるのが楽しみです。 それでも雨の朝がたは、降る雨足も足もとにも気づかいます。思い静かな散歩の叶うか…と、ふと案じられたりしまして。 道のりの終点(<

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 八十路生きていく

    月見草に思う 那珂川を吹く風は川面をたわむれ、石のほてりをあおいでいた。七月初めの暑い午後、涼しげなすかし模様の影を揺らす草の中で、懐かしい月見草を探した。 丸い小石の上を三十分も歩いたろうか。名も知らぬ草ばかりが並んでいる。探しあぐねる私たちをよそに、やたら高く伸びたよもぎの葉先が、重なり合って形よくなびいていた。 もう二十数年になるが、宇都宮大学に自転車で通い続けた次男が、ある日、荷掛けに月見草をつけて

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 野の菊

    野の菊 我が家には庭がありません。庭はおろか、空き地も無いのです。 気がつけば、「家」と「庭」との二文字が結合し、「家庭」の一語は出来ていました。 そうか…。 で、狭い駐車場の南側、石塀のきわに、プランターが数個据えたことです、庭の無い家庭を補うつもりで――。 二、三年前の、あれで初秋のころでしたろう。 農協直売所のかたわらの涸れた側溝に咲く、一茎の野の

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 五行の神

    五行川に想う ここ数年、私はふるさと真岡市を流れる五行(ごぎょう)川のほとりを歩いている。隣家の前の四辻を東へぬけると、二、三分で川面が見える。川はさざなみを小さく立てて南へと流れている。早朝散歩ゆえ、往来を渡るにしても車両を気にする要はない。 いつもながらのカルガモの群れが、滑るように流れに乗って戯</rb

  • 評論・研究 渡辺 豊和 建築風景の再生

    <目次> 1、土建行政と国土の荒廃 2、建築の自己破産 3、近代主義の罪 4、建築風景は再生しうるか 5、文化発信の可能性 6、国土の形象、古典ゾーン 7、国土

  • 評論・研究 渡辺 豊和 神話の空間

    <目次> 第一章 出雲神話 ・国引神話 ・八俣の大蛇神話 ・国譲神話 ・荒神谷遺跡と神話 第二章 たたらとヒッタイト ・ヒッタイト文明 ・聖書とヒッタイト ・消えたヒッタイト ・流浪のたたら 第三章 ラフカディオ・ハーン ・小泉節子 ・『雪女』とペルシア神秘性 ・神秘文学の系譜とハーン ・文学空間と建築空間 第四章 神話の空間</

  • 渡辺 眞美子 草という名の女

    野 川 野川には 小鷺がいた ほとんど水の枯れてしまった川の 水たまりのような所にいて くちばしで 魚を とっているらしい 鷺娘は 少しやつれて 眞っ白い羽を ほつれさせている 老いて 一羽だけになってしまったのか 川辺の道路ぞいには 桜が満開だ 明日は 花嵐といわれている 午後三時頃の強い風で花びらは散りはじめた <

  • 土井 晩翠 荒城の月

    春高樓の花の宴 めぐる盃影さして 千代の松が枝わけいでし 昔の光いまいづこ。 秋陣營の霜の色 鳴き行く雁の數見せて 植うるつるぎに照りそひし むかしの光今いづこ。 いま荒城のよはの月 變らぬ光たがためぞ 垣に殘るはただかつら 松に歌ふはただあらし。 天上影は變らねど 榮枯は移る世の姿 寫さんとてか今もなほ <

  • 短歌 土田 耕平 青杉

    伊豆大島にて詠める 櫻葉の散る日となればさわやかに海の向山見えわたるなり 岡のべの草に秀(ひい)づる芒の穂やや秋あらし吹き出でにけり 一面の陸稲畑は色づけり日影あかるく萱の穂そよぐ 日にけに野分つのりて空明し三原の煙立たずなりしか 吹きとよむ野分榛原ひよどりの飛びたつ聲はなほ悲しけれ </

  • 島 秀生 生きてきた人よ

    N君のいかだ お母さんは電話をしていた。 いつもの長電話だった。 お母さんはふと思い出した。 お風呂が二時間も焚きっぱなしになっている やってしまったと思いながら N君にガスのリモコンを止めに行かせた。 お母さんはまた電話の話を続けた。 N君は少し知恵遅れだったが 今年無事に小学校に上がることになっていた。 N君はお

  • 島 秀生 父さんのヒコーキ

    目次おばあちゃんのローソン父さんのヒコーキ おばあちゃんのローソン うちのおばあちゃん(母のことだが)は、足が悪くて、眼が悪くて、 身体じゅう手術の痕だらけだが、気持ちは元気だ。まだぼくを叱り 飛ばすくらい、声もでかい。いつも小走りで、ゆっくり歩いている のを見たことがないくら

  • 小説 島崎 藤村 伸び支度

    十四五になる大概の家の娘がさうであるやうに、袖子もその年頃になつて見たら、人形のことなどは次第に忘れたやうになつた。 人形に着せる着物だ襦袢だと言つて大騒ぎした頃の袖子は、いくつそのために小さな着物を造り、いくつ小さな頭巾(ずきん)なぞを造つて、それを幼い日の楽みとして来たか知れない。町の玩具屋から安物を買つて来てすぐに首のとれたもの、顔が汚れ鼻が欠けするうちにオバケのやうに気味悪くなつて捨てゝしまつたもの――袖子の古い人形にもいろいろあつた。その中でも、父さんに連れられ

  • 島崎 藤村 藤村愛誦詩選

    『藤村詩集』序 ──早春記念── 遂に新しき詩歌の時は來りぬ。 そはうつくしき曙のごとくなりき。うらわかき想像は長き眠りより覚めて、民俗の言葉を飾れり。 傳説はふたゝびよみがへりぬ。自然はふたゝび新しき色を帯びぬ。 明光はまのあたりなる生と死とを照せり、過去の壮大と衰頽とを照せり。 新しきうたびとの群の多くは、たゞ穆實(ぼくじつ)なる青年なりき。その藝術は幼稚なりき、不完全

  • 小説 島崎 藤村

    子供等は古い時計のかかつた茶の間に集まつて、そこにある柱の側へ各自の背丈(せたけ)を比べに行つた。次郎の背(せい)の高くなつたのにも驚く。家中で、いちばん高い、あの兒の頭はもう一寸四分(ぶ)ぐらゐで鴨居(かもゐ)<

  • 随筆・エッセイ 島崎 保彦 平成の書き言葉

    目次森と湖のキートスロープロファイルのアメリカ 森と湖のキートス ジメジメと欝淘しい梅雨の最中。日本を離れて、フィンランドに行ってきた。多くの日本人にとって、スカンジナビアとか、北欧三国は、まだまだ"遠い国"だろう。ことにフィンランドは、それこそ、サンタクロースか、オーロラか、ムーミンの国。 成田から一路ヘルシンキへ。ライトブルーに白の十字架の

  • 随筆・エッセイ 島崎 保彦 A Lower-profile America

    Itis a gloriously beautiful mid-October day, and my wife and I are backin California after nine long months away. Back in California in abrand-new house in a mind-boggling brand-new community ...