検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 山内 謙吾 三つの棺

    一 「どうか大した怪我でなければいい。」 お島は心に念じながら、じめじめした溝板を踏みならして路次から通りへ出た。妙に胸の鼓動が高鳴つて、汗ばんだ頬を撫でる四月の微風が、厭(いと)わしく、一層彼女の心を動揺させた。街にはいつもの通り自動車が走り、長蛇の高架電車が音もなく停車場のホームへ吸い込まれて行つた。道で戯れている子供達も老人も、大股に往來(ゆきき)</r

  • 短歌 山本 司 時代の風

    蕗の薹芽生ゆる黄の小さくも地に背きつつふくらむ型に 『抗争の序曲』 化学天秤左右に揺れてとどまらずしきりに夕べ松落葉する 目的にあらねど遂に争いぬ若き警官野獣のごとし 敗北に帰すと知りつつデモに行く我もイワンの馬鹿の一人 アセチレンの匂い鋭く乾く夏かぎ十字はいま何処に刻まれん </

  • 随筆・エッセイ 山本 実彦 「改造」の十五年

    『改造』を創めてからこの四月で満十五年だ。あれもこれも考えればまるで夢のようだ。廻り燈籠のように舞台がくるくる廻っていることが感ぜられるのみだ。だが、静かに眼を閉じて十五年の足あとをふり返えれば、その間におのずから元気の消長が事績を公平に物語っている。命をかけてした仕事はいつまでたってもカチンと響く生命がこもっているが、食うためにやったような仕事は見るさえ、思い出すさえ恥ずかしくて見るにたえぬ。感激でかいたものは、たといそれが推敲されていないにしても、いつまでもなつかしく読めるように、しようことなしにかいたものには生き恥をのこすほかの何もの

  • 小説 山本 勝治 十姉妹 (じゅうしまつ)

    田面(たのも)には地図の様な線條が縦横に走つて、旱(ひでり)の空は雨乞(あまごひ)の松火(たいまつ)に却(かへ)</

  • 評論・研究 山本 澄子 ユージン・オニールの世界

    目 次 E・オニールと『ああ荒野!』E・オニールの『夜への長い旅路』 ―その悲劇性について―E・オニールの『氷人来る』 ―夢と死について― 1 E・オニールと『ああ荒野!』 I E・オニールの

  • 評論・研究 山本 壽夫 吉田初三郎の空間   絵になるまちづくりへ -間の手法-

    目 次 日本文化の型江戸風景画の成立と完成江戸風景画の間(ま)吉田初三郎の空間絵になるまちづくりへ <

  • 評論・研究 山路 愛山 徳川家康論 二

    (一) 鳴呼(あゝ)我(わが)家康は世の人の終(つひ)に往く所に往けり。彼の小さき存在は消へたり。大なる宇宙は彼を呑み尽くしたり。雲は依然として風に漂ひ、雨は依然として地を湿

  • 司 茜 若狭に想う

    目次平和ささくれる若狭内浦の里指貫蜷局若狭に想う番傘猿沢池夕日

  • 評論・研究 志賀 重昂 「日本人」が懐抱する処の旨義を告白す

    円錐形の鎮火山、秀然として海を抜き、屹立(きつりつ)一万余仭、千年万年の氷雪、皚々(がいがい)として其(その)峰嶺に堆積するものは、実に富士の峯に非(あら)ずや、而{しか}して幾多の山系之と綿亙し<r

  • 小説 志賀 直哉 好人物の夫婦

    一 深い秋の静かな晩だつた。沼の上を雁(がん)が啼いて通る。細君(さいくん)は食台の上の洋燈(らんぷ)を端の方に惹き寄せて其下で針仕事をして居る

  • 小説 志賀 直哉 邦子

    邦子(くにこ)が自殺した事は何といつても私の責任だ。それを私は拒まうとは思はない。然(しか)し私としてそれは殆どどうにもならない事だつた。若し自殺すると分つてゐれば勿論避ける方法も考へたらう。が、真逆(まさか)、それ程の事とは考へてゐなかつた。私の油断である。然し私がさう油断する理由は充分にあつた

  • 評論・研究 志賀 葉子 教育と戦争 ─我が青春に悔いあり─

    私の青春は戦争に始まり戦争に終わった。 戦前、戦中、戦後を生き馬齢を重ね、20世紀を終わろうとしている。 ただひたすらに戦いに勝つことを祈り、国策に沿い軍国教育に献身してきた自分を振り返って、如何に誤った道を歩み、自分自身も傷つき、多くの児童生徒を苦しみの中におとしいれたかを考える時、胸の痛みを覚え慚愧に耐えない。<div align="justify" co

  • 小説 志賀 葉子 露草

    弓枝が夕飯の支度をしていると玄関の戸が開いた。 「今晩は、お世話になりますよ」 と入って来たのは姑のおたねと舅の耕作であった。 「あらまあ、いらっしゃい、さあどうぞ」 弓枝はふっと心をかすめた緊張感とはうらはらな明るい声で挨拶すると、せきたてるように二人を座敷へ招じいれた。 「まあ、とんだ急でびっくりしたっぺけんど、なんせお父っつあんが、あんべいが悪いとって巡回のお医者さんに言われたんで、大急ぎで大学病院さ行くべえって来ただよ」 姑のおたねは小柄な体からはじけるように威勢のよい声で、言

  • 紫 圭子 春分点

    羽 化 水 に 両手をかぶせる 手の平と水の表面をつきやぶって ゆりかもめが侵入する つばさの音がふくらんでくる (うまれたんだ 空間をつきやぶって (うまれたとき ふるえる音にのってきたんだ (うまれるとき震動するんだ 摩擦して越境するんだ ひとしずく はねかえり ゆびにとまってゆれている 水玉 里芋の葉をころがる

  • 児玉 花外 失業者の自殺

    鬼こそ堪(た)へめ、人なるを 長き苦しき労働(はたらき)に 身は青草の細くのみ 一たび肺を病みしより 血を喀(は)き逐(お)はる<ruby

  • 児玉 花外 朝顔に対して

    (わが詩集の発売禁止の翌朝) 昨夜(ようべ)、悲憤に寝もやらず 凭(もた)るゝ窓の下白う 朝顔咲けり美はしく、 花も自由に開くもの 人の思想の何ゆゑに 残忍の手に<r

  • 随筆・エッセイ 寺田 寅彦 喫煙四十年

    はじめて煙草を吸ったのは十五六歳ごろの中学時代であった。自分よりは一つ年上の甥のRが煙草を吸って白い煙を威勢よく両方の鼻のあなから出すのが珍しくうらやましくなったものらしい。そのころ同年輩の中学生で喫煙するのはちっとも珍しくなかったし、それに父は非常な愛煙家であったから両親の許可を得るにはなんの困難もなかった。皮製で財布のような格好をした煙草入れに真鍮(しんちゅう)の鉈豆煙管(なたまめぎせる)

  • 評論・研究 自由新聞論説 権利之源<明治15年(1882)7月5日付初出>

    生ノ道ニ合ヘル之(これ)ヲ善ト謂(い)ヒ、生ノ道ニ違(たが)フ之ヲ悪ト謂フ。人ノ世ニ在ル、唯(た)ダ生ヲ是レ計(はか)</rp

  • 評論・研究 篠原 央憲 いろは歌の謎

    ここに、恐ろしいほどの謎が隠されている。思いもかけぬ不可思議な暗示が、わたしたちを戦慄させるのだ。現在「いろは四十七文字」といっても、ほとんどの人は全部を知らない。しかし、戦前の日本人は、誰でも、もの心つき始めるころに、それを覚えた。「いろは四十七文字」によって、戦前の日本人は生まれて初めて、文字と言うものを知ったのである。そこには、私たちが生涯を通じて使用するひらがなが、一字も重複することなく、全部収まっている。ところが、いうまでもなく、この「いろ

  • 短歌 篠塚 純子 ただ一度こころ安らぎ

    古き名に風車通り(モーレン・ストラート)と呼ばれゐる路地に住まひてひと月を経ぬ しばしばも夫と離るるわが歩み森洩るる陽を胸にうつして 新婚の妻なるわれに異国びと問ひかくるなり不幸せかと 何ゆゑにかくもしきりに憶はるる幼くわれの住みし雪国 あらはなる憎しみ顔に浮かぶかと立ち上がりざま鏡をのぞく 夫