検索結果 全1000作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 随筆・エッセイ 大杉 榮 自叙伝(抄)

    「それぢや歩いて行かうぢやないか」と僕は云ひ出した。「君等の中の一人が真先きに歩くんだ。其の足あとを伝つて僕が真ん中になつて行く。其のあとへ又、君等の一人が殿(しんがり)になつて僕の荷物をかついで行く。そして先頭のものと殿のものとは時々交代するんだ。僕だつて、時には先頭に立つたり、殿になつて荷物を持つたりしたつていゝよ。」 俥夫等は此の提案を喜んだ。 「わしらだつて、うちのお神さんや奥様とお約束して、なあに大丈夫でさあつて引受けて来たんですからね。今更とても

  • 評論・研究 大西 操山 批評論

    創作と批評 名評の得難き、殆ど名作の得難きに下らず、「ハムレット」を評する者、ゲーテの如きあり、其批評の至妙なる、マコレーをして、嘆美と絶望とに余念なからしめたり、然れどもシェーキスピアーのゲーテを得る迄には殆ど二百年を経過せり、夫れ文学及美術上の創作は主として結構的作用に属す、理解的慧眼を以て其結構の妙処を穿(うが)つは是れ批評家の本領とする所なり、批評家と創作家とは頗<rp

  • 評論・研究 大宅 壮一 「無思想人」宣言

    「きさまはエタイの知れぬやつだ。右か左かハッキリしろ」 ということを私が最初にいわれたのは、今から二十何年か前、警視庁の特高取調室においてである。 「あなたの方できめてください。実はぼく自身にもよくわからないんですよ」 と答えるほかはなかった。検挙された理由は、そのころ多かったシンパ事件で、現在左派社会党代議士になっている細迫兼光君から求められるままに、そこばくの金を出したのがいけなかったのである。長谷川如是閑氏がつかまったのと、たしか同じケースだった。そのころまで進歩的知識人の総元締のような立場にあった如是閑氏は、これを機会に元の日

  • 随筆・エッセイ 大町 桂月 十和田湖

    一 五戸 本州の北に尽きむとする処、八甲田崛起(くつき)し、其山脈南に延びて、南部と津軽とを分ち、更に南下して、東海道と北陸とを分ち、なほ更に西に曲りて、山陽道と山陰道とを分つ。長さ数百里、恰(あだか)も一大長蛇の如し。中国山脈は、其尾也。甲信の群山は、其腹也。八甲田山は其頭也。頭に目あり。凡(およ

  • 大塚 甲山 冬の蝶・農夫

    冬の蝶 灰色深き冬空の 見る/\雨のこぼれきて 膚(はだへ)に告ぐる寒き日を 覚束なくも飛ぶ蝶よ。 春は菫の花に泣き 夏は小百合の香に酔ひて 闌なりしその夢は 萩吹く風にさめたるか。 つらく悲く淋くて われも泣きたきこの雨よ

  • 評論・研究 大塚 保治 ロマンチックを論じて我邦文藝の現況に及ぶ(抄)

    (承前) 近世の文藝は古代の単純調和的文藝とは違つて兎角(とかく)中正な円満なものは稀で、大抵皆一方に偏跛に発展して居る。啻(たゞ)に文藝のみならず学問でも宗教でも徳義習慣でも総て社会組織が皆夫々偏跛の方向に分化して発達して居る。夫れが近世文明別しては十九世紀文明の一大特色である。是はどうも人文発展上寔(まこと)</r

  • 評論・研究 大内 力 ファシズムへの道 準戦時体制へ

    準戦時体制へ 挙国一致内閣 五・一五事件で犬飼毅(いぬかいつよし)が暗殺されたことによって内閣は瓦解したが、それは同時に政党内閣の終焉を意味するものだった。 通常のばあいだと、内閣が倒れると、天皇から元老<rb

  • 大林 しげる 怒らねば

    ふりかえってみると、果てなく続けられるのかと思われたパレスチナ人の対イスラエル人テロ・・・とくに自爆テロは、ニューヨークでの、乗客をそっくりまきこんでの同時多発自爆テロの発生で世界が恐怖のどん底にたたきこまれたせいもあり、パレスチナ政府がテロ撲滅をいち早く承認決定したこともあってか、このところは対イスラエル人自爆テロは発生していない。 ところで、今回の同時多発テロはあちらでは“KAMIKAZE”と呼ばれているらしい。爆弾を抱いて自死するという日本の太平洋戦における神風特攻隊の攻撃手段や、1972年にテルアビブ空港で乱射事件を起こした日本赤軍事件などを通して伝えられ、ア

  • 戯曲 大佛 次郎 楊貴妃

    三幕 天 真(後の楊貴妃) 玄 宗 皇 帝 楊 国 忠(従兄) 韓 国 夫 人(一の姉) かく国 夫 人(二の姉) 秦 国 夫 人(三の姉) 高 力 士 李 白 陳 元 礼 注 ...

  • 小説 瀧井 孝作 結婚まで

    一 信一は、笹島さんを彼女を恋して居る、この心持は段々にそれと自分に分つたが、信一は彼女をはつきりと思ふ工合になつても、この一ツの心持は誰れにも秘めてヂツと堪えて居た。彼女に付いて知識は実になかつたが、姓だけで、名も年齢も、信一は未だ知らないのだが……。 其姓は、去年我孫子(あびこ)に居て始めてきゝ、覚えた。近くの菅さんで、菅さんに向ひ夫人のてい子さんは「笹島さん笹島さん」と

  • 評論・研究 瀧田 樗陰 月旦 新春文壇に於ける各作家の武者振

    正月といふ月は何となく、心忙しい、気のそはそはする月で、落附いて読書などするには不適当な月である。其癖、正月程出版界の賑かな景気のよい月はない。殊に雑誌はどれもどれも沢山の小説を掲載するので、正月に出る小説の数はすばらしいものだ。其読書に不適当な月に、そんなにどつさり小説が出るんだから、一々精読、再読して、動きのとれない批評をする事などは、非常の難事である。僕は今こゝに、僕が読んだ丈けの範囲に於て、各作者の武者振の如何であつたかをざつと紹介するを以て満足しやうと思ふ。尤も同じく「読んだ」といつても、朝、早く机に向て読んだのと、夜、遅く床の中で読んだのと

  • 谷口 典子 悼心の供え花

    目次悼心の祭り(序にかえて)墓石盆踊り甍彼岸花あったことうまかものさち弟は三つ<

  • 小説 谷崎 潤一郎 夢の浮橋

    五十四帖を読み終り侍りて ほとゝぎす五位の庵に来啼く今日 渡りをへたる夢のうきはし この詞書を伴ふ一首は私の母の詠(えい)である。但し私には生みの母とまゝ母とあつて、これは生みの母の詠であるらしく想像されるけれども、ほんたうのところは確かでない。その仔細はこれから追ひ追ひ詳(つまびら)かにするであらうが、理由の一つを挙げてみれば、生

  • 小説 谷崎 潤一郎 京羽二重

    をけら火やしらみそめたる東山 京都の人には説明するまでもない句であるが、新村博士の広辞苑に依ると、「をけら」は漢字で「朮」と書き、きく科の多年生草本で、世に「をけらまつり」と云ふものがある、京都八坂神社で毎年大晦日から元旦にかけて行ふ神事で、鑽火(きりび)で朮を焚き、その煙の靡く方角を見てその年の豊凶を占ふ。参拝者はその火を火縄に移して持ち帰り、雑煮を煮て年頭の吉祥を祝する。とある。この行事は今日でも年々行はれてゐるが、私は京都で七八年の歳月を過し、葵祭や祇園祭や大文字

  • 小説 谷本 多美子 把手のない扉

    夜になった。長い一日だった。午前中、リトル・ロックのダウンタウンの教会で、ホームレスや生活困窮者たちに食事を配る手伝いをして、午後、三百キロの道程をドライブしてミシシッピ州までやって来た。助手席に乗っていただけだが、疲れた。日本からの時差の疲れもまだ残っているようだ。 洗面所とシャワールームの蜘蛛の巣を手で取り払って、シャワーと洗面を済ませて簡易ベッドに横になった。外は物音一つしない。闇と静寂がミス・サンダースとテリーサの家を覆っている。通路を挟んだ向かい側のミス・サンダースの部屋からかすかな音が漏れてくる。テレビの音らしい。 疲れているのに意識が冴

  • 随筆・エッセイ 淡島 寒月 亡び行く江戸趣味

    江戸趣味や向島沿革について話せとの御申込であるが、元来が不羈(ふき)放肆(ほうし)な、しかも皆さんにお聞かせしようと日常研究し用意しているものでないから、どんな話に終始するか予めお約束は出来ない。 ◇ 人はよく私を江戸趣味の人間であるようにいっているが、決して単なる江戸趣味の小天地に跼

  • 小説 池谷 信三郎

    一 人と別れた瞳のやうに、水を含んだ灰色の空を、大きく環(わ)を描き乍(なが)ら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩してゐた。煙が低く空を這つて、生活の流れの上に溶けてゐた。 <rb

  • 池田 克己 原始(抄)

    《目次》 地 理手 首豚の邊(ほとり)東京(第六番)

  • 池田 實 寓話

    時間の淵に 今世紀の地平線の夕映えの向こうに 不安に痙攣する鈍色の空が見える いつか人生の傲慢と交換される死があって 未来はいつも日常に危うい時間を刻んでいる この春肉親が死んで 身近に揺れている死者の影 僕の余命の期待値も不気味に点滅している 重ねられた時代の荒野の背景に 大砲は錆びて冷えた仰角を整列させ 絶望を引きずった兵士らの重い足音が 時代を超え

  • 池田 實 続・寓話

    鳩は翔んだか 「事物と言葉は同じ傷口から血を流す」と 語った詩人は詩の祭壇に祀られて苦笑しているだろう 大鳥居の中だけが白昼の闇に輝くその日 神道の細道に人形祓いの神官は小走り 神殿に柏手を打つモーニングの紳士ら 菊の紋章の神殿に 舞台は戦中に暗転する 境内にヒョットコとオカメが群れて集まり 日の丸の小旗を振り “ウミユカバミズク