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  • 評論・研究 三谷 憲正 「城の崎にて」試論―〈事実〉と〈表現〉の果てに―

    一 前提 ―〈経験〉と〈言葉〉 日常の納得できる論理に従えば、物事は実際に〈経験〉しなくてはわからないし、また本当に〈経験〉した人の〈言葉〉だからこそ重さも厚みも感ぜられる。それに比べて〈言葉〉は何と軽佻なことか。思ってもいないお為ごかしの〈言葉〉が、心配そうに顔を曇らせながら、赤い舌をちらりと見せて素通りしていく。 生活者が肌で感じとり、信ずるに価するものとは、年季の入った"たたき上げ"であり、〈経験〉の裏打ちである。机の

  • 小説 三田 誠広 碧眼

    王子の眼は海のように青かった。神が生まれ変わったのだと人々は噂した。王には他に男子はなかった。王は宝玉のように王子をいとおしんだ。 南海の竜と呼ばれた偉大な王だった。王も兵たちも、騎馬が得意だった。海から攻め上って高原地帯を平らげた。そのあたりは群小国がひしめいて、争いが絶えなかった。王の出現で高原に平和がもたらされた。人々は王を称えた。 陽が照りつけていた。馬の毛が汗で濡れていた。王子の額からも汗が滴り落ちた。剣が鳴った。腕に心地好い手応えがあった。二度、三度と剣を打ち合わせて、手綱を引いた。馬が旋回し、相手の剣が空を切った。回

  • 三田 洋 回漕船ほか

    回漕船 海に船をうかべてはこぶ 柩をまんなかにして 父とわたしはすわりこむ 海はすこしあれて ときどきしぶきがかかる こんなとき むこうからやってくる船もある しぶきは素足にもかかる せなかにもかかる しぶきは柩にもかかる すると おおさむい

  • 三島 佑一 地球タイタニック

    目 次 1 地球タイタニック浸水 二○○○年 負けてよろしましたなあ 毎月二のつく日は ネクタイしめた駄々っ子 目には目を 2 地球タイタニック傾斜 二○二○年 Xデー 人間アホかカシコか除夜の鐘 3 地球タイタニック沈没 二○X○年 </

  • 小説 三島 由紀夫 女方

    一 増山は佐野川万菊の藝に傾倒してゐる。國文科の學生が作者部屋の人になつたのも、元はといへば万菊の舞臺に魅せられたからである。 高等學校の時分から増山は歌舞伎の虜(とりこ)になつた。當時佐野川屋は若女方で、「鏡獅子」の胡蝶の精や、せいぜい「源太勘當」の腰元千鳥のやうな役で出てゐた。そのころはひたすら大人しい、端正な藝であつて、誰も今日の大をなすとは思つてゐなかつた。 しかし當時から、増山はこの冷艶な人が、舞臺

  • 評論・研究 三木 清 哲学ノート(抄)

    序 これは一冊の選集である。即ち「危機意識の哲学的解明」という最も古いものから、「指導者論」という極めて最近のものに至るまで、私の年来発表した哲学的短論文の中から一定の聯関において選ばれたものであって、その期間は『歴史哲学』以後『構想力の論理』第一を経て今日に及んでいるが、必ずしも発表の順序に従ってはいない。程なく『構想力の論理』第二を世に送ろうとするに先立って、私は書肆の求めによってこの一冊の選集を作ることにした。ここに収められた諸論文は如何にして、また何故に、私が構想力の論理というものに考え至らねばならなかったかの経路を直接或いは間接に示し

  • 小説 三遊亭 圓朝 牡丹燈籠

    怪談牡丹燈籠第壱編 三遊亭圓朝演述 若林カン藏筆記 第壱回 兇漢泥酔挑争闘 けうかんでいすゐしてそうたうをいどむ 壮士憤怒醸禍本 そうしふんどしてくわほんをかもす 寛保(くわんぽう)三年の四月十一日、まだ東京(と

  • 山岸 哲夫 二都物語

    BARAN テヘランの街は砂漠の中にあった 雨は神様が仕掛けた如雨露みたいにレンガの家を疎らな樹木を 人のこころにもシャワーをかけて去った細くありがたく乾いた街角まちかどを 改装ビルの工事現場で伯父さんの手伝いをしつつ青年は秘かに 賃金を空き缶に貯めていた 薬師丸ひろ子にあい似たし少女が男の子に変装しておじいさんと仕事にありついてきた セメント作りの作業は力仕事であった ある日それとな

  • 山岸 哲夫 一丁目あたり

    目 次 一丁目あたり王宮参る炎帝鐘路三街白金のcampus馬喰帰郷 <p

  • 短歌 山口 孤剣 戦争を呪ふ

    天の星、野べの百合にも平和(やすらぎ)の、色は満てるを、醜(しこ)の戦(いくさ)よ。 血の酒杯(さかづき)、舌つゞみ打つ醜人(</

  • 随筆・エッセイ 山口 瞳 卑怯者の弁

    一 「国家には色々な側面があり、従って、色々な解釈が可能である。しかし、国家というものをギリギリの本質まで煮つめれば、どうしても軍事力ということになる。ところが、その軍事力の保持が、日本の徹底的弱体化を目指して、アメリカが日本に課した『日本国憲法』第九条によって禁じられて来たのである。日本は『国家』であってはならなかった」 と、清水幾太郎先生は「節操と無節操」という論文(『諸君』昭和五十五年十月号)のなかで書いておられる。これ

  • 小説 山村 正夫 断頭台

    1 熊倉左京太(くまくらさきょうた)は、劇団仮面座の若手俳優である。一風変わった古めかしい名前なので、いかにも名優のように聞えるが、その実まったく無名の三文役者にすぎなかった。劇団内でもこのうえもなく冷遇(れいぐう)されていて、いままで本公演、試演会を通じて通行人以上の役らしい役のついたことはなかった。 『仮面座』は数多い新劇団のなか

  • 山村 暮鳥 赤い林檎

    手 みきはしろがね ちる葉のきん かなしみの手をのべ 木を揺(ゆす)る 一本の天(そら)の手 にくしんの秋の手 青空に

  • 山中 以都子 訣れまで

    朝 地下のコバルト照射室まで歩いて通えたのは 一月前ま でであった。 十日前までは 車椅子をわたしが押した。 いま 父は ベッドから起きあがることができなかった。 風の舌が湿っぽい朝まだき 洗面所で口をすすいでいる と 隣にやってきた少女が いきなり抱えていた花瓶の 花をぐいと一掴みに投げすてた。 百合 菖蒲 牡丹 竜胆 一瞬宙に舞ったとりどりの鮮やかさが 冷たくわたしの 眼に

  • シナリオ 山中 貞雄 風流活人剣

    凡例 トーク 活弁の科白 F・I フェイドイン。だんだん明るくなって場面が転換する。 F・O フェイドアウト。だんだん暗くなって場面が転換する。 O・L オーバーラップ。映像が二重写しになって場面が転換する。 1=(F・I)寄席内部 場末の寄席の情景。 高座で講釈師が車輪に張り扇を叩いて居る。 客筋は余りいい方でない。 浪人

  • 山田 岳 エピタフ(墓碑銘)

    第1部 エピタフ 町家のなかの迷路 白い街灯の明かりが 点々とどこまでも続いている 京都の夜の闇は深くて 街灯の光さえものみこんでしまう 僕は自転車をこぐ 街灯の光にうかぶ、べんがら格子の家は 道路のうえに深い歴史の影をおとす 自転車のライトさえも この闇

  • 評論・研究 山田 健太 グーグル新サービスの衝撃

    インターネット上の検察サイトとして有名なグーグル(Google)が、八月五日から新しいサービス「ストリートビュー」(GSV)を開始した。従来から「グーグルマップ」として地図情報を無料提供しているが、それにプラスして全国十二地域の風景を居ながらにしてみることができるようになった。沖縄県内でのサービスはないが、まさに車で運転しているかのように、道の両側の景色を表札が読めるぐらいまで詳細に確認できるサービスは圧巻である。

  • 随筆・エッセイ 山田 忍 宝物をくれた人たち(抄)

    目 次 脳神経外科医 ジェラール・ギュイオー大屋政子バレエ研究所理事長 大屋政子作曲家ジャック・イベール夫人 ロゼット・イベールアルフレッド・コルトー声楽家 平井三紗子ピアニスト 原 智恵子 <p

  • 小説 山田 美妙 蝴蝶

    國民の友の附録にするとて御望みが有つたため歴史的小説のみじかい物を書きました。が、実の処これこそ主人が精一杯に作つた作で決していつもの甘酒では有りません。匆忙の中の作だの何だのと遁辞をば言ひません、只是が今の主人の実の腕で、善悪に関せず世間の批許をば十分に頂戴します。猶この後には春のや、思軒の兩「しんうち」が扣(ひか)へて居ります。それ「比較は物の価格を定める」。大牢の前の食散らしは或は舌鼓の養生にも為りましやうか。一座早く出た無礼の寓意(も凄まじ

  • 山田 隆昭 うしろめた屋

    路 地 屋台の椅子は低いほうがよい 地べたに這いつくばうようにして コップ酒を呑んでいると 植え込みから幽かに虫の音がきこえてくる 白粉花の葉裏の息づかいがみえてくる もっと低く もっと低く 屋台の客はみな 斜め前方に傾いて酒を呑んでいる ネクタイが大きくゆるみ 背広が半分脱げかか