検索結果 全1055作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 評論・研究 戸川 秋骨 自然私観

    哲学は幾度かその系統を改め、宗教と云ふものゝ改めらるゝ事屡(しばしば)なりと雖(いへど)も、未(いま)だ一と度(たび)も人生と云ふ問題の明らかにせられたるを聞かず、限りある人間と云ふものは限りなく人間と

  • 小説 五味川 純平 不帰の暦

    一 私は自分の娘のように若いあなたに、何故(なぜ)この話をしておきたいのか、わかりません。気を許して話せる人に、昔の苦労話をしたいという甘えた気持からではないようです。 戦争の話には、必ず屍臭が漂います。けれども、それは同時に、滅んだ沢山の愛の物語でもあるでしょう。あなたは、前に、愛はいつかは終るものだとおっしゃっていたことがありました。たぶん、そうでしょう。戦争によってすべ

  • 後山 光行 水の硬度

    冬の海 現代風な建物が続く街に 古くて黒いどっしりとした家がある いつも通い続けた道なのに 何年か過ぎたある日 ふと見つけた いつからか 私のなかに落ち込んでしまった家 家のとなりに タバコ屋があって 飲みものの自動販売機が 家の前まで何台も置かれている 昔式の

  • 随筆・エッセイ 後藤 栖子 父のこと友のこと

    芥川賞作家の父のこと 父(後藤紀一)の芥川賞受賞は三十六年も前のことになる。そのころ私は秋田にある劇団わらび座にいた。山形を離れて三年ほど経っていた。父から、 「今度、僕は小説を書いた。でもやっぱり栖子には見せられない」 そんな便りが来てまもなくのころだった。 山形を離れて三年、父とは没交渉のままだったが、当時の劇団の主宰者のH氏に説かれて父との便りの行き来が、始まったばかりだった。ところが受賞作を読んで私は、今でいうプッツンしてしまったのである。冷笑とさえ言え

  • 評論・研究 後藤 宙外 政治小説を論ず

    小説界の新生面 近頃、政治小説を誘奨して、斯壇に一新生面を招かんとする論者所々に見ゆ。勿論、之れを促すの趣意に到りては、其の軌を一にせず。政局の激変して、従来単に志士論客の脳裏に蜃気楼として描かれたる政党内閣も、今や実現せられたれば、民心翕然(きふぜん)として政治界に趨向(すうかう)するに到れり、此の機運は

  • 評論・研究 幸徳 秋水 自由党を祭る文

    歳は庚子(=かのえね 明治三十三年 1900)に在り八月某夜、金風淅瀝(せきれき)として露白く天高きの時、一星忽焉(こつえん)として墜ちて声あり、嗚呼(あゝ)自由党死す矣(い)、而

  • 小説 江見 水蔭 女房殺し

    一 逗子(づし)の浜辺に潮頭楼(てふとうろう)といふ海水浴舎がある。三崎(みさき)へ通ふ街道を前にして居るが、眺望(ながめ)は、鎌倉の海を<r

  • 随筆・エッセイ 江口 滉 陶藝家の述懐

    一期の境ここなり 室町時代の初期、能楽を大成した世阿弥の著書のひとつに『風姿花伝』と呼ばれるものがあります。これは、能楽の藝を習得するための練習方法などを説いた一子相伝の秘伝書で、わが国最初の演劇論としても高く評価されているものです。 この書物は、全体が「年来稽古条々」「物学(ものまね)条々」「問答条々」など七編から成っています。

  • 評論・研究 綱島 梁川 病間録

    知 己 何人(なんぴと)も他に知られたしの念あり、千万人の徒(あだ)なる喝采に動かざるものも、尚ほ其の一人(いちにん)の友に知られんことを求め、

  • 小説 荒畑 寒村 艦底

    一 春頃、進水式を挙げた二等巡洋艦××号の艤装(ぎさう)工事が、夏に入ると急に忙がしくなつた。職工等は寄ると障ると、近い中(うち)にいよいよ戦争が始まると、物の怪(け)</rp

  • 戯曲 行友 李風 極付 国定忠治(抄)

    序幕 赤城山麓室沢村才兵衛茶屋 幕開く。 手先甲乙、上って酒を飲んでいる。 お梅、お銚子を持ち出て来る。 手先甲 あゝお梅坊、相変らず綺麗だねえ。近頃のように、やれ大飢饉だの、やれ捕物だのと世間が騒がしいようじゃ、お前の店も落着いて稼業は出来なかろうのう。 お 梅 はい。 <st

  • 高安 義郎 母の庭

    序 章 母を連れた小旅行の計画でした 旅の支度をうながしますと そんな話は聞いていないと母は言います 紅葉を楽しみにしてくれたはずなのにと思いながら 宿のパンフレットを広げました するといきなり形相(ぎょうそう)を変え 「年寄りを粗末にして世間が

  • 高橋 茅香子 戦争に戦争を重ねるアメリカ

    語るも恐ろしい歴史の流れの中でも、安心感は ひきがえるの頭の中にトパーズを見つけるように いつもすぐ手の届く所に求めることができた 昔むかし、ある遠いところに、というお話だったから。 身の毛もよだつニュースさえ、耳にいれては すぐに安心感をみつけだしていた 距離からうまれる時間差があり、理解できない言葉があり 隔てる海は広く大きく、なんでもすぐに忘れさせた いま、安心感はなく、宝石のようにひかるのは勇気だけ 戦争はわたしたち自身のもの、いま

  • 評論・研究 高橋 茅香子 反戦の声ふたつ

    アメリカの対イラク武力行使を憂える声は、世界各地であがり、日本の市民運動グループなどもいち早く反対表明を示している。それらの声明文はアメリカ大統領府はもとより各国のアメリカ大使館、主要メディアなどに続々と送られているはずだが、一方、インターネット上では、あるはずもない国連の名前による署名依頼が世界中に蔓延するなど、いたずらまがいの行為も見られる。次に、小さいながら確かな声を伝える二つ、*反戦を表明する詩人たち *ハロー、アメリカ の動きを紹介する。 *反戦を表明する詩人たち

  • 評論・研究 高橋 健二 ゲーテの言葉

    序に代えて 太陽が照れば塵(ちり)も輝く。 (「格言と反省」から) * 考える人間の最も美しい幸福は、究め得るものを究めてしまい、究め得ないものを静かに崇(あが)</rp

  • 短歌 高橋 光義 クレバスに立つ

    リューマチを嘆(かこ)ちながらに孫負ひてかなしからずや気弱き母は 屋根裏を這ふズイムシのぼとぼとと夜更けし囲炉裏の灰中に落つ 白雪に蟻うごめけば冬ふけて病みこやる吾をののきにける 山陰(やまかげ)にあした幽けく凍りつく藪に羽触れ小鳥飛ぶ音 半天がずり落ち

  • 評論・研究 高橋 誠一郎 司馬遼太郎の教育観   ――『ひとびとの跫音』における大正時代の考察

    はじめに――グローバリゼーションとナショナリズム 国際政治学者のハンチントンはソ連が崩壊して、旧ユーゴスラビアなどで紛争が頻発するようになった二〇世紀末の世界を分析した大著『文明の衝突』において、「世界的にアイデンティティにたいする危機感」が噴出した結果、世界の各地で旗などの「アイデンティティの象徴」が重要な意味を持つようになり、「人びとは昔からあった旗をことさらに振りかざして行進し」、「昔ながらの敵との戦争をふたたび招くのだ」と指摘した(*1)。実際、彼の指摘を裏付けるかのように、インド・パキスタンの相次ぐ核実験やイラク戦争など、「文明の衝突」が続いて起こり

  • 評論・研究 高橋 誠一郎 戦争と文学 ――自己と他者の認識に向けて

    一、「新しい戦争」と教育制度 二〇〇一年は国連によって「文明間の対話年」とされたが、残念なことにその年にニューヨークで旅客機を用いた同時多発テロが起きた。むろん、市民をも巻き込むテロは厳しく裁かれなければならないし、それを行った組織は徹底的に追及されなければならないことは言うまでもない。ただ、問題なのはこれを「新しい戦争」の勃発ととらえたブッシュ政権が、「卑劣なテロ」に対する「報復の権利」の行使として市民をも巻き込む激しいアフガニスタンの空爆を行い、それを「文明」による「野蛮の征伐」の名のもとに正当化したことである。 そして、「

  • 評論・研究 高橋 誠一郎 司馬遼太郎の夏目漱石観   ―比較の重要性の認識をめぐって―

    はじめに 日露の「文明開化」と夏目漱石 夏目漱石は講演「現代日本の開化」において、明治維新以降の日本の「文明開化」を、それは「己を棄てて先方の習慣に従」い、「器械的に西洋の礼式などを覚える」ような「外発的」なものであり、「皮相上滑りの開化」であると厳しく批判した*1。ロシアの思想家チャアダーエフも、『哲学書簡』の「第一書簡」で、ピョートル大帝以降のロシアの「文明開化」について、「われわれには内的発展」がないと批判し、それは「輸入と模倣の文明が当然招いた結果」であると厳しく批判していた*2。日本とロシアの近代化を比

  • 随筆・エッセイ 高橋 千劔破 虫の日本史

    目次一 虫愛ずる国日本二 常世の虫と胡蝶の夢三 養蚕と養蜂の歴史四 昆虫以外の虫たち 一 虫愛(め)ずる国日本 神武天皇が号したトンボの国日本