検索結果 全1004作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 短歌 菊地 良江 鼓打つ

    風を受け揃いて廻りはじめたる黄のかざぐるまとわれと距離あり 『佳季』昭和五十年 公示されし毒餌撒かるるまでの日を野犬に優しその仔も呼びて 神を説かれおりつつ信じ得ぬわれを写して凍る夜の玻璃一枚 電球を割りて口金選(え)る家ありその先の使途われには分からず

  • 戯曲 菊池 寛 父帰る

    人 物 黒田 賢一郎 二十八歳 その弟 新二郎 二十三歳 その妹 おたね 二十歳 彼等の母おたか 五十一歳 彼等の父宗太郎 時<div align="just

  • 吉岡 実 僧侶

    僧 侶 1 四人の僧侶 庭園をそぞろ歩き ときに黒い布を巻きあげる 棒の形 憎しみもなしに 若い女を叩く こうもりが叫ぶまで 一人は食事をつくる 一人は罪人を探しにゆく 一人は自涜 一人は女に殺される <strong

  • 小説 吉岡 忍 鹿の男

    昔の話だ。おれが、いまのきみらと同じくらいのガキで、海の向こうの、どこか遠い国で戦争が終わったころの話だ。終わって数年後のことだった。それがどういう戦争だったか、もちろんおれはなにも知らなかった。 ガキにとっちゃ世の中なんか、昔もいまも、よそのだれかが勝手にでっち上げたもので、どうせ自分のものじゃない。なにが起ころうと知ったこっちゃないし、戦争だろうが平和だろうが、自分とは関係ないと思っていたんだ。 もちろんおれだって、学校で少しは勉強したさ。昔も昔、大昔、ドイツとイタリアと日本が組んで世界中を相手に戦争をおっぱじめ、敵味方双方で何百万人も死んだあげ

  • 小説 吉行 エイスケ 女百貨店

    1 「ハロー。」 貨幣の豪奢で化粧されたスカートに廻転窓のある女だ。黄昏色の歩道に靴の市街を構成して意気に気どつて歩く女だ。イヅモ町を過ぎて商店の飾窓の彩玻瑠(いろがらす)に衣裳の影をうつしてプロフエショナルな女がかるく通行の男にウインクした。 空はリキユール酒のやうなあまさで、夜の街を覆ふと、絢爛な渦巻きがとほく去つて、女の靴の踵が男の弛緩した神経をこつこつとたたいた。つぎの瞬間には男女が下落したカワセ関係のやう

  • 小説 吉川 英治 べんがら炬燵

    雪の後 北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂(ひさし)の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口(すずめぐち)にわずかばかりつよい陽の光が刎(は)ね返ってい

  • 評論・研究 吉田 健一 言葉

    いつもこの言葉といふものに戻つて来る。それは誰でもさうであるのに違ひないが言葉といふもの、この場合は日本語をその反対に少数の専門家が研究に用ゐる材料と考へて他のものが知つたことでないとする時に例へば国語審議会のやうな話にならない機関が設けられることになる。それが日本語でなくても一国の国語をその道の専門家が研究の材料と見るのは当然のことであつて又その研究が無意味なものと決つてゐる訳でもない。併しここに専門家といふものが忘れ勝ちなことが一つあつてそれはどういふものでも専門的な研究の対象になればそれそのものでなくなるといふことである。このことは虫ピンで留められた昆虫の死骸からも類推される。或

  • 小説 吉田 絃二郎 島の秋

    「清(せい)さん一時(いつとき)俺が持たう。」 でつぷりと肥つた五十恰好の日焦けのした男は前に歩いてゐる色の青白い若者に声をかけた。 「なあに、親方、重くも何ともありませんから……」 清さんと呼ばれた若者はかう言つて肩にしてゐる振り分けの荷物をもう一方の肩にかへた。前の方の荷は四角な木の箱を白い布で巻いて、さらにその上を人目に立たないやうに<r

  • 小説 吉田 絃二郎 浅黄服の男

    (上) 雨の日が幾日も続いた。工場の多い芝浦の埋立地にも春の雨は柔かな柳の芽を促して、さすがに暢然(のんびり)とした気分を湧かした。芝浦鉄工所のけたゝましい六時半の汽笛を聴いてから、最(も)う三十分と経つた頃だツた、下宿の婆さんは階段の下から味も素ツ気もないやうな声で大石を呼んだ。 『大石さんツたらありやしない。<

  • 評論・研究 吉本 隆明 高村光太郎(抄)

    目次 戦争期敗戦期戦後期 戦争期 中日戦争期にはいってからは、「道程」以来、父光雲の権威に象徴される日本の庶民社会の生活意識やモラルに反抗して、智恵子夫人との孤立した生活によってまもられてきた高村の内的な世界は、「

  • 評論・研究 吉野 作造 民本主義を論ず

    民衆的示威運動を論ず 一 民衆的示威運動の来歴 本年(大正三年=1914)二月、例のとおり日比谷において民衆の示威運動があった。問題としては、減税問題などもあったけれども、主なるものは海軍収賄問題であった。同じようなことは昨年の二月にもあった。昨年二月の方は今年よりは運動も激烈で、その結果とうとう桂公を内閣から追い出してしまった。今年は政府の方の準備が行き届いておったためであろう、昨年ほどの大騒動もなく、また結果と

  • 小説 久間 十義 海で三番目につよいもの

    僕は地下鉄を手なずけねばならなかった。というのもそのころ、僕は すべてに不慣れで覚束(おぼつか)なげだったが、地下鉄はそんな僕を 有無をいわさず暗い穴ぼこに押しこみ、見知らぬ場所からもう一つの 見知らぬ場所へと無造作に放りだすように思えたのだから……。 ──金世光(キムセグワン)</rp

  • 小説 久坂 葉子 ドミノのお告げ

    或る日―― 足音をしのばせて私は玄関から自分の居間にはいり、いそいで洋服をきかえると父の寝ている部屋の襖(ふすま)をあけました。うすぐらいスタンドのあかりを枕許によせつけて、父はそこで喘(あえ)いでおります。持病の喘息が、今日のような、じめじめした日には必ずおこるのです。秋になったというのに今年はからりと晴れた日はまだ一日もなく、陰気なうすら寒い、そんな肌に何かねばりつくよう

  • 小説 久保田 匡子 フェンスの中

    1 砂地に埋まっている枯草の株を踏みしめて、低い堤の斜面を駆け下りると、舗装した道路が松林の間を縫って長く前方に続いていた。砂の上にのばした帯のようなその細い道を辿って行くと、松の枝に遮られて見えなかったフェンスの囲いが、いきなり目の前に現われた。堤から海ぎわまで続いている高いフェンスの向こう側には、青い芝生の上に白い瀟洒な家が点々と建っている、夢かと思う世界が広がっていた。 沈んだ色調の、緑褐色のペンキを塗ったゲー

  • 小説 及川 和男 雛人形

    妻が、小学校二年生の娘のために、雛を飾った。 寒い晩であった。三月一日のビキニデーの集会に出発する平和運動の代表を見送って、遅く帰宅した私は、いくらか上気顔の妻からそれを報告された。 雛を飾ったという知らせは、疲れた私をハッとさせた。もう三月か、という新鮮な思いが、この一ヵ月、カンパ活動や、各労働組合へのオルグなどに追われていた私をとらえた。しかしそれは、三月一日のビキニデーをめざす活動の中心にいながら、三月の近づきを忘れていた感覚のなまりを、後ろめたく気にかけさせるものを持っていた。 飾られた雛は、華やかであった。娘が三つになった

  • 短歌 宮 禮子 末那(まな)

    かかかか、ああ唖唖烏呼、呵呵、呵呵、天命已むなし鴉もわれも 『迦棲羅』 庭先のにはたづみより一雫の光を嘴(はし)に鶫(つぐみ)とびたつ 漆黒の切込みふかき翼もて鴉は昼の太陽かくす 俄雨夕べの笹生に音たてぬ夏の言葉は短きがよし

  • 宮沢 賢治 イーハトヴの氷霧

    イーハトヴの氷霧 けさはじつにはじめての凛々(りゝ)しい氷霧(ひようむ)だつたから みんなはまるめろやなにかまで出して歓迎した (一九二三、一一、二二)

  • 小説 宮地 嘉六 煤煙の臭ひ

    一 彼は波止場(はとば)の方へふらふら歩いて行つた。此の土地が最早(もう)いつまでも長くは自分を止まらせまいとしてゐるやうで、それが自分のにぶりがちな日頃の決心よりも寧(む

  • 小説 宮田 智恵子 橋のむこうに

    夕方の電車はいくらか混みはじめていた。軽い震動が、吊革でバランスをとっている彰子の内部にも響く。心までが振幅をくり返していた。耳も頬も妙に熱い。 「兄貴が肝臓癌であす手術をするんだ」 松野真也が開いている写真展の会場で、さっき聞いた重い口調が耳の底にこもっている。 真也の末娘の結婚披露宴で、久しぶりに克巳に逢ったのはほんの数ヶ月前だった。白髪が多くなったくらいで、そのときは体力の衰えなど微塵も感じられなかった。むしろ、ゆったりと全身を包みこむような眼差しが胸の奥に埋もれていた火を掻き起こし、その後もしばらく彰

  • 小説 宮田 智恵子 風の韻き

    膝を大きく屈伸させてブランコに力を入れると、目の前にあるマンションを蹴上げるようにして体が吸い上げられる。空が近づき、雲にふわりと乗りそうになる。が、反動ですぐに引き戻され、高層の建物はこんどは傾きながら視野をすべる。四階の亜美の部屋の窓からカーテンが少しはみだしていた。 亜美が再婚した父のもとで暮らすようになってやっとふた月である。二人とも働いているから、亜美は夕方おそくまで一人でいなければならない。はじめて経験する四階の住居にも、まだ慣れないでいた。 亜美は思いきりブランコを漕いだ。体がしだいに軽くなり、公園とマンションの境にある木立ちを跳び越え