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検索結果 全1058作品
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小説 左近様おぼえ書
讃岐の国では「だだっ子」のことを「左近(さこん)さん」と呼ぶことがございます。 それは、讃岐十二万石の八代藩主松平頼儀(よりのり)様のご長子左近様が、病弱の故をもって八才で廃嫡、隠居を仰せつけられたのでございますが、左近様は学才人に秀れたお方で、ことあるごとに、封建的な藩政にけちをつけられ老臣を叱咤(しった<r
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随筆・エッセイ 壺井榮二題
手さげ袋 ─新さんのこと─ 香川県で壺井榮先生の追悼展が開かれたのは、没後一週間目の昭和四十二年(1967)七月一日から七月六日までで、主催は香川県立図書館、場所は丸亀町の宮脇書店の二階であった。初日に行って見ると正面に、晩年のひどく浮腫(むく)んだ壺井先生の写真が飾られ、その下に珍しい「手さげ袋」があった。 その袋は先生が十八歳
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寛永十七年(一六四〇)二月のことである。 讃岐の金毘羅大権現に仕える社人蔵太夫は、ある雪の朝、邸のある五条八幡宮の近くで、行き倒れたまま、凍えきっている二人の男を助けた。 白髪の月代(さかやき)もおどろなその男たちは、長い流浪の果か幽鬼のようにやせて、すっかり体を痛めていた。 邸に連れて帰り、薬草を煎じてのませると、気がついたが口をきく気力もなかった。 「ゆっくり養生するがよい。」 ひとり者の蔵太夫は寝
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小説 愛の漂流
一 何故、由美子を愛してしまったのか不思議だ。婚約者がいるにもかかわらず、僕は由美子と関係を持ってしまった。僕は遊び人だ。女性との関係を深刻に考えたことはないが。 婚約者のエリカは素晴らしい女性だった。女遊びでトラブルばかり起こしている僕を心配して父親が親友の娘を連れてきたのだ。僕は一目でエリカが好きになった。豊かな長い髪や、ちからのある綺麗な目。整った顔。優しくて利口でエリカは理想的な女性なのだった。僕とエリカは出遭って二ヶ月で婚約した。両親は僕が起こしてきたトラブルのわずらわしさから逃れることが出来たことを歓んだ。良い伴侶
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小説 水の神
一 目がさめる。目がさめる直前の自分は幼い。幼児のころの夢を見ているのか。夢の記憶は残っていない。目覚めようとしている自分の存在が幼児のように思えるのだ。体が小さく柔らかで、水中のイルカの子供である。母の記憶。柔らかな胸の谷間に置かれている。その他にちらちらする木漏れ日のようなものに包まれている。そんな感覚もある。たよりなく、弱弱しい。幼児のころの感情が覚醒の直前に想起されるのか。軽くふわふわとした感覚。悪い気分ではない。 万田雄三は覚醒する。目がさめて、夜具の中で身じろぎをする。そのわずかの動きと、わずかの時間であの感覚は消え去
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小説 家畜は夢を見るか
目次第一章 ルージュと血のかおり第二章 月と薔薇の狂気第三章 挽歌、そして風 第一章 ルージュと血のかおり 一 佐久間博は朝の散歩に出かける。高原の朝である。光の中を歩み始めると、昨夜の苦しいような夢もたちまち消えてゆく。もう、跡形もない。悪夢は去り、生のきらめきが溢れる。美しい樹木
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小説 わかれ道
上 お京さん居ますかと窓の戸の外に来て、ことことと羽目(はめ)を敲(たゝ)く音のするに、誰(だ)れだえ、もう寐(ね)て仕舞つたから明日</r
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小説 十三夜
上 例(いつも)は威勢よき黒ぬり車の、それ門(かど)に音が止まつた娘ではないかと両親(ふたおや)に出迎はれつる物を、今宵(こよひ)</ru
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小説 ゆく雲
上 酒折(さかおり)の宮、山梨(やまなし)の岡(おか)、塩山(えんざん)、裂石(さけいし)<
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小説 金色夜叉 前編第七・八章
第七章 熱海は東京に比して温きこと十余度なれば、今日漸く一月の半(なかば)を過ぎぬるに、梅林(ばいりん)の花は二千本の梢に咲乱れて、日に映(うつろ)へる光は玲瓏(れい
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随筆・エッセイ 門弟泉鏡花を励ます書簡
「夜明まで」は「鐘聲夜半録」と題し例の春松堂より借金の責塞(せめふさぎ)に明日可差遣(さしつかはすべき)心得にて 此二三日に通編刪潤(さくじゆん)いたし申侯 巻中「豊嶋」の感情を看るに常人の心にあらず 一種死を喜ぶ精神病者の如し かゝる人物を點出するは畢竟作者の感情の然らしむる所ならむと
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評論・研究 「惜別」前後 ─太宰治と魯迅─
I 太宰治の長編「惜別」は、彼の作品系列の中でも特異なものとされている。主人公-魯迅の人間像が概念的で、冷えびえとした隙間風が吹き通っているというものもあれば、逆に骨格が太く太宰文学のうちでもっとも端正な作品であるという説もあり、その評価は今日でもまちまちである。 太宰が大東亜会議の五大宣言の小説化を文学報国会から依頼されたのは、昭和十九年の一月、新年早々であった。 <div a
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小説 沖見茶屋
一 黒い流れ 風がそよいだ。甘い香りがする。 耀子は「木犀の花」と、呟いた。 家の軒下に小学生の耀子の背丈より高い木が二、三本植えられている。入口に近い木の細っそりした葉のつけ根というつけ根に、小指の先端ほどの小さな花がびっしりと咲いていて、甘美な香りを風に乗せてくる。 「これは木犀という木だ。二種類あって白い花が咲くのを銀木犀、橙色の花のほうは、金木犀というのだよ」 木の名は、二、三日前、父から教わった。 耀子の父は、シンガポールから帰ってきたばかりで耀子は
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小説 立ち葵咲く
俺の名あは太一。つい先日、北海道からもどったところや。愛媛の南の、宇和島の町外れにもアパートが増え、一戸建ての家も以前よりずっと大きゅうなった。 あれから三十年近く経つのか……。 さすがに四国やなあ、五月の末ともなると、その庭先に立ち葵が咲き始めた。赤色のや、薄桃色、芯が濃紅(こいべに)なのもある。 あの日、サキの庭の立ち葵は、まっ盛りやった。 あの家は、ここからずっと離れた伊予長浜の外れの山懐に
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ノンフィクション チャプラ(草小屋)からこんにちは
一章 国際救急医療チーム 1 エチオピアの干(かん)ばつ 「四年間雨が一滴も降らない干ばつ」 そう聞いても日本人には、けたはずれの日照りの実感が伝わってこない。 ダムの水が減った、水を大切にしようといっても、梅雨になると増えて、いつのまにか忘れ去られてしまう。 一九八四年、エチオピアの干ばつが伝えられた。 砂漠に変わってしま
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小説 蒼穹の手
1 金属に似た冴えを持つ青空に、一本の橋が懸かっている。細い、銀色の橋だ。大きく弧を描いてせりあがり、虚空の奥で頂点に達したその先は――見えない。 ゴニウ・アゾは前方を仰ぎ、ついで後方を顧みた。人間がようやくふたり並んで歩けるくらいの幅の橋は、後方にも落ち込んでいる。 それだけであった。 深い溜息の濃さの空に、きらめく橋が渡るばかりで、ゴニウはその三分の一にさしかかった位置に立っているのだ。 よろめいてはいけない、と、ゴニウは思った。ここで進むかしりぞくか、どちらかを
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小説 トライチ
1 狩に出たトライチの集団は、うまい具合にヤカの大群を発見した。 ヤカは、ふたつの群に分れて、草を食べている。 だから、先任リーダーのカサラ30は、みんなを並ばせて二列にし、いった。 「前列は右の群を襲え。指揮はピクル17、おまえだ。後列は私がひきいて、左の群を襲う。全員、指揮に従って勇敢に狩をしよう。それでは行動開始だ!」 左右に分れたトライチたちは、はじめは足音をしのばせ、ヤカに近づいてからは大声をあげながら走りだした。 「ワラブヌー、ヤカ!」 </p
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ノンフィクション つかまった編集者
朝まだき、玄関の扉をたたく音がする。 「朝日新聞の記者ですが……」 という声に、早起きの年寄りがドアを開けると、三人の男がドカドカと踏み込んで来て、私は寝込みを襲われた形になった。 こちらから呈示を求めて、つきつけられた令状には「治安維持法違反の嫌疑により……」というような文句の末尾に、横浜地方検事局の山根某という検事の署名があった。 有無をいわさず私はそのまま逮捕され、ひとかどの重大犯人扱いで、保土ヶ谷警察のうす暗い留置場にほうりこまれてしまった。送りつけられた荷物の品定めでもするような、卑しい目つきをした看守から
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小説 白い秋の庭の
朝、千六本の味噌汁と納豆で軽い食事をすませたあと、モリがいつものように庭へ降りようと、縁側の端に腰をおろすと、敷居の雨戸の通り道に蟻が数匹いた。あまり見かけぬ小柄な赤蟻で、最初は古敷居のよごれかとも思えたが、向うが時折り、まるで字でも描くかのようにくるっと回ってみせるので、それと知れた。 モリが縁側に片肘をついて目をこらすと、赤蟻はふだん庭の中ほどで見る黒蟻と違って、いくぶん体が透けて花車(きゃしゃ)に見えた。触角や口の具合はさすがによく見えなかったが、三角形の頭と胴の間
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小説 籠抜け
あるころ、マンション十四階の北側ベランダから見下ろせるすぐ下の川の岸辺にひとりの男が棲みだした。確かまだ盛夏少し前の六月中下旬ごろだったと思う。 川は水幅十数メートルほど、その両側に十メートル程度の小さな河川敷がついただけのもので、コンクリート護岸された左右ほぼ一直線の岸は、鴨など渡り鳥の来る冬ならいざ知らず、このころは何の風情とてない。そのコンクリート岸からほんの五十センチほど引いた草むらに男は段ボールなどをいくつか敷き、いつとはなし寝泊まりしだしたようであった。 ようであったというのは私を含めうちのパートナーも近所の人も誰もその人物について格別言