検索結果 全1058作品 公開年逆順 公開年順 作家名逆順 作家名順 作品名逆順 作品名順

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペックの闘争(抄)

    (1)認識の精神と支配の精神 人間の創造活動には二つの種類があります。その第一の活動は認識の探求。あるいは広い意味での、私たちの住む世界の生活体験を探求すること。そして第二の活動は、この地球上の自然的かつ物質的力を支配しようとする努力です。 この第一の活動は通常精神文化と呼ばれています。その構成要素であり本質的現象は今回の会議のテーマである人文科学であります。第二の活動は要するに技術です。 人文科学とは通常ギリシャ;ローマの教養の

  • 小説 田才 益夫 カレル・チャペック著『もうひとつのポケットから出てきた話』

    第一話 盗まれたサボテン 「それでは、今年の夏、わたしが体験した愉快な出来事についてお話しいたしましょう」 クバート氏は語りはじめた。 「わたしは夏の別荘に行ったのです。どんなって、そりゃ、もう、夏の別荘というのはこんなものだという、ごくありふれた別荘でしてね、泳ぐにも池がない、森もない、魚もいない、まったくなんにもなし。でも、そのかわり、そこには大衆党があり、活動的なリーダーが推進する美化協会とか、真珠企業、それに、かなり年をくった鼻のでかい女局長がいる郵便局があったりで、そこに欠けたものを何ら遜色のないまでに補っていたという

  • 小説 田才 益夫 チャペック初期短編選

    システム 日曜日の午後のさんさんと降り注ぐ太陽の光に誘われて、ぼくたちはセント・アウグスティンの波止場につながれた蒸気船「ホドル提督」号に乗船した。ところが、こんな具合にしてぼくたちが紛れ込んだのが、独立教会派の集会のなかだったとは思いもしなかった。 三十分ほどたったころ、ぼくたちの人見知りしないなれなれしい振る舞いにたまりかねた宗教団体の人たちは、不適切な行為を理由に、ぼくたちを海のなかに放り込んでしまった。それからしばらくするうちに、もう一人の白い服の男が落下してきた。そして甲板上の善意の人が、ぼくたちに

  • 俳句 田崎 纓 モダニズム俳句

    春陰は戦帽いろのカナリヤよ近よれば風が遠のく茂りの灯滅ぶわたしと昆虫のガーゼぐるみセルを着し体内に雲もみあうかもつれどおしの炎を煽ぐ蹌踉館雛納(しま)う陽のてのひらの此の世の剣遠きほど沖うつくしき烏貝<p c

  • ノンフィクション 田尻 宗昭 公害企業摘発の決意  ~「羅針盤のない歩み」から(抄)~

    目次漁民のうったえ張り込み海をみる目のちがい硫酸の海ととまどい「鮮烈に生きたい」部下の決意難航する捜査 漁民の

  • 小説 田中 英光 野狐

    ひとのいう、(たいへんな女)と同棲して、一年あまり、その間に、何度、逃げようと思ったかしれない。また事実、伊豆のM海岸に疎開のままになっている妻子のもとに、度々戻ったこともある。 しかし、それはいつも完全に逃げられなかった。(たいへんな女)が恋しく、女房の鈍感さに堪えられなかったのである。たいへんな女、桂子の過去を私はよく知らない。私は桂子と街で逢った。けれども普通の夜の天使と違った純情さと一徹さがあると信ぜられた。 私との商取引ができた後、私は四、五人の逞(たくま)

  • 随筆・エッセイ 田中 正造 足尾鉱毒明治天皇直訴文 大要

    草莽(さうまう)の微臣田中正造、誠恐誠惶頓首頓首、謹んで奏す。伏(ふし)て惟(おもんみ)るに、臣田間(でんかん)の匹夫、敢て規(のり<

  • 田中 荘介 少年の日々

    ありがとう 春浅い山陰の四月 江(ごう)川のほとり 友なく家亡(な)く ひとり土手にすわって きらきら光る 川面を眺めていた 制服

  • 評論・研究 田中 美知太郎 古典教育雑感

    一 先日よその大学へ用事で行つた時、研究室関係の人たちから歓迎会や懇談会のやうなものをしてもらつた。わたしはどつちかといへば出不精の方で、あまり旅行好きではない。だから、多少はめづらしがられることもあるらしい。もつともその時は、はじめての土地でもなかつたから、むしろ友人たちと雑談をたのしむ普通の会合であつたと言ふ方が当つてゐるかも知れない。まあしかし、それはどうでもいいことなのである。わたしが今その会合のことを思ひ出してゐるのは、その時

  • 田中 眞由美 指を背にあてて

    狩られるもの ねじれ かがく と いのちが 両極にねじれる 点滅する螺旋階段を 昇りはじめたヒト族の向かうところは 鎖のすきま カケタモノハ ウマレテハイケナイ 水に浮かぶいのちが 与えられてはいないはずの視力に 裏がえしては 裏がえしては <p

  • 田中 眞由美 シーソーがゆれて

    ポホン ポホン(木) は、ボホン(嘘) をつかない テレポン(電話) してと、モホン(要求) もしない 或る日の風景 猫が クチン(猫) とくしゃみして 豚が バビ(豚) と鳴き 小鳥は ブ

  • 評論・研究 田島 泰彦 「個人情報保護法案」の与党修正案に、問題有り。

    新聞報道などのとおり、個人情報保護法案についての与党修正案が過日提示されました。 基本原則の削除や行政機関の法案への罰則導入など、一定の改善が見られるのは確かですが、抜本見直しには程遠く、到底受け入れられる代物ではありません。 個人情報のあるべき保護法制は、行政機関への厳格な規制と、民間については重要緊急な特定領域への個別法規制、それ以外の分野での自主規制の強化です。 今回の修正案は、行政機関のについては一定の罰則導入だけで、適正取得の規制やセンシティブ情報の収集制限、目的外利用禁止の徹底、本人情報開示の大幅な例外など、厳格な規制と

  • 評論・研究 田島 泰彦 柳美里作「石に泳ぐ魚」最高裁判決について

    1 判決の評価 私は、柳美里氏による「石に泳ぐ魚」などの作品が作品のモデルとされた女性のプライバシーを侵害し、名誉を毀損し、名誉感情を侵害するとして柳氏側に損害賠償を命ずるとともに、出版の差し止めを認める判断を示した一審・東京地裁や、原審・東京高裁の判決に疑問を感じる点が少なくなかった。 今回の最高裁判決を読んで、もっとも不満だったのは、にもかかわらず最高裁は、こうした下級審判決に何ら独自の判断を加えることなく、原審を丸ごと追認し、法の番人としての役割を果たさなかったことだ。 また、最高裁は、原審判断の表現の自由適合性を説明する

  • 小説 田畑 修一郎 鳥羽家の子供

    松根は五人目の軍治を生んだ時にはもう四十を越えてゐた。子供の間が遠くて、長女の民子はその時他へ嫁いでゐた位だつたが、男の児と云つては、長男の龍一が漸(やうや)く小学校に上つた許(ばか)りであり、次の昌平は悪戯(いたづら)盛りで、晩年のお産のためか軍治は発育が悪く、無事に育てばよいがと思はれる程だつ

  • 随筆・エッセイ 渡辺 清 少年兵における戦後史の落丁

    一 僕は十六の年志願し水兵として海軍に入った。(志願兵の中には、教師や役場の兵事係などの甘い勧誘の口車にのせられてきたものも少なくなかったが、僕は直接誰からもそのような強制はうけなかった。したがって主観的には全く自発的な文字通りの志願である。)太平洋戦争開始直前の十六年春だった。それから敗戦までの四年余をほとんど前線の艦隊勤務で過ごした。その間幾度か海戦にも参加し、一度は乗艦(武蔵)の撃沈にあい遭難したこともある。敗戦時は二等兵曹だった。これが僕の軍歴のあらましである。 僕は子供の頃から兵隊が好きだった。わけても「スマートな海軍」(当時の僕には

  • ノンフィクション 渡辺 清 戦艦武蔵の最期(抄)

    この一編を、 北緯一二度五〇分、東経一二二度三五分、 水深一三〇〇メートルの 海底に眠る戦艦武蔵の戦友にささげる。 (二) 「総員退去ッ!」 「生存者は急げッ!」 伝令の声はつづいた。 語尾を太く長くひいて、高くうわずったその声は、断末魔の武蔵そのものの絶叫のように、通路に反響し、デッキを震わせ、鉄壁を打ち、暗い甲板に右往左往している士官や水兵た

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 初夢

    下向きの花 地元、五行川(ごぎょうがわ)の堤にホタルブクロが群れています。其処(そこ)は、私の早朝散歩の終点、つまり長瀬橋の少し手前の堤の中腹です。ちなみに雨の日以外は、休まず続けるようにしています。かれこれ、六、七年になるでし

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 道なかばの記

    今朝も、ふるさとの川、五行の縁(ふち)を歩いてきました。ほんの一刻(いっとき)ですが、数年来、この「早朝散歩」に励んでおります。喜寿もとうに見送って、まだ体を働かせるのが楽しみです。 それでも雨の朝がたは、降る雨足も足もとにも気づかいます。思い静かな散歩の叶うか…と、ふと案じられたりしまして。 道のりの終点(<

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 八十路生きていく

    月見草に思う 那珂川を吹く風は川面をたわむれ、石のほてりをあおいでいた。七月初めの暑い午後、涼しげなすかし模様の影を揺らす草の中で、懐かしい月見草を探した。 丸い小石の上を三十分も歩いたろうか。名も知らぬ草ばかりが並んでいる。探しあぐねる私たちをよそに、やたら高く伸びたよもぎの葉先が、重なり合って形よくなびいていた。 もう二十数年になるが、宇都宮大学に自転車で通い続けた次男が、ある日、荷掛けに月見草をつけて

  • 随筆・エッセイ 渡辺 通枝 野の菊

    野の菊 我が家には庭がありません。庭はおろか、空き地も無いのです。 気がつけば、「家」と「庭」との二文字が結合し、「家庭」の一語は出来ていました。 そうか…。 で、狭い駐車場の南側、石塀のきわに、プランターが数個据えたことです、庭の無い家庭を補うつもりで――。 二、三年前の、あれで初秋のころでしたろう。 農協直売所のかたわらの涸れた側溝に咲く、一茎の野の