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花卉(抄)

《目次》

   神の白鳥

神さまが、膝でスワンを慈しむ。

御手にふれたこの抜け羽毛()

ぼくは冷たい歌を思ひ出す、

(ねぐら)をさがす小鳥のやうに。

ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、

ストーヴに、(こゞ)えた両手を翳すために。

ぼくはあなたのスヱーター・ポケットに(もぐ)りこむ、

団欒の、明るいピアノを聴くために。

   睡れる幸福

黎明(あけがた)、あなたはきつと、機織音でぼくの夢を揺ぶる。

あなたの震はす指先に、露に濡れそぼつたスワン・リヴア・デイジイが咲いてゐる。

(をさ)の中で、

幻の星条が消えたり燈つたりする。

ぼくは渺かに、織りかけの薄絹(うすもの)を見る。

淡彩のシヨールが極の方へ靡いてゐる。

あなたは何時の日か、黙つてぼくに指ざした(ママ)

――幸福はあすこに睡つてゐる。と……

   極 光

あなたは三角洲の葦間から、

流暢な各国語でぼくに喋りかける。

ぼくはいちいちそれを懸命に、

速記する、翻訳する。

――アノ橋ノ袂ニ、アノ橋ノアチラガハノ袂ニハ……

――誰カガムカフ岸ニ、誰モムカウ(ママ)岸ニハ……

長い鉄橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐる。

渡りかければ、ぼくも光のなかへ隕ち込むだらう。幸福を(かゝ)へて、不幸を(いだ)いて――

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2010/01/18

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乾 直恵

イヌイ ナオエ
いぬい なおえ 詩人。1901(明治34)年~1958(昭和33)年。高知県生まれ。東洋大学国文科卒。百田宗治の『椎の木』同人として詩壇に登場。室生犀星や伊藤整、三好達治と知り合い、『詩と詩論』、『文芸レビュー』などに詩や俳句、評論などを発表。主な詩集は『肋骨と蝶』『花卉』『海岸線』などで、独自の抒情詩を展開した。

掲載作は『日本現代詩大系 第9巻』(河出書房刊)によった。

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