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丸の内・銀座ほか

《目次》

 東京駅

 丸の内

 地下鉄

 銀 座

 東京駅

東京駅は

ウハバミの

燃える舌で

市民の

生活を呑吐する

玄関口、

朝は遅刻を怖れて

階段を一足とび

夕は

疲れて生気なく

沈黙の省電に乗る

所詮、悪蛇の毒気に触れて

人々の

麻痺は

不感症なり。

 丸の内

『戦争に非ず事変と称す』と

ラヂオは放送する

人間に非ず人と称すか

あゝ、丸の内は

建物に非ずして資本と称すか、

こゝに生活するもの

すべて社員なり

上級を除けば

すべて下級社員なり。

 地下鉄

昼でも暗い中を

走らねばならない

お前不幸な都会の旅人よ、

地下鉄を走るとき

爽快な風が吹く

でも少しも嬉しくない

政治といふ大きな奴の

肛門の中を走るやうだから

地下鉄は

つまり多少臭いところだ。

 銀 座

もし東京に裏街といふものが

なかつたら

銀座は日本一の表街だが、

表は表だが

銀座は

医者にひつくりかへされた

トラホームの眼瞼のやうだ

ブツブツと華美(はで)で賑やかな

消費の粒が

まつかにただれて列んでゐる

突如

  ウヰンドーに

煉瓦を投げつけて

金塊を盗む悪漢現る。

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2009/04/24

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小熊 秀雄

オグマ ヒデオ
おぐま ひでお 詩人 1901~1940 北海道に生まれる。少年時より人夫や職工をして北海道を流浪。1928(昭和3)年上京、1931(明治6)年プロレタリア詩人会に参加、口語を駆使し旺盛に時代を撃ち続けた。

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