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馬上の詩

わが大泥棒のために

投縄を投げよ

わが意志は静かに立つ

その意志を捕へてみよ。

その意志はそこに

そこではなく此処に

いや其処ではなくあすこに

おゝ検事よ、捕吏よ、

戸まどひせよ。

八つ股の袖ガラミ捕物道具を、

そのトゲだらけのものを

わが肉体にうちこめ

私は肉を裂いてもまんまと逃げ去るだらう。

仔馬、たてがみもまだ生えた許り、

可愛い奴に私はまたがる、

私の唯一の乗物、

そいつを乗り廻す途中には

いかに大泥棒といへども

風邪もひけば

女にもほれる、

酒ものめば、

昼寝もする、

すべてが人間なみの生活をする。

ただ私の大泥棒の仕事は

馬上で詩をつくること、

先駆を承はること、

前衛たること、

勇気を現はすことにつきる。

私が馬上にあつて

詩をうたへば――。

あゝその詩は

金持の世界から何物かをぬすむ、

まづ奴等の背骨をぬすむ

奴等がぐにやぐにやに腰がくだけてしまふやうに

それから歴史を盗む、

そしてこつちの帳面にかきかへてしまふ、

それから婦人を盗む、

こいつはたまらない獲り物だ。

偶然をぬすんで必然の袋へ、

学者をぬすんで

我々の記録をつくつて貰ふ、

少女をぬすんで

我々の仲間のお嫁さんに、

国家をぬすんで

こ奴を血にいつたん潜らせる。

宗教をぬすんで

こいつだけは只でくれても

我々の世界では貰ひ手がない。

わが友よ、

戦へ、

敵のもちものは豊富だぞ――、

ぬすめ、

それぞれ大泥棒の襟度を現はせよ、

仔馬の集団、

赤きわが遠征隊、

捕吏の追跡、

閃めくカギ縄マントでうけよ、

マントが脱げたら

上着でうけよ、

上着がぬげたら素裸だ、

鞍が落ちたら

裸馬だ。

すべて我々は

赤裸々にかぎる、

行手は嵐、

着衣は無用だ、

裸のまゝ乗り入れよ。

裸の詩をうたへよ。

わが大泥棒の詩人たちよ。

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2008/11/09

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小熊 秀雄

オグマ ヒデオ
おぐま ひでお 詩人 1901~1940 北海道に生まれる。少年時より人夫や職工をして北海道を流浪。1928(昭和3)年上京、1931(明治6)年プロレタリア詩人会に参加、口語を駆使し旺盛に時代を撃ち続けた。

掲載作の初出は、『小熊秀雄詩集』(1935年〈昭和10年〉耕進社刊)だが、1982年岩波書店刊岩波文庫から収録。

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