野ばら
大きな國と、それよりすこし小さな國とがとなりあつていました。
ここは
ふたりは、石碑の建つている右と左に番をしていました。いたつてさびしい山でありました。そして、まれにしかそのへんを旅する人かげは見られなかつたのです。
はじめ、たがいに顏を知りあわないあいだは、ふたりは敵か
ちようど、國境のところには、だれが植えたということもなく、
「どれ、もう起きようか。あんなに蜜ばちがきている。」と、ふたりは申しあわせたように起きました。そして外へ出ると、はたして、太陽は木の
ふたりは、
「やあ、おはよう。いい天氣でございますな。」
「ほんとうにいい天氣です。天氣がいいと、氣持がせいせいします。」
ふたりは、そこでこんな立ち話をしました。たがいに頭をあげて、あたりの
靑年はさいしよ
はじめのうちは、老人の方がずつと强くて、
この靑年も、老人も、いたつていい人々でありました。ふたりともしようじきで、しんせつでありました。ふたりは一生けんめいで、
「やあ、これはおれの負けかいな。こうにげつづけては、くるしくてかなわない。ほんとうの戰爭だつたら、どんなだかしれん。」と、老人はいつて、大きな口をあけて笑いました。
靑年は、また勝ちみがあるのでうれしそうな顏つきをして、一生けんめいに目をかがやかしながら、相手の王さまを追つていました。
小鳥は梢の上で、おもしろそうにうたつていました。白いばらの花からは、よいかおりを送つてきました。
冬は、やはりその國にもあつたのです。寒くなると老人は、南の方をこいしがりました。
その方には、せがれや、
「早く、ひまをもらつて歸りたいものだ。」と、老人はいいました。
「あなたがお歸りになれば、知らぬ人がかわりにくるでしよう。やはりしんせつな、やさしい人ならいいが、敵、味方というような考えを持つた人だとこまります。どうか、もうしばらくいてください。そのうちには、春がきます。」と、靑年はいいました。
やがて冬が去つて、また春となりました。ちようどそのころ、この二つの國は、なにかの
「さあ、おまえさんと私はきようから
これをきくと、靑年は、あきれた顏をして、
「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵同士でしよう。私の敵は、ほかになければなりません。戰爭はずつと北の方で開かれています。私は、そこへ行つて
國境には、ただひとり老人だけがのこされました。靑年のいなくなつた日から、老人は、ぼうぜんとして日を送りました。野ばらの花が咲いて、蜜ばちは、日があがると、暮れるころまでむらがつています。今戰争は、ずつと遠くでしているので、たとえ耳をすましても、空をながめても、
ある日のこと、そこを旅人が通りました。老人は戰爭について、どうなつたかとたずねました。すると、旅人は、小さな國が負けて、その國の兵士はみなごろしになつて、戰爭は終つたということを告げました。
老人は、そんなら靑年も死んだのではないかと思いました。そんなことを氣にかけながら、石碑のいしずえに
老人は、なにかものをいおうとすると目がさめました。それはまつたく夢であつたのです。それから
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2016/03/19