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風流活人剣

   凡例

   トーク 活弁の科白

   F・I フェイドイン。だんだん明るくなって場面が転換する。

   F・O フェイドアウト。だんだん暗くなって場面が転換する。

   O・L オーバーラップ。映像が二重写しになって場面が転換する。

 1=(F・I)寄席内部

 場末の寄席の情景。

 高座で講釈師が車輪に張り扇を叩いて居る。

 客筋は余りいい方でない。

 浪人者の篠原求馬と大倉鉄心とを紹介します。

 (この処でちょッとしたギャグを挿入する考えです)

 子供が親父の膝に腰掛けてすしか何か喰う。

 大倉鉄心がチラッと横目でそれを見た。

 懐の紙入れを取り出した。中味は天保銭が五六枚、求馬の袖を引いた。

 求馬自分の紙入れを鉄心に渡す。

 鉄心調べると此の方は空ッけつ。

T「実に三十五万両の大金」

 これは高座で講釈師が言ったのです。

T「三十五万両と云えば御承知の通り千両箱が三百と五十」

 味気なく聞いている鉄心であり求馬である。

T「その三百五十の千両箱を」

T「沿海の離れ小島に隠しまして、これを銭五島と称しました」

 高座の講釈師は盛にまくし立てるし、子供は美味そうに喰って居るし

 求馬と鉄心は面白くありません。

T「嘉永六年十二月、哀れ銭屋五兵衛は磔柱の露と消えました」

T「銭五島に隠した三十五万両の所在は今もって判りません」

 大倉鉄心が此の話に興味を持ち始めます。講釈師、読み終りました。

T「銭屋五兵衛の一席之を以って読み切りと致します」

 客はぞろぞろ帰り始める。

 大倉鉄心考え込んで了った。

2=寄席の表

 一番遅れて出て来た篠原と鉄心。

 その時、

T「泥棒ッ」

 と叫んで人々が走って来る。

 巾着切のお蘭、追われて逃げ来る。

 求馬と鉄心の背後から追い抜ける時、考え込んで居る鉄心を突き倒して走り走る。

 後から血眼になって横山新太郎(浪人者)と弥次馬が追って行く。

 二人呆然、見送って居る。

O・L

  (寄席の表は芝居を変えて内部へ持って行こうかと思って居ます)

3=柳の木の下に夜鳴き蕎麦屋が居る

 蕎麦を食い乍ら大倉鉄心が求馬に、

T「本当だろうか?」

T「銭五島の三十五万両」

 「馬鹿だな此奴は」と求馬。

T「本当なら、どうする?」

T「勿論、三十五万両探しに行くさ」

T「一生かかるぜ」

T「ちっとも構わん」

T「一生かかって、親の敵を探す奴も居る世の中だ」

 求馬厭な顔した。

T「それを言うな」

T「クサルな貴様はまだ五年だな」

 求馬が帰ろうと言い出した時掏摸のお蘭が呼びとめます。

T「さッきお預けした物お返し下さいません?」

 二人面喰った。

T「人違いじゃないですか?」

 イイエとお蘭、大倉をさして、

T「確かに、あんたよ」

 二人いい加減にあしらって歩き出す。

4=橋の上

 横山新太郎とお京、考え込んで居る。

T「困ったわね、新さん」

 其処へお京の兄の太三郎が現れて、

T「絵図面を持って来なすったか?」

T「約束の五十両だ」

 新太郎、困って、

T「それが、失くなったのです」

 太三郎「ナンだと?」お京が傍から、

T「来る道で掏摸に()られたんです」

 橋の袂に加賀屋七兵衛(商人風ですが実はこれギャングの親分で海賊です)用人棒を数多背後に従えて現れる。

 太三郎の話を訊いて更に新太郎に、

T「では六十両では如何です」

T「しかし、盗まれたものを……」

 と新太郎。

 太三郎が傍から、

T「まだ、シラを切るんだね」

 加賀屋が用心棒に合図する。

 一人がスラと抜く。

 驚くお京。

5=河岸を

 カメラ移動します。

 「五月蝿いなァ」と時に振り返り乍ら歩く二人。

 その後をお蘭姐さん。

T「何時迄歩かしとくのサ」

T「いい加減に出したらどう?」

T「その右の袂のブラブラした物それ何?」

 エッと大倉鉄心立ちどまった。成る程右の袂から袱紗包が出て来た。

 「それご覧」とお蘭手を出した。

 求馬が思い出した。アッ、

T「此奴さっきの巾着切だぞ」

 鉄心も気が付いた。包を懐へ入れる。

 お蘭が「オヤ?」

T「返さないつもりね?」

T「貰って置く」

 その時、橋の方に人の叫び、

 求馬と鉄心走り出す。

 見送るお蘭。

6=橋の上

 横山新太郎一太刀浴びて倒れる。

 太三郎、新太郎の身体を調べる。

T「お京の奴が持っているのかも……」

 と加賀屋に云う、

 お京慄き逃げんと争う。

7=橋の袂

 駈けつける求馬と鉄心の行手に、

 大手を拡げた用心棒の一人大伴猿右衛門。

 新太郎河ン中へ斬り落される。

 お京も続いて自ら水中に跳び込む。

 加賀屋一味仕方がなく後を猿右衛門に任せて去る。

 求馬と猿右衛門睨み合ってる。

T「いくらで雇われた」

T「賄付で月一両」

 傍から大倉鉄心、

T「この不景気に羨ましい奴」

 猿右衛門怒って、

T「この野郎抜かんか、早く抜け!!」

T「抜くから驚くな」

 求馬抜いたトタン猿右衛門斬られてガーッとのけ反る。その横ッ面ピシャリと叩いて、

T「竹光じゃ、安心せい」

8=川に浮きつ沈みつお京の姿

 鉄心と求馬、急ぎ磧へ駈け下りる。

(F・O)

9=(F・I)長屋(夜)

 求馬と鉄心の住居は隣り同士。他に五六軒の長屋。

 濡れ鼠のお京を求馬の住居へ連れ込んで焚火等で介抱する。

 気絶して居たお京我に返る。

 鉄心は向いの講釈師の家を叩き起して、

 お内儀さんに来て貰う。

 疲れと不安のお京。

T「新さん……は?」

T「随分探したのだけれど」

T「明日、も一度あの辺りで訊いて上げるよ」

 講釈師のお内儀鉄心に起こされて着物を持ってやって来ます。

 求馬、鉄心に、

T「俺は貴様ん処で寝るぞ」

 とお京の介抱をお内儀に頼んで鉄心と求馬チョッとした荷物を提げて出て行く(何か内職の道具等)。

10=鉄心の住居

 求馬忘れ物で又取って返す。

11=求馬の住居

 お内儀が手伝って濡れた着物を脱ごうとして居た。

 お京驚く。

 求馬一寸テレて押入れの奥から仇討赦免状を取り出し押し戴いて出て行く。

12=鉄心の住居

 壁に穴あり。その穴から、

 隣のお京の姿をチラチラ横目で睨んで居る鉄心。

 求馬が先刻の(お蘭から貰って置いた)地図を壁にベタリと貼り付けて穴を塞いで了う。

13=求馬の住居

 お内儀はお京を(やす)ませて出て行く。

 後でただ一人お京、

 力無く立ちいると表の戸に閂を掛ける。

(F・O)

14=(F・I)長屋の朝

 濡れたお京の衣裳が物干竿に掛けられる。

 講釈師が顔を洗い乍ら鉄心と話して居る。

15=求馬の住居

 お京も眼を覚ます。

16=井戸端

 鉄心が講釈師に又訊いている。

T「昨夜の話、本当ですか?」

T「三十五万両ッて」

T「本当ですとも」

T「銭五島ッて何処にあるんです?」

T「五兵衛程の男だから絵図面を遺して死んだろうとわしは思っとりますがね」

T「成る程、絵図面をね」

 お京戸を開けて出て来る。全然疲れて居る。

 講釈師や内儀さんが、まァまァと又寝かす。

17=隣りの鉄心の住居

 求馬と鉄心飯を喰う。お粥が七輪に掛けてある。

18=求馬の住居

 一人床に横になって居るお京。

 求馬がお粥と膳を持って来る。

 何か言おうとしたがお京が此方を向こうともしないので黙って出て行く。

 置いてある粥と膳部。

(F・O)

19=(F・I)居酒屋の昼

 鉄心と求馬、徳利一本でねばって居る。

T「チョイと踏めるね、あの女」

 求馬「馬鹿な事」と鉄心を叱って、

T「本当に男は死んだろうか?」

T「勿論死んでるよ」

 居酒屋の壁に貼紙。

  娘さん至急入用

 求馬はその貼紙を見てお京の其処に働く姿を想って、ホクソ笑む。

 お京の兄貴の太三郎が二人の姿を見る。

(F・O)

20=(F・I)長屋

 求馬、鉄心帰って来た。求馬一人お京の住居へ入る。

21=お京の住居

 お京既に、着物を着換え終っている。

 求馬が、

T「ずっと、川下でも訊ねて見たんですが」

 お京改まって、

T「いろいろ有難う御座いました」

22=隣の鉄心の住居

 壁越しに、それと聴く鉄心。

23=お京の住居

 求馬、お京を送って出る。

T「家は何処なんです」

T「浜町河岸に兄が居ります」

T「送って行きましょう」

T「昨夜の事は、私から、兄さんに話した方がよいと思う」

 長屋の入口の方へ肩を並べて、歩き乍ら、

T「それには及びませんの」

T「昨夜、あの人を殺した男、あれが兄です」

T「じゃ、姐さんは、帰り度くないんだね」

T「別に、無理に帰らなくったッていいじゃ無いか」

T「でも……」

T「遠慮なんか、要らんよ」

T「本当に、何日迄、居てくれたって構わないんだよ」

T「でも御迷惑では……」

T「迷惑どころか、喜んどるよ、此奴は」

 家主が、店賃を集めて居ます。お京の住居へ来て驚く。

T「篠原さん早い事奥さんを貰ったのかね?」

 二人テレて「違うよ、大家さん」

T「今月からこの家は、この人が借りて俺は隣へ引ッ越したんだよ」

 お京紙入れを調べて小判を出し、

T「お釣り御座いますかしら」

T「小判が一枚ッきりなんですわ」

T「来月でも何日でも結構ですよ」

24=隣りの鉄心の住居

 鉄心聴いた壁越しの隣りの様子に意を強くした。大家が訪れる。

T「小判で釣りがあるかね?」

 大家ハイハイ御座いますよ、と算盤をパチパチやり出す。鉄心が怒った。

T「ナンダ、釣りがある?」

T「この助平親爺奴、今貴様隣りで釣りが無いと言ったではないか?」

T「お隣りは今月分の店賃が一つ」

T「お前さん処は今月でもう九つも滞ッとるわ。一両では足らん位じゃ」

 鉄心急に三拝九拝拝み倒しの手に出ます。

(F・O)

25=(F・I)居酒屋

 娘さん至急入用の貼紙が剥ぎとられると縄暖簾を潜ってお京の美しい笑顔(此処で何かテクニックなど用いて十日ばかり日が経ちました)

26=居酒屋の表

T「早いものだね、あれからもう一月になる」

 お京に送られて求馬と鉄心出てくる。

27=通り

 巾着切の姐御お蘭さんに呼びとめられた。

T「随分探したのよ」

T「この間、預けといた品もういい加減に返してよ」

T「また言ってやがらァ」

T「じゃァね一両で買うわ、あたし」

T「あの中には紙ッ片が一枚あったきりだぜ」

T「それが欲しいのよ」

T「一両でね」

T「二両でもいいわ」

T「三両」

T「五両で如何(ドウ)?」

T「チョッ、一寸考えさせて呉れ姐さん」

 二人お蘭と別れて、

28=鉄心の住居

 壁に貼った絵図面を前に考え込んだ鉄心と求馬。

T「五両?」

(F・O)

29=(F・I)長屋

 夜更けてお京勤め先の居酒屋から帰ってきます。

 求馬と鉄心に何か土産を買って来て渡す。

 「お寝みなさい」といって、

30=隣のお京の住居へ

 戻って来て考え込む。

 近頃何だか新太郎さんに済まないと云う気持がある。と云って新太郎を忘れた事なぞ片ときもなかった。

 考え込んでるお京。戸を叩く音。

T「お京さん」

T「横山新太郎さんの使いの者ですが」

 その声にも驚いたが、

31=隣りで

 内職の夜業で起きて居た求馬と鉄心が驚いた。

32=お京の住居

T「あの人無事で居たんですか?」

 戸をあけると兄の太三郎です。

T「兄さん?」

 加賀屋の用心棒が五六人、その中に大伴猿右衛門も居ります。

T「絵図面を出せ」

T「新太郎から預って居た筈だ」

 用心棒達抜刀した。処へ隣から篠原求馬駈せ付けた。

T「ナンダ貴様達ッ」

 ふと、猿右衛門を見て、

T「よー大将、稼いどる喃」

 これで立廻りです。大倉鉄心と大伴猿右衛門立廻り乍ら話す。

T「一体貴様達あの女に何の用事があるのだ」

T「銭五島の絵図面を取りに来たんだ」

T「あの三十五万両の?」

T「して手に入れたか?」

T「持って居ないらしい」

T「三十五万両の仕事に月一両は安いぞ」

T「今月から二両に|加増(アガ)った」

T「少し貸せよ」

 結局、

 太三郎達は逃げて了います。

 (長屋の仕出しがこの立廻り中にノコノコ起きて来る事)

(F・O)

33=(F・I)朝――お京の住居

 昨日の立廻りでホコロビた求馬の着物を繕って居るお京。

34=鉄心宅

 鉄心は留守、求馬蒲団にくるまって待って居る。

35=お京の住居

 縫い上げて立ち上るお京。

36=井戸端

 内儀さん連二、三の話。

T「篠原さんッたら、ぞっこん惚れてんのよ」

T「それに口説けないなんて、ダラシが無いわね」

T「命を救けた上、勤め先迄世話してやってさ」

 此の話をお京、戸の内部で聴きました。

 井戸端では尚も、

T「それに私、女の方が少しは恩に着てもいいと思うの」

T「ああ云う顔の女は生れつき根性が図太く出来てんのよ」

 お京が出て来たので黙って了う。お京求馬の処へ。

37=内部

 繕った着物を持ってお京入って来る。

 求馬着る。

 手に傷をして居る。

 お京が見て繃帯をしてやる、と云った程度のラヴシーンがあります。その時大倉鉄心駈せ帰る。

T「二十両で買うと言い出したよ」

 巾着切のお蘭が鉄心の後から入って来る。

 鉄心壁の絵図面を剥がす。

 お京、図面を見て驚く。

T「これです、新さんが盗られたと言って居た……」

T「アノ……銭五島の絵図面?」

 鉄心烈火の如く怒ります。

T「二十両で千両箱を三百五十持って行こうとはッ」

T「この女の図々しいのに呆れたよ」

T「二十両、三十両ではこの品は絶対に売らんぞ」

 お蘭「仕方がないわね」と帰ります。

 鉄心は全然喜んどるです。

T「三十五万両、三十五万両」

T「賄付の大将の処へ持って行けば、百両で大威張りだ」

T「明日から竹光は止めようぜ」

38=長屋の入口 通り

 出て来たお蘭が、横山新太郎に捕まった。

T「確かにお前はあの時の掏摸だ」

 お蘭驚く。

T「俺から盗んだ絵図面を返せ」

 新太郎叫ぶ(手を|垂(へた)っている)。

39=鉄心の住居

 鉄心が求馬に、

T「刀が出来れば少しも早く、敵を探しだす事だ」

 お京が「敵?」と仰しゃいますと

T「父の敵です」

T「敵を討てば、百石で仕官が出来ます」

T「敵は江戸に居ります」

T「一度出逢って逃がした事があります」

 その時お蘭の案内で横山新太郎が来る。

T「絵図面はこの人達が預って居ます」

 入って来た新太郎、お京の姿を見て驚く。

T「お京?」

T「新さん?」

 呆然たる求馬と鉄心です。

(F・O)

40=(F・I)お京の住居

 鉄心と求馬とお京を前に新太郎が話す。

T「あの時、加州藩士、新居勘左衛門殿に救われ」

T「新居殿の仰しゃるには、加州侯には、銭五島の絵図面をひどく御懇望」

T「絵図面を所持する者は、百石にて召抱えるとの事」

 大倉鉄心が我事の様に喜んで、

T「それはお目出度い」

T「一生を浪人で暮す不幸な男の多い此の頃です」

T「お京さん倖せだ」

 これは求馬が言ったのです。新太郎が、

T「では、此の事を新居殿に」

 と立ち上る。

41=(F・I)夜――鉄心の部屋

 求馬と鉄心が聴いて居ます。

 貼り紙なくなって壁の穴から隣りの家がよく見えます。

 隣に誰か訪ねて来ました。

T「新居殿が、是非、絵図面を見たいと仰しゃるので」

 新居勘左衛門を伴って横山新太郎が帰って来たのです。

T「汚なくして居ります」

 お京が迎えて絵図面を出して見せる。

42=隣りの

 求馬と鉄心、壁の穴から見るともなしに見る其処へ猿右衛門が訪れた。

T「金が入ったんだ、呑みに行かんか?」

 鉄心は喜んで求馬を誘う。求馬(やや長めに)、壁の穴を見つめて居たが、ツト立って。

T「よし、呑もう」

 と三人出て行く。

43=お京の住居

 新居勘左衛門が、

T「隣りの御人にも一言、御礼を」

 と云い出したのでお京が隣りの、

44=鉄心の住居へ行くと

 出て行った後である。

(F・O)

45=(F・I)居酒屋

 へべれけの鉄心と猿右衛門。

 求馬、考え込んで居る。

 一度剥ぎ取られた「娘さん入用」の貼紙が又壁に貼られる。

 猿右衛門、求馬に、

T「俺の処へ持って来れば、百両で売れたに惜しい事だ」

 求馬、凝ッと考えてる。

(F・O)

46=(F・I)長屋 鉄心の住居(夜更け)

 酔い倒れた二人です。

47=(F・I)隣りのお京の住居(夜更け)

 絵図面の置いてある棚。

 手が伸びて絵図面を盗み去った。

(F・O)

48=(F・I)翌る朝の長屋

 鉄心の住居。

 鉄心が眼を覚すと、

 何処かへ行って居たらしい求馬が帰って来て室の隅へ坐って黙然としている。

 鉄心、隣りの家が騒々しいので見ると、

T「新居どのにこの事を」

 と、横山新太郎が慌てて出て行く。

 鉄心が呼びとめて訊くと、

T「絵図面が紛失したのです」

 と云い捨てて新太郎走り去る。

 鉄心フト求馬の大刀に気付く。

 取り上げる。竹光ではなく、本身の銘刀。

T「貴様どうして、金をッ」

T「絵図面を売った」

 求馬、静かに答える。

 愕然とした鉄心、

T「貴様ッ、よくもッ」

 一時は怒ったが、やがて淋しく、

T「そうか、判ったよ」

 と坐って黙って了う。

 お京が訪ねて来ました。鉄心が、

T「絵図面を盗まれたんですッてね」

T「哀れな奴ですなァ」

T「その絵図面を盗んだ男が、哀れな奴だと云うんです」

 求馬もお京も黙っています。鉄心独りで喋ります。

T「恐らく其の男は、あなたと別れる事が厭だったのでしょう」

T「あなたの幸せをブチ壊してまでも」

T「その男はいつまでも貴方の隣りに住んで居たかった」

T「私は、その盗ッ人を憎む気になれない」

 お京泣いた。

 求馬がスッくと立ち上る。

T「新居勘左衛門が参られたなら」

T「絵図面はありましたと仰しゃって下さい」

 と、決然出て行きます。

(F・O)

49=(F・I)質屋の店

 本身と竹光と交換して金を手に入れた求馬。

(F・O)

50=(F・I)加賀屋店先

 米問屋かなんかの大きな店です。求馬入って行く。

(F・O)

51=内部座敷

 加賀屋七兵衛の前に金を並べて求馬。

T「絵図面を買い戻し度い」

 七兵衛、求馬の血相変えた勢に怖れ、

T「蔵へ来て呉れ」

52=蔵の中

 用心棒共が待ち構える。立廻りとなる。

 求馬は竹光悪戦苦闘。

 大伴猿右衛門、立廻りをし乍ら鍔ぜりの時求馬と刀の取り換えを行う。

 忽ち求馬用心棒を斬って捨て絵図面を取り戻す。

(F・O)

53=(F・I)長屋――数日の後

 求馬が又元の隣りへ引越しです。

 鉄心と共に荷物を運ぶ。鉄心求馬を元気づけて、

T「貴様も早く敵を討って仕官するのだ」

T「今日から俺も一緒に敵を探してやるぞ」

T「敵はもう江戸に居ないよ」

T「そんな事が何うして判る」

T「判るよ」

T「確か敵の名前は山岡運平だったな」

 求馬淋しく仇討赦免状を焼き捨てる。

(F・O)

54=街道

 加州へ旅立つ新居勘左衛門と新太郎お京夫婦それに、従者二、三。

 勘左衛門が新太郎に話している。

T「貴公も仕官をしたんだから改名なさい」

T「身共も浪人時代は山岡運平と名乗って居りましたよ」

(F・O)

風流活人剣

千恵蔵プロダクション(サイレント)

  

スタッフ

原作        野村胡堂

脚色        山中貞雄

撮影        吉田清太郎

監督        山中貞雄  

キャスト

篠原求馬      片岡千恵蔵

加賀屋七兵衛    瀬川路三郎

大伴猿右衛門    尾上華丈

新居勘左衛門    香川良介

太三郎(お京の兄) 林誠之助

講釈師       三桝 豊

家主        阪東巴左衛門

お蘭(巾着切    水之江澄子

お内儀さん     滝沢静子

大倉鉄心      田村邦男

横山新太郎     田中春男  

お京        山田五十鈴

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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山中 貞雄

ヤマナカ サダオ
やまなか さだお 映画監督、脚本家 1909年~1938年 京都府出身 1927(昭和2)年、マキノ御室撮影所に入所後、シナリオを嵐寛寿郎に評価される。さらに、1932(昭和7)年2月に公開された第1回監督作品「磯の源太抱寝の長脇差」(嵐寛寿郎プロダクション)が、注目される。1933(昭和8)年、日活太秦撮影所に移籍。1934(昭和9)年、シナリオ集団「鳴滝組」を結成。1937(昭和12)年、「人情紙風船」を最後に徴兵され、1938(昭和13)年、従軍先の中国河南省で戦病死。5年間で26作品を監督製作したが、現存するのは「人情紙風船」など3作品。サイレント映画はひとつも残されていない。「風流活人剣」は1934(昭和9)年3月公開のサイレント映画で、片岡千恵蔵、山田五十鈴らが出演し、「髷をつけたる現代劇的傑作」と評された。

掲載作は「山中貞雄シナリオ集」(上巻:昭和15年2月、下巻:同年9月、竹村書房刊)を底本にした「山中貞雄作品集1」(1985年2月、実業之日本社刊)所収。文末に当時のクレジットタイトルを付した。

著者のその他の作品