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「幸せ」は「食」にあり(抄)

   

=日本の危機を救う正しい「食」と「心」=

はじめに

「日本の人口減少と人口の老化は黒船以上の脅威です。経済やテクノロジーではなく、人口問題をもっと論じなければならない。意識革命が必要です」と語ったのは、フランスの著名な歴史人口学者エマニュエル・トッド氏です。

 確かに、日本では2年ごとに、鳥取県が無くなるほど、人口減少が進んでいます。戦後のベビーブームといわれた1949(昭和24年)には269万7000人を数えた年間出生数は、今年は100万人の大台を切ったと、報じられました。もはや日本人自身がトキなどと同じように“絶滅危倶種”だとの説まで現れる始末です。人口減少は「文明の成熟」がもたらしたもの、社会が発展し、暮らしが豊かになると《少なく生んで大切に育てる》文化が根付いたという意見もあります。

 ところが、日本の置かれた現実は「文明の成熟」とはほど遠い実態です。日本の未来を担う子どもたちの10人に一人が、「発達障害」というレッテルを張られ、10代から20代の自殺者は年々増加し、死亡率のトップにあげられています。子どもが欲しくてもできない、うつや、がん患者も増え続け、医療費も国家財政を脅かすまでに膨らんでいます。

 現代では、医学の驚異的な進歩により、新しい病気が次々に生み出され、その都度、対症療法的に新たな医療費が使われることになります。しかも、その原因といえば、生活習慣病や精神的疾患など、予防に力を入れていれば、深刻な病になる前に防げるものが多いとされています。そして、生活習慣病や、キレる人間などの精神的疾患は、その根本原因に「食生活」があると考えられています。

 この辺で、病気を治すために医療費を使うのではなく、その根本にある「食」にもっと予算をさけば、対症療法的に膨らむ医療費も、もっと少額ですむようになるのではないでしょうか?

 本書は、『「幸せ」は「食」にあり』というタイトルで、私たちにとって大切な「食」を中心に考えていきます。この本が、皆様の「食」を見直すきっかけにしていただければ、幸いです。

1.現代人はミネラル不足

  

=異常な事件の原因がここに=

 先ごろ、相模原市の障害者施設で19人を刺殺するという、戦後最悪の事件が発生しました。犯人は26歳の元職員で、「障害者は生きていても意味がない」などと、身勝手な論理で、犯行に及んだのです。

 また、茨城県では真面目な高校生が見ず知らずの女性をピッケルのようなもので、めった刺しにし、川に遺棄した。さらに「誰でもよかった」というような、昔には考えられなかったような不気味な殺人事件も後を絶たない。

 また、がん患者は増え続け、認知症患者も25年には730万人、つまり5人に一人という推計まであります。しかも、子どもは減り続け、日本の未来に暗雲が漂っています。どうしてこんな日本になってしまったのでしょうか。これらの事件をきっかけに、食にスポットを当てながら問題を考えてみたいと思います。

 

食は豊かに便利になったが……

 NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」は好評でしたが、そこで放映されている戦後の食糧難は、並大抵ではありません。信州の田舎育ちの私は、山でアケビやキノコを採り、川ではウナギやフナを追いかけ、ハチの子を美味しくいただいたものです。それに比べ、現代の日本の食糧事情は、天地の開きがあります。全国どこにでもコンビニがあり、手軽に買うことのできる弁当や、レトルト食品、カップ麺から冷凍食品、総菜など、ワンコインでおなかは一杯になります。とりわけ、子どもたちが学校から帰り、塾に行くというパターンで、ワンコインを持たせ、コンビニで好きなものを買って、塾通い。これも大きな問題をはらんでいます。

 それらの食品にはミネラルが極端に不足しているのです。ミネラルとは酸素、炭素、水素、窒素を除き、体に必要な元素の事で、食品に含まれる微量のカルシュウム、マグネシュウム、鉄、亜鉛、鋼などの事で、体と心に重要な役目を果たす栄養素です。

 大手コンビニ弁当は、見た目には野菜もたくさん入り、お魚、肉も入って、おいしそうに見えます。ところが、「食べなきゃ、危険!」の共著者(食品と暮らしの安全基金・小若順一・国光美佳著 三五館)で、食のコンサルタントで知られる国光美佳さんによると、厚労省が決めた1日のミネラル摂取基準を測ってみると、全く不足しており、1か月続けると病気になる基準以下だったそうです。

 

ミネラル不足の食品

 なぜそうなるかというと、①コンビニなどで売られている食品のほとんどが、水煮食品が使われ、ミネラルが抜かれた状態になっているというのです。野菜などを水に入れて煮た後、何度も洗ってから濁り止めの食品添加物のリン酸塩を入れるため、ミネラルはほとんど洗い流されてしまうというのです。②このリン酸塩は、肉や冷凍食品を、プリプリやフワフワにして、滑らかな舌触りにするために使われ、体内でミネラルと吸着して外に出してしまうため、さらにミネラル不足を加速するというのです。

 では、ミネラル不足の食品をとっていると、どうなるのか。ミネラルは人体の組織を構成したり、神経伝達物質を作る酵素が働くときにも必要で、心の安定に影響し、神経の働きを円滑にする栄養素なのです。「金属は人体になぜ必要か」(講談社のブルーバックス・新書)の著者・桜井弘氏によれば、ミネラルは「オーケストラの指揮者や野球やサッカーの監督の役割に似ている」と述べています。

 

心のストッパーが効かない状態に

 つまり、ミネラルが不足した生活をしていると、心に感じたことを、即実行に移してしまう。それが「殺人」であったり、「放火」「ストーカー」であったり、「異常な事件」などです。つまり、人間としてのストッパーが効かない状態になるというのです。

 人間の生命の働きを東洋古来の仏法では10段階に分け、十界論として解説しています。つまり十界とは、生命の働きを、地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人界・天界・声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界の十種に分類したもので、仏法の生命観の基本となるものです。

 地獄界は、苦しみに縛られた最低の境涯です。「地」は最低を意味し、「獄」は拘束され、縛られた不自由さを表します。「がん」の宣告を受けた場合などでしょう。餓鬼界は、常に飢えて食物を欲するように、欲望が満たされずに苦しむ境涯です。畜生とは、もともとは獣や鳥などの動物を指します。弱肉強食の命で、自分より上とみるとペコペコし、下とみると威張りたがる命です。

 修羅とは、もともとは阿修羅(あしゅら)といい、争いを好むインドの神の名です。自分を他者と比較し、常に他者に勝とうとする「勝他(しょうた)の念」を強くもっているのが修羅界の特徴です。この修羅界が大きな犯罪を呼び起こすのです。なぜなら、自分と他人を比べ(差別)、あるいは自分と社会を比べ、自分が不幸なのは〇〇さんのせい、あるいは社会が悪い、という思いに駆られ、行動に移す。相模原の障害者を狙った事件を、異常者の犯罪だとする考えは危険で、むしろ典型的な「憎悪犯罪」(ヘイトクライム)ではないかと、毎日新聞のオピニオンは警告しています。この「勝他の念」は、身近な問題としてはイジメや虐待、国同士となれば「戦争」になり、世界の各地で起こる「テロ」も、この類に当たるのではないでしょうか。人間、誰しも修羅の命を持っているために、事件を起こす人を特別な人の行動とみてはいけないとの警告です。

 

一番よい食は世界遺産の「和食」に

 上田市の真田中学で不登校やいじめに悩み、食の改善で問題を解決した元・校長の大塚貢先生は、全国で起きた異常事件の現場を視察し、裁判まで傍聴した結果、「長崎のバラバラ事件でも、名古屋の殺人事件でも、共通しているのは、犯人が食べていたものはカップ麺やコンビニ弁当、焼き肉、そして好きな物しか食べない。家の暮らしは弁護士や医師など中流以上の家庭に育ちながら、食が偏っている事が、わかっています。だから簡単にキレたりします」と語っています。

 また、認知症なども、脳が正常に働かなくなり、夜と昼があべこべになって行動して排梱(はいかい)、多くの家人や介護者を煩わせるのではないでしょうか。考えてみれば、頭の髪の毛から足の爪、もちろん心臓や脳も、すべて食事からできています。決して化学物質では作られていません。

 ちなみに神経を正常に働かせるミネラルは、どんな食品に含まれているのかというと、主には青魚や海藻、木の実、乳製品などです。煮干しやアゴ(飛び魚)、昆布、発芽玄米、蕎麦(そば)、ナッツ類などにも多く含まれています。とりわけ、発芽玄米や味噌汁、納豆や豆腐に多く含まれており、戦前・戦後の一汁三菜、結論は、おいしい肉ではなく、世界遺産にもなっている「和食」が一番ということになります。私たちの若いころ、信州の田舎では、肉などは一年に数回、お客さんが来ると、家で飼育していたニワトリや兎をひねってお客に振る舞ったものです。その頃は、今日起きている凄惨な事件は起きていませんでした。

 総理も相模原の殺傷事件を受け「調査チームを設置して、二度と、悲惨な事件が起きないよう、徹底的に対策を検討する」と述べたといいます。こうした事件が起きるたびに、マスコミは大きく紙面を割き、テレビも目に余るほどの放映をするわけですが、まだ、そこに流れている根本の原因に触れている報道にお目にかかったことはありません。今回の事件をきっかけに、ミネラル不足についても専門家に徹底的に調査・研究をしていただきたいと思います。

 

2.少子化の原因を探る

   

=カップ麺とハンバーガーだけでは=

2年ごとに鳥取県が無くなる

 日本は少子化が言われて久しいが、なんと二年ごとに鳥取県が無くなるほどのスピードで、少子化が進んでいます。自民党の石破茂前地方創生担当相は福岡市の講演で、日本が直面する人口減は「静かな有事だ」と指摘、「今までのやり方を変えなければ乗り切れない。地方創生に失敗すると国がつぶれる」と危機感を訴えたと、伝えられています。確かに、市が破産したといわれる北海道の夕張市は12万人の人口が今では9千人となり、市営住宅も7割が空き家だといいます。地方に行けば、いずれの商店街も軒並みシャッター通りとなっています。これは地方だけの話ではなく、都心の豊島区でも人口が減り続け、このまま行けば限界都市だといわれています。

「限界集落」とは65歳以上の高齢者が住民の50%を超えた集落を指し、過疎・高齢化が進む山間地や離島を中心に、全国で増加中の共同体のことを言います。要するに、共同体としての維持が限界に達している集落というわけです。この「限界集落」の数は、総務省の調査では全国に1万91あり(2010年4月時点)、地域別で見ると、中国地方が2,672でもっとも多く、九州地方(2,094)や四国地方(1,750)など西日本に多い。ちなみに首都圏でも、「限界集落」は312もあるという。

 平成28年9月から始まった臨時国会はアべノミクスの総仕上げで、景気を良くしようと開会されました。しかし、子どもが減り続けていては、無理な話です。私の田舎(佐久市臼田)では4校あった小学校を2年後には1校に統一するというのです。戦後、合併が相次ぎ、村が町に、町が市になったものの、統廃合が相次ぎ、子どもの姿を見るのはまれです。代わりに鹿やイノシシ、サルが横行、ちょうど実ったころには横取りされる始末です。

 

正常な精子は二人だけ

 人口が減るということは、子どもが生まれ、結婚し、家を建てるという人が物理的にいなくなるからです。買う人(消費する人)がいなくなれば、景気は良くなりません。中高年の人でも、家の中は物であふれ、押入れを開けると物が落ちてくるほどです。もう買うものはないといってもいいくらいです。

 次ぺ-ジのショッキングな図(編集部註:割愛)は、少子化の原因を端的に表している、深刻なものです。大阪の不妊学会が平均21歳の若者60人の精子を調査した結果、正常な精子はたったの二人、異常(奇形)な精子が58人だったというのです。これはもう有事どころか「事件」ではないでしょうか。この58人の食事が、何とカップ麺とハンバーガーを常食し、コーラを飲んでいたというのです。

 この間テレビで渋谷の若者にインタビューをしている映像を見かけました。「君たち何を食べているの」という問いに、カバンから出したお菓子のたくさんの袋に書いてあるカロリー数を足して、「〇〇カロリーです」と答えていました。戦後、日本は肉の消費は4倍に増え、がんも4倍というから、その因果関係が気になります。ただ美味しければいい、おなかがいっぱいになればいい、こんな食生活が続いているようです。

 

食の貧困が障害者を生む

 また、最近、福岡や那覇、青森など5つの病院で貧困と胎児の影響についての調査が発表になり、話題を呼んでいます。この調査によれば経済的に貧困状態にある妊婦は、糖尿病や性感染症を患っている割合が高く、おなかの子に健康被害が生じる危険があると警告していました。また、そうした母親から生まれた子どもは放置すると脳に障害を及ぼしかねず、生まれても障害があり、学力や就労の格差につながりかねないとのことです。

 戦前、戦後は貧しい家が多く、貧乏でも、「子だくさん」の家庭が多く、子どもには、ひもじい思いをさせない親が多かったものです。時代は変わったものです。そういえば、戦後の食生活の変化からか、日本の難病も増え続け、現在、300種類を超えたというのです。さらには600種類にもなるともいわれています。難病指定になると、医療費が免除され、逆に国の医療費は増え続け、40兆円を超えてしまいました。難病と食の関係にもスポットをあて、大いに専門家に研究していただきたいと願っています。

 結婚して「子どもが欲しい」と言いながら、なかなかできない。1年以上たつと、不妊治療ということになる。日本では7組に1組の夫婦が不妊で悩んでいるといいます。不妊は女性側の子宮や卵子に何らかの要因があると言われ、長い間、女性が治療を受け、痛い思いをしてきましたが、実際は、男性の精子の結果に見るように、半数近くは「無精子症」など男性側の要因であることがわかってきました。したがって、平成28年度からは男性の側にも不妊治療費が出るようになりました。

 

不妊治療に4種類あるが……

 さて、不妊を解消するための生殖補助医療には4種類あると言われます。一つは「人工授精」。採取した精子を子宮内に注入して受精を試みるもの。二つはよく知られた「体外受精」。卵子と精子をそれぞれ採取して、体外で受精させ、その、受精卵を「胚」(はい)と呼ばれる段階まで培養して、子宮に戻す。この体外受精は日本では2014年に39万件にのぼり、生まれた子どもは4万7322人で過去最高になったといいます。この体外受精で生まれた子どもの割合は約21人に一人と言う多さだそうです。この治療法はイギリスのロバート・エドワーズが世界で初めて成功させ、「試験管ベビー」という言葉が社会現象にまでなったものです。

 そして精子が極端に少なく受精が困難な場合には、三つ目として「顕微授精」、これは顕微鏡を使って、受精そのものを、人為的に行うもの。そして四つ目は「代理懐胎」といい、妻以外の子宮を借りて出産を行うものです。この「代理懐胎」に大きな問題が出てきたといいます。これは精子もしくは卵子を、時にはその両方を第3者によって提供してもらうため、生まれた子どもが、自分の出自(誕生)を知ることにより、問題化するという。

 また、NHKのクローズアップ現代では、こんな例も紹介していました。

 開業医の夫の後を継ぐ子どもが欲しいと、2人は4年前から不妊治療を続けてきました。しかし、年齢とともに妊娠は難しくなるばかり。その上、妻は高血圧で、妊娠しても母子ともに命の危険があると医師から告げられました。代理出産を依頼した妻「真っ暗になりました。普通に妊娠して出産できるってことがかなわないんだなんて。」

 

800万円で代理出産を依頼

 どうしても子どもを諦めきれなかった夫婦。インターネットで見つけた日本人の業者の仲介で、中南米での代理出産にかけることにしました。卵子は現地の20代の女性医師から提供を受けることにしました。まず夫の精子と女性医師の卵子で受精卵を作ります。

 それを現地の代理母に移植し、出産してもらうのです。かかる費用は、およそ800万円。女性医師や代理母、仲介業者などに支払います。およそ40年前、アメリカで初めて行われた代理出産。

 今では、20近い国や地域に広がっています。アメリカでは渡航費なども含め費用は2,000万円を超えることもあるそうです。それに比べ、途上国では数百万円。依頼者が増え続けているそうです。中でも最近日本人の依頼が増えているのが、近くて医療技術も高いとされるタイです。

 医師で作家でもある鎌田實先生(月刊『潮』平成28年8月号)によると、夫婦けんかや離婚という家庭内のいさかいで、親が耐えきれずに真実を口にしてしまったという不幸なケースもあるという。鎌田先生は「生殖補助医療」が普及したことで「大きな苦しみを背負う人びとを生みだしていることを、僕たちの社会は見落としてきたのではないだろうか。今を生きる夫婦の苦しみを語られても、未来を生きる子どもたちの立場や権利が語られることはない」その一つが「代理懐胎」だといいます。

 

「神の領域」に手を突っ込むと……

「生殖補助医療」を長年牽引してきた慶応大学医学部名誉教授の吉村泰典先生(日本産科婦人科学会元理事長)は「私は40年やってきたけれど、今はこの生殖医療というのは本当に進歩して良かったかな、という気持ちがあります」と同誌で述べています。

 人間は科学の力を借りて「神の領域にまで手を突っ込む」ことを続けてきました。子どもを授かれない本当の原因を正さずに、対処療法を続けてきました。その結果、自分の出自を知ることで、やり場のない怒りや葛藤に苦しむ人が増える近代医学とは何だろうという疑問が湧いてきます。生命とは何か、人間の死と生、寿命を単に延ばせばいいのか、ここらで立ち止まって考える必要があるのではないのでしょうか。

 

3.自殺大国の原因はどこに

  

=精神医療の見直しが急務=

「薬に頼る」前にやることが

 東京では、連日「人身事故」という駅の表示が見られます。多い日には3か所で人身事故という自殺が行われ、大勢の乗客が、電車が1時間も2時間も止まり、大変な迷惑をこうむっています。また、この1年以内に自殺未遂経験者が53万人に上るというから、今後自殺は増えることはあっても減らないといわれています。

 現在、日本では年間の公式な自殺者数が3万人前後を推移しています。政府はこの対策のために、これまで総額500億円近くを投じて対策に乗り出していますが、顕著な効果を見せていません。

 

効果が出ないのはなぜでしょうか?

 自殺対策は現在、内閣府や厚生労働省を中心に講じられています。その主な内容とは「早期に精神科への受診を促す」というものです。

 自殺対策が全国規模で展開するきっかけとなったのは、2007年頃から静岡県富士市で「睡眠キャンぺーン」と称して行われてきたもので、眠れない…が2週間続いたら「うつの兆候」。その兆候を早期に気づき医療、とりわけ精神科に行き、適切な診察を受けましょうというものでした。そしてこの政策がモデルとなって2009年には厚生労働省が自殺対策の目玉として全国的にこの施策を展開しました。しかし、3年間で300億円を投じたこのモデルに効果はなく、失敗に終わりました。自殺者数が顕著に減ることはなかったのです。

 睡眠キャンぺ-ンがほころびを見せる中、政府は次なる手と称し「ゲートキーパーキャンぺーン」「アウトリーチキャンぺーン」を矢継ぎ早に行いました。

 ゲートキーパーキャンぺーンとは、周囲の人々にうつの兆候をみせている人を見つけ出すゲートキーパー(門番)の役割りを担わせるものでした。

 アウトリーチキャンぺ-ンとは保健師やソーシャルワーカーなどを戸別に訪問させ、うつの兆候を見せている人を見つけさせることで、自殺を未然に防ごうというものでした。しかし、これらの施策も効果を見せることはありませんでした。

 睡眠キャンぺーン、ゲートキーパーキャンぺーン、アウトリーチキゃンぺーンのいずれにも共通するのが、「精神科受診の促進」ということです。方法はどうあれ、いずれの施策も必ず精神医療への受診させることが自殺対策の前提である、ということによって成り立っています。

 自殺は精神医療によって防げる。

 自殺対策を担うのは精神医療の役割である。

 精神医療以外に自殺対策を担うことはできない。

と言わんばかりの政府の対応です。

 しかし、結果的にいずれの施策も上手くいっていませんでした。

 何故でしょう?

 そもそも精神医療には人々の自殺を防げるという理論的根拠もなければ、技術的実績もないと言われています。この事実を政府も私たち一般の国民は知りませんでした。しかし、政府は精神医療に過大な期待という幻想を抱き、そこに予算とエネルギーを注いだのでした。また私たち国民にも「自殺対策は精神医療に任せておけば良い」という、やや無責任な態度があったことも事実でしょう。精神障害者はここ15年で7倍に増え、70万人を超え、メンタル医療機関が増え続けていますが、効果が上がらないと、イタリアなどでは精神病院を無くした国まであります。

 

向精神薬には麻薬と同じ副作用が……

 下記は最も売れている抗うつ剤である「パキシル(グラクソ・スミスクライン社製造)」の医薬品添付文書の中の使用上の注意、重要な基本的注意、副作用などの欄に記載されている副作用を抽出したものです。

 パキシルを服用すると、基礎疾患の悪化、自殺念慮、自殺企図、他害行為、攻撃性、錯乱、幻覚、肝不全、肝壊死、肝炎、易刺激性、軽操、操病、不安、焦燥、興奮、反射亢進、ミオクロヌス、発汗、戦慄、頻脈、振戦、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、せん妄、痙攣、低ナトリウム血症、黄疸、けん怠(感)、疲労、ほてり、無力症、傾眠、めまい、頭痛、不眠、神経過敏、感情鈍麻、緊張亢進、錐体外路障害、知覚減退、離人症、操病反応、あくび、激越、アカシジア、嘔気、口掲、便秘、食欲不振、腹痛、嘔吐、下痢、消化不良、心悸亢進、一過性の血圧上昇又は低下、頻脈、起立性低血圧、発疹、そう痒、血管浮腫、蕁麻疹、紅斑性発疹、光線過敏症、白血球増多又は減少、赤血球減少、ヘモグロビン減少、ヘマトクリット値増加又は減少、血小板減少症、異常出血(皮下溢血、紫斑、胃腸出血等)、肝機能検査値異常(ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP、LDH、AI-P、総ビリルビンの上昇、ウロビリノーゲン陽性等)、BUN上昇、尿沈渣(赤血球、白血球)、尿蛋白、性機能異常(射精遅延、勃起障害等)、排尿困難、視力異常、総コレステロール上昇、血清カリウム上昇、総蛋白減少、尿閉、乳汁漏出、霧視、末梢性浮腫、体重増加、散瞳、尿失禁、精子の減少、骨密度の低下……。

 一見してお分かりになるでしょう。こんな、おどろおどろしい症状が出る「もの」を「薬」と呼んでいいものでしょうか? 麻薬の作用とまったく同じだというのです。即ちこれらは副作用ではなく、当然にして起きる作用なのです。しかもこの薬の医薬品添付文書には自殺という文字が23回も出てくるのです。仙台を中心に活躍する全国自死遺族連絡会の調査によれば、自殺した人の60~90%の人が、何らかの向精神薬を服用していたというから、遺族は「治ると思って医者にかかっていたのに」との思いだそうです。まったく、やり切れません。

 さらに最近は目を背けたくなるような殺人事件があちこちで起きています。これも犯人が精神科にかかっていたということで、無罪になるケースもあります。日本ではパキシルを123万人が飲んでいるというから、さらに事件が起きても不思議ではないでしょう。恐ろしいことではありませんか。また、子どもたちの中に発達障害などで授業についていけないからと、精神科に送られ、薬を飲んで、教室で眠っていることで、学校も親も「良し」としているというから、これも日本の将来にとって恐ろしい事です。小・中学校で平均10%もの発達障児のいる国など世界にあるでしょうか? 日本の危機は、もうそこまできています。

 自殺の少なかった時代に医学が発展していたのか? と言われればそうではありません。医学のレベルがかなり低い状況であっても自殺は今のようには多くありませんでした。

 もし精神医療というものが正しく、そしてその正しい実践が拡大し発展しているなら、現代に於ける自殺は極限まで減っていてしかるべきなのです。しかし、現実はそうはなっていないのです。

 

うつ・自殺の原因は人生の中に

 自殺の原因に対して直面したならば、その原因の多くはその人の人生の中に見出すことができるはずです。

 借金問題を抱えている人が精神科に行って薬を飲めば借金はなくなるのでしょうか?

 失恋で嘆き悲しんでいる人が精神科に行って薬を飲めば恋は成就するのでしょうか?

 勉強のつまずきに悩んでいる人が精神科に行って薬を飲めば勉強ができるようになるのでしょうか?

 津波で家を奪われた人が精神科に行って薬を飲めば家が建つのでしょうか?

 他人からいじめられている人が精神科に行って薬を飲めば、いじめはなくなるのでしょうか?

 自分が犯した失敗を精神科に行って薬を飲めば取り戻せるのでしょうか?

 答えはいずれもNОに決まっています。

 それくらい当たり前なことなのですが、どこか私たちは病気のせいにすることで、自らの責任を回避してしまおうという気持ちが芽生えてきてしまうのです。しかし、それは原因を解決することにはならず、むしろ原因を放置することとなり、いつまでも、いつまでも私たちを悩ませ続けるのです。

 原因に向き合うには、時に非常に高い勇気を示すことも必要でしょう。高い責任感を自覚することも必要でしょう。それを困難に感じることがあることも十分に理解できます。しかし、それを成し得ることこそ真の解決をもたらすことなのです。自殺をすれば、現在の苦しみから逃れられると思って、多くの人は命を断つのですが、仏法からみれば決して楽にはならず、かえって苦しみのまま長くその状態が続くと説かれています。その証拠に残された遺族は、どんなに悩み苦しむかが、そのことを物語っています。

 

困難を乗り越える以外解決の道はない

 自分は心の病気であるとしたところで人生の問題は解決しません。たとえ精神科医が「あなたはうつ病である」と言っても、それにはなんの根拠もないし、その治療によって人生が回復し、向上することは実績としてほとんど見ることができていません。

 やはり人生の作者・監督・主役はどこまで行っても自分でしかありません。これらの役割を人に委ねれば委ねる分、その人の人生は危うくなっていくのが実情です。

 人生には「山あり谷あり」、「七転び八起き」、「ピンチはチャンス」という言葉がある通り、それらの山や谷をどのように克服していくかということが人生の醍醐味なのであり、そこに目を向けないでいい理由など誰にもありません。最近わかってきたことは、うつや自殺を企図する人は、極端に「食」が片寄り、好きな物しか食べない、食べる時間もないという現状です。

 最近も、大手広告会社「電通」の新入社員が残業月100時間を越え、過労自殺が話題になりました。恐らく食事もカップ麺やコンビニ弁当で済ませ、眠れないからと、睡眠薬などを飲んでいたのではないかと、推察されます。どれほどの人が、こんな状況で苦しんでいるかと思えば、かわいそうでなりません。

 解決策を知り、それを実践することは大切です。しかし、その解決策が本当に解決策なのかを事実に基づいて判断することが出来なくてはなりません。

 平成28年の10月26日、厚生労働省は精神保健指定医89人の不正を認め、その資格をはく奪することを決定しました。精神保健指定医は人権を制限し、人の身柄を拘束できる権限を有するだけに、人権意識や順法精神が誰よりも高くなくてはなりません。ところが、不正によってその資格を取得するという信じ難い実態が暴かれ、しかもそれは国公立の大学病院にまで広がっていたことから、これは決して一部の問題とは言えません。多数の人々が自殺に追い込まれている多剤大量処方などのデタラメ治療が長年放置されてきた理由は、このような腐敗の広がりに表れています。

 権威や肩書き、社会的地位などに頼るのではなく、自らの目で見て、耳で聞き、肌で感じ、徹底して事実を観察することで正しさを判定していただきたいのです。それには精神を鍛え、自らの宿命と対峙しなくてはならないでしょう。「薬に頼る」前に、やるべきことはたくさんあるはずです。もうここらで日本の沈没までも招きかねない、うつ・自殺対策を根本的に見直す時期ではないでしょうか。

 それこそが自殺対策において欠かすことのできない要素なのです。命がかかっているのです。本気で取り組まねばなりません。薬など飲んでいなければ自殺などなかった……こんな悲劇が一件でも減ることを願ってやみません。

 

4.子どもを救った奇跡の食育

  

=学校給食を肉から野菜・米飯に変えたら=

 ここでは学校給食の内容を変え、いじめ・非行がなくなり、優秀校に変わった長野県・真田中学校の実験と、社員食堂や行政でも食の見直しを行った自治体の例を紹介します。(「再チャレンジ東京」の会報から)

 まず、真田中学の実験。答える人・大塚貢(教育・食育アドバイザー)

 

◆まず教師の側からの改革◆

Q:学校長として赴任直後の中学校の印象は?

A:平成4年55歳の春でした。当時、真田中学校は生徒数1,200人という大規模校で荒れていました。それでまず私は、生徒の側よりも先生。教師の側に注目しました。

Q:先生の方は、どうでしたか?

A:「親方日の丸」というか、お役所的というか、よほどの事件でも起こさない限り安泰といったところでした。特に授業がつまらない、教師も勉強していない。いままである知識をそのまま出している感じ。もし私が生徒だったら、こんな工夫のない授業をよく我慢して聞いているなと。

Q:ということは生徒さんのほうも当然…?

A:とにかく荒れていました。いじめなんて日常茶飯事。不登校は60人から70人いましてね。授業はわからない、つまらない、元気のいい子は学校を抜け出して、窃盗や空き巣狙いをする。学校の周りはタバコの吸殻でいっぱいで、集めて拾うのが日課でした。

Q:そんな状態で、先生はどこから手をつけていきましたか?

A:まず、「決めつけるな。相手の立場から見よ」ですね。悪い子がいるとすぐあの子はダメな子だと烙印を押す。自分の授業のつまらなさを棚にあげて。そこで、まず教師自身が勉強し、わかりやすく興味の沸く授業をやろうと提案しました。そして、訴えたことは「生徒指導に時間をかけるな」、時間がもったいないですしね。

 心ある先生たちはそれによく応えてくれて、立ち上がってくれました。私の呼びかけに呼応していただき、それは嬉しかったですね。それから、勉強して研究授業もどんどんやってゆくようになりました。

 教員というのは、年齢を経るごとに幅を効かせるようになります。若い先生に「ああしなさい、こうしなさい」と。そのわりに自分の勉強は、あまりしないという傾向があります。

 ある研究授業の時、50歳過ぎた先生の授業にまだ26、7歳の若い女性の先生が「先生、30数年こんな授業しかしてこなかったのですか?」と手厳しい批判がありました。だから、50代の先生も勉強しなければならない環境へと変化していきましたね。だから、私が見ても先生方全員が上手下手はあっても素晴らしい授業への取り組みへと変わっていきました。

Q:先生方の変化が生徒たちにはどういう影響を?

A:先生の新たな姿勢に、子どもの姿勢が変わってきましたね。まず、学校を抜け出す子どもが少なくなってきました。また不登校の子どもが学校へ出てくるようになりました。非行も次第に少なくなってきました。生徒革命ではなく先生たちの意識革命だったと思いますね。

 先生たちも自分が努力すれば変わると肌で感じ始めました。私が見てもこんな素晴らしい資料をよく見つけてくれたなと授業の内容も驚くほど素晴らしい授業に改善していきました。

 

問題児はコンビニ弁当が主流

 ところが、それでも非行犯罪が起きるんですね。生徒はキレる。女の先生が注意をすると回し蹴りをして先生のあばら骨が折れる、ガンとやられて鼻の骨を折る等…まだまだ、道半ばの状況でした。私はこの中学に校長として赴任して、約半年間、私とともに頑張ってくださった先生方と非行、不登校、学習無気力等を30%~50%は改善しました。でも確かに良くはなったが、それ以上進まない。「何が原因なんだ、何がそうさせているんだ」。なにか、ブラックホールに入ったようなもどかしさの中におりました。私は日夜、深く悩み原因を探し求めました。

Q:では、その原因をどのように発見されましたか?

A:私は、注意深く生徒を見ていました。小学校と違って運動会以外にも陸上競技大会等各種スポーツ大会があります。その競技大会に出場する生徒の多くが朝、家からの弁当ではなく、コンビニの添加物の入った弁当、ジュース、菓子パン等だったんです。私はこの時、あッ、原因は「食」かなと、ぱっとその時ひらめきました。

 そこで、コンビニから弁当を購入して持ってきた生徒の名前を記録して、後に職員会議でその生徒の「食と生活態度の関連」の調査を開始しました。その結果、「食と問題行動は関連する」ことがわかってきました。かつては運動会とか遠足とかというと母親が朝早く起きてお弁当をつくってくれたものです。好きなおかずを作ってくれる。卵焼きを作ってくれるとか。運動会でたとえ負けても、きょうは、おふくろが何を作ってくれたかな? ってお弁当を開く楽しみがあった。

 ところが今は、コンビニに連れてって、好きなものを買わせてくれるだけ。だから好きなものは自分がわかっているから楽しみとは言い難く、いわゆる親子の絆がなくなってしまっている。カネの繋がりだけ。親子の心の絆が切れてしまったわけです。

Q:なるほど。さらにどんなことをされましたか?

A:食の調査をまだやってない頃、生徒が朝何を食べて学校に来るのか? 昼何を食べたのか? 夕食、家で何を食べたのか? それを知るために2日か3日の間に包装紙とか飲んだ瓶を持って来させるんです。一週間も経つと捨てられてしまいますからね。それでわかったことは、朝食を食べてこない子が全体の38%もいた。その食べてこない子が非行、犯罪を犯す可能性が高いことがわかりました。

 何故かというと、夕飯はどの家庭でも平均すれば夜の7時から8時頃です。学校給食は昼の12時30分頃です。そうすると、だいたい16時間食べていません。中学ですから学校までほとんどの生徒は歩いてくる、遠い生徒は自転車で来る、部活がある、朝の清掃がある、体育がある、エネルギーが一番必要な時に何も食べてないのでエネルギーが湧いてこないんですね。だからイライラしてくる。そのはけ口がいじめになってくるということが、だんだんわかってきました。エネルギーが湧いてこないから学習に対して無気力になってくる。さらにイライラが高じてくれば非行犯罪になって来るわけです。

 

酸素が欠乏し血がドロドロに

 その食べ物の質・内容からみると、非行を起こした子の食事の多くが朝は菓子ぱん、ハム、ウインナー。ジュースは合成保存料・果汁なしのジュース、夜はカレー、スパゲッティー、焼肉などです。脳に必要な栄養素であるカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄分といったミネラル分を全然摂っていません。野菜からのビタミンも全然摂っていないですね。

 だから血がドロドロになってきているんです。血をきれいにして血管を柔らかくして、脳や各臓器に新鮮な血液が送られるべきなのに、血液中のコレステロールでドロドロになって流れが悪くなり、前頭葉や前頭側葉の酸素が欠乏状態になってしまっています。

 量的には、朝食は食べている状態でも、ハムやウインナーでは脂肪と炭水化物だけですね。質量をともなった栄養素がいかに大事ということが私には、わかってきました。

Q:原因がわかってどのように行動されましたか?

A:PTAの会合を開いて食の重要性を話しましたが、特に若いお母さん方の理解はほとんど得られませんでした。特に非行を起こしている子の親御さんほど理解してもらえませんでした。家庭がだめなら学校で食を変えるしかないと私は、一大決心で挑むことにしました。

 

若く死にたかったら今の食事を続けろ

 当時、学校給食は肉中心でした。米飯は週一回でしたね。スパゲティー、ソフト麺、中華麺、菓子パン。またハンバーグ、アメリカンホットドック。ほとんど肉でした。私は、野菜、魚で頭から食べられるものがいいと当時、非常に研究熱心な栄養士の先生に廉価で栄養豊富なイワシの甘露煮を作ってもらいました。

 ところが、生徒ばかりでなく先生方も「なんでこんな魚くさいものを食わなきゃならんのか? 好きなものを食わしてくれ」と全く理解してもらえませんでした。学校からも不登校の先生も出まして、父兄からは「不登校の先生が出るのも校長が悪い」と、悪口と無理解でもう孤立無援でしたね。子どもも反対、親も反対、先生も反対で、もうこれはダメだ諦めようかと思いました。

Q:その反対の包囲網をどう突被されましたか?

A:その時、栄養士の先生が大学の病院から心臓の標本を借りてきてくれました。32歳で心筋梗塞で亡くなった患者さんの標本で、動脈などは石膏の層になっていました。心臓の縦ジマにコレステロールが白く付着し、動脈が収縮できなくなり、34歳で心筋梗塞でなくなってしまったわけです。

「松本山雅」のサッカー選手・松田直樹が34歳で平成23年の8月になくなりました。今、多いですね。心筋梗塞、脳梗塞、血管の病気でなくなる人が。その心筋梗塞の標本を先生や生徒に見せ、先生たちにこう言いました。

「若くして死にたかったら今の食事を続けろ。先生方は大人だから自業自得だが問題は子どもたちだ。子どもたちは分かっていない。親も責任を取らない。では子どもたちを健康にもっていくのは誰か。先生たちしかいないだろう」と訴えました。

 授業改革の時と一緒で心ある先生たちが立ち上がってくれました。

 週一回だった米飯を5回にしまして、肉から野菜、頭から食べられるイワシの甘露煮を出しました。米飯も発芽玄米を入れました。続けていきますとうまさがわかってきました。化学調味料の味と自然の煮干、鰹節、昆布の「うまみ」のうまさが先生方も子どもたちもわかってきました。強烈な化学調味料の味が本物でないということがわかってきました。

 

昼休みに図書館が一杯になる

Q:給食改革後、生徒たちに何がおこりましたか?

A:まずは少しずつ、やがて、はっきりと変化が見えてきました。「読書の習慣」です。荒れているときは到底読書はしません。給食内容を変えてから休み時間になると子どもたちが図書館にいって本を読むようになりました。図書室に120ある椅子が瞬く間に一杯になりました。椅子が満席になると床に腰を下ろして読書していました。

 そして読売新聞社の「全国小中学校作文コンクール」に生徒が参加して、特に指導もしないのに全国で1位か2位に入選するようになったことです。このことは、この生徒たちの変化に私は喜びと驚きで、うれしさが五体から湧き出すのを禁じえませんでした。食の改革をして本当によかったと思いました。

 まとめてみますと、まず、先生方の意識改革、次は学校給食を中心にした、食の改革。それに花壇など、今まではたばこの吸い殻だらけでしたが、泥んこになって生徒が自主的に整備し、種を植えて、きれいな花を咲かせるようになりました。つまり、自然とのふれあいです。この3点がそろって素晴らしい、子どもたちが育っていったのだと思います。

 

◆社員食堂を見直し、欠勤も無くなる◆

《株式会社コロナ社 新潟県三条市の場合》 暑さうだる中、平成27年7月21日22日の両日、大塚貢先生の指導による企業の食の改革の先駆として、ストーブ、エコキュートのトップメーカーとして知られる社員数2,000名の株式会社コロナ社長の内田力社長と前林静岡県議、井上市議との会見の機会をいただき、忌憚のない対話と社員さんとの交流と社内と農場の視察が実現しました。

 

会話の中で感じた点は

1.社員のみなさんが自然で、明るい振る舞いと人間的余裕を感じました。

2.社内の壁や各部屋、トイレ等に花や自然の絵画が掛けられ、趣きあふれる潤いを感じました。

3.改革のメイン・社員食堂で、社長と一緒に昼食メニューをいただきました。とにかくうまい! 表示されている値段も廉価で提供され、社員さんたちの毎日の食事環境をうらやましく思いました。食べた「さばの塩焼き」、ホクホクのごはん、味わい深い味噌汁が全体にマッチして、食べた後、体が熱くなり、その後の味の余韻が心地よく残り、社長の社員を思う「親心」を深く感じました。

4.視察の最中、会社の方からこの自然食を続けるなかでアトピーが治ったというお話を伺いました。社員が健康になり、その家族も健康になり、やる気・活力も出てきた結果として、企業組合健康保険の黒字も増進し、経済効果を伴うよき連鎖“グッド・スパイラル”に至った事を聞き、感動しました。

5.この改革の淵源は、トップの英断と醸し出す内田パワーにあると感じました。これが機械メーカーの社長かと思われる程、食文化に精通されていました。そこにはトップが常に社員を思い、どうしたら健康で社会のために働いてくれるかという、利益至上主義に陥らない不断の努力のたまものであると感じざるを得ませんでした!

6.社員の「食」と健康の自信を基に、食文化の発信、新事業を展開しています。また、農家から田畑を借り受け、有機肥料工場も持ち、“コロナ米”として社員食堂で使うのは勿論、余ったお米や野菜は社員の家庭にも分けるといった徹底ぶりでした。

 

◆食の改革の実践編(自治体編〉◆

 大塚先生の講演や対談には現代の行きづまりの打開策が多く、しかも実践的です。2001年、全国ではじめて「食のまちづくり条例」を制定した福井県小浜市の実験では、福井県小浜市の村上利夫市長は大塚先生の話を聞いて、もっと市民を心身共に健康で明るくしなければ市の発展はないと決断したそうです。これまでは、給食費を如何に安くあげるかということから、冷凍食材を使ったり、子どもたちが好む肉やハンバーグを多く使った給食でしたが、米飯給食を基本に若狭湾の新鮮な魚介類と無農薬や低農薬の野菜を子どもたちに提供するようにしました。その結果、文部科学省の「全国学力テスト」で市の小中学校がトップに躍り出たのです。全国の平均点より20点以上も高い自治体になりました。

      ◆  ◆

 次にご紹介するのは、静岡県三島市です。2009年に静岡県ではじめて「食育健康都市」を宣言したのが静岡県三島市。

 当時の小池正臣市長と現豊岡武士市長の改革の継承です。三島市は2009年に静岡県ではじめて「食育健康都市」を宣言して食育健康条例を制定。食育に非常に大きな力を注ぎました。

 三島市は富士山の伏流水が豊富で、野菜・米もおいしく、無農薬野菜を摂る事で子どもも大人も大いに健康増進を促進しました。

 小浜市と三島市の2例で驚くべきことは、市管掌の国民健康保険が赤字から黒字に転換したことです。今、日本の国家予算に占める社会保険の割合は赤字が大きくのしかかり国家財政を逼迫しております。小浜市、三島市、株式会社コロナの実証は、将来の社会保険改革のモデルになるのではないでしょうか?

 

気がついた民の力で改革を!

 今まで、大塚先生肝いりの講義で「すばらしい話だ!」「何とかこのようなことを実現したい」という声はたくさんあったそうです。しかし実際はその権限や経済的な面など、いろいろなしがらみで思うように実現できない。とりわけ、箱モノを作ることに専念し、住民の健康はそっちのけ、これでは「健康で安全な生活」など夢のまた夢ではないのでしょうか。何しろ、日本は対処療法が多すぎます。むしろ、原点に戻り、毎日、口にしている食の見直しこそ、政治の役割ではないでしょうか。「病院栄えて、民滅ぶ」では、住みよいまちづくりとは言えないでしょう。子どもたちに発達障害児が大変な勢いで増えています。

 

大塚貢(おおつか みつぐ)

昭和11年長野県生まれ。35年信州大学卒。東京で会社員生活後、長野県教育委員会主事、中学校教頭を経て平成4年校長に。平成9年旧真田町教育長、上田市教育委員長(市町村合併後)を経て、現在教育・食育アドバイザーとして活躍中。主な著書に「給食で死ぬ」(コスモ21・刊)

 

 

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2018/09/26

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平林 朋紀

ヒラバヤシ トモキ
ひらばやし ともき エッセイスト 1940年 長野県南佐久郡に生まれる。

掲載作は『「幸せ」は「食」にあり』(2017年7月、NPO再チャレンジ東京刊)よりの抄録である。

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