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早死せんほうがええで

 現在、日本は世界一の長寿国を誇りつづけており、人生80年時代といわれて久しいにもかかわらず、その80年を全うすることなくこの世を去っている人が多いのが現実です。80歳未満であの世へ往くのはあまりにも早すぎます。まさに早死(はやじに)です。

 1999年には、80歳未満死である早死は、55万1,840人で全体の56%にものぼっています。そしてその早死の原因としては、三大生活習慣病である、がん・心臓病・脳卒中、そして肺炎、さらに自殺と不慮の事故が続いています。1999年には、これら六大死因で早死全体の約8割を、がん・心臓病・脳卒中の三大疾患で6割以上の63%を占めているのです。全死因では59.2%ですから、早死におけるこの三大生活習慣病の重要性は明らかです。

 よく人の一生は、マラソンにたとえられます。いろいろな意味で、人生とマラソンとが重なり合うところがあるからでしょう。人生80年時代の今、人生マラソンのゴールは、年齢で言えば80歳が目安ではないでしょうか。したがって、人生マラソンを完走することは、少なくとも80歳まで元気に生き抜くことでしょう。

 人生マラソン完走に立ちはだかる早死の原因の大半は、いわゆる生活習慣病といえます。生活習慣病とは、不適当な食事、タバコ、過度のアルコール、運動不足、過労やストレスなど、好ましくない生活習慣が原因となって引き起こされる病気の総称で、1996年厚生省により提唱されました。これらの病気は、複雑な因子が絡まりあって発病に至るものであり単一因子によるものではありません。また個人の生活習慣のみに帰するものでもありません。したがって、生活習慣病とは、両親から引き継いだ遺伝的、体質的素因の上に、外部環境が影響し、さらに各個人の生活習慣により病気が発症すると考えます。

米国公衆衛生局長報告(1979年)では、人の死因は、50%は不健康な生活習慣または行動面の要因、20%は環境因子、20%は生物学的要因(遺伝的要因)、そして10%は保健医療制度の不備によると分析しています。

 社会の変化や医学の進歩によって、病気そのものも時代とともに変化してきています。昔は、環境そのものの不衛生さや栄養不足が病気の最大の原因でした。その後、医学の進歩等により、結核などの感染症が激減しました。ところが、現在問題となっている病気は、むしろ個人の生活習慣そのものに関与していると考えられるのです。また、前述のように日本人の三大死因は、がん・心臓病・脳卒中の三大生活習慣病でもあります。さらに、この三大死因の原因である、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満も生活習慣病なのです。あなたの日常の生活習慣を見直し、生活習慣病を防ぎましょう。

 習慣を変えることは、生き方を変えることです。習慣こそ人生であり、習慣をコントロールすることは、人生をコントロールすることです。習慣を変えるには生き方を変えねばなりません。習慣にこだわるのはこの一点によるのです。習慣を変えることは、実は今までと違う新しい生き方を実行することにほかならないのです。どう生きるべきかを自ら問いかけることなのです。

 ブレスローは、1972年、健康と生活習慣について、7つの習慣を選び、実施している習慣が多いほど病気が少なく寿命が長いということを明らかにしました。このことは、その後の調査でも立証されています。まさに、早死防止の先駆的業績ではないでしょうか。私は、この「ブレスローの7つの健康習慣」を基に、私の早死と長寿の研究から、私なりの解釈を加え、多少の改変をしました。以下に述べますのが、私の早死防止7つの生活習慣術です。

① 煙-吸わんほうがええで-

 タバコは、生活習慣病を引き起こす最も強力で、かつ予防可能な凶器です。現在わが国には、3,000万人以上のタバコ病患者が存在します。喫煙者を見たら、生活習慣病の予備群と思って間違いありません。喫煙者の50%はタバコが原因で亡くなっているのです。日本で11万人以上が、全世界では300万人以上が、毎年タバコで命を失っています。

 タバコの煙には、約4,000種類以上の化学物質が含まれており、200種類の明らかな発がん物質をはじめ、青酸ガス・一酸化炭素・窒素酸化物・ニコチン等、おびただしいほどの有害物質が大量に、かつ高濃度で含まれています。最近、汚染が深刻な問題となってきているダイオキシンも含まれているのです。『タバコ一本吸う毎に寿命が14分30秒ずつ短くなる。』という有名な報告もあるほどです。これらを踏まえ、米国環境保護局は、1992年に環境タバコ煙をA級発がん物質(人にがんを起こすことが確証された物質)として認定しています。

 タバコはあまりにも有名な肺がんへの関与と、心臓病(心筋梗塞・狭心症)の危険因子です。肺がんの70%、全がんの30%はタバコが原因であり、単一の物質としてはがんの原因の中で最大のものです。

 タバコは全身の血管も蝕みます。動脈が詰まり手足が壊死を起こして腐ってしまうバージャー病という病気は、タバコを吸う人にしか起こりません。タバコをやめない限り病気の進行は止まりません。

 さらに、男性喫煙者は非喫煙者に比べ、セックスの回数が半減し、インポテンツになる可能性は四倍も高いとの報告もあります。そして、精子にも障害を及ぼしています。

 また、妊娠中の女性の喫煙は、流産や胎児の健康に悪影響を及ぼします。ニコチンは胎盤を通過し、直接赤ちゃんの体内に入り込むからです。

 まさにタバコは老化を促進し、寿命を短縮します。タバコは「がんの素」のみならず、「老い薬」でもあるのです。

 喫煙は、喫煙者だけでなく、周囲の非喫煙者の健康にも重大な影響を及ぼします。副流煙(火のついたタバコの先端部から発生する煙)は、主流煙(喫煙者が吸い込む煙)より有害物質が多量に含まれています。ニコチンでは2.8倍、タールでは3.4倍、一酸化炭素では4.7倍、アンモニアでは46倍、最も強力な発がん物質の一つであるニトロソアミンでは52倍です。したがって、副流煙の方が主流煙より危険なのです。主として副流煙を吸い込まされる受動喫煙は本当に怖いものです。閉め切った部屋でタバコを10本吸われると、吸わない人も1本吸ったことになります。

 受動喫煙の恐ろしさは、夫婦間で顕著に肺がん死亡率が増加することでも証明されています。夫の喫煙と妻の肺がん死亡率では、夫も妻も非喫煙者の場合を基準とすると、妻は非喫煙者で夫が一日20本以上の喫煙者の場合、約2倍妻の肺がん死亡率が増加します。

 人がタバコを吸う理由はただ一つ、ニコチンを体に取り込むためです。脳がニコチンを欲しているのです。喫煙者は、タバコを止めようと思っても、止められない状態であるタバコ依存症(ニコチン依存症)となり、タバコ(ニコチン)にしばられた人生を送ることになるのです。タバコが何故やめられないかといいますと、禁煙すると、体の中、特に脳からニコチンが消えてゆき、禁断症状であるイライラ、怒りっぽい、集中力がなくなる、不快となる等の症状が出現し、脳が我慢できなくなり、またしても再喫煙してしまうことになるからです。タバコをやめられないのは、意志が弱いからでも、吸う本数が多いからでもないことが分かってきました。ニコチンが欲しくなる遺伝子が発見されたのです。この遺伝子は、喫煙者の30%、全体の10%にあり、ニコチンによって脳が気持ち良くなり、タバコをやめにくくしているとのことです。

 しかし、今ではこの禁断症状をより容易に乗り越えることができるようになりました。すなわち、ニコチンガム、ニコチンパッチなどの禁煙補助剤の登場です。これにより禁断症状が緩和され、より容易に禁煙を達成できる環境作りがなされています。

 禁煙は心と体にゆとりをもって実行しましょう。途中で挫折しても決して心に傷を残す必要はありません。たとえ何日間でも、よくがんばったと自分を褒めるくらいのゆとりの気持ちをもって下さい。心と体にゆとりが生まれ、「禁煙したい」と自然に思えた時、禁煙はあっけないほど容易に達成できますから。

② 食事-あっさりしお味あぶら味がええで-

 種々の調査結果から、寿命と栄養とに関係があることが分かっています。特に、カロリーとタンパク質の摂取量と寿命とが密接な比例関係にあります。

 現在の日本人の栄養状態は、世界に誇れるほど、非常にうまくバランスがとれているといわれています。具体的にいうと、戦前は肉などの動物性タンパク質や油脂がかなり不足して、粗食でした。タンパク質のほとんどを米や味噌や豆腐などの植物性のものから摂っていたのです。それが動物性タンパク質や脂肪を摂るにしたがって寿命が延びてきました。戦後、徐々に植物性のタンパク質が減り、反対に肉などの動物性のタンパク質が増えてきました。そのおかげで、現在はタンパク質全体から見ると、動物性タンパク質の占める割合が、50%を少し超えたところです。

 人間の体はタンパク質でできています。細胞も筋肉も脳も髪の毛もそうです。血液となって酸素や栄養を運んだり、食べ物を消化したり、ホルモンを分泌したりなど、あらゆる生命現象はタンパク質の働きによって営まれているのです。体の中では10万種ものタンパク質が、たえず壊されては新しく作られているので、食事から摂らないと、健康な体を維持できません。ですから年をとったからといって、肉を敬遠してはダメなのです。

 最近、肉のなかにはアナンダマイドという、脳に非常によい効果を与える物質が含まれていることが分かりました。これはアラキドン酸という脂肪から作られます。スポーツをして爽快な気分になるのは、脳内麻薬といわれるエンドルフィンが脳に作用するためといわれています。私をはじめ多くのランナーが、マラソン中に経験するランニングハイのことです。肉のアナンダマイドにもエンドルフィンに似た作用があり、幸福感や爽快な気分をもたらす効果があるのです。ですから、皆さんも経験があると思いますが、お肉をお腹いっぱい食べたときに得もいえぬ幸せ感に浸るのは、アナンダマイド効果なのです。お魚では、いくら美味しいものをたくさん食べてもこの幸福感には浸れません。そういう点からも肉を食べることが大切です。動物性タンパク質の摂り方で、一つの目安は、牛でも豚でも鶏でもいいから、肉は一日に少なくとも50g、そして魚は一切れ、玉子は一コ、牛乳は200ccということになります。

 日本の百歳以上の老人、すなわち百寿者の詳細な食生活調査でも、魚・肉・大豆・卵のタンパク質を毎日2回以上食べている人が55%で、一般国民の20%に比して著しく頻度が高いことがわかっています。

 このように、タンパク質は中高年になっても若い時と同じように十分摂取すべきですが、脂肪についてはどうでしょうか。日本人とアメリカ人のエネルギー摂取バランスを比較してみますと、タンパク質の割合は約10%で同じですが、脂肪は日本人25%、アメリカ人45%で大差があります。これが、アメリカ人の心臓病死が日本人の5倍も高い原因ではないかと考えられています。日本人は脂肪の摂取が少ないので、心臓の冠状動脈への脂肪、コレステロールの沈着が少なく、心筋梗塞などの虚血性心臓病による死亡が少ないといわれています。また、日本人は魚の摂取量が多いのが特徴です。魚は肉に比べ飽和脂肪酸が少なく、特に青み魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という脂肪酸には、血栓予防作用と動脈硬化予防作用があるといわれ、心臓病等の生活習慣病予防で注目されています。

 しかし、最近は若い世代を中心に、脂肪から摂るエネルギーが増え、脂肪の適正比率である25%を超えて30%に達しようとしているのです。これは、食生活の欧米化によるもので、日本人の長寿の要因であるコレステロールが上がりにくい食生活のパターンが崩れてきているといえます。肥満を防ぎ、コレステロール値を上げない食生活とは、脂肪と砂糖類の摂り過ぎを防ぎ、米飯と魚介類を中心にした食生活です。元気で長生きするために、薄味を心がけながら、世界の中でもまれに見る健康食であるごはんを中心とした食生活を守りたいものです。

 つぎに、もう一つ、食品の中で長寿と密接に関連しているものがあります。それは食塩です。日本人の食塩摂取量と寿命を比べてみると、男性も女性も食塩の摂取量が多いほど平均寿命は短いのです。塩のとりすぎは、高血圧症の引き金になるばかりでなく、動脈硬化や血栓症にも悪影響を及ぼすことが分かっています。これらがさらに心筋梗塞・脳卒中・心不全・腎不全等を引き起こし、寿命に多大な影響を与えているのです。

 減塩の目標は一日6g以下にすべきとされていますが、現在のわが国の食文化においては達成困難とされており、高血圧学会のように7~8g/日という指導基準が提示されることが一般的です。

 減塩7箇条としては、①汁ものは一日一杯具だくさん、②食卓には醤油・食塩を置かない使わない、③避けよう漬物・佃煮・干物・練り製品、④めん類の汁は三口まで、底まで飲まない、⑤一手間かけて手作り料理、⑥市販食品は味の濃さと成分表示を確かめて、⑦外食するならあっさりうす味料理、があります。毎日の食生活の参考にしてください。

 さて、科学はあくまで、自然を補助したりサポートしたりする道具にすぎません。健康も、私たちの体内にある自然の生命力を抜きに語ることはできないのです。食べ物についても同じことがいえます。「これさえ食べていれば健康で長生きできる」というような、万能の健康食というものは存在しないのです。雑食こそが健康食なのです。人間が、生命進化という意味では、もっとも先端を走っている最強の動物であることは間違いありません。その進化を支え、現在も維持しているのが私たちの雑食性であり、またそれが人間にとって健康の秘訣でもあるのです。

「あっさり塩味あぶら味、いろいろ食べて腹八分目、食べ過ぎんほうがええで!」

③ 運動-うろつきまわるほうがええで-

 運動は、血圧を下げ、皮下脂肪をとり、コレステロールを下げます。寿命の点では、食生活には負けますが、運動をする人の死亡率は低い傾向にあります。多くの疫学研究の結果からも、運動が、肥満、動脈硬化、高血圧、糖尿病、大腸がん、ストレスなどの危険因子を減少させることが明らかになっています。さらには、心臓の毛細血管を発達させ、虚血性心臓病や突然死の予防につながる可能性をもつことも分かってきています。

 もちろん、『スポーツさえやっていれば、心身ともに健康になれる』というのは迷信です。しかも強すぎる運動は、酸素の消費量を増やし、体内に過剰な活性酸素を発生させて体を痛めつけ、ストレスとなります。また、スポーツ中の突然死は年間200人以上あります。スポーツはストレスと運動不足を解消するためであり、要するに遊びです。よって、それに応じた楽しみ方をすべきなのです。

 そこで、日常生活で体を動かす機会が少ない現代では、健康維持、体力管理のために、安全性が高く、長く楽しく続けられるものをマイペースでやるということが大切です。運動を始めると最初は糖を多く使いますが、20~30分以上続けると脂肪の利用が高くなります。ルンルンペース(ややきつい程度)の30分間の運動は、消費エネルギー200kcalです。運動していてややきついと感じる程度が至適強度で、健康人ならその時の心拍数は、1分間に120拍程度です。最大酸素摂取量の40~60%の規則的な有酸素運動が推奨されています。翌日に疲れや筋肉痛が残らないことも重要です。また、定期的な検診と、どんなスポーツでも準備体操とクールダウン(急に止まらず徐々に終わること)を心掛けることも必要です。

 私たちの体力は、30歳前後から、おおむね年1%の割合で退行してゆくといわれています。しかし、運動習慣のある人は0.8%、無い人は1.2%の割合です。したがって長年の間には、体力差は顕著になります。この体力の低下の理由は、老化現象と運動不足です。老化現象を押し止めることはできませんが、運動により筋力の低下はある程度防げます。高齢になってからでも遅すぎるということはありません。人間も、もともとは食べ物を求めてよく動き回る動物だったのです。人間以外の動物は自分で動いて餌をとれなくなった時が死ぬ時です。高齢者でも、体を毎日ある程度使わないと体全体の血流や代謝が悪くなって、老化が促進され、筋肉、腱、骨が錆びついたようになるのです。身体活動の少ない生活によって筋力や筋量の低下した高齢者では、有酸素運動にダンベルなどの抵抗運動を加えることで、日常生活における活動性が高まり、総量としての運動量を増す効果が得られることが注目されています。まさにダンベル体操などは、うってつけの抵抗運動といえます。人生80年の時代に、人生後半になっても自分がやりたいことができるような体力を維持したいものです。

 このように体力の基本は、筋力です。筋力を維持すれば、体力も維持できるのです。筋力を鍛えるには、食事と運動が重要です。すなわち、栄養では、動植物性タンパク質をしっかり食べ、十分なカロリーと糖質を補給することです。その上で、運動することです。運動により、筋肉の繊維の一本一本が太くなり、筋力がつくのです。そして、筋力づくりには、タイミングも大切です。運動をして、しっかりタンパク質を摂り、睡眠をとることです。その意味では、就寝前のダンベル体操は、理想的です。夕食でしっかりタンパク質を摂り、血液中にアミノ酸がたくさんあるうちに、ダンベル体操を行い、その後の睡眠中に筋肉に取り込み筋力を増強させるのです。

④ よお寝るほうがええで

 休養は、心身ともの疲労を取り除き、身体や精神をリフレッシュするために必要です。睡眠は、疲労を回復させ、心身の安静を保つためには、欠くことのできないものです。

 100万人の大規模調査によると、7時間台の睡眠時間が死亡率最低で、健康状態もよいといわれています。適度な睡眠は、サイトカインという物質を介して発がんを防ぎ、高血圧にもよいといわれています。

 また、昼寝もおススメです。昼寝の効用としては、血圧を下げ、リラックス効果が生まれ、健康によいことが挙げられます。昼寝の方法は、日中の眠気が最も強い午後2時が理想的といわれています。午後3時以降は、かえって寝つきを悪くします。昼寝の長さは、15分、高齢者は30分が理想的です。ただし、前夜6時間の睡眠を確保している人にいえることです。また、頭を涼しくし手足を暖かくすると、よく眠れます。昼寝前にお茶やコーヒーであらかじめカフェインをとっておくと、寝覚めがすっきりし、午後の活動にプラス効果があります。

 生活リズムの回復確保には、まず三度の規則正しい食生活と睡眠時間を守ることが大切です。そして、日の出とともに、朝日を浴び体内時計を朝にリセットすることです。脳には体内時計の時刻発信機構があります。暗い所では24時間ではなく25時間という約1日のリズムを出しています。ルーズな生活習慣で夜更かししやすいのはこのためと考えられています。しかし、光に当たったり朝食を摂ると、体内時計は毎日修正されて24時間のリズムが保たれるのです。体内時計の仕組みによって午前7時に朝食を摂る人では、すでに午前4時に副腎からホルモンがでて血糖値を上げ始め、身体活動の準備をします。知的活動も筋肉活動も体温も昼頃に最高になります。ただし、規則正しい生活をしている人でも午後に一時的に眠くなるので、短い昼寝がすすめられています。正しい日周リズムは神経内分泌系を介して免疫系を強めて抵抗力を増します。また、規則正しい生活はストレスや肥満などの生活習慣病の原因を防ぐだけではなく、高齢者では痴呆の予防にも有用なのです。

⑤ 飲みすぎんほうがええで

 アルコールと人とのつきあいは永く、紀元前5~6世紀ごろから飲酒が行われたといわれています。アルコールは人類の歴史と共に、人間生活と深くかかわってきました。アルコールは、カフェインそして悪名高いタバコのニコチンとともに世界中の多くの文化圏で受容されてきた三大物質の一つです。アルコールのもつ酔いの心地よさなどは、その薬理作用によるものです。これにより、陶酔感や気分転換、ストレス解消、良眠などが得られる効果があるのです。たしかに、少量の飲酒は、我々の社会における人間関係の潤滑油としての役割を果たしてきました。適量であれば、飲酒は動脈硬化を予防し、高血圧、心臓病、脳卒中などの発生を抑えることが国内外の研究で分かってきています。数多くの調査によれば、アルコールを全く飲まない人よりも少量のアルコール(日本酒換算一合程度)を飲んでいる人の方が寿命が長いという一致した結果が得られているようです。少量のアルコールがなぜ長寿に結びつくのか、それが結果なのか、原因なのか、今のところ不明です。

 アルコール長寿論の代表である英国のマーモットの報告(1981年)では、40歳から64歳までの男性1,600人の死亡率を飲酒量の程度によって分類し10年間観察した結果、お酒を少量および中等量飲む人の死亡率は、まったく飲まない人や多量に飲む人の死亡率と比較して、明らかに低いことが示されています。また虚血性心疾患のリスクは、飲酒により明らかに死亡率が減少しています。なお、ここでいう少量とは、1日平均グラスワイン1杯以下、中等量は1~4杯、多量は4杯以上を示しています。つまり飲酒により虚血性心疾患による死亡は減少しますが、他の疾患による死亡が増え、全死亡率は上昇するというものです。全死亡率が急上昇する理由は、多量飲酒によりがんによる死亡や、自殺・事故死が増えるからなのです。多量飲酒者はアルコールの直接的影響だけでなく、その多くがヘビースモーカーであり、食事も粗末で運動もほとんどしないことも影響していると分析されています。

 また、米国のクラツキーの報告(1981年)では、8万人の10年間に及ぶ死亡率と飲酒量の関係を調べています。それによると、いずれの年代でも少量飲酒群の死亡率が最低となっています。また、中量飲酒群と禁酒群が近い値を示しており、これではまるで「飲み得」の感さえ抱かされます。しかし、大量飲酒群は、すべて最も高い死亡率であり、当然の帰結とも考えられます。

 また、国立長寿医療研究センターによると、ワインと日本酒を適量飲む中高年は、飲まない人に比べて頭の働きがいいという結果を報告しています(2001年1月)。これによると、ワインはポリフェノール、日本酒はフェルラ酸など老化を防ぐ抗酸化物質を含み、脳の機能低下を防いでいるのではないかと考えられています。また酒をたしなむ人は、知能維持に効果のある野菜や乳製品、果実を食べる傾向にあることも影響していると考えられています。しかし毎日3合以上飲む人は、少量から3合以下の人より知能指数が低く、やはり飲みすぎは頭の働きが低下すると考えられたとのことです。このことからも適量のアルコールは脳を刺激し、脳の機能低下を防ぐと考えられます。

 このように、酒は百薬の長と言われます。また実際に百寿者にも酒をたしなむ人は多いようです。しかし長年の間、酒を多く飲み続けているという百寿者の例は、これまでのところ聞いたことはありません。2000年末に亡くなられた、ギネスブック公認の世界一の長寿者であった114歳の英国の女性は、晩酌のウイスキー一杯が楽しみであったそうです。

 では、酒が飲める飲めないは、何によって決まっているのでしょうか。それは、アルコール分解酵素が多いか少ないかによって決まっているのです。遺伝により酒の強さは決まっているということです。遺伝子に組み込まれている情報の30億文字のたった一文字の違いにより起こります。

 飲酒の個体差はよく知られている事実です。酒に弱い人は日本人の約1割を占め、中程度の人も約4割います。つまり日本人の半分は酒に弱いのです。酒の弱い人は、モンゴル斑と呼ばれる青あざが大きい傾向にあるといわれています。モンゴル斑とは、アジア人種にだけ見られるもので、赤ちゃんのときにお尻に一時的に青あざが出現するものです。この青あざは、小児期には消えます。お尻の青あざが大きく、背中まで拡がっている赤ちゃんは、酒にかなり弱い可能性があり、大人になっての飲酒に注意する必要があります。

⑥ 太りすぎんほうがええで

 国内外のいろいろな研究から、BMI[体重(kg)を身長(m)の二乗で割り算したもの]が22前後の人が最も病気にかかりにくいといわれています。日本肥満学会では、BMI25以上を肥満としています。しかし、そもそも健康体重とは、いったいどういった指標で考えたらよいのでしょうか。一概には決めることはできません。健康体重とは、その人がまず健康であり、最も活発に活動できる体重ではないでしょうか。太っていても身体活動能力が高ければ、その人にとっては健康体重といえます。よって、BMI22はあくまでも目安であり、健康度と身体活動能力を基準にすべきです。各自各様の最適体重があるはずです。BMIでいえば20~24の範囲内が正常と考えてさしつかえないと思います。また、思春期から20歳前後の体重も健康体重の参考値といわれています。

 中年になると、人はなぜ太るのでしょうか。そのかぎを握るのが基礎代謝です。これは体温維持という生きるために最低必要な代謝で、じっと何もせず安静にしていて生じるものです。また、基礎代謝は脂肪の分解力を反映しています。この基礎代謝が中年から急に落ち、体に脂肪が沈着すると、肥満や動脈硬化が起こります。太るとインスリンの働きが不十分になって糖尿病にかかりやすく、動脈が硬化すると血圧が上がったり心臓病が起きやすくなったりします。また、太って内臓脂肪が多くなると、血中のテストステロンという男性ホルモンの濃度が低くなり、性機能も衰えやすくなるのです。これらの防止には、基礎代謝を落とさないようにすることが必要で、運動を日常化することが最も有効です。理由は、基礎代謝を支えている重要な組織が筋肉だからです。筋肉は安静状態でも多量の熱を作っています。筋肉の最大のエネルギー源は血液中の脂肪で、その分解量は全身の70%にのぼります。筋肉は脂肪を分解する最大の内臓です。タンパク質の塊である筋肉の量は中・高校生時代に最も多く、その後は徐々に低下、厄年の42歳ごろを境に一気に下がります。タンパク質を作る力が弱る老化現象のためです。そこで筋肉の増量につながるダンベルのような運動と、水泳、ジョギングのような活性化のための運動が健康づくりに大切です。1日わずか10分間の体づくり運動(ダンベル等による筋力トレーニング)で、中年太りを防ぐことが可能となります。

 しかし、減量は運動だけではできません。減量するには、運動と、摂取カロリーを減らすこととを組み合わせなければ、役に立ちません。運動を計画通りやりとげると、いい気分になります。体はすっかり活気づき食欲が出て、もっとたくさん食べたくなります。そのことが脂肪を作ります。毎日運動をして体重を減らすには、しっかり計画したダイエットを同時にする必要があります。健康で効果的なダイエット食の基本は、“低エネルギーバランス食”であり、その代表は糖尿病食にほかならないのです。一般の人が、糖尿病食などを参考に独力でかつ安全に行いうる食事療法の下限は一日1,000~1,200kcal程度と言われています。これにもっとも近い食事が、おふくろの味と呼ばれる日本古来の家庭料理であります。国際肥満学会(1983年)では、勧告として、タンパク質15%、脂質30%、糖質55%という熱量配分比をもって、健全な減食療法を普及させようという点で意見が一致しました。やはり、三大栄養素のバランスを保ち、そのうえで全体の摂取熱量を抑えるというやり方が、減量食の基本といえます。いかなる健康食品といえども、それ単独しか摂取しないというやり方はいずれも危険を秘めています。それ単独をとっていればやせられるという健康食品ややせ薬は、一切存在していません。

 過激なダイエットを試みて、脱毛、貧血、生理不順、骨折、拒食などの健康障害をきたす例は後を絶ちません。体調を崩さずに安全に減量を進めるペースは、月に1~2kgが目安です。それ以上のハイペースで減量すると、体脂肪のほかに筋や骨などまで減ってしまい、「やせた」というより「やつれた」という状態になって、健康を損なう危険が大きくなります。体重に一番大きな影響を与えている体の構成成分は、体重の5~6割を占めている水分です。発汗、排尿、便通などを促進すれば、体内の水分が抜け、体重計の針は減少します。しかし、体脂肪は減りません。したがって、数日のうちに何kgも体重が減ったという場合には、その大部分は体水分の減少によるものと考えるのが妥当です。このようなトリックにより、やせたと錯覚する恐れのあるダイエット法は、要注意です。

 減量だけなら様々なダイエット法で簡単にできますが、難しいのは、減った体重を維持することです。短期間に体重を減らすほど、反動を起こしやすくなります。この場合、元に戻るばかりか、かえって以前より太る結果になってしまうのです。減量すると脂肪だけでなく筋肉も失いますが、元に戻る時には脂肪だけ増えますので、以前と体重が同じでも、脂肪が増えて筋肉が落ちた分だけ基礎代謝量も減り、ますます太りやすい体になるのです。これをヨーヨー現象といいます。つまり、減量は、正しいダイエットと適度な運動が両輪となるのです。

⑦ こだわらんほうがええで

 ストレスとは、寒冷、外傷、疾病、緊張など、体の外から加えられた有害刺激に対応して、体の中に生じた障害とそれに対する防御反応のことです。つまり、外からの精神的、肉体的ショック(悲しんだり、怖がったり、怪我をしたりなど)により、体の中にひずみが生じた状態のことです。

 現代ストレスの原因の御三家は「職場・家庭・金銭」です。職場では様々な人間関係が渦をまき、帰宅すると親子、夫婦、兄弟間のトラブル、義理などで思うようにいかないことも多いのです。金銭は言うまでもないでしょう。その他にも、配偶者の死、老化や病気、そして死に対する不安などが考えられます。

 このようなストレスが続いたり、ショックが大きかったりすると、調節のバランスが崩れて自律神経が不安定になり、病気を引き起こすこととなります。胃・十二指腸潰瘍は、ストレスが原因の代表的な病気ですが、その他にも心臓病では、心筋梗塞の約4割(特に若い人では9割)がストレスが原因であるといわれています。そのほかにもさまざまなストレス症候群など、恒常性の乱れによって起こる疾病がたくさんあります。

 また、ストレス関連疾患で、日常最も多くみられるのはうつ病です。世界保健機関(WHO)では、うつ病の患者さんの数を世界人口の約3%と概算しています。日本では約360万人となります。この数字がしめすとおり、うつ病はごく一般的な病気で、決して特別なものではありません。

 「うつ」というのは、誰にでもかかる病気、という意味では「心の風邪」とも言われますが、その症状たるや、大変苦しいもので、とても風邪の比ではありません。重症者の15%が自殺するというデータがありますが、この死亡率から見ても非常に深刻な病気で、WHOは虚血性心疾患と並ぶ21世紀の疾患と位置づけています。だからこそ、十分な治療が必要です。症状は多様ですが、集中力がなくなったり、何をやるのも億劫になったりします。具体的には、仕事や家事の能率が極端に落ちたり、今まで楽しんでいたことが楽しめなくなったりします。日常生活では、寝つけなくなったり、朝早く目が覚めたりする睡眠障害が起きたり、何も食べる気がしないといった食欲障害などが起きるケースが多くあります。もし、日常生活に支障が出るというほどの症状が2週間続くようであれば、専門医に相談したほうがよいでしょう。周囲の人も、このような症状に気が付いたら、受診を勧めてほしいものです。本人は深刻に苦しんでいるのですが、相談できないで悩んでいることも多いのです。

 職場や家庭のストレス対策としては、意識の改善が必要不可欠です。いやな上司や友人、そして職場は変えることができません。基本的に他人と過去は変えられないことを自覚すべきでしょう。変えられるのは、この今の自分だけです。それに気づかせたり、自分が気づくことがストレス対策をする上で最も重要です。そのためにも、もっと気軽に精神科・神経科へ通いましょう。

 以上、早死防止の7つの生活習慣術について考えてきましたが、たしかに生活習慣を改めることは容易ではありません。まず、第一に、不健康な生活習慣による生活習慣病の多くは、初期にはほとんど症状がないため、本人がその重要性に気づかないことが挙げられます。第二に、不健康な生活習慣を有する人は、生活習慣病に罹る確率が高いという事実が明らかにもかかわらず、実生活上はそのことが必ずしも実感されていないことです。例えば、本人を含めてまわりに、ヘビースモーカーであっても肺がんになっていない人や、太っていても糖尿病や高血圧でない人がたくさんいるという事実があるからです。また、第三に、不健康な生活習慣自体が人生の一部となっていて容易には変えられないこと、第四に、多忙な仕事やストレスのために、健康的な生活習慣についてゆっくり考え実行するゆとりがないこと、そして第五に、家庭や職場で個人の健康維持の重要性について理解が乏しいことが挙げられます。

 では、どうしたら、これらの人々が生活習慣を改善することができるのでしょうか。このことがまさに私が取り組んできた命題といえます。新しい習慣を身につけるには、3週間かかるといわれています。余裕をみて、1カ月続ければ、習慣となります。今までの人生を変えようという気持ちで取り組めば、生活習慣改革は三日坊主で終わることは決してありません。人生の本質は習慣ですから。習慣を変えることは、人生を変えることなのです。

 さあ、今日から、今から、あなたの生活習慣を変えようではありませんか。習慣を変えることにより人生を変えるのです。あなたを変えるのです。新たな素晴らしいあなたの人生後半の旅に再出発しましょう!

『早死せんほうがええで!』

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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松村 誠

マツムラ マコト
医師 主な著作は、「春夏秋冬 病気注意報」、「短命一家と長寿一家」ほか。

掲載作は、「早死せんほうがええで」(ブックハウス、2001年刊)より抄録。

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