赤い林檎
手
みきはしろがね
ちる葉のきん
かなしみの手をのべ
木を
一本の
にくしんの秋の手
青空に
青空に
魚ら泳げり
わがためいきを
しみじみと
魚ら泳げり
魚の鰭
ひかりを放ち
ここかしこ
さだめなく
あまた泳げり
青空に
魚ら泳げり
その魚ら
心をもてり。
野良道
こちらむけ
娘達
野良道はいいなあ
花かんざしもいいなあ
麦の穂がでそろつた
ひよいと
ふりむかれたら
まぶしいだらう
なんともいへずいいなあ
雲
丘の上で
としよりと
こどもと
うつとりと雲を
ながめてゐる
おなじく
おうい雲よ
いういうと
馬鹿にのんきさうぢやないか
どこまでゆくんだ
ずつと
ある時
雲もまた自分のやうだ
自分のやうに
すつかり途方にくれてゐるのだ
あまりにあまりにひろすぎる
おうい老子よ
こんなときだ
にこにことして
ひよつこりとでてきませんか
病牀の詩
ああ、もつたいなし
もつたいなし
妻よ
びんばふだからこそ
こんないい月もみられる
赤い林檎
林檎をしみじみみてゐると
だんだん自分も林檎になる
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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