秋の瞳(抄)
序
私は、友が無くては、耐へられぬのです。しかし、私にはありません。この貧しい詩を、これを、読んでくださる方の胸へ捧げます。そして、私を、あなたの友にしてください。
息を 殺せ
息を ころせ
いきを ころせ
あかんぼが 空を みる
ああ 空を みる
心よ
ほのかにも いろづいてゆく こころ
われながら あいらしいこころよ
ながれ ゆくものよ
さあ それならば ゆくがいい
「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
まぼろしを 追ふて かぎりなく
こころときめいて かけりゆけよ
赤ん坊が わらふ
赤んぼが わらふ
あかんぼが わらふ
わたしだつて わらふ
あかんぼが わらふ
心 よ
こころよ
では いつておいで
しかし
また もどつておいでね
やつぱり
ここがいいのだに
こころよ
では 行つておいで
玉
わたしは
玉に ならうかしら
わたしには
何にも 玉にすることはできまいゆえ
静かな 焔
木 は
しづかな ほのほ
秋
秋が くると いふのか
なにものとも しれぬけれど
すこしづつそして わづかにいろづいてゆく、
わたしのこころが
それよりも もつとひろいもののなかへ くづれてゆくのか
春
春は かるく たたずむ
さくらの みだれさく しづけさの あたりに
十四の少女の
ちさい おくれ毛の あたりに
秋よりは ひくい はなやかな そら
ああ けふにして 春のかなしさを あざやかにみる
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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