花卉(抄)
《目次》
神さまが、膝でスワンを慈しむ。
御手にふれたこの抜け
ぼくは冷たい歌を思ひ出す、
ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、
ストーヴに、
ぼくはあなたのスヱーター・ポケットに
団欒の、明るいピアノを聴くために。
あなたの震はす指先に、露に濡れそぼつたスワン・リヴア・デイジイが咲いてゐる。
幻の星条が消えたり燈つたりする。
ぼくは渺かに、織りかけの
淡彩のシヨールが極の方へ靡いてゐる。
あなたは何時の日か、黙つてぼくに
――幸福はあすこに睡つてゐる。と……
あなたは三角洲の葦間から、
流暢な各国語でぼくに喋りかける。
ぼくはいちいちそれを懸命に、
速記する、翻訳する。
――アノ橋ノ袂ニ、アノ橋ノアチラガハノ袂ニハ……
――誰カガムカフ岸ニ、誰モ
長い鉄橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐる。
渡りかければ、ぼくも光のなかへ隕ち込むだらう。幸福を
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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