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日本帝国憲法(「五日市憲法草案」)

第一篇

  国帝

   第一章 帝位相続

   第二章 摂政官

   第三章 国帝権理

第二篇

  公法

   第一章 国民権理

第三篇

  立法権

   第一章 民撰議院

   第二章 元老議院

   第三章 国会権任

   第四章 国会開閉

第四篇

   行政権

第五篇

   司法権

日本帝国憲法           陸陽仙台 千葉卓三郎草

 第一篇 国帝

  第一章 帝位相続

一 日本国ノ帝位ハ神武帝ノ正統タル今上帝ノ子裔ニ世伝ス其相続スル順序ハ左ノ条款ニ従フ

二 日本国ノ帝位ハ嫡皇子及其男統ニ世伝シ其男統ナキ時ハ嫡衆子及其男統ニ世伝シ其男統ナキ時ハ庶皇子及其男統ニ世伝ス

三 嫡皇子孫庶皇子孫及其男統ナキ時ハ国帝ノ兄弟及其男統ニ世伝ス

四 国帝ノ嫡庶子孫兄弟及其男統ナキ時ハ国帝ノ伯叔父(上皇ノ兄弟)及其男統ニ世伝ス

五 国帝ノ嫡庶子孫兄弟伯叔父及其男統ナキ時ハ皇族中当世ノ国帝ニ最近ノ血縁アル男及其男統〔ヲ〕シテ帝位ヲ襲受セシム

六 皇族中男無キ時ハ皇族中当世ノ国帝ニ最近ノ女ヲシテ帝位ヲ襲受セシム但シ女帝ノ配偶ハ帝権ニ干与スル事ヲ得ス

七 以上承継ノ順序ハ総テ長〔ハ〕幼ニ先タチ嫡ハ庶ニ先タチ卑族ハ尊族ニ先タツ

八 特殊ノ時機ニ蓬ヒ帝位相続ノ順次ヲ超ヘテ次ノ相続者ヲ定ムル事ヲ必要トスル時ハ国帝其方案ヲ国会ニ出シ議員三分二以上ノ可決アルヲ要ス

九 帝室及皇族ノ歳費ハ国庫ヨリ相当ニ之ヲ供奉ス可シ

一〇 皇族ハ三世ニシテ止ム四世以下ハ姓ヲ賜フテ人臣ニ列ス

日本帝国憲法

 第一篇 国帝

  第二章 摂政官

一一 国帝ハ満十八歳ヲ以テ成年トス

一二 国帝ハ成年ニ至ラサル間ハ摂政官ヲ置ク可シ

一三 成年ノ国帝卜雖モ政ヲ親ラスル能ハサル事故アリテ国会其事実ヲ認メタル時ハ其事故ノ存スル間亦摂政官ヲ置ク可シ

一四 摂政官ハ国帝若クハ太政大臣之ヲ皇族近親ノ中ヨリ指名シ国会三分二以上ノ可決ヲ得ル事ヲ要ス

一五 成年ノ国帝其政ヲ親ラスル能ハサル場合ニ於テ国帝ノ相続者既ニ満十五歳ニ至ル時ハ摂政官ニ任ス此場合ニ於テハ国帝若クハ太政大臣ヨリ国会ニ通知スルニ止〔メ〕テ其議ニ附スルヲ要セス

一六 摂政官ハ其在官ノ間名爵儀仗ニ関スルノ外国帝ノ権利ヲ受用スル者トス

一七 摂政官ハ満廿一歳以上ノ成〔年〕タル可シ

日本帝国憲法

 第一篇 国帝

  第三章 国帝ノ権利

一八 国帝ノ身体ハ神聖ニシテ侵ス可ラス又責任トスル所ナシ

   万機ノ政事ニ関シ国帝若シ国民ニ対シテ過失アレハ執政大臣独リ其責ニ任ス

一九 国帝ハ立法行政司法ノ三部ヲ総轄ス

二〇 国帝ハ摂政官ヲ任意ニ除任免黜(めんちゅつ)シ又元老院ノ議官及裁判官ヲ任命ス

   但シ終身官ハ法律ニ定メタル場合ヲ除クノ外ハ之ヲ免スル事ヲ得ス

二一 国帝ハ海陸軍ヲ総督シ武官ヲ拝除シ軍隊ヲ整備シテ便宜ニ之ヲ派遣スル事ヲ得

   但シ其昇級免黜退老ハ法律ヲ以テ定メタル例規ニ準シ国帝之ヲ決ス

二二 国帝ハ軍隊ニ号令シ敢テ国憲ニ悖戻(はいれい)スル所業ヲ助ケシムル事ヲ得ス

   且ツ戦争ナキ時ニ際シ臨時ニ兵隊〔ヲ〕国中ニ備ヒ置カント欲セハ元老院民撰議院ノ承諾ナクシテハ決シテ之ヲ行フ可ラサル者トス

二三 国帝ハ鋳銭ノ権ヲ有ス貨幣条例ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

   但シ通貨ヲ製造改造シ又己レ〔ノ〕肖像ヲ銭貨ニ鋳セシムル事ヲ得

二四 国帝ハ爵位貴号ヲ賜与シ且法律ニ依準シテ諸種ノ勲綬栄章ヲ授ケ又法律ヲ以テ限定スル所ノ恩賜金ヲ与フル事ヲ得

   但シ国庫ヨリシテ之ニ禄ヲ賜ヒ賞ヲ給セラルヽハ国会ノ可決ヲ経ルニ非サレハ勅命ヲ実行ス可ラス

二五 国帝ハ何レノ義務ヲモ負フ事ナキ外国ノ勲級ヲ受クル事ヲ得又国帝ノ承諾アレハ皇族モ之ヲ受クルヲ得

   但シ何レノ場合ヲ論セス帝臣ハ国帝ノ許允ヲ経スシテ外国ノ勲級爵位官職ヲ受クル事ヲ得ス

二六 日本人ハ外国貴族ノ称号ヲ受クル事ヲ得ス

二七 国帝ハ特命ヲ以テ既定宣告ノ刑事裁判ヲ破毀シ何レノ裁判庁ニモ之ヲ移シテ覆審セシムルノ権アリ

二八 国帝ハ裁判官ノ断案ニ因リ処決セラレタル罪人ノ刑罰ヲ軽減赦免ノ恩典ヲ行フ事ヲ得ルノ権ヲ有ス

二九 〔国帝ハ〕凡ソ重罪ノ刑〔ニ〕処セラレ終身其公権ヲ剥奪セラレタル者〔ニ〕対シ法律ニ定メ〔タ〕ル所ニ由リ国会ノ議事〔ニ〕諮詢(しじゅん)シ其可決ヲ得テ大赦特赦及赦罪復権ノ勅裁ヲ為ス事ヲ得

三〇 国帝ハ全国ノ審判ヲ督責シ及之ヲ看守シ其決行ヲ充分ナラシメ又公罪ヲ犯ス者アル時ハ国帝ノ名称ヲ〔以〕テ之ヲ追捕シ求刑シ所断ス

三一 法司ヲ訴告スル者アル時ハ国帝之ヲ聴キ()ホ参議院ノ意見ヲ問フテ後ニ之ヲ停職スル事ヲ得

三二 国帝ハ国会ヲ催促徴喚シ及之ヲ集開終閉シ又之ヲ延期ス

三三 国帝ハ国益ノ為ニ須要トスル時ハ会期ノ暇時ニ於テ臨時ニ国会ヲ召集スル事ヲ得

三四 国帝ハ法律ノ議案ヲ国会ニ出シ及其他自ラ適宜卜思量ス〔ル〕起議ヲ国会ニ下附ス

三五 国帝ハ国会ニ義セス特権ヲ以テ決定シ外国トノ諸般ノ国約ヲ為ス

   但シ国家ノ〔担〕保ト国民ニ密附ノ関係<通商貿易ノ条約>ヲナス事ニ基ヒスル者又ハ国財ヲ費シ若クハ国彊所属地ノ局部ヲ譲与変改スルノ条約及其修正ハ国会ノ承諾ヲ得ルニ非レハ其効力ヲ有セス

三六 国帝ハ開戦ヲ宜シ和議ヲ講シ及其他ノ交際修好同盟等ノ条約ヲ準定ス

   但シ即時ニ之ヲ国会ノ両院ニ通知ス可シ且国家ノ利益安寧ト相密接スト思量スル所ノ者ヲ同ク之ヲ国会ノ両院ニ通照ス

三七 国帝ハ外国事務ヲ総摂ス外国派遣ノ使節諸公使及領事ヲ任免ス

三八 国帝ハ国会ヨリ上奏シタル起議ヲ允否(いんぴ)

三九 国帝ハ国会ノ定案及判決ヲ勅許制可シ之ニ鈐印(けんいん)シ及ヒ総テ立法全権ニ属スル所ノ職務ニ就キ最終ノ裁決ヲ為シ之ニ法律ノ力ヲ与へテ公布ス可シ

四〇 国帝ハ外国ノ兵隊ノ日本国ニ入ル事ヲ許ス事又太子ノ為メニ王位ヲ辞スル事トノ〔二条〕ニ就テハ特別ノ法律ニ依リ国会ノ承諾ヲ受ケサレハ其効〔力〕ヲ有セス

四一 国帝ハ国安ノ為ニ須要スル時機ニ於テハ同時又別々ニ国会ノ両院ヲ停止解散スルノ権ヲ有ス

   但シ該解散ノ布告ト同時ニ四十日内ニ新議員ヲ撰挙シ及二ケ月内ニ該議院ノ召集ヲ命ス可シ

日本帝国憲法

 第二篇 公法

  第一章 国民ノ権利

四二 左ニ掲クル者ヲ日本国民トス

   一 凡ソ日本国内ニ生ルヽ者

   二 日本国外ニ生ルヽ時日本国人ヲ父母トスル子女

   三 帰化ノ〔免〕状ヲ得タル外国人

     但シ帰化〔ノ〕外国人カ享有スヘキ其権利ハ法律別ニ之ヲ定ム

四三 左ニ掲クル者ハ政権ノ受用ヲ停閣ス

   一 外形ノ無能<廃疾ノ類>心性ノ無能<狂癲白痴ノ類>

   二 禁獄若クハ配流ノ審判

     但シ期満レハ政権剥奪ノ禁ヲ解ク

四四 左ニ掲クル者ハ日本国民ノ権利ヲ失フ

   一 外国ニ帰化シ外国ノ籍ニ入ルモノ

   二 日本国帝ノ允許ヲ経スシテ外国政府ヨリ官職爵位称号若クハ恩賜金ヲ受クル者

四五 日本国民ハ各自ノ権利自由ヲ達ス可シ他ヨリ妨害ス可ラス且国法之ヲ保護ス可シ

四六 日本国民ハ国憲許ス所ノ財産智識アル者ハ国事政務ニ参与シ之レカ可否ノ発言ヲ為シ之ヲ議スルノ権ヲ有ス

四七 凡ソ日本国民ハ族籍位階ノ別ヲ問ハス法律上ノ前ニ対シテハ平等ノ権利タル可シ

四八 凡ソ日本国民ハ日本全国ニ於テ同一ノ法典ヲ準用シ同一ノ保護ヲ受ク可シ地方及門閥若クハ一人一族ニ与フルノ時権〔特権〕アル事ナシ

四九 凡ソ日本国ニ在居スル人民ハ内外国人ヲ論セス其身体生命財産名誉ヲ保固ス

五〇 法律ノ条規ハ其効ヲ既往ニ及ホス事アル可ラス

五一 凡ソ日本国民ハ法律ヲ遵守スルニ於テハ万事ニ就キ(あらかじ)メ検閲ヲ受クル事ナク自由ニ其思想意見論説図絵ヲ著述シ之ヲ出板頒行シ或ハ公衆ニ対シ講談討論演説シ以テ之ヲ公ニスル事ヲ得へシ

但シ其弊害ヲ抑制スルニ須要ナル処分ヲ定メタルノ法律ニ対シテハ其責罰ヲ受任ス可シ

五二 凡ソ思想自由〔ノ〕権ヲ受用スルニ因リ犯ス所ノ罪アル時ハ法律ニ定メタル時機并ニ程式ニ循拠シテ其責ヲ受ク可シ著刻犯ノ軽重ヲ定ムルハ法律ニ定メタル特例ヲ除クノ外ハ陪審官之ヲ行フ

五三 凡ソ日本国民ハ法律ニ拠ルノ外ニ或ハ(しい)テ之ヲ為サシメ〔ラレ〕或ハ彊テ之ヲ止メシメラルヽ等ノ事アル可ラス

五四 凡ソ日本国民ハ集会ノ性質或〔ハ〕数人連署或ハ一個人ノ資格ヲ以テスルモ法律ニ定メタル程式ニ循拠シ皇帝国会及何レノ衙門(がもん)ニ向テモ直接ニ奏呈請願又上書建白スルヲ得ルノ権ヲ有ス

   但シ該件ニ因テ牢獄ニ囚附セラレ或ハ刑罰ニ処セラルヽ事アル可ラス若シ政府ノ処置ニ関シ又国民相互ノ事ニ関シ其他何ニテモ自己ノ意ニ無理ト思考スル事アレハ皇帝国会何レノ衙門ニ向テモ上書建白請願スル事ヲ得可シ

五五 凡ソ〔日〕本国民ハ華士族平民ヲ論〔セ〕ス其才徳器能ニ応シ国家ノ文武官僚ニ拝就スル同等ノ権利ヲ有ス

五六 凡ソ日本国民ハ何宗教タルヲ論セス之ヲ信仰スルハ各人ノ自由ニ任ス然レドモ政府ハ何時ニテモ国安ヲ保シ及各宗派ノ間ニ平和ヲ保存スルニ応当ナル処分ヲ〔為〕ス事ヲ得

   但シ国家ノ法律中ニ宗旨ノ性質ヲ負ハシムルモノハ国憲ニアラサル者トス

五七 凡ソ何レノ労作工業農耕ト雖モ行儀風俗ニ(もと)リ国民ノ安寧若クハ健康ヲ傷害スルニ非レハ之ヲ禁制スル事ナシ

五八 凡ソ日本国民ハ結社集会ノ目的若クハ其会社ノ使用スル方法ニ於テ国禁ヲ犯シ若クハ国難ヲ醸スヘキノ状ナク又戎器(じゅうき)ヲ携フルニ非ズシテ平穏ニ結社集会スルノ権ヲ有ス

   但シ法律ハ結社集会ノ弊害ヲ抑制スルニ須要ナル処分ヲ定ム

五九 凡ソ日本国民ノ信書ノ秘密ヲ侵ス事ヲ得ス其信書ヲ勾収スルハ現在ノ法律ニ依リ法ニ適シタル拿捕又ハ探索ノ場合ヲ除クノ外戦陣若クハ法〔衙〕ノ断案ニ拠ニ非レバ之〔ヲ〕行フ事ヲ得ス

六〇 凡ソ日本国民ハ法律ニ定メタル時機ニ際シ法律ニ定示セル規程ニ循拠スルニ非レハ之ヲ拘引招喚囚捕禁獄或ハ強テ其住屋戸〔鎖〕ヲ打開スル事ヲ得ス

六一 凡ソ日本国民各自ノ住居ハ全国中何〔方〕ニテモ其人ノ自由ナル可シ而シテ他ヨリ之ヲ侵ス可ラス若シ家主ノ承允ナク或ハ家内ヨリ招キ呼フ事ナク又火災水災等ヲ防禦スル為ニ非スシテ夜間人家ニ侵シ入ル事ヲ得ス

六二 凡ソ日本国民ハ財産所有ノ権ヲ保〔固〕ニス如何ナル場合ト雖モ財産ヲ没収セラルヽ事ナシ公規ニ依リ其公益タルヲ証スルモ仍ホ時ニ応シスル至当ナル前価ノ賠償ヲ得ルノ後ニ非レハ之レカ財産ヲ買上ラルヽ事〔ナ〕カル可シ

六三 凡ソ日本国民ハ国会ニ於テ決定シ国帝ノ許可ア〔ルニ〕非レ〔ハ〕決シテ租税ヲ賦課セラルヽ事ナカル可シ

六四 凡ソ日本国民ハ当該ノ裁判官若クハ裁判所ニ非レハ縦令(たとい)既定ノ刑法ニ依リ又其法律ニ依〔テ〕定ムル所ノ規定ニ(したが)フモ之ヲ糺治(きゅうち)裁審スル事ヲ得ス

六五 法律ノ正条ニ明示セル所ニ非レハ甲乙ノ別ヲ論セス拘引逮捕糺弾処刑ヲ被ル事ナシ且ツ一タヒ処断ヲ得タル事件ニ付再次ノ糺弾ヲ受ク可ラス

六六 凡ソ日本国民ハ法律ニ掲クル場合ヲ除クノ外之ヲ拿捕スル事ヲ得ス又拿捕スル場合ニ於テハ裁判官自ラ署名シタル文書ヲ以テ其理由ト劾告者ト証人ノ名ヲ被告者ニ告知ス可シ

六七 総テ拿捕シタル者ハ二十四時間内ニ裁判官ノ前ニ出ス事ヲ要ス拿捕シタル者ヲ直ニ放逐スル事能ハサル時ニ於テハ裁判官ヨリ其理由ヲ明記シタ〔ル〕宣告状ヲ以テ該犯ヲ禁錮ス可シ右ノ宣告ハ力〔メテ〕所能的迅速ヲ要シ遅クモ三日間内ニ之ヲ〔行〕フ可シ

   但シ裁判官ノ居住ト相鄰接スル府邑村落ノ地ニ於テ拿捕スル時ハ其時ヨリ二十四時間内ニ之ヲ告知ス可シ若シ裁判官ノ〔居〕住ヨリ遠隔スル地ニ於テ拿捕スル時〔ハ〕其距離遠近ニ準シ法律ニ定メタル当応ノ期限内ニ之ヲ告知ス可シ

六八 右ノ宣告状ヲ受ケタル者ノ求ニ因リ裁判官ノ宣告シタル事件ヲ遅滞ナク控訴シ又上告スル事ヲ得へシ

六九 一般犯罪ノ場合ニ於テ法律ニ定ムル所ノ保釈ヲ受クルノ権ヲ有ス

七〇 〔何〕人モ正当ノ裁判官ヨリ阻隔セラ〔ル〕ヽ事ナシ是故ニ臨時裁判所ヲ設立スル事ヲ得可ラス

七一 国事犯ノ為ニ死刑ヲ宣告サルヽ事ナカル可シ

七二 凡〔ソ法〕ニ違フ〔テ〕命令シ又放免ヲ怠〔リ〕タル拿捕ハ政府ヨリ其損害ヲ被リタル者ニ〔償〕金ヲ払フ可シ

七三 凡ソ日本国民ハ何人ニ論ナク法式ノ徴募ニ(あた)リ兵器ヲ擁シテ海陸ノ軍伍ニ入リ日本国ノ為二防護ス可シ

七四 又其所有財産ニ比率〔シ〕テ国家ノ負任(公費租税)ヲ助クルノ責ヲ免ル可ラス皇族ト雖モ税ヲ除免セラルヽ事ヲ得可ラス

七五 国債公債ハ一般ノ国民タル者負担ノ責ヲ免ル可ラス

七六 子弟ノ教育ニ於テ其学科及教授ハ自由ナル者トス然レドモ子弟小学ノ教育ハ父兄タル者ノ免ル可ラサル責任トス

七七 府県令ハ特別ノ国法ヲ以テ其綱領ヲ制定セラル可シ府県ノ自治ハ各地ノ風俗習例ニ因ル者ナルカ故ニ必ラス之ニ干渉妨害ス可ラス其権域ハ国会ト雖モ之ヲ〔侵〕ス可ラサル者トス

日本帝国憲法

 第三篇 立法権

  第一章 民撰議院

七八 民撰議院ハ選挙会法〔律ニ〕依リ定メタル規程ニ循ヒ撰挙ニ於テ直接投籤法ヲ以テ単撰シタル代民議院ヲ以テ成ル

   但シ人口二十万人ニ付一員ヲ出ス可シ

七九 代民議員ノ任〔期〕三ケ年トシ二ケ年毎ニ其半数ヲ改撰ス可シ

   但シ〔幾〕任期モ重撰セラルヽ事ヲ得

八〇 日本国民ニシテ俗籍ニ入リ(神官僧侶教導職耶蘇宣教師ニ非ル者ニシテ)政権民権ヲ享有スル満三十歳以上ノ男子ニシテ定額ノ財産ヲ所有シ私有地ヨリ生スル歳入アル事ヲ証明シ撰挙法ニ定メタ〔ル〕金額ノ直税ヲ納ル、文武ノ常職ヲ帯ヒサル者ハ撰挙法ニ遵ヒテ議員ニ撰挙セラルヽヲ得

八一 凡ソ此ニ掲ケタル分限ト要款トヲ備具スル日本国民ハ被撰挙人ノ半数ハ其区内ニ限リ其他ノ半数ハ何レノ県ノ区ニモ通シテ選任セラルヽ事〔ヲ〕得

   但シ元老院ノ議官ヲ兼任スル事〔ヲ〕得ス

八二 代民議員ハ<撰挙セラレタル地方ノ総代ニ非ス>日本全国民ノ総代人ナリ故ニ撰挙人ノ教令ヲ受クルヲ要セス

八三 婦女〔未成年者治〕産ノ禁ヲ受ケタ〔ル〕者白痴瘋癲ノ者住居ナクシテ人ノ奴僕雇傭タル者政府ノ助成金ヲ受クル者及常事犯罪〔ヲ〕以テ徒刑一ケ年以上実決ノ刑ニ処セラレタル者又稟告サレタル失踪人ハ代民議員ノ撰挙人タル事ヲ得ス

八四 民撰議院ハ日本帝国〔ノ〕財政<租税 国債>ニ関スル方案ヲ起草スルノ特権ヲ有ス

八五 民撰議院ハ往時ノ施政上ノ検査及施政上ノ弊害ノ改正ヲ為スノ権ヲ有ス

八六 民撰議院ハ行政官ヨリ出セル起議ヲ討論シ又国帝ノ起議ヲ改竄(かいざん)スルノ権ヲ有ス

八七 民撰議院ハ緊要ナル調査ニ関シ官吏並ニ人民ヲ召喚スルノ権ヲ有ス

八八 民撰議院ハ政事上〔ノ〕非違アリト認メタル官吏(執政官 参議官)ヲ上院ニ提喚弾劾スル特権ヲ有ス

八九 民撰議院ハ議員ノ身上ニ関シ左ノ事項ヲ処断スルノ権ヲ有ス

  一 議員民撰議院ノ命令規則若クハ特権ニ違背ス〔ル者〕

  二 〔議〕員撰挙ニ関スル訴訟

九〇 民撰議院ハ其正副議長ヲ議員中ヨリ撰挙シテ国帝ノ制可ヲ請フ可シ

九一 民撰議院ノ議員ハ院中ニ於テ為シタル討論演説ノ為ニ裁判ニ訴告ヲ受クル事ナシ

九二 代民議員ハ会期中及会期前後二十日間民事訴訟ヲ受クル事アルモ答弁スルヲ要セス

   但シ民撰議院ノ承認ヲ得ル時ハ此限ニアラス

九三 民撰議院ノ代民議員ハ現行犯罪ニ非レハ下院ノ前許承認ヲ得スシテ会期中及会期ノ前後二十日間拘致囚捕審判セラルヽ事ナシ

但シ現行犯罪ノ場合ニ於テモ拘致囚捕或ハ会期ヲ閉ツルノ後糺治又囚捕スルニ於テモ即時至急ニ裁判所ヨリ代民議員ヲ拿捕セシ事ヲ民撰議院ニ通知シ該院ヲシテ〔其〕件ヲ照査シテ之ヲ処分セシム可シ

九四 民撰議院ハ請求シテ会期中及会期ノ前後廿日間義員ノ治罪拘引ヲ停止セシムルノ権ヲ有ス

九五 民撰議院ノ議長ハ〔院中〕ノ官員<書記等其他>ヲ任免スルノ権アリ

九六 代民議員ハ会期ノ間旧議員任期ノ最終会議ニ定メタル金給ヲ受ク可シ又特別ノ決議ヲ以テ往返ノ旅費ヲ受ク可シ

日本帝国憲法

 第三篇 立法権

  第二章 元老議院

九七 元老院ハ国帝ノ特権ヲ以テ命スル所ノ議官四十〔名〕ヲ以テ成ル

   但シ民撰議院ノ議員ヲ兼任スルヲ得ス

九八 満三十五歳以上ニシテ左ノ部ニ列スル性格ヲ具フル日本人ニ限リ元老院ノ議官タル事ヲ得ベシ

    一  民撰議院ノ議長

    二  民撰議員ニ撰ハレタル事三回ニ及ヘル者

    三  執政官諸省卿

    四  参議官

    五  三等官以上ニ任セラレシ者

    六  日本国ノ皇族華族

    七  海陸軍ノ大中少将

    八  特命全権大使及公使

    九  大審院上等裁判所ノ議長及裁判〔官〕又其大検事

    十  地方長官

    十一 勲功アル者及材徳輿望アル者

九九 元老院ノ議官ハ国帝ノ特命ニ転リテ議員中ヨリ之ヲ任ス

一〇〇 元老院ノ議官ハ終身在職スル者トス

一〇一 元老院ノ議官ハ一ケ年三万円ニ過キサル一身ノ俸給ヲ得べシ

一〇二 皇子及太子ノ男子ハ満二十五歳ニ至リ文武ノ常職ヲ帯ヒサル者ハ元老院ノ議官ニ任スル〔事〕ヲ得

一〇三 諸租税ノ賦課ヲ許諾スル事ハ先ツ民撰議院ニ於テ之ヲ取扱ヒ元老院ハ唯其事アル毎ニ民撰議院ノ議決案ヲ覆議シテ之ヲ決定スルカ若クハ抛棄スルカノ外ニ出テス決シテ之ヲ変改スル事ヲ得可ラス

一〇四 元老院ノ編制権利ニ関スル法律ハ先ツ之ヲ元老院ニ持出サヾルヲ得ス民撰議院ハ唯之ヲ採用スルカ棄擲スルニ過キス決シテ之ヲ刪添(さんてん)ス可ラス

一〇五 元老院ハ立法権ヲ受用〔ス〕ルノ外左ノ三件ヲ(つかさ)ト〔ル〕

    一 民撰議院ヨリ提出劾告セラレタル執政大臣諸官吏ノ行政上ノ不当ノ事ヲ審糺裁判ス其劾告手続ハ法律別ニ之ヲ定ム

    二 国帝ノ身体若クハ権威ニ対シ又ハ国安ニ対スル重罪犯ヲ法律ニ定〔メ〕タル〔所ニ〕循ヒ裁判ス

    三 法律ニ定メタル時機ニ際シ及ヒ其定メタル規程ニ循ヒ元老院議官ヲ裁判ス

一〇六 元老院議官ハ其現行犯罪ニ由リテ拘捕セラルヽ時又ハ元老院ノ集会セサル時ノ外予メ元老院ノ決定承認ヲ経スシテ之ヲ糺治シ又ハ拘致囚捕セラルヽ事ナシ

一〇七 何レノ場合タルヲ諭セス議官ヲ糺治シ若クハ囚捕スル時ハ至急ニ之ヲ元老院ニ報知シ以テ該院権限ノ処ヲ為サシム

日本帝国憲法

 第三編 立法権

   第三章 国会ノ職権

一〇八 国家永続ノ秩序ヲ確定国家ノ憲法ヲ議定シ之ヲ添刪更改シ千載不抜ノ三大制度ヲ興廃スル事ヲ司ル

一〇九 国会ハ国帝及立法権ヲ有スル元老院民撰議院ヲ以テ成ル

一一〇 国会ハ総テ公行シ公衆ノ傍聴ヲ許ス

    但シ国益ノタメ或ハ特異ノ時機ニ際シ秘密会議ヲ開ク事ヲ要スヘキニ於テハ議員十人以上ノ求ニ因テ各院ノ議長傍聴ヲ禁止スルヲ得

一一一 国会ハ総テ日本国民ヲ代理スル者ニシテ国帝ノ制可ヲ()ツノ外総テ法律ヲ起草シ之ヲ制定スルノ立法権ヲ有ス

一一二 国会ハ政府ニ於テ若シ憲法或ハ宗教或ハ道徳或ハ信教自由或ハ各人ノ自由或ハ法律上ニ於テ諸民平等ノ遵奉財産所有権或ハ原則ニ違背シ或ハ邦国ノ防禦ヲ傷害スルカ如キ事アレハ勉メテ之レカ反対説ヲ主張シ之カ根元ニ遡リ其公布ヲ拒絶スルノ権ヲ有ス

一一三 国会ノ一部ニ於テ否拒シタル法案ハ同時ノ集会ニ於テ再ヒ提出スルヲ得ス

一一四 国会ハ公法及私法ヲ整定ス可シ即チ国家至要ノ建国制度及根原法一般ノ私法及民事訴訟法海上法礦坑法山林法刑法〔治罪〕法庶租税ノ徴収及国財ヲ料理スルノ原則ヲ〔議〕定シ兵役ノ義務ニ関スル原則国財ノ歳出入予算表ヲ規定ス

一一五 国会ハ租税賦課ノ認許権又工部ニ関シテ取立タル金額使用方ヲ決シ又国債ヲ募リ国家ノ信任<紙幣公債証書発行>ヲ使用スルノ認許権ヲ有ス

一一六 国会ハ行政全局<法律規則ニ違背セシカ処置其宜キヲ得サルヤ>ヲ監督スルノ権ヲ有ス

一一七 国会議スル所ノ法案ハ其討議ノ際ニ於テ国帝之ヲ中止シ若クハ禁止スル事ヲ得ス

一一八 国会<両院>共ニ規則ヲ設ケ其院事ヲ処置スルノ権ヲ有ス

一一九 国会ハ其議決ニ依リテ〔憲〕法ノ欠典ヲ補充スルノ権総テ憲法ニ違背ノ所業ハ之ヲ矯正スルノ権新法律及憲法変更ノ発議ノ権ヲ有ス

一一〇 国会ハ全国民ノ為ニ法律ノ主旨ヲ釈明ス可シ

一二一 国会ハ国帝太子摂政官若クハ摂政ヲシテ国憲及法律〔ヲ遵守ス〕ルノ宣誓詞ヲ宜へシム

一二二 国会ハ国憲ニ掲ケタル時機ニ於テ摂政ヲ撰挙シ其権域ヲ〔指〕定シ未成年ナル国帝ノ太保ヲ任命ス

一二三 国会ハ民撰議院ヨリ論劾セラレテ元老院ノ裁判ヲ受ケタル執政ノ責罰ヲ実行ス

一二四 国会ハ内外ノ国債ヲ募リ起シ国土ノ領地ヲ典売シ或ハ彊域ヲ変更シ府県ヲ発立分合シ其他ノ行政区画ヲ決定スルノ権ヲ有ス

一二五 国会ハ国家総歳入出ヲ計算シタル<予算表>ヲ検視ノ上同意ノ時ハ之ヲ認許ス

一二六 国会ハ国事ノ為メニ緊要ナル時機〔ニ〕際シ政府ノ請ニ応〔シ〕議員ニ該特務ヲ許認指定ス

一二七 国会ハ国帝()スル時ハ若クハ帝位ヲ(むなし)フスル時〔ハ〕既往ノ施政ヲ検査シ及施政上ノ弊害ヲ改正ス

一二八 国会ハ帝国若クハ港内ニ外〔国〕海陸軍兵ノ進入ヲ允否ス

一二九 国会ハ毎歳政府ノ起議〔ニ〕因リ平時若クハ臨時海陸軍兵ヲ限定ス

一三〇 国会ハ内外国債ヲ還償ス〔ル〕ニ適宜ナル方法ヲ議定ス

一三一 国会ハ帝国ニ法律ヲ施行スルタメニ必要ナル行政ノ規則ト行政ノ設立及其不全備ヲ補フ法ヲ決定ス

一三二 国会ハ政府官僚及其〔俸〕給ヲ改止設定シ若クハ之ヲ廃止ス

一三三 国会ハ貨〔幣〕ノ斤量価格銘誌模画名称及度量衡ノ原位ヲ定ム

一三四 国会ハ外国トノ条約ヲ議定ス

一三五 国会ハ兵役義務執行ノ方法及其規則卜期限トニ関スル事就中(なかんずく)毎歳召募ス可キ徴兵員数ノ定〔数及〕予備馬匹ノ賦課兵士ノ糧食屯営ノ総則ニ関スル事ヲ議定ス

一三六 政府ノ歳計予算表ノ規則及〔諸〕租税賦課ノ毎歳決議政府ノ決算表并ニ会計管理成跡ノ検査新公債証券ノ発出政府旧債ノ〔変面官〕地ノ売易貸与専売并特権ノ法律総テ全国ニ通スル会計諸般ノ事務ヲ決定ス

一三七 金銀銅貨及銀行証券ノ発出ニ関スル事務ノ規則税関貿易電線駅逓鉄道航運ノ事其他全国通運ノ方法ヲ〔議〕定ス

一三八 証券ノ銀行工業ノ特準度量衡製造ノ模型記印ノ保護ノ法律ヲ決定ス

一三九 医薬ノ法律及伝染病〔家畜〕疫疾防護ノ法律ヲ定ム

日本帝国憲法

 第三篇 立法権

  第四章 国会ノ開閉

一四〇 国会ハ両議院共ニ必ス〔勅命ヲ〕以テ毎歳同時ニ之ヲ開クヘシ

一四一 国帝ハ国安ノ為ニ須要〔卜〕スル時機ニ於テハ両議院ノ議決ヲ不認可シ其議会ヲ中止シ紛議ス〔ルニ当〕リテハ其議員〔議院〕ニ解散ヲ命スルノ権ヲ有ス然レドモ此場合ニ当リテハ必ラス四十日内ニ新〔議員〕ヲ撰挙セシメ二ケ月間内ニ之ヲ召集シテ再開ス可シ

一四二 国帝崩シテ国会ノ召集期ニ至ルモ尚ホ之ヲ召集スル者無キ〔時〕ハ国会自ラ参集シテ開会スル事ヲ得

一四三 国会ハ国帝ノ崩御ニ遭フモ嗣帝ヨリ解散ノ命アル迄ハ解散セス定期ノ会議ヲ統クル事ヲ得

一四四 国会ノ閉期ニ当リテ次期ノ国会未タ開カサルノ間ニ国帝崩御スル事アル時ハ議員自ラ参集シテ国会ヲ開ク事ヲ得若シ嗣帝ヨリ解散ノ命アルニ非レバ定期ノ会議ヲ続クル事ヲ得

一四五 議員ノ撰挙既ニ(おわ)リ末タ国会ヲ開カサルノ間ニ於テ国帝ノ崩御ニ遭フテ尚ホ之ヲ開ク者ナキ時ハ其議員自ラ参集シテ之ヲ開ク事ヲ得若シ嗣帝ヨリ解散ノ命アルニ非レバ定期ノ会議ヲ続クル事ヲ得

一四六 国会ノ議員〔其〕年〔限〕既ニ尽キテ次期ノ議員未タ撰挙セラレサル間ニ国帝崩御スル時ハ前期ノ議員集会シテ一期ノ会ヲ開ク事ヲ得

一四七 各議院ノ集会ハ同時ニ〔ス〕可〔シ〕若シ〔其〕一院集会シテ他ノ一院集会セサル時ハ国会ノ権利ヲ有セス

    但シ糾弾裁判ノ為〔ニ元老〕院ヲ開クハ其法庭ノ資格タルヲ以テ此限ニアラス

一四八 各議院議員ノ出席過半数ニ至ラサレハ会議ヲ開ク事ヲ得ス

日本帝国憲法

 第三篇 立法権

   第五章 国憲ノ改正

一四九 国ノ憲法ヲ改正スルハ〔特別〕会議ニ於テス可シ

一五〇 両議院ノ議員三分ノ二ノ議決ヲ経テ国帝之ヲ允可スルニ非レバ特別会ヲ召集スル事ヲ得ス〔特〕別〔会〕議員ノ召集及撰挙ノ方法ハ(すべ)テ国会ニ同シ

一五一 特別会ヲ召集スル時ハ民撰議院ハ散会スル者トス

一五二 特別会ハ元老院ノ議員及国憲改正ノ為ニ撰挙セラレタル人民ノ代民議員ヨリ成ル

一五三 特別ニ撰挙セラレタル代民議員三分ノ二以上及元老院議員三分二以上ノ議決ヲ経テ国帝之ヲ允可スルニ非レバ憲法ヲ改正スル事ヲ得ス

一五四 其特ニ召集ヲ要スル事務畢ル時ハ特別会自ラ解散スル者トス

一五五 特別会解散スル時ハ前ニ召集セラレタル国会ハ其定期ノ職務ニ復ス可シ

一五六 憲法ニアラザル総テノ法律ハ両議院出席ノ議員過半数ヲ以テ之ヲ決定ス

日本帝国憲法

 第四篇

  第一章 行政権

一五七 国帝ハ行政官ヲ総督ス

一五八 行政官ハ太政大臣各省長官ヲ以テ成ル

一五九 行政官ハ合シテ内閣ヲ成〔シ以テ〕政務ヲ議シ分レテ諸省長官卜為リ以テ当該ノ事務ヲ理ス

一六〇 諸般ノ布告ハ太政大臣ノ名ヲ署シ当該ノ諸省長官之ニ副署ス

一六一 太政大臣ハ大蔵卿ヲ兼任ス可シ

一六二 太政大臣ハ国帝ニ奏シ内務以下諸省ノ長官ヲ任免スルノ権アリ

一六三 諸省長官ノ序次左ノ如シ

    大蔵卿 内務卿 外務卿 司法卿

    陸軍卿 海軍卿 工部卿 宮〔内〕卿

    開拓卿 教部卿 文部卿 農商務卿

一六四 行政官ハ国帝ノ欽命ヲ奉シテ政務ヲ執行スル者トス

一六五 行政官ハ執行スル所ノ政務ニ関シ議院ニ対シテ其責ニ任スル者トス若シ其政務ニ就キ議院ノ信ヲ失スル時ハ其職ヲ辞ス可シ

一六六 行政官ハ諸般ノ法案ヲ草シ議院〔ニ提〕出スルヲ得

一六七 行政官ハ両議院ノ議員ヲ兼任スルヲ得

一六八 行政官ハ毎歳国費ニ関スル議案ヲ草シ之ヲ議院ノ議ニ〔付〕ス可シ

一六九 行政官ハ毎歳国費決算〔書〕ヲ製シ之ヲ議院ニ報告ス〔可〕シ

日本帝国憲法

 第五篇

  策一章 司法権

一七〇 司法権ハ国帝之ヲ〔総括〕ス

一七一 司法権ハ不羈独立ニシテ法典ニ定ムル時機ニ際シ及ヒ之ヲ定ムル規程ニ循ヒ民事並ニ刑〔事ヲ審理〕スルノ裁判官判事及陪審官之ヲ執行ス

一七二 大審院上等裁判〔所〕下等裁判所等ヲ置ク

一七三 民法商法刑法訴訟法治罪法山林法及司法官ノ構成ハ全国ニ於テ同均トス

一七四 上等裁判所下等裁判所ノ数並ニ其〔種〕類各裁判所ノ構成権任其権任ヲ執行スヘキ方法及裁判官ニ属ス可キ権理等ハ法律之ヲ定ム

一七五 私有権及〔該〕権ヨリ生シタル権理負債其他凡ソ民権ニ管スル訴訟ヲ 審理スルハ特ニ司法権ニ属ス

一七六 裁判所ハ上等下等ニ論ナク廃改スル事ヲ得ス又其構制ハ法律ニ由ルニ非レハ変更ス可ラス

一七七 凡ソ裁判官ハ国帝ヨリ任シ其判事ハ終身其職ニ任ジ陪審官ハ訴件事実ヲ決判シ裁判官ハ法律ヲ準擬シ諸裁判ハ所長ノ名ヲ以テ之ヲ決行宣告ス

一七八 郡裁判所ヲ除クノ外ハ国帝ノ任シタル裁判官ノ三年間〔在〕職シタル者ハ法律ニ定メタル場合ノ外ハ(また)之ヲ転黜スル事ヲ〔得〕ス

一七九 凡ソ裁判官法律ニ違犯〔スル事〕アル時ハ各自其責ニ任ス

一八〇 凡ソ裁判官ハ自ラ決行〔セ〕ラルベキ罪犯ノ審判アル時ヲ以テスルノ外有期若クハ無期ノ時間其〔職〕ヲ(うば)ハルヽ事ナシ又司法官ノ決裁<裁判所議長若クハ上等裁判所ノ決裁等ヲ云フ>ヲ以テセラルヽカ又ハ充分ノ緒由アリテ国帝ノ令ヲ下シ且ツ憑拠(ひょうきょ)ヲ帯ヒテ罪状アル裁判官ヲ当該ノ裁判所ニ訴告スル時ノ外ハ裁判官ノ職ヲ停止スル事ヲ得ス

一八一 軍事裁判及護卿兵裁判亦法律ヲ以テ之ヲ定ム

一八二 租税ニ関スル争訟及違令ノ裁判モ同ク法律ヲ以テ之ヲ定ム

一八三 法律ニ定メタル場合ヲ除クノ外審判ヲ行フカタメニ例外非常ノ法衙ヲ設クル事ヲ得ス如何ナ〔ル〕場合タリドモ臨時若クハ特別ノ裁判所ヲ開キ臨時若クハ特別ノ糺問掛リヲ組立裁判官ヲ命シテ聴訟断罪ノ事ヲ行ハシム可ラス

一八四 現行犯罪ヲ除クノ外ハ当該部署官ヨリ発出シタル〔命令〕書ニ依ルニ非ズシテ拿捕スル〔事〕ヲ得ス若シ(ほしい)マヽニ拿捕スル事アレハ之ヲ命令シタル裁判官及之〔ヲ〕請求シタル者ヲ法律ニ掲クル所ノ刑ニ処ス可シ

一八五 罰金及禁錮ノ刑ニ問フヘキ罪犯〔ハ勾〕留スル事ヲ得ス

一八六 裁判官ハ管轄内ノ訟獄ヲ聴断セスシテ之〔ヲ〕他ノ裁判所ニ移ス事ヲ得ス 是故ヲ以テ特別ナル裁判所及専務ノ員ヲ設クル事ヲ得ス

一八七 何人モ其志意ニ(さから)ヒ法律ヲ以テ定メタル正当判司裁判官ヨリ阻隔セラル事ナシ是故ヲ以テ臨時裁判所ヲ設立スル事ヲ得可ラス

一八八 民事刑事〔ニ〕於テ法律ヲ施行スルノ権ハ特ニ上下等裁判所ニ属ス然レドモ上下等裁判所ハ審判及審判ノ決行ヲ看守スルノ外他ノ職掌ヲ行フ事ヲ得ス

一八九 刑事ニ於テハ証人ヲ推問シ其他凡テ劾告ノ後ニ係ル訴訟手続ノ件ハ公行ス可シ

一九〇 法律ハ行政権ト司法権トノ間ニ生スル事ヲ得ヘキ〔権〕限抵〔触〕ノ裁判ヲ規定ス

一九一 司法権ハ法律ニ定ムル特例ヲ除キ亦政権ニ管スル争訟ヲ審理ス

一九二 民事刑事トナ〔ク〕裁判所ノ訟庭ハ(法律ニ由テ定メタル場合ヲ除クノ外ハ)法律ニ於テ定ムル所ノ規程ニ循ヒ必ス之ヲ公行ス可シ

    但シ国安及風紀ニ関スルニ因リ法律ヲ以テ定メタル特例ハ此限ニ非ラス

一九三 凡ソ裁判ハ其理由ヲ説明シ訟庭ヲ開テ之ヲ宣告ス可シ刑事ノ裁判ハ其処断ノ拠憑スル法律ノ条目ヲ掲録ス可シ

一九四 国事犯ノ為ニ死刑ヲ宣告ス可ラス又其罪ノ事実ハ陪審官之ヲ定ム可シ

一九五 凡ソ著述出板ノ犯罪ノ軽重ヲ定ムルハ法律ニ定メタル特例ノ外ハ陪審官之ヲ行フ

一九六 凡ソ法律ヲ以テ定メタル重罪ハ陪審官共罪ヲ決ス

一九七 法律ニ定メタル場合ヲ除クノ外ハ何人ヲ諭セス拿捕〔ノ〕理由ヲ掲示スル判司ノ命令ニ由ルニ非レバ囚捕ス可ラス

一九八 法律ハ判司ノ命令ノ規式及罪人ノ糺弾ニ従事スヘキ期限ヲ定ム

一九九 何人ヲ論セス法律ニ由テ其職任アリト定メタル権ヲ以テシ及法律ニ指定シタル規程ニ於テスルノ外ハ家主ノ意志ニ違ヒテ家屋ニ侵入スル事ヲ得ス

二〇〇 如何ナル罪科アリドモ犯罪者ノ財産ヲ没収ス可ラス

二〇一 駅郵若クハ其他送運ヲ掌ル局舎ニ託スル信書ノ秘密ハ法律ニ由リ定メタル場合ニ於テ判司ヨリ特殊ノ免許アル時ヲ除クノ外ハ必ズ之ヲ侵ス可ラス

二〇二 保寨(ほさい)ノ建営土堤ノ築作脩補ノタメニシ及ヒ伝染病其他緊急ノ情景ニ際シ前文ニ掲クル公布ヲ必需トセサルヘキ時ハ一般ノ法律ヲ以テ之ヲ定ム

二〇三 法律ハ予メ公益ノ故〔ヲ以〕テ〔没〕収ヲ要〔スル事〕ヲ公布ス可シ

二〇四 公益ノ公布及没収ノ前給ハ戦時火災溢水ニ際シ即時ニ没収スル事ヲ緊要トスル時ハ之ヲ要求スル事ヲ得ス然レドモ決シテ没収ヲ被リタル者ハ没収ノ償価ヲ請求スルノ権ヲ損害セス

* * * * * *

注)

原本では、下の3文字が常用漢字やJISの漢字ではないので、行末のように直し、表記した。

1)「トキ」(原文は、「ト」偏に「キ」を合成して一文字にした簡略文字)→「時」

2)「トモ」(原文は、「ト」偏に「キ」を合成して一文字にした簡略文字)→「トモ、ドモ」

3)「‾|」(原文は、『「』を左右反転させたような文字、コト」)→「事」

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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千葉 卓三郎

チバ タクサブロウ
ちば たくさぶろう 1852(嘉永5)年~1883(明治16)年。明治の自由民権思想家。現在の宮城県栗原市出身。

1880(明治13)年、第2回国会期成同盟大会が東京において開かれた際、憲法起草が議され、翌年(明治14年)に予定された第3回大会に、各自草案(私擬憲法草案)を持ち寄ることが決議された。五日市の民権家グループでは、「日本帝国憲法」として、千葉卓三郎を中心に独自の草案をまとめた。これが、1968(昭和43)年、当時の東京経済大学教授色川大吉氏らにより、庄屋深沢家の旧宅の土蔵より発見された。基本的人権を尊重するなど国民の権利意識は、現行の日本国憲法に近い草案として注目され、発見者らによって「五日市憲法草案」と名付けられた。『「五日市憲法草案の碑」建碑誌』より、全文204条を掲載する。

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