大盗マノレスク
一
日比谷公園における英国東洋艦隊の歓迎会は、日本人がこんなにも国際人だという
新橋停車場から会場までの沿道は、文字どおり人をもって埋めつくしたのは当然だけれど、それ以上にまたその人々の姿や顔を同盟両国の国旗ですきまもないほどに
そのほかに、二日にわたって花電車がねり出すし、それからまた高級な歓迎会ばかりではなく、相撲だとか玉乗だとか、
花火は
玉乗曲芸などの
千八百九十八年クリ—ト島におこった
大将の聡明な頭脳は、この偶然を
前垂ほどの小さい
この笑った水兵の中の一人が――彼はたしか兵曹長ぐらいの階級であったろう――突然、何うしたわけかその笑いをひっこめて日本人席の片隅へぴたりと視線をとめた。おそらく、砲身にとりついた標尺をつける時のほかには滅多に見られない表情だったにちがいないのである。それから、その兵曹長は首をちょっと振って目を他にそらしたが、それ以後はつきものに
「なあ、不思議なこともあるもんだよ」
兵曹長はやがて、隣の同僚にはなしかけた。今感じている、おのれのほやほやの本心を打明けようとした模様であったが、あいにく、隣の
日本人席の片隅といっても、兵曹長が目をとめたのは丸柱の蔭で、これが 本式の建物なればさしずめ外廊下にあたる位置だったが、そこへ目を注いだほどの人ならば兵曹長でなくも誰でもおそらく一様に目を
「いや、ほんとに不思議なこともあればあるものだ。ふうむ、驚いたと云ってまったく今日くらい……」
兵曹長はしかし又ぞろ、半分でつぶやきを止めてしまった。やはり隣の同僚はまだ
けれど、十数分間ののちには、くだんの兵曹長はとうとう玉乗小屋を一緒に出かけようとする同僚をとらえて肩を叩きながら、目的の話題をまんまと先刻からねらっていた相手の耳へねじこんでいた。
「奴はたしかにマノレスクだぜ。おい、知ってるかい、世界をまたにかけて散々にあばれまわっている美男の大盗だよ。やれやれ、あいつが日本に来ているのかな、驚いたもんだ、何しろ名高いやつさ、女たらしでね、世界中の宝石商を
二
銀座の「かがみ会」というのは片がわだけの町内会であったが二十七の飾窓をもっていた。こんどの英艦隊の歓迎にはこの飾窓をぜんぶ模様替えすることに申合せをした。このことが唇をちょっと染めるほどに手がるく決議されたのは、おそらくこの会の人々の誰もがそれぞれいくぶんかずつ国際人たるの資格をもっていたからであろう。
そのなかで、有名な玉天堂では紫水晶の葡萄の房を陳列したが、勿論これは非常な評判であった。それというのは房ばかりでなくそれにプラチナの蔓をからませ、
尾崎市長ののベた歓迎の
全く彼はいつも無駄とは近づきがなかった。たとえばそれは一つの奇術のようなもので、どんな柔軟性のしぐさの中からでも必ず何か一品をとりだすことを忘れなかった。現在もそうした意識の下に一人の外国人を自邸で世話をしていたが、贅沢な葡萄の房のように彼はこの行為がけっして無駄に終らない確信をもっていた。
「アトラント公爵は、まだ帰らんかね?」彼は家に帰るとまずそういって女中に訊いた。層雲に鶴の
花火の音が外でしていた。陽はまだあったのにもう夜空をつたえるような音だった。書類函の中には今日の午後の便でとどいた親展書が数通はいっていた、それから店へのぶんが一通、それは最近のカタログに刷込むはずの岸田
その本尊のアトラント公爵は、それから三十分もたたないうちに馬越邸に帰ってきていた。名画でも搬入されるようにすばらしい美貌が路地口にはいってきた時、この若い公爵がもしも室町の玉乗小屋の中にいた外人だと知る者があったら(そしてその上に、兵曹長の語ったことを知っていたとしたら)
「やっと人心地がついたこと。アトラント様もおつかれでしたでしょう?」彼女は女中のはこんで来た熱い紅茶を半ぶん程ひといきに呑み干すと、湯気のなかからいった。むしろ、丸い鼻だのに何かつんとした感じのする鼻柱が(玉乗小屋でもそう感じたが)むらだつ湯気を二分して白く妙に情感をそそる位置にあった。「……靴の底で
「無論よくありませんね。でも、それほどではありません」と男はまがおに答えた。「もし、私が、全然
「まあ! お上手ですこと」と女はその意味を解釈すると、どこかにつんとした態度をとりおとしたほど急激にはじらった。「語学力だなんて、もうそのお話はおっしゃらないで。私はまた、ちょうど、路のまんなかでも、玉乗小屋の中でも、まるで学校の試験場のようなきもちでした――アトラント様は私をつまりもう一ぺん学校の教室に追いこんでおしまいなすったのね」
「私だって、そんな事をいえば、東洋のお蔭で、みるもの聴くもの幼稚園の子どもも同然ですよ」
「でも、何もお珍らしそうになさらないじゃありませんの」
「全部が珍らしいのです。そんな時は、人間の表情なんて却って白紙のようになるものですよ」
「でしたら」と彼女はいった。「玉乗はお珍らしくって? どう?」
「あれは少し単純すぎますね。音楽でももっと工夫したら好いかも知れませんけれど」
「それごらんなさい」
「でも珍らしかった事に変りはありませんよ」と男はおちついていって彼女のほうヘ
「はあ、たとえば?」
と、女は促すように返事をした。もし彼の珍らしいものが分るなら、この異国の貴族に彼自身の口で歓待の方針をたてさせるも同然だったからである。玉乗でも、剣舞でも好奇心をとらえ得ないとわかった今では、それにかわるべきものはなにか? 早くそれを知りたかった。
「待って下さいよ、私もべつにそう豊富な材料をもっているわけでは無いのですから」と男はいった。「完全には適切でないかも知れませんが、まあ中くらいなところを云いましょう。たとえばですね、われわれの目にも、東洋の空気の中でみる宝石の色なんて、まずとても素晴しいものです。もちろん指頭工業のすぐれた貴国のせいもあるでしょうが、もっぱらこれは水蒸気のためですね。即ち空気のちがいです、この空気というやつは人工以外のものですからね。私は赤ん坊が空の色を見分けた時のような気持で毎日お店の陳列品を横目でながめながらひそかに讃嘆してその前をとおっているわけです。そして、沙漠のまんなかで欲得もなんにもなくなってしまった人間のような気持でこんなことをいうんですよ。ごくごく
「わかりましたわ」と女はいった。「玉天堂の重要品をみんなお目にかけましょう。それならいいでしょう、そして東洋の水蒸気をあなたにたっぷり褒めていただきますわ、私はそのお約束をきっと叶えます、父もよろこぶにちがいありません、父は宝石を自分の心臓の次ぎかそれとも同等ぐらいにさえかんがえているのですから」
彼女の語学力はこれを言うとき、明らかに最高潮に達していることがみとめられた。
三
世界の距離を普通の人間の半分か三分の一くらいにしか考えていないような大盗マノレスクの広範囲にわたる行動は、同時にそれがわずか二十四にしかならない花のような青年だということで、世界の驚きを二倍にもした。
処が、今ここにいるアトラント公爵も同じくらいの年配であった。何故といえばそれは同一人だったからである。(兵曹長の見込はあたった!)彼は最初東洋の土をふんだときまず皇帝陛下に面会をもとめることを考えていた。だがそれは来てみてからだいぶ迂遠な考えだったということがわかったので、その計画は直ちにやめにした。(やれやれ、とんでもない事をやらかすところだった)―― そして彼の前には今その次ぎの計画がようやく成功の緒につこうとしていた。
事実、彼の能力は東洋の土をふんでも少しも劣ろえをみせていなかった。新橋の社交倶楽部で知りあいになった女性がこの国で有数の宝石商の娘だったということは何よりもマノレスク自身をおどろかすに足りた。そしてそこに神と共に海をわたってきた自分を感じた。(何の神か知らないが、いつからか自分にくっついている)しかし、そこにも、少しばかりの思惑ちがいはあった。もっとも、その思惑ちがいは目的の
「さあアトラント様、おやくそくの重要品をお目にかけることになりました。あっちへまいりましょう」
彼女の声は、中一日おいた次の日マノレスクをおとずれた。彼女が
「さあ公爵、まいりましょう早く」と彼女は入口に立ったままで促した。「あかずのお部屋の扉があいたのですよ。うちの支配人でさえ、いつの間にこんな品がと、年に二三度は必ずと陳列品を見ておどろかされることのあるお部屋ですの―― 実をいうと、私もこんな折でなくてはゆっくりと此のお部屋を見せてもらえないのですから、まあ半分は私のためみたいなものね」
「結構ですとも、あなたと見る権利を半分ずつにわけましょう」版画からやっと目をはなしてマノレスクはいった。「でも、こんなに早くめぐってきた幸運というものは、その間際まで半信半疑なものですからね。で、お礼をいうのはその部屋の入口でか、それとも見せていただいた後かにすることにしましょう。いけませんか」
「御随意に」と彼女は答えた。「そして、お礼はお気に召したときまってからになさいませ。
「処が、その点は大丈夫です」マノレスクは椅子からたちあがって扉のほうヘ出てきながら云った。「宝石にかけては私はずぶの素人ですから何を見ても感心するにきまっています。がっかりするのは私でなくあなた方かも知れませんよ」
「アトラント様、どうぞ」彼女はあとすざりに扉をあけた。「いいえ、感心さえして下されば父はもうそれだけで大喜びですわ。でも一ばんいいことは本当の批評をして下さることね、それをどうかお願いしますわ」
「とにかくお供しましょう」
二人はつれだって重要品の保管室にと出かけて行った。
保管室は土蔵の一部にあった。二重戸のはまった中に
二人がはいって行ったとき、一方の枝燈の真下で、たれか向うむきにしゃがんで何かしていたが、あしおとを聞くと、
「おお八千代かね。一つだけ鍵の工合がわるいので今直しているところだよ、公爵様に一寸お待ちしてもらっておくれ」と云った。店主の栄一がその言葉のとおり小さい鍵の先にやすりをかけている所であった。「ほかの
「あああの七十カラットの縦箱でしょう?」
「そうそうあいつがね。縦箱は鍵が別なもんだから、蓋明けにはいつもこれ一つに手古摺るんだよ――よし、こんどはよかろう」栄一は立ちあがってこっちを向いた。そして公爵に手をさしのべて握手をすると娘に鍵をわたした。「八千代、お前ちょっとやってみておくれ、今度はきっとあくよ。ちょっとの加減だからね」
「はい―― 」
八千代は向うの片すみにあるいて行った。
鍵はすぐあいた。彼女がこっちに戻ってきた時、マノレスクは世界のどこかでいくたびも味った自分だけより知らない独特の感情に久しぶりで浸っていた。それは、昂奮ともちがえば冷静ともちがうものであった。かつて巴里のピグマリオン百貨店の入口で、また倫敦のズムリエール宝石店の客間であじわったものと全くひとしかったが、それにしても朱塗の床板の上をふんまえていることには、いくぶん東洋的な別なものを感じないでもなかった。
「じゃ公爵」栄一は八千代の通訳でいった。「こっちの端からごらん下さい。白い総塗の
「有難すぎます。そして必要以上にあなた方に御迷惑をかけたかも知れません」とマノレスクは答えた。「しかしゆるして下さい。私は子供のようにただ自分の望みをのべただけですから。そしてついでに有頂天にならせて戴きましょう。では ――」
彼は挨拶をひとつすると第一の
彼の態度は
四列目の最後の
「すんだ、すばらしい!」
とマノレスクは向うの壁に背をぶっつけるようにして叫んだ。それはいつわりのない歓喜にちがいないのか、瞳が 異様にかがやいていた。そしていくぶん昂奮しているにもかかわらず、さっきよりもずっとお人好しに戻ったように何か虚脱した表情でこっちにむいて立っていた。
「公爵、どうか忌憚なく」
「おどろきました、実際にすばらしい」と栄一に答えながらマノレスクは八千代を見た。宝石を見てしまったあとでは彼女の存在が何か一つとりのこされた大切なもののように強く彼の目にうつった。(東洋の女性をじぶんはまだ知らなかった)すると本能が自然と彼の虚脱した表情をベつな活気へとうつりかわらせた。その頬には好意に似たあだめいたほほえみが浮かんだ。「さっき、御礼をいうやくそくをしましたね八千代さん。もちろん私は御礼を申しますよ。しかし、どういったらいいか少しばかり時間の余裕を下さい、余計でもなくまた足りなくもない言葉を私は考えつかなくてはなりませんからね――ではとにかく、居間ヘ帰りましょう、何としてもあそこが私を一ばんおちつかせます。さあ行きましょう」
貴公子らしくも取れる気儘な口調でいうとマノレスクは八千代をうながしてもう自分からさきに重要品の保管室を出て行くのだった。
四
「私はやっと考えつきました」
居間に帰ると彼は八千代を安楽椅子にこしかけさせ、自分はさっきのように
「八千代さん、率直にいうと私は白塗の函には失望しました。天然物というものはわかりにくいものですけれど、そのくせ、雲の間から月がのぞいたように、はっきりと見極めのつくものです。そこへいくと脚高の函の約半分ほどと縦箱の中の全部とにはまったく胆をつぶしたと云っても云い過ぎではありません。よくあれだけの品が
「いいえ」と彼女は首をふった。
「たとえば貴女だって美術品です」とマノレスクは云った。「失礼はゆるしてください、私は真実をいおうとしているのですから。私はその真実の前に勇敢でありたいと思います。そこで私は良心の命ずるところに随って私の心をお打明けしたいとねがっているのです。つまり美術品に対するあこがれの心を」
「………………」
「いいでしょうね八千代さん。私はあなたの語学力に信頼します。もっともこれは言葉だけの問題ではありませんけれど……でも言葉の解釈は重要なことです」
マノレスクはすこしからだをおこした。それから相手の視線にまっすぐ合う位置にむきなおった。過去の経験によれば、こうした場面は本来もっと早く来ている筈のものだった。たとえば、パリでは仕事をする三カ月ほど前からフランス宮廷の女官アンドレと情交を結んでいたし、モンテカルロではハンガリイ美人のマリアンネ未亡人の寝室で仕事をたくらんだ。また東洋にわたるすぐ前まではスイスの名家ドレスデン伯爵の一人娘ゲルタを手に入れて新婚きどりで宝石店へでかけて行ったものだし――ところが、それにくらべては現在の彼は、むしろ骨を折りすぎているといってもいい程の求愛者的な立場にたたされていた。でも、彼はこのことにかけては充分の自信があった。(なあに、おそかれ早かれ同じことさ。ただ一寸ばかり、変りだねにぶつかったと云うだけの話なのだ)
かれは、その変り種をじっとまともに見詰めながら言葉をつづけた。
「単に、わたしのいうことを、言葉の解決だけにおわらせない、その上の希望をも、もちろん私は持っています。その希望はあなたにお目に懸った時から、だんだんと成長してきたのですが、今日はもうその絶頂に達してしまいました。それだから、こんなことを云うのです――八千代さん、わかりますか私のいうことが。全然 わからない事はないでしょう?」
「はい。でも……」と彼女は口籠りながら、今まで伏目になっていた顔を上げたが、真っ正面に彼の
「いいえ、それで結構なのです。こういう場合の混乱は男性への最上の贈り物といえますよ。私は早まって感謝をのべてもいいでしょうか?」
「アトラント様」そう云ったきりで八千代は顔へ袖をあてて安楽椅子の肘掛にいきなりがばと打伏してしまった。「何も
「このまま口を
長椅子の端からマノレスクはたち上った。
「八千代さん、だまって聞いていて下さい、それだけでいいのです」
「もうもう、何にも仰有らないで」
「ね」
とマノレスクの力をこめた声が打伏した彼女の耳のそばでした。熱い息が耳の袋にふれた。八千代は男の息が耳から頬へ滑って前のほうへ移動するのを感じた。混乱した意識の中でも、それは唇を狙うためだということは明かだった。社交倶楽部などでその人たちの間でおこなわれる愛欲の姿がそのとき彼女の瞼にうつるや否や思わず頸をまげて肘掛の上に唇をそらした。男の熱した口が一瞬の差で彼女のうす化粧の頬にぴたりと触れた。
「いけません、何をなさるんです」
「だまって! いいじゃありませんか」とマノレスクは意欲をそそる女の匂いに、この目前の不覚を自覚する余裕もなかった。「唇をゆるして下さい」
「あなたに云うことがあります! それは、悲しい悲しいことです。アトラント様、そっちにはなれて」
「悲しいこと? まさ英艦隊が沈没したんでもないでしょう」
「丁度、そのくらいの悲しいこと」と八千代は安楽椅子の上で元気をとりもどして云った。「アトラント様、あなたはさっき重要品の保管室で七十カラットの宝石をお隠しになりはしませんでしたか!」
「………………」
「私はたしかに見ました。あの宝石は私がへいぜい目をつけていたものだけに、
「そうでしたか、それじゃ仕方がない」
悪びれもせずにマノレスクは苦笑いをした。
それから長椅子にもどって、しばらく黙っていた。
そのあいだに彼はふるさとの母の事を思っていた。悪事の露見したときはきまって彼は母親を思い出す慣わしだった。ルウメ二ヤのカルパチヤ山地で山の
そして今も、東洋の一角でひさしぶりでその幻想に耽った。母親の手にひかれてノベアヌ教授の特殊学園へかよった幼時のことはおぼろげだが、十四歳のときガラツの海軍兵学校の入学試験をうけて六番という成績で入学のかなった時のことは、母親のよろこぶ最後の顔と共にわすられなかった。校長ドラギセスク少将に「将来のルウメニヤ海軍の名誉を荷う模範生である」と激賞された時は母親はもう死んでしまっていたが――そして彼はここまで考えてくると、この模範生の回想を決して幸福だとは思わなかった。何故といえば模範生というものの天分が、現在の境遇ときりはなして全く別のものだとは考えられなかったからである。それは同輩をおいこし、時にはたばかり、周囲を打倒することに終始したただ競争
彼は、いつものとおり、ひとわたり長椅子の上でこれらのことを胸にうかべた。
それが済むと再びたちあがった。
そして居間の中を三回ほど行ったり来たりしたが、八千代の前に足をとめると、彼は
「まず最初にお名指しの品を」
と彼はいった。
それから、また体をふるわせた。そして今度は両方の手を、胸や、腹や、背や、いたるところにめぐらして忙しく動かしたかと思うと二つのてのひらの中にいつの間にか二十個あまりの宝石がうずたかく盛られてあった。
「さあこれをみんな ――」と彼は云った。「お返しいたします。おうけとりください。これであなたのいう軍艦に錨を上げる望みは永久になくなりましたね。あなたの悲しみを倍加させることは本意ではありませんけれど、私には私のやりかたがあるのですから仕方がありません」
八千代の膝の上にざらざらと宝石が歯ぎしるように音を立ててうつされた。
黒いソフト帽と大きい折鞄を手にもったマノレスクの姿が
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2003/12/02
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