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雲のやうに

果樹園を昆虫が緑色に貫き 

葉裏をはひ 

たえず繁殖してゐる。 

鼻孔から吐きだす粘液、 

それは青い霧がふつてゐるやうに思はれる。 

時々、彼らは 

音もなく羽搏(はばた)きをして空へ消える。 

婦人らはいつもただれた目付で 

未熟な実を拾つてゆく。 

空には無数の瘡痕がついてゐる。 

肘のやうにぶらさがつて。 

そして私は見る、 

果樹園がまん中から裂けてしまふのを。 

そこから雲のやうにもえてゐる地肌が現はれる。

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2002/08/03

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左川 ちか

サガワ チカ
さがわ ちか 詩人 1911~1936 北海道に生まれる。25五歳で病没後に伊藤整らにより大きく見いだされた。

掲載作は伊藤の編纂に成る1936(昭和11)年没後の『左川ちか詩集』昭森社刊に拠る。

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