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朝顔に対して

(わが詩集の発売禁止の翌朝)

昨夜(ようべ)、悲憤に寝もやらず

(もた)るゝ窓の下白う

朝顔咲けり美はしく、

花も自由に開くもの

人の思想の何ゆゑに

残忍の手に(やら)はれし、

(あゝ)、戦場を楽園(その)とかへ

花を咲せむ心をば

朝日を砕き、潮を()き、

雲を消すべき(すべ)あらば

世紀を越えて勃興(おこ)りたる

かの新思想圧すべし、

涙に湿し人々の

蒔きに蒔くなる愛の種子(たね)

失せず、滅びず、華開き

平和の世界()とはなりぬべし。

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2009/02/28

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児玉 花外

コダマ カガイ
こだま かがい 詩人 1874(明治7)年~1943(昭和18)年 京都府に生まれる。同志社に学びキリスト教的社会正義にめざめて弱者に目を向け、1903(明治36)年、刊行直前に押収された『社会主義詩集』は我が国初の発禁詩集となった。

掲載作は翌1904(明治36)年、木下尚江、岩野泡鳴ら59人の「同情録」をそえて刊行された「花外詩集」の一編で、「わが詩集の発売禁止の翌朝」という注記をつけて抵抗精神を示した。「明治文学全集83明治社会主義文学集(一)」(1965年7月、筑摩書房刊)に拠り収録。電子文藝館では『社会主義詩集』から「失業者の自殺」を掲載している。

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