食後の唄(抄)
金粉酒
おお
わが
街にふる雨の紫。
をんなよ、
そなたはもうセルを着たのか、
その薄い藍の縞を?
まつ白な牡丹の花、
おお五月、五月、そなたの声は
あまい桐の花の下の
若い黒猫の毛のやはらかさ、
おれの心を
五月だもの、五月だもの──
(Amerikaya-Barに於て)
両 国
両国の橋の下へかかりや
やあれそれ船頭が
五月五日のしつとりと
肌に冷たき河の風、
四ツ目から来る早船の
牡丹を染めた
灘の美酒、菊正宗、
ぼんやりとした
夢の国技館の
遠く飛ぶ鳥の、夕鳥の影を見れば
なぜか心のみだるる。
珈 琲
今しがた
残りゐるゆゑうら
曇つた空に
時時は雨さへけぶる五月の夜の冷さに
黄いろくにじむ
酒宴のあとの雑談の
やや狂ほしき情操の、
さりとて別に
うら懐しく、
何となく古き恋など語らまほしく、
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
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