最初へ

草という名の女

   野 川

 

野川には 小鷺がいた

ほとんど水の枯れてしまった川の

水たまりのような所にいて

くちばしで 魚を とっているらしい

 

鷺娘は 少しやつれて

眞っ白い羽を ほつれさせている

老いて 一羽だけになってしまったのか

 

川辺の道路ぞいには 桜が満開だ

明日は 花嵐といわれている

午後三時頃の強い風で花びらは散りはじめた

 

もう一度 小鷺に会いたかった

明日はまぼろしのように 消えてしまうかも知れない

寒い風景のなかに

 

   草という名の女

 

「おれが死んだら」「おれが死んだら」

と いう男がいたので

「あなたが死んだら 食べられないわ」

と 女がいうと

男は毎日 女の好物の 氷アイスを買ってくる

 

死という言葉に 動かされたのさえ

遠い 昔のことになっていた 女に

 

氷アイスしか 食べられなくなって 久しい女

 

七月の曇天が 灼熱をかかえている

 

植木鉢に 水をやる男

渦巻くつるを 髪のようにふって

ふりしぼり 小さな花をつける 朝顔

 

   金髪の

 

金髪の 人形の首が ふっとんで庭に落ちた

あれは わたしの首だった

今の今迄 幸せに酔っていたのに

仕置場に 首なし人間のわたしも落とされた

 

二階は宴会をやっていた きもの姿の女がずらり

そのうち一人が一階に来て ぼやく

「わたしばっかり忙しくて わたし一人が

 三階だから 三階の人が お運びだって」

 

わたしはすでに和服を ぬいでいて

からだが楽だった もう一人 ぬいでいる人がいた

ステキ俳優から 真紅なバラが一輪とどいていた

 

手紙をそえて わたしをほめたたえて

バラがわたしに当るように 仕組んだという

わたしは 花形になるところだった

 

   今宵も

 

鯛のあらだきが上手な 板前さんがいた

鯛のあらだきの

白目を食べるのが好きな

お女中さんがいた 

カルシュームだって

 

数年後に訪ねると 人のうわさに

板前さんは 他の店へ移っていき

お女中さんは 三階の屋上で洗濯物を干していて 落ちたという

せっかくの強い骨を 骨折したらしい

悪気はないのだろうけれど 笑い話にされる

鯛のし返しと 思いたくはないけれど

 

頭が食べられない 目玉は食べられないと言いつつ

今宵も鯛のあらだきをつついて 談笑する

 

    二人の男の子

二人の男の子と 友だちになった

どろぼうごっこを しようと 一人がいった

わたしがどろぼうで 逃げる役

二人は ケイカンで追いかける役

 

グランドの鉄棒を ローヤにきめる

わたしは なんと ローヤに向かって逃げている

つかまらない先に 入ってしまった

一人は笑ったけど 一人は つまらないといった

 

わたしは ふざけたつもりだった

男の子二人は いってしまった

広いグランド 大きな学校 家からは遠かった

 

それから戦争がひどくなり 山形に疎開した

横浜の学校に もどることはなかった

二人は黒板の チョークになった

 

   額を背負う 女

 

他家の二階の和室にいて 曲がりくねった階段を降り

そこから 街並がみえる 帰れるだろうか

友人は先に降りて 腰かけてしまった

この家の主なのか 顔見知りの俳優が出てきて

 

俳優が何やら ごたくを並べるので 少し傍へ行き

一枚目の絵は 売れたけど 二枚目が売れなかった

赤ん坊のように 布にくるんで背負っている

もう一人の女も 同じように絵を背負っている

 

薄幸そうな なで肩の女で 弱弱しく笑った

その人も 絵は売れなかった

降ろすことさえ

できなかった

 

ぬれているような 色あせた着物と布地

わたしたちはこれから 駅をさがして

帰ろうとして いたのだったけれど

 

絵のように 布にくるんで背負われ

あれは

――遠い昔の わたし自身ではなかったか

まだ 産まれて 間もないころの

 

   魚は歌わない 1

 

水の中を泳いでいる魚を がしっとつかまえた

金のしゃちほこのような魚だった

この魚は 話ができる

わたしは魚を おんぶした

 

背中の魚と 時々 話をした

みんな 居なくなっていた

日も暮れかゝったので 帰ることにして歩いた

行き止まりのような場所で 道をきいた

 

道は ここから始まるのですという

えーっ ここまで歩いてきたのですかという

これからは 電車やバスに 乗りますけど

 

あなた 脇腹におんぶひもが喰いこんで

ただれて切れて うみをもっていますよという

しのびなくも 背中の魚を 岩の上に降ろすと

魚は 人間の 赤ん坊になっていました

 

   魚は歌わない 2

 

行き止まりの道とは つまり

此処ではなかったのか

山こそなけれ 人こそ去れど

隣家によく似ていた そして「此処から始まる」か

 

社会党の本部だったのです

材木が 立てかけられていました

作業をしている人がいました

女の人も 知人と友人の間くらいの人でした

 

わたしは 時々話相手になる魚を背負っていた

電車とバスには乗れますが といっていた

 

仕事をさがす口調になっていた

いつかも 赤ん坊を おぶっていて

これで食える と思っていたり

 

   メガネケース

 

メガネケースを 人間大にしたような

その一方の型に入ると 詩集ができて

もう一方へ入れば 借金がチャラになって

それで先ず 片方へ入ってみた

 

もう片方は 火が出ている

これは夢だから きっと 天気がよくなる

さて 入ろうと思うけど

からだに火がつきそうじゃないの

 

そんなところで 目覚めれば

胃袋は やけただれて いるようで

危うく 火で やかれるところだったんじゃ

 

近頃 こういう夢が やたらと多い

夢といえば ロマンじゃなかったの

人間の終わりの時も この程度のことかな

 

   行く先の わからない電車

 

気が付くと 車内は 真っ暗で

他に 乗客がいなくなっている

隅に 一かたまりになっている

黒装束の人たちだけが いて

 

人型(ひとがた)の黒布で おおっている

大きな荷物を 運んでいる

それは いかにも 死人を と

いう感じで 重苦し かった

 

知らぬふりして 「どちらまで」

答えは返ってこなかったけれど

一人が「次の駅で 特快にのりかえます」

 

それでは もう 近い 三鷹か 国分寺か

わたしは 大きなトランクを紛失していた

ただ 身は軽かったけど

 

   インスタントスープ

 

恐ろしい夢をみた

からだに乳房が六つもあった

仕事仲間と旅行に行っていて

ホテルにいて

 

夜になって 空腹を覚えて

仲間の一人と外食に出て

ボストンバッグの中に入れて置いてきた

二十万円が急に心配になった

 

このまま帰ってしまいそうな気がした

他にもう一つ 大きなバッグを持って出てきていた

日はとっぷりと暮れてしまっていた

 

友人たちは また次の旅行の計画をたてていた

インスタントスープをみて

仕事仲間を思い出した

 

   ストーリーのない人生 1

 

男の手は 血にまみれていた

「妻が 子宮癌で」と 男は言った

ふところを押さえると硬貨の入った財布がふれた

大金が入ったので いくつもの 財布に分けていた

 

急に用事ができて 大方を失ってしまった

財布は 三つばかりもどってきて

それをふところに入れてある

黒皮の ファスナー付きの 集金袋のような財布だ

 

パチンコ店は やけにすいていた

少し金を 多めにつぎこんでやっていたら

調子がよくなってきた

 

男の 妻もいる 常連の一人で凄腕だった

この人にイヤリングをあげると

男は すぐ出る台を教えてくれた

久しぶりに行ってみると 二人は消えていた

 

   ストーリーのない人生 2

 

またしても パーティー会場

わたしは 子供をあやしていた

終わりに近づいてから さし入れをする

しもふりいかと ようかん

 

「今日はMさんの一回忌で 盛大にやってください」

TさんとNさんが つくってくれた

三分の一の経費ですんだ 足りるだろうか

ちびっとずつわければ 間にあうだろう

 

春の彼岸の夜だった

三月十日の 兄さんの命日には 何をしていたか

何も してあげず 何か してもらったような

 

風に吹かれて 街を歩いて

エレベーターの 最上階までのぼって 降りる

怖いものをみた

 

   よみがえれば 雪

 

ひかるが あしが四本で生まれて

二本は切りおとして 事なしなのだけれど

切りおとした二本のあしを

念のために 腐らせないように残しておく

 

冷凍に しておかなければ ならない

そして 成長もさせなければ

あしは すでに 成人した女性のあしになっている

ひかるが講演して教室が いっぱいになったって

 

鈴木さんも 詩の教室を開いたって

茶店に 食事するために寄る

赤ちゃんを おんぶした人がきている

 

此処はちがうとか もう終ったとか云っていて

薄暗く 赤ランプがついていて

じゃあ 行きましょうか 明るい外へ

 

   残雪日記

 

地下の駐車場にいて 領収証を失くしてしまった

嫌味で意地悪な男がいたから

一万円の損害である

コップの下半分は 地下である

 

さて 上の半分だが 帰ると雨で

ぬれた洗濯物を とりこむ

マイナス一万円の帳消しができて

所詮 人生は 差し引き0か

 

目覚めると 曇り時々晴れ 今日も忙しい

洗濯機のスイッチを入れて テレビ時代劇

娯楽版なくして 何の日課ぞ

 

前半に茶を飲み 後半に身支度

動けなくなる時があるのは 死の前ぶれか

広大な物語が できかかっているというのに

 

   魔のカーブ

 

車道をへだてた向かいの十階建てのビル

上から四番目 つまり 七階の部屋の窓にいつも

灯台のように灯が点っている

以前 飛び降り自殺した人がいたらしい

 

一、二年前になるか ここ四階の下の道路で

正面衝突があった

左突き当たりはクランクに近いカーブになっている

そこを曲がってきた車が 渡りかけた人を見て

急ブレーキしたらしい

車は急カーブして反対車線に入った

そこへ対向車 車二台は噛み合ったままになる

とりたてマ−クの軽の方から煙が出ている

乗用車の中の男女は 車から出てこない

 

排気ガスのせいか 下の街路樹は枯れかかっている

ここは以前から よく事故のあった所だって

見通しがわるく 一瞬の間に車がくる

 

右を見て左を見て右を見て ハイ!

日中ならまだ これができる

夜間横断する時は 遠く迄歩いて

信号ボタンを押してから渡る

 

話はちがうけれど 午前三時頃は

バイクを追いかけるパトカーでにぎやかだ

 

まだいい方だと 誰も言う

電車の線路前の家では よく 人間の首が

ころがってきたと 聞いたことがある

 

人生のカーブとか 脳のカーブとか

ここでは いうまい

今夜も 雷がすごく

亡き養母は 夕立 雷が大好きだ

「あゝ いい気持ちだ」といっている

 

   字引の森には きつつきが

 

ただ一つの言葉を知りたくて 字引をひいた

みつからないうちに 日が暮れた

さがし始めた時 すでに 陽はまわっていた

 

とりかえすことのできない 大きなへだたり

でも また夜があり 明日もあると思って

字引をめくる

それが

風の

しぐさとなる その時まで

 

それは きつつきの仕事楽しい日々

なんにも気にする ひまがない

 

森には時々 羽根が落ちているでしょう

ぼんやり かなしい 忘れの葉

 

   猫便り

 

かがやいているものは ただそれだけで

まぶしかった

陰からみれば 日向はまぶしい

それだけのこと

 

時代劇の小判が巷に流れて

山吹色のプリズムが 人の心の裏表

室内の鉢植えの葉を 猫が食べる

猫も胸焼けするらしい

半日 カーテンにくるまって眠り

夜間にキッチンをかけまわり

 

人間さまの入浴中は 洗面所に 閉じこめられることもある

それが今日のことだった

 

朝照っかり 午後は曇の 師走かな

 

   動物日報 ――うそ新聞

 

上野公園の西郷さんが犬を連れて

夜な夜な徘徊しているといううわさがたった

銅像が消える時間帯があるという 犬諸共に

 

また 一方では 巨大なカマキリが発生して

オリの中のさるが ノイローゼになっているという

 

わたしたちは ある吉日 動物園を訪ねた

パンダも ぞうも やさしく迎えてくれた

 

頭上を 時にカラスの群れが はばたいた

利口になったのか 動物たちは 人に馴れ

 

ぞうの墓の前にきたときは 空も曇

二月近い寒さと暗さが 降りてきていた

 

この 闇をのぞいて

人々もまた はてしなく かえっていく

 

   花の名

 

図書館で 「高尾山の花」という本を借りてきた

まえから花には過ぎた名前と ひどすぎる名前のものがある

と 思っていた

今日ついに 可愛らしい小花のために 筆をとる

 

へそかずら

 

葉もむと臭いから「屁糞蔓」ですって

なんでわざわざ もんで嗅ぐ必要があったか

 

あかね

 

こちらは 花ともみえないのに

紅色に染める染料として

根がほめられたから

茜草ですって

根は止血や消炎の薬効もある

ですって

使う使わないは 人間の勝手だけど

ずいぶん ひいきじゃないの

万葉集にまでよまれて

 

せんにんそう

 

果実の先につく 銀白色の羽毛を「仙人」のひげにみたてたって

白く さわやかな感じですが 有毒植物ですって

仙人って おじいさんのことよね 気を付けましょう

おにたびらこ

「鬼田平子」って かくんだって「母子草」と

同じ(キク科)で

コンクリートの割れた間や、道路脇のほこりのたまったところなどに

みられますって

ちゃんと 空気を きれいにしてくれているのに

愛とか 尊敬から 遠い感じよ

 

魅せられし こは鬼の道 入りたるか

 

   山形県同窓会

 

もう みんな帰ってしまった

スケッチの先生は 奥様とヨーロッパ旅行中

里芋の葉にさそわれて 帰郷す

同窓会の膳の椀の中には くりぬかれた里芋

 

どんちゃんさわぎの一夜あければ

それぞれ めいめい さようならをかわすひまもない

病みあがりも 病みかけも

「また 来れるかどうか わからないわ」と

 

はるばる遠かった一人旅

「もう 親がいないので」と

実家へ 寄らない人多かった

 

実家が 消えている人も いる

フィリッピンの お嫁さんもらっている農家もある

「じゃあね」

 

   寒 冷

 

暑すぎるよりは まし と思いながら

三日ばかり 雨の続いた後のバス停で

ハトをみると なぜか 親身になっている

ちゃんとエサには ありついているんだろうか

 

動物が 可愛いく思えるなんて

これは感傷なのかも知れない

健康人から はずれてしまって

動物の痛みが いくらか わかって

 

次のバスで わたしは 行くのですから

わたしを みたり近寄ったりしているわけではない

路側帯のそばのみぞを 無心に

 

方向が ちがうのですから

何処へ 帰ろうと いうのです

樹の枝で 夢でもみていたかったわね

 

   パンプキン

 

聖子は かぼちゃ入りケーキが好きだった

一度 食べてみようかしらと思い

パンプキンをたのんだ

神楽坂の地下鉄を出て 通りに コーヒー館をみつけた日

 

でも かぼちゃは入っていなかった

上に かぼちゃの種が一つ のっていただけ

あとでよく考えたら 皿に流れていたタレが

かぼちゃ入りだった

小さいアイスクリームとその上のバジルは気にいっていた

だから まあまあ

 

十二月の街路樹をスケッチする

樹のそばの 自転車をスケッチする

 

クリスマスが近い 何とはなしの

人と街のざわめき輝く目

 

   猫談義

 

猫が好きな人と 猫が嫌いな人がいる

猫好きは 猫好きだけが集まって

山の方へ行って 暮らせばいい

 

   自治会長の結論

 

猫が入りこんできて 皿の上の魚をとっていってしまう

 

   猫嫌い組の発言

 

   いつの話? 理由はそれだけ?

マンションでは猫をかってもいいという規約は

つくらないでほしい どっと増えるから

 

   元 市会議員殿の発案

 

三宅島から来ている人たちは

立川は魚が高いと言っているらしい

   健康色で 体格のいい人達 どういう魚

   食べていたのかしら

   わたしは 生臭いものは嫌いで塩ザケしか

   食べていません

   うちの猫は キャッツフードしか食べていません

 

猫を抱いて 家出をする日が近いのか

猫トイレに馴れたとはいいながら

ころがるものを埋めようと 必死に

プラスチックの箱に爪を立てて ひっかく猫

この北風に 家もコタツもなしに

山のほら穴へ うばと猫は 道行きしました

猫は 雀と金魚をとってきて

うばに 恩返しをしました

 

自治会では ぶた汁大会

猫を殺して猫汁に

うばを殺して うば汁に

 

   あさきゆめみし

 1

 

昨夜は 苦しんだけど

今朝は 早起きできた

いい天気に なっている

ケーキに梅酒をかけて 食べたのだった

ついでに梅も一つぶ 食べたのだった

梅が おいしかった

ケーキは梅酒を大さじ三杯も吸いとっていた

もっと全部 びたびたにしたいくらいだった

 

自分が飲酒で苦しんだのは 何十年も前の事

あんな苦しくなるものを

よく飲むものだと 思ったものだ

大さじ一杯にしておけばよかった

口に指を つっこんでも吐けない

 

目を閉じると 猫の目がいっぱい

こっちをみている 今夜はなぜ 猫の目なんだ

この下は 猫塚だった

 

 2

 

店に入ると 二人の女性が並んでいて

そろいの着物を 着ていた 大島紬の地に

あじさいの花の桃色と紫色が 鮮やかだった

店のウインドウーには かぼちゃの煮物がみえた

家を出た所に 四軒ばかり 店が並んでいた

手前の一軒は 中華料理店のようだった

店内は手狭で うす暗く 二人の客が立ち上がり

席を 空けて くれた

調理場に 人はいなくて 店主らしき男は

一向に 何かつくろうと しなかった

 

果たして この世の中の 店だったのだろうか

 

   寒い四月

 

「あのはがきは 捨てないでください

さがしておいて ください」と言われた

それをかいた人が 家にきて 座っている

 

どうしようかと思って この間 捨ててしまった

ハガキ一枚捨てて 片づくというわけでも

それで荷物が かるくなると いうわけでもなかった

 

押入を あけると 上段に 仏壇がある

今 来ている人は 仏壇の中の人だったか

 

ハガキ一枚 減った書類が あるばかりで

もう さがしようがなかった

 

その人はまだ 座っている

 

   食 卓

 

レントゲン写真をかざして ドクターは言った

胸の この部分に影があります

これが何か 検査しましょう

大方 空洞の肺の さらにその上の残された部分に

 

眼も耳もいい老女には

もう 内容がきこえなかった

生涯を決するまで 頭の中を支配したことは

 

夕暮れには帰り

家族の食事をつくって 待つことだけだった

もう 誰も 座らない食卓に

 

   裏通り

 

ストーリーのない人生

と いうものを考えた

 

似つかわしい

 

デパートを出ると サンドイッチマンに渡された

紙切れ

そこを行って角を左に曲がると 地下室があります

だだっ広い地下の美容院 客まばら

客は お年寄り バッグ手持ちで やってもらって

女医先生のような知的美人

チョイチョイのパチパチサッサ 「はいできました」

 

とにかく これでいいのよ 半額の半額だもん

出た向かい側は パチンコ店 入ってみよう

やってみよう

少しだけ勝って 今日はこのくらいと 外へ出れば

はや夕方 駅前の時計は 五時近い

──了──

日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on 2003/05/14

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渡辺 眞美子

ワタナベ マミコ
わたなべ まみこ 詩人 1935年 静岡県に生まれる。

掲載作は、2002(平成14)年詩集『草という名の女』(ガイックス出版部刊)の全作品に若干の詩編を加えたもの。

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